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宝物の彼女  作者: 近江 由
真実へ~結末その1~
76/135

語らいの夜

 

 通り雨と思われた雨は止むことなく、夜も深くなった。


 外の水が洞窟の中に流れ込んできて、ポチが騒ぎ始めた。

 幸い、暮らしていた盗賊たちのお陰で生活スペースは数段高い造りになっていた。


 少し奥に行くため、外の状況が掴めないが、ライガたちは移動した。


 今すぐに動き出したいところだが、外は雨に加え、頭や顔の殴られたところは腫れて熱を持ち、わき腹も熱を持って痛み、呼吸も少し苦しい。


 ミラは読書の知識をフル活用して小屋付近で取った薬草を煎じてライガに飲ませていた。


「これは…滋養強壮剤になって…健康にいいって書いてあった。」

 ミラはライガが飲む薬湯の説明をした。


「ブホ!!」

 ライガは思わずむせった。


「え?大丈夫?熱かった?」

 ミラは慌ててライガの背中をさすった。


「…いや、そうだよな…うん。力がつくのはいいことだ…」

 ライガは自分に言い聞かせるように呟いた。


「ライガ?」

 ミラはライガの顔を覗き込んだ。

 ライガは顔を逸らし、意地でも目を合わせなかった。


「いじわる!!」

 ミラは拗ねたように頬を膨らました。


「元気になったら教えるから…今は勘弁してくれ。」

 ライガは目を閉じて、ミラの方を見て謝った。


「本当?…絶対だからね。」

 ミラは疑わし気にライガを見ながら言った。


「絶対だ。」

 ライガは頭を下げた。


「ならよろしい。」

 ミラは胸を張って偉そうに言った。


 ライガはとりあえず薬湯を呑み切った。

 ミラはそれを見ると、旅の道具にある鍋に水を入れ、干した野菜と肉を入れて焚火の上に置いた。


「ミラの手料理か?嬉しいな。」

 ライガは少し冷やかすように言った。


「干したのはライガが作ったから、これはライガと私の料理だよ。」

 ミラは嬉しそうにライガを見た。


 ブヒヒヒン


 ポチが恨めしそうにミラとライガを見ていた。


「いけない!!ポチのごはんって…えっと…」

 ミラは慌てて荷物を漁った。


「干し草…少し入っているからそれ食べさせたらいいよ。」

 ライガは荷物の中にある干し草を出した。


「ポチに足りるかな…?」

 ミラは不安そうに訊いた。


「ポチは現地調達を考えていたからな…ちょっと、食べられる草を摘んでくるよ。」

 ライガは立ち上がって出て行こうとした。


「待って、私が行く。」

 ミラは慌ててライガを止めた。


「だめだ。ミラ。」

「今はライガの方がダメ!!」

 ミラはライガに首を振った。


 ブヒヒン

 ポチが啼いて立ち上がった。


 ブフン

 鼻息を荒くして何か言いたげだった。


「…どうした?」

 ライガはポチを探るように見た。


「…お手洗いついでに食べに出るから気にするなだって…」

 ミラはポチと頷き合いながら言った。


「わかるの?」

 ライガは驚いた。

 




