表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宝物の彼女  作者: 近江 由
真実へ~結末その1~
78/135

騒動の傍ら

 

 ジンは馬車を連れていた。

 馬車自体は、何の変哲もない、その辺のものだった。


「…どういうことですか?」

 ライガは警戒してジンを見た。


 ジンは首を振って、ライガを馬車に乗るように促した。


「俺達を捕まえるのですか?」

 ライガはミラの前に立ち庇うような恰好を取った。


 ジンは首を振った。


「これは俺の単独行動で…ヒロキの我儘だ。」

 ジンは少し悲しそうに言った。


「一体…何が?」

 ライガは訳も分からずジンを見た。


「…いいから乗れ…お宝様も…案内します。」

 ジンは二人を労わるように言った。


 ミラとライガは、顔を見合わせた。


 ここで下手に抵抗することは難しい。

 剣の腕で負けるジンと怪我をしたライガは戦うことは無謀だ。


 それは分かりきっている。

 なら、ここは大人しく馬車に乗るべきだった。


 ライガは警戒しながらもミラと馬車に乗った。


「…お前も来るのか?」

 ジンは後を追おうとしているポチに訊いたようだ。


 ポチは無理やり馬車に乗り込もうとした。


 ジンは溜息をついてポチも馬車を引く馬に入れた。


 どうやらジンが一人で引いてきたようだ。


 彼の真意がわからない。

 ヒロキが絡んでいるようだから大丈夫だと思うが、ライガとミラは馬車の中で身を寄せ合った。


「…大丈夫だよ。ライガ。」

 ミラはライガの手を握った。


「…ありがとう…」

 ライガもミラの手を握り返した。


 ジンは馬車を出した。

 ゆっくりと動き出し、雨でぬかるんだ地面は良くなかったが、体を休ませて動けるのはライガにとっては有難かった。


 たぶんジンはマルコムと接触をした。


 ライガの状態を分かっていての措置だ。


「…何を考えているんですか?」

 ライガは外で馬を走らせているジンに向かって聞いた。


「…休め…今はそれだけだ。」

 ジンは淡々と言った。





 

 王都のある建物の中では、ケガをして包帯を巻いたイシュと体操をしているシューラがいた。


「手ひどくやられたね…どうだった?」

 イシュの様子を見てシューラは愉快そうに訊いた。


「二人とも厄介だ。個々人なら…どうにかなったかもしれないが」

 イシュは顔を歪めていた。


「憎んでいたはずだったのに、協力するなんて…分からないもんだね。」

 シューラは首を傾げていた。


「人って言うのはわからんさ。…命がかかわるとなおさらだ。」

 イシュは何かを思い出すように呟いた。


「自殺した弓使い?それも意外だった。死ぬまでしなくてもよかったのにね。」


「ああ。全く勿体ない。」

 イシュは惜しむように言った。


 シューラはそんなイシュを見て眉をピクリと動かした。


「何だ?」

 シューラの視線を受けてイシュは不思議そうに見た。


「君まで死人の骨抜きにされないでよ。」

 シューラは溜息をついて言った。


「別に骨抜きにされていない。俺はただ、弓使いとして惜しんでいるだけだ。」

 イシュは呆れたように言った。


「アシはダメだよ。完全にお人形さんに心を持っていかれている。あいつが愛刀の手入れをしないんだなんて気持ち悪い。そのうえ、余韻に浸りたいから殺さないとか…聞いた?」

 シューラは眉を顰めて嫌悪を表わした。


「まあ、あいつは負けそうだったし、俺が矢を射なければ死んでいた。だからその気持が大きいんだろう。」

 イシュはシューラを宥めるように言った。


「強かった。でも助かった。で済めばいいのに。面倒くさい奴だな。」

 シューラは呆れたように言った。


「それはお前もだろ。」

 イシュはシューラを見た。


「は?」


「マルコム・トリ・デ・ブロック。こだわっているじゃないか?」


「彼は生きているし、僕は怪我の仕返しをしたいだけだ。」

 シューラは少し怒りを含ませて言った。


「…そうか。」

 イシュは呆れたようにシューラを見た。

 シューラはイシュを少し睨んだ。


 




