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宝物の彼女  作者: 近江 由
手を取り合う
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先客たちに

 夕方になって、やっと持ち場での仕事が終わった。

 仕事も終わり、騎士たちは詰め所に集まっていた。


 ライガは顔の腫れも引いてきて、ジンジンと痛んでいたのも収まってきた。


「大丈夫?」

 ミヤビが心配そうにのぞき込んできた。


「あ、ああ。大丈夫。俺よりもアレックスさんとサンズさんの方が腫れているって。」

 ライガは目の前で大げさに騒ぐ先輩二人を指差した。


「あんまり変わらないから大丈夫でしょ。」

 アランはサンズを指差して言った。


「おい。アラン。剣術の稽古をつけてやろう。」

 サンズはアランの後ろで、腫れた顔に血管を浮かべて言った。


「いいんですか!?じゃあ、リランとやりたかったフォーメーションがあるんです!!」

 アランは嬉しそうに飛び上がった。


「はあ?二対一だと?それは卑怯だろ。」

 サンズは飛び上がった双子を見て首を振った。


「どの口が言っているんだかね…」

 マルコムはサンズの様子を見て嘲るように笑った。


「おい。ライガ。」

 アレックスはライガの元に駆け寄った。


「はい。」

 ライガは姿勢を正してアレックスの方を見た。


「剣の稽古、いや、相手を願おう。」

 アレックスは顔を腫らしながらも、勇ましい表情で言った。


「はい。」

 ライガが頷くとアレックスは手招きをして訓練場に向かった。


「ちょっと!!ライガ。」

 ミヤビは慌てて二人を追おうとした。


「振り回される必要は無いんじゃないの?」

 ミヤビの後ろからマルコムが声をかけた。


「マルコム…」


「俺は、応援はしているよ。ただ、見ている限り、振り回されすぎる必要は無いと思うよ。」

 マルコムはミヤビに笑いかけた。


「…そうだけど。」

 ミヤビは口を尖らせた。


「酒場で女性に言い寄られても断っていたし、今は急がなくていいんじゃない?」

 マルコムはミヤビを諭すように言った。


「…気になることがあるの。」


「気になる?」


「白い髪飾りを…彼が見ていたの。」

 ミヤビは寂しそうに言った。


「白い髪飾り…か。」

 マルコムは考え込むように俯いた。



 