 簡単な止血作業の後、市場にいる医者を探し出し、きちんと医者にマルコムは診てもらった。


 その医者は、ヒロキを最初に診た医者であった。


 彼の傷を見て医者は険しい顔をしたが命には別条ないとすぐに言った。


「心配のし過ぎですよ。俺は平気です。それよりも…」

 マルコムは運ばれたばかりのミヤビの遺体を安置している部屋を指した。


「ミヤビは、きっとお前を優先しろと言うぞ。」

 サンズはマルコムに説教するように言った。


「言いませんよ。…自分の感情を優先して騎士を捨てるような奴ですから。」

 マルコムは呆れたように言った。


「…最後はどうだったであれ…あいつの今までを否定するな。」

 アレックスはマルコムの頭を叩いた。


 マルコムは少し悲しそうに笑った。


「まあ、あれですね。消毒して縫うのが一番ですね。」

 医者はマルコムたちが会話している最中も彼の傷を診ていた。


「縫う?」

 サンズは首を傾げた。


「ええ。傷が深いから、止血だけだと安静にしているならいいですけど、うごくなら縫った方がいい。」

 医者はマルコムを見た。


「…縫ったこと無いんですけど…サンズさんとアレックスさんはありますか?」

 マルコムは珍しく不安そうな顔をした。


「俺は無いけど…」

 サンズはアレックスを見た。


「戦場で、軽く縫ったことはある。…あと、普段着の時にサンズにほつれているから縫ってやると言われて皮膚ごと縫われたことはある。後者の方が断然痛かった。」

 アレックスはサンズを軽く睨んだ。


「…早めなら、興奮状態で痛みも弱かったのに…」

 どうやらマルコムは傷は縫う方向でいくようだ。


 医者はなにやら準備を始めた。


「やっぱり覚えていたのか…」

 サンズはアレックスを見た。


 医者はマルコムの傷を軽く縫った。

 勿論麻酔などなしだ。


 布を噛み、マルコムは消毒作業と縫われる作業の間冷や汗をかいて耐えていた。


「かすり傷は綺麗に治ると思いますが…縫ったところは残りますから、それはご了承ください。」

 医者は縫い終わって血が滲んだ傷を拭きながら言った。


「これも、残りますか?」

 マルコムは右頬と右耳の切り傷を指した。


「…残念ながら、かなり深いので…」

 医者は申し訳なさそうに言った。


「せっかく可愛い顔なのにってやつか?」

 アレックスはマルコムの左頬をつまんだ。


「いえ、いい具合ですよ。丁度、顔に傷が欲しかったので…この傷なら満足です。」

 マルコムは本当にうれしそうに言った。


「…本当に辞めちまうんだな。」

 サンズはマルコムの様子を見て訊いた。


「はい…明日か明後日には…俺は実家に行って確認しないといけないですから…」

 マルコムは少し寂しそうに言った。


「…俺達は王都で騎士の体制を整えないといけない。寂しいとか言っている場合じゃない。」

 アレックスはサンズを諭すように言った。


「そうだな。王都にいるあのガキ二人も説得しないと…本当に…」

 サンズは悲しそうに言った後、困ったように頭を抱えた。


 どうやら二人にミヤビの死とマルコムが騎士を辞めることをどう説明しようかと考えているようだ。


「…俺、あの二人も弱くてどうしようもないと思っていますし正直苛立っていることもあります。けど、将来性は買っていますよ。」

 マルコムはサンズを元気づけているようだ。


「…お前はな…その力主義が厄介だな…いつか、俺達もぞんざいに扱うときが来るんじゃないかと思うと怖いな。」

 サンズはマルコムを見て険しい顔をした。


「それはないです。…たとえ俺の方が強くなっても…お二人は尊敬しています。」

 マルコムはサンズとアレックスを見た。


「…それは有難いが…それどころじゃない。」

 アレックスは溜息をついた。


「帝国騎士たちがライガたちに完全敵意を持った。ここまでの犠牲が出たきっかけでもあるからな…どうにか王都を守るように持っていきたいが…」

 アレックスは頭を抱えていた。


「一回占領させてしまえばいいじゃないですか。王都の上層部なんて…」

 マルコムは言った後にサンズを見て、しまったという顔をした。


「気にするな…俺だってよく分かっている。だから、俺は帝国騎士団が好きなんだ。」

 サンズは諦めたように言った。


「騎士団が力を持ちすぎたから王族という肩書を持つ団長が上に立たされたんだ。それが暴走した今…ましてや、仲間の犠牲が出た今…上層部に従うとは思えない。」

 アレックスは苦い顔をした。


「…意外でした。アレックスさんは率先して騎士団で謀反とか起こさせてもいいと考えてそうでした。」

 マルコムはアレックスを見て驚いた顔をした。


「それは騎士団の話だ。俺達は、帝国騎士団…王家や国の上層部を守る義務もあるし…もし、皇国の攻撃のどさくさで俺たちが王城占領なんか許してみろ…帝国は混乱だ。王都は戦火に沈んで…王家は間違いなく終わる。それよりも…王都で世話になった人たちへの恩を仇で返すような真似はしたくない。」

 アレックスはマルコムを諭すように言った。


「俺よりも帝国上層部に対して優しいな…全く恐れ入った。」

 サンズはアレックスの肩を叩きながら言った。


「…俺はもう騎士団でないから他人事ですけど…やっぱり、アレックスさんは尊敬出来ますね。」

 マルコムは冷やかすようにアレックスに笑った。


「うるさいな…まあ、お前も自分の用事が済んだら、王都にでも来い。」

 アレックスはマルコムの痛めている肩を掴んだ。


「いだ!!」

 マルコムは顔を歪めて叫んだ。


「落ち着いていたら、茶でも出してやる。…サンズが。」

 アレックスはサンズを横目で見た。


「サンズさんのお茶まずいから遠慮します。」

 マルコムは苦笑いをした。


「遠慮するな。…と、俺はこれから辛くなるな…」

 アレックスは立ち上がった。


「サンズ。マルコムの見送り頼む。騎士団の装備一式と馬ぐらいは、くれてやれ。」

 アレックスはサンズの頭を叩いた。


「お前はどうする?」

 サンズは心配そうにアレックスを見た。


「王都に戻る。団長代理だからな…やっぱり王都にいないとな。ここの後処理とかはなるべく済ませるが、全撤退確認はお前に頼む。」

 アレックスは手をひらひらと振って言った。


 アレックスが出て言った部屋でマルコムとサンズは少し寂しそうに笑った。


「…俺は父から黒幕を聞き出します。その時…手を汚すかもしれません。」

 マルコムはサンズを見た。


「止めろと言いたいが、正直は止めたくない。…だけど、無理はするな。」

 サンズはマルコムを見た。


「…サンズさんも…」

 マルコムは左頬だけ吊り上げて笑った。


「…あの、私は…どうすれば…」

 マルコムを診ていた医者は不安そうに二人を見た。



 