 ライガを追わずに王都の方に戻る。


 騎士団の誰も納得はしていなかった。


 仕方なくアレックスは協力者が王都にいる可能性と、騎士団の弱体化を狙っていると話した。


 皇国のものも、ライガよりもそっちの方と連絡を取っていることを推測だが話し、ライガがミヤビを殺していないことも話した。

 それでも、騎士たちにライガに対する敵意は消えなかった。


「頼む。団長も今はヒロキさんのことがあって…お前たちがまとまらないと、本当に騎士団は王都を守れない。」

 アレックスは騎士たちを見た。


「王都の上層部ですか?守るのは?」

 とある騎士が皮肉のように言った。


「そうですよ。だいたい、騎士団があいつらの言いなりになる理由がありません。」

 他の騎士も同調した。


「お前等勘違いしてないか?」

 アレックスは眉をピクリとさせてその騎士たちを睨んだ。


 温厚なアレックスが睨んだことに驚いたのか、騎士たちは姿勢を正した。


「俺達は、帝国騎士団。帝国を守るんだ。別に上層部じゃない。俺は上層部でも、もし今回のことに通じている奴がいる何ら問答無用で切り捨てる。だけどな、王都には王城だけでなく町がある。お前等も世話になった人たちがいるんだ。俺達の生活を支えているのは、彼等だ。」

 アレックスは騎士たちを見渡して言った。


「だから、俺達は王都に戻るんだ。」

 アレックスは彼らに向けて言った。

 騎士たちは黙った。


「じゃあ、言った通り撤退の作業を頼む。マルコムとサンズと数人の騎士は残ってくれ。ライガの追跡に出した騎士は全て戻して、単独行動禁止で全員戻れ。」

 アレックスは数人の騎士たちを指しながら指示した。


「はい!!」

 騎士たちは姿勢を正して返事をした。


 その様子を見てアレックスはとりあえず安心した。


 だが、アレックスはわかっている。


 納得していない騎士たちも多くいることを。


 彼の言葉で言うことは聞くが、やはり同じ隊でライガとの付き合いが長いアレックスは贔屓をしているのではないかと思っているのだ。


 それは人間だから主観を取り合払えない。

 アレックスは無意識で贔屓している可能性は否定しない。


 だが、今の優先事項は王都を守ることだ。


 ライガ憎しで動いて彼に勝てる騎士がどれだけいることかを考えると簡単だ。


「…冷静になれよ…」

 アレックスは自分にも言い聞かせるように呟いた。


 まず、王都に戻ったらアランとリランを宥める必要がある。

 その後のマルコムの方とも連絡を取りたいが、王都の守りがおろそかになる恐れがあるなら下手に動かない。


 とにかく、アランとリランにどう伝えるかだ。


 やることは山積みだし、正直言うと、ライガの追跡よりもジンの単独行動の方が重大だ。


 その追跡を数人の騎士に頼んでいるが、感触は芳しくない。


 アレックスは馬の乗ろうとしながらこれからのことを考えた。


「…休む暇もない。」

 ライガの裏切りと逃亡から、目の回るような忙しさと精神が摩耗されるような出来事ばかりだった。


 アレックスの目の前の馬が揺れた。

 驚いて、アレックスは手綱を握ろうとしたが、手が空を握るだけだった。


「…あれ…?」

 足元が揺れているのに気付いた。

 アレックスは周りを見た。


 景色が揺れ、周りの騎士たちの顔も歪んでいる。


 なにやら声が聞こえるが、雑音のようだ。


 どんなに厳しい訓練を受けても、弱音を上げて自分から膝をつかないのがアレックスのモットーだったが、バランス感覚を失った体は直ぐに地面に膝をついた。


 耐えようと思っていても、頭が揺らされているように感じて体のバランスを保てない。


「アレックス!!」

 サンズが自分を呼ぶのが聞こえた。


 だが、答えようとしてもそれよりも先にアレックスの目の前が真っ暗になった。




ライガ:

主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと深く愛し合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げる。彼女に求婚し晴れて結ばれる。父が前騎士団団長で行方不明。マルコムとの戦いで重傷を負う。


ミラ:

ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっていた。ライガと深く愛し合っており、彼と逃げる。晴れてライガと結ばれる。


ジン:

帝国騎士団団長。歴代最強と言われた前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどである。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。副団長のヒロキに精神的に依存しており、彼の死に対して、手段を問わず復讐することを決意する。


マルコム(マルコム・トリ・デ・ブロック):

精鋭部隊の一員。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な顔立ちをしている。国境の貴族ブロック伯爵の息子。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で高い身体能力を持っており誇っている。強いものを無条件で尊敬する反面、自分より弱い者に対してはその意識はかなり低い。尊敬していたライガの裏切りに激怒していたが、騎士として彼に戦いを挑み彼に敗れたことから、何かを決心し騎士を辞めることを決める。


アレックス

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任され、新団長として指名される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。また、派手な様子からは察せられないほどの苦労人。サンズ同様に戦場経験者。ジンの様子がおかしいことや自分よりも若い隊員の死に心を痛めている。


サンズ(サンズ・デ・フロレンス):

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。王都の貴族で父が公爵だが階級意識が無い騎士団を好む。文学青年でロマンチスト。先輩のアレックスと親友。精鋭では数少ない戦場経験者。


リラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。兄。単独でブロック伯爵の元に向かう。


アラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ヒロキが襲撃を受けたことを自分のせいだと責めている。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。弟。リランと間違われ捕らえられる。


チャーリー:

フロレンス家の執事。精鋭部隊に協力的。


アシ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。ライガの逃亡に協力的だが、真意が測れず怪しい。ヒロキに剣で追い詰められたことや、彼の様子から何か思うところが出てきた。


イシュ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。襲撃の際、ミヤビに肩を射抜かれたが、サンズ並みのガタイのお陰で深手にならず、弓も引ける様子。ミヤビを追っているサンズを襲撃するなど、単独行動を助長させる。ライガとマルコムの潰し合いを望み、隙を見てミラを奪おうと画策したが、バレて二人に返り討ちにされ重傷を負う。


シューラ:

隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。襲撃時、マルコムの攻撃を受けて肩と腰の筋を痛めた。彼の攻撃を真に受けたことにプライドが傷ついた様子。


モニエル・デ・ブロック(ブロック伯爵)

皇国との国境を統治する地方貴族。皇国の事情に詳しい。マルコムの父親。三人の息子がいたが、マルコム以外を亡くす。彼を跡取りにするため、アレックスに交渉するなど動いていた。


レイ・タイナー:

元帝国騎士団団長。ライガの父。ジンとの決闘に敗れ団長を退いたが、歴代最強と言われるほどの剣士だった。団長時代は敵国である皇国の大臣と交流を持つなど帝国の命令から反する行動をしていた。現在行方不明。


ヒロキ:

帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。女性顔負けの端麗な容姿故に飾り物と陰口を言われることが多い。ジンとは付き合いが長い。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。皇国の元大臣の息子。一族の失脚の際、ジンとライガの父に命を助けられた。アシたちの襲撃を受けて死亡。ジンに看取られる。


ミヤビ:

精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに片思いをしていた。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れ、暴走していた。ミラを襲ったことをライガに憎まれ、それに耐えられず自死する。


コマチ:

ヒロキの母でヒロキそっくり。皇国前大臣の妻。傾国の美女と言われるほどの美貌を持っていた。ヒロキが見ているところで首を刎ねられ死亡する。現在も皇国の支配層に影響力があるらしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