 訓練場につくと人だかりができていた。


「何だ?」

 アレックスは人をかき分けて進み始めた。

 もちろんライガもだ。


 精鋭部隊の二人は簡単に周りがどいてくれる。


 人だかりの中心近くには先に来たアラン、リラン、サンズがいた。

「どうしたんだ?」

 訊くと三人は人差し指を立てた。


「し!!あれを見ろ。」

 サンズは中心で剣を持っている人物を指した。


「あれは…」

 中心で剣を構える者を見てライガは息を呑んだ。


 構える様子は力が入っていそうにないが、隙のない雰囲気だ。

 そして、シルエットが洗練されて美しかった。


「…ヒロキさん」

 真ん中で剣を構えるのはヒロキだった。

 どうやら相手を頼まれて受けたようだ。

 ただし、一対二以上で挑まれているらしく、何人か敗れたような騎士たちが脇で座っていた。


 ヒロキは剣を横に構え、前にいる他の騎士に笑いかけた。


 それを合図として二人の騎士が向かって来た。


 ヒロキの動きは線にしたときに角が無いような動線だった。

 滑らかに流れるように、剣の先までが芸術品のようだ。


「…美しい」

 サンズが思わず呟いていた。

 ライガもその通りだと思った。それしか出てこない動きだった。


 剣の側面を狙って的確に弾き飛ばし、ヒロキに挑んだ騎士たちは剣を落とした。

 どうやらヒロキは動きの美しさだけでなく目もいいようだ。


 剣が床に落ちたところで歓声が沸いた。


 剣を収めて倒された騎士たちを見る様子、やはりヒロキは洗練されたような動きが美しかった。

 ただ、それだけではなく強いのだ。


 ライガも彼に勝ったことはない。

 その上にいる団長のジンなどなおさらだ。


「ヒロキさん。半端ないです。」

 アレックスはひたすら拍手をしていた。


 ヒロキはアレックスに笑いかけた。


「強くてこんなに綺麗に倒すなんて、羨ましいです。俺もヒロキさんみたくなりたいです。」

 アレックスは本当に尊敬をしているようで熱を込めて言った。


「俺はアレックスの動き好きだよ。直線的な感じだけど堅実で、お前の人柄が出ている。そして、お前だって強いだろ?」

 ヒロキはアレックスの胸を拳で叩いた。


「強いって、言っても俺は最近はライガに負け始めましたよ。」

 アレックスは横に立っているライガを指して言った。


「ライガは成長期だからな。それに、こいつは強い。目が父親そっくりだ。」

 ヒロキはライガの方を見て言った。


「そんな。恐縮です。」

 ライガは少し誇らしい気持ちと寂しい気持ちになった。


「頑張れよ。俺はスタミナ不足が課題かな?」

 ヒロキは手を振りながら訓練場を出て行った。

 彼が通る道を開くように花道が出来た。


「…さて、俺らもやるか!!」

 アレックスはライガを見て言った。


「はい。」

 ライガは頷いて、未だ残る人混みをどかせてスペースを取った。


「俺たちもやりますか。」

 アランとリランが二人でサンズを引っ張っていた。


「もう仕方ない!!」

 サンズは諦めたような表情をしていた。



「直下部隊が訓練するぞ。」

「おい、押すな押すな。」

 先ほどまでヒロキに見惚れていた他の騎士たちは、次はライガたちの訓練の周りに群がり始めた。

 それはそうだ。精鋭部隊の動きを盗んで、その地位を奪おうと皆が必死なのだからだ。




「行くぞ。」

 アレックスは剣を構えていた。彼の構えは両手で剣を持って、正面前に手を軽く突き出して、60度ほど剣先を傾けるようなものだ。


「はい。」

 ライガも剣を構えて頷いた。彼の構えは両手で剣を持って、左前に手を置き、左側に剣先を傾けるものだった。


 お互い頷き合ってからかかり始めた。

 剣をぶつける音が響く。


「ライガ。」

「はい。」

「10回はぶつける。それ以降は技巧勝負だ。」

 アレックスは挑むように言った。


「わかりました。」

 ライガは頷いた。


 ギン

 とぶつかる音が響いた。


 右、左、上、右下、正面とアレックスはライガと目を合わせて剣を振る。


 ギン

 10回目のぶつかった音が響いた。


 アレックスは姿勢を変えてライガと距離を置くのかと思ったら下から掬うように剣を振った。


 距離を置かれて、正面からの突破を予想したため、下から掬うような攻撃に剣は飛んだ。


「…どうだ。」

 アレックスはライガを見てにやりと笑った。


「…意表を突かれました。次は負けません。」

 ライガは悔しく思い、飛ばされた剣を拾い、またアレックスの方を見て剣を構えた。



「すごいな。ライガはもうアレックスと張るほどになったのか。」

 横でリランとアランの攻撃を剣で受けながらサンズは感心したように言った。


「よそ見!!」

 リランが斬りかかってもそれを軽く受け止める。


「クソ!!」

 アランが斬りかかってもまたそれを余裕で受け止める。


「ちびっこ達は力が足りんな。」

 サンズは双子を見て不敵に笑った。


 双子は地団太を踏んで、また斬りかかった。





 王城前の噴水にはマルコムとミヤビがいた。


「じゃあ、行こうか。」

 マルコムはミヤビに町の方を指して言った。


「うん」

 ミヤビは頷いて、二人は夜の町に出て行った。


 周りは夜だから仕事が終わった者たちが食事をしたり、酒を飲んだり、買い出しに来たりしていた。


「どの辺だったの?」

 マルコムは周りを見渡してミヤビに訊いた。


「あっち。」

 ミヤビは記憶を辿るように首を傾げながら歩いていた。



「あの…騎士団長直下部隊のマルコムさんとミヤビさんですか?」

 二人の姿を見て駆け寄ってきた若い男女の集団がいた。


 ここで無礙にするわけいかず、二人は足を止めた。


「そうだよ。君たちは?」

 マルコムは笑顔で答えて、声をかけてきた若者を見渡した。


 この時、マルコムという男が決して好意的だから足を止めたというわけではないというのは、彼を知る者なら誰でもわかっている。


 万一危害が加えられそうになっても、反撃を考えているのだ。

 ミヤビにしか気づかれない程度に拳を軽く握っている。


「すごい!!本物だ。」

「憧れています!!」

「ミヤビさん美しいです。」

「マルコムさん可愛い!!」

 若者は二人に握手を求めた。


 マルコムはミヤビを横目でチラリと見た。


 二人は交互に握手をした。


 感激した若者たちが二人に手を振って去っていく。


「マルコムさ…王都には基本的に私たちに危害を加えるやつはいないって。警戒しすぎよ。」

 ミヤビは笑顔で手を振るマルコムを横目で見て言った。


「警戒するに越したことは無いよ。」

 マルコムは変わらず笑顔で答えた。


「さてと。ミヤビ。案内お願い。」

 マルコムは笑顔でミヤビに言った。


「わかった。」

 ミヤビは頷いて周りを見渡した。


 二人は周りを見渡しながら歩いて、ある場所で止まった。


「あ…ここ!!」

 ミヤビは一軒の小さなお店を指して言った。


 そこは夜の町に不釣り合いな小物屋だった。


「今の時間に空いているんだね。」

 マルコムは感心したように言って、ミヤビよりも早く中に入った。


「あ、待ってよ!!マルコム。」

 ミヤビも続いて入った。


「いらっしゃませ。」

 二人が店に入ったところを見計らってか、奥から店主らしき女性が出てきた。


「あら?」

 女性はミヤビに見覚えがあるのか少し驚いた顔をした。


「あの、昨日売っていた白い花の髪飾りって…」

 ミヤビはお店の中を見渡して探していた。


「申し訳ございません…売れてしまいまして。」

 女性は申し訳なさそうに頭を下げた。


「買ったのって誰です?」

 マルコムは女性を観察するように見て訊いた。


「申し訳ございません。…お客様のことは基本的に言えないので。」

 女性はにこりと笑い別のアクセサリーを持って、二人に勧め始めた。



ライガ:

帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。


ミラ:

「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっている。ライガとは相思相愛。


ジン:

帝国騎士団団長。最年少で団長に就く。精鋭部隊の隊長でもある。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。王族の人間。


ヒロキ:

帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。全体的に細長い印象のある顔の造りをしている。ジンが気を許している数少ない人物。ライガとミラの関係に好意的。


マルコム:

精鋭部隊の一員。穏やかな青年。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目をしている。


ミヤビ:

精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。


アラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。弟。


リラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。兄。


サンズ:

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。


アレックス

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。長い金髪で緑色の瞳で顔立ちのはっきりしている。


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