 皇国の国境近くの詰め所には騎士たちがひしめいていた。


 いつもの十数倍の騎士たちが頭に血を登らせ、目つきを鋭くしていた。


 彼等を鎮火するように雨が降り続いているが、鎮まることは無い様子だった。


 夜も深くなり、明け方近くの時間にずぶ濡れでリランは到着した。


 彼の到着に騎士たちは目を丸くした。


「リラン殿?…王都にいるのでは…」

 騎士の一人がリランの元に駆け寄った。


「ああ。だけど、急ぎの用で…ブロック伯爵に会いたい。」

 リランは馬を降りて、馬小屋に向かった。


「あと、こいつ…きちんと整備してやってくれ。また無茶させたから…」

 リランは乗ってきた馬を見て言った。


 ブヒヒン

 馬は興奮したように鼻を鳴らした。


「はい…でも、どうして伯爵に…?」


「皇国の話を聞きたくてね…急ぎだからすぐに誰か出してくれるか?」

 リランは強制するようないい方で騎士に訊いた。


「わかりました。」

 騎士は急いで詰め所に走って行った。


 リランは彼を見送ると、馬小屋に向かった馬の頭を撫でた。

「ありがとうな。」

 リランの言葉が分かるのか、馬は彼に顔を摺り寄せた。


 リランは馬を小屋まで見送ると詰め所に向かって歩き出した。

「…絶対に大臣に繋がる情報を見つけてやる。」

 リランは意気込んで言った。




ライガ:

主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと深く愛し合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げる。彼女に求婚し晴れて結ばれる。父が前騎士団団長で行方不明。マルコムとの戦いで重傷を負う。


ミラ:

ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっていた。ライガと深く愛し合っており、彼と逃げる。晴れてライガと結ばれる。


ジン:

帝国騎士団団長。歴代最強と言われた前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどである。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。副団長のヒロキに精神的に依存しており、彼の死に対して、手段を問わず復讐することを決意する。


マルコム(マルコム・トリ・デ・ブロック):

精鋭部隊の一員。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な顔立ちをしている。国境の貴族ブロック伯爵の息子。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で高い身体能力を持っており誇っている。強いものを無条件で尊敬する反面、自分より弱い者に対してはその意識はかなり低い。尊敬していたライガの裏切りに激怒していたが、騎士として彼に戦いを挑み彼に敗れたことから、何かを決心し騎士を辞めることを決める。


アレックス

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任され、新団長として指名される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。また、派手な様子からは察せられないほどの苦労人。サンズ同様に戦場経験者。ジンの様子がおかしいことや自分よりも若い隊員の死に心を痛めている。


サンズ(サンズ・デ・フロレンス):

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。王都の貴族で父が公爵だが階級意識が無い騎士団を好む。文学青年でロマンチスト。先輩のアレックスと親友。精鋭では数少ない戦場経験者。


リラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。兄。単独でブロック伯爵の元に向かう。


アラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ヒロキが襲撃を受けたことを自分のせいだと責めている。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。弟。リランと間違われ捕らえられる。


チャーリー:

フロレンス家の執事。精鋭部隊に協力的。


アシ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。ライガの逃亡に協力的だが、真意が測れず怪しい。ヒロキに剣で追い詰められたことや、彼の様子から何か思うところが出てきた。


イシュ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。襲撃の際、ミヤビに肩を射抜かれたが、サンズ並みのガタイのお陰で深手にならず、弓も引ける様子。ミヤビを追っているサンズを襲撃するなど、単独行動を助長させる。ライガとマルコムの潰し合いを望み、隙を見てミラを奪おうと画策したが、バレて二人に返り討ちにされ重傷を負う。


シューラ:

隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。襲撃時、マルコムの攻撃を受けて肩と腰の筋を痛めた。彼の攻撃を真に受けたことにプライドが傷ついた様子。


モニエル・デ・ブロック(ブロック伯爵)

皇国との国境を統治する地方貴族。皇国の事情に詳しい。マルコムの父親。三人の息子がいたが、マルコム以外を亡くす。彼を跡取りにするため、アレックスに交渉するなど動いていた。


レイ・タイナー:

元帝国騎士団団長。ライガの父。ジンとの決闘に敗れ団長を退いたが、歴代最強と言われるほどの剣士だった。団長時代は敵国である皇国の大臣と交流を持つなど帝国の命令から反する行動をしていた。現在行方不明。


ヒロキ:

帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。女性顔負けの端麗な容姿故に飾り物と陰口を言われることが多い。ジンとは付き合いが長い。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。皇国の元大臣の息子。一族の失脚の際、ジンとライガの父に命を助けられた。アシたちの襲撃を受けて死亡。ジンに看取られる。


ミヤビ:

精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに片思いをしていた。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れ、暴走していた。ミラを襲ったことをライガに憎まれ、それに耐えられず自死する。


コマチ:

ヒロキの母でヒロキそっくり。皇国前大臣の妻。傾国の美女と言われるほどの美貌を持っていた。ヒロキが見ているところで首を刎ねられ死亡する。現在も皇国の支配層に影響力があるらしい。


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