雨に流され
リランは王都の外に出て、以前のように馬車の馬を拝借した。
「困るよ!!騎士さん!!」
馬主が困ったように言ったが、リランはそれどころじゃない。
「ごめん!!でも、急ぎなんだ!!」
リランは馬に飛び乗ろうとした。
「…え?この前の…」
リランは借りた馬が、前も借りた馬と同じことに気付いた。
馬は、鼻息を荒くしてリランを見ていた。
「…また頼むぞ!!」
リランは飛び乗って、走り出した。
馬は足取りが軽かった。
かなり速く走っている。
「名前つけてやるぞ。」
リランは馬の頭を軽く撫でた。
ブヒヒン
馬は鼻を鳴らした。
嬉しいのか、断りなのかわからないが、リランにとっては何故か頼もしく感じた。
ポツリ
リランの顔に何やら水滴がついた。
「あ…」
リランは空を見上げた。
雲行きが怪しくなっている。
一雨来るだろう。
そんな黒い雲が空に現れつつあった。
「…とにかく、この前の詰め所まで行くぞ!!」
リランは馬の手綱を握った。
馬はそれに応えるように加速した。
いつもは自分が捕まえて牢にぶち込む側だが、今回は逆だった。
アランは鉄格子の組み込まれた頑丈な石造りの部屋にぶち込まれた。
「おい!!俺は帝国騎士団だって…」
アランは鉄格子を掴んで外にいる警備を睨んだ。
「場所が悪かったな。あそこは貴族街だ。平民風情の鼠野郎が来る場所じゃない。」
警備の者は冷たい目でアランを見た。
「…じゃあ、ここは…個人の所有する牢なのか?」
アランは警備を見て、目を光らせた。
警備は一瞬焦ったような顔をしたが、そのまま歩き去っていった。
「おい!!ふざけるな!!」
アランは叫んだが、声がどこかに届いた様子はなかった。
アランの腕が立つとはいえ、この鉄格子はどうにもできない。
サンズやマルコムならまだしも、アランは素早さが武器で、力は強くない。
アランは諦めて、座り込んだ。
正確には、諦めたわけではない。
周りを見渡してどうにか脱出できないかと考え始めたのだ。
まず、連れてこられたこの牢の場所だが、王城の門近くの建物だった。
その地下であった。
建物自体は、王城に近い。
もし、誰かと密会するのなら、ここは最適だ。
アランはふと思いついた。
貴族街でなく、町の方が密会に向いている。
「いや、当然だろ。俺なら絶対隠れて会うならこっちだ。」
アランは自分が知り尽くした街を思い浮かべた。
天井を見上げると、換気口がある。
おそらく、ここに囚われた者達はそこまで脱出するのに労力を使おうとしなかったのだろう。
アランなら、換気口まで跳躍できる。
換気口から、外に出れれば…
「町なら…俺は屋根裏まで知っている。」
アランは天井を見上げた。
「…鼠野郎になってやろうじゃないか…」
アランは挑むように言った。
ザアー
外から何やら不思議な音が聞こえる。
ミラは洞窟の外をそっと見た。
木が、雨を受けて騒がしい音を上げているようだ。
「…外の雨って、にぎやかなのね…」
ミラは王城以外で見る雨に、少し嬉しくなった。
「…ミラ。」
ライガは起き上がってミラの方を見た。
ミラはライガの方に駆け寄った。
かつて盗賊たちが暮らした洞窟で、だいぶ広いが、そんな中、ミラとライガはこじんまりと火を焚いていた。
ポチも広々と過ごすわけではなく、ライガとミラの傍にいる。
「…寒いから、おいで。」
ライガは手を広げてミラを招いた。
ミラはライガを見て、幸せそうに微笑んだ。
前のように飛び込むことはせず、ミラはライガの傍に寄って彼をゆっくりと押して寝かせた。
「ちゃんと、寝ないとダメだから。」
ミラは優しく叱るように言った。
「ミラも一緒じゃないと嫌だ。」
ライガは拗ねる子供のように口を尖らせた。
ブヒヒン
後ろにいるポチも何やら主張するように鼻を鳴らした。
「珍しく、意見が合ったな。」
ライガはポチを見て笑った。
ミラはその様子を見て、本当に幸せだと思った。
「私、嫌な女だ。」
ミラは、自分が考えていることに対して少し嫌悪を抱いた。
「ミラ?」
ライガはミラを心配そうに見た。
「ライガが、苦しく戦ったり、辛い思いをしているのに…私、すごく幸せだと思っている。」
ミラは悲しそうに笑った。
ライガはよろめきながら立ち上がった。
「それで、いいんだ。」
ライガはそっとミラの頬に手を添えた。
「…元気になるまで、ダメだからね。」
ミラはライガを見て、呆れたように笑った。
「…くっついて寝るのはいいだろ…」
ライガはミラの腰をそっと抱いて、一緒に寝っ転がった。
外からは、雨が木々を叩く音が響いていた。
雨が本降りになってきて、道行く旅人たちは雨宿りができる場所を探していた。
日も落ちかけているため、彼等は宿も探しているのだろう。
そんな急ぐ旅人たちだが、すれ違う一人の騎士を見ると、驚くように立ち止まる者が多かった。
雨に濡れながら馬に乗る。
帝国騎士団の鎧と剣を装備した騎士だ。
恰好は凛々しいが、その騎士の異様なのは、顔に巻いた包帯だった。
それに加え、口元は、何かを堪えるように歪めている。
彼はただひたすら馬を走らせていた。
「…お前は…何を考えていたんだ…」
包帯を巻いた騎士、ジンは一人呟いていた。
彼は森の前で止まった。
雨が降っており、暗くなっているため、誰も近付かない。
そんな森の前でジンは考え込むように立ち止まった。
「…無意味になる…か。」
ジンは何かを思い出したように笑った。
「…流石アレックスだ。…お前は、やはり人を動かす。…俺を止める言葉を分かっているんだな。」
ジンは悲しそうに言うと、森の前から引き返した。
彼の乗る馬は、雨を跳ねさせながら走った。
雨は降り続けていた。
彼の栗色の長い髪を濡らし、滴っていた。
「…全部が憎いのに…お前が何を考えていたのか…それが知りたくて仕方ない…」
ジンは悲しそうに呟いた。
「もう…教えてはくれないのか…」
ジンは消え入りそうな声で呟いた。
ライガ:
主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと深く愛し合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げる。彼女に求婚し晴れて結ばれる。父が前騎士団団長で行方不明。マルコムとの戦いで重傷を負う。
ミラ:
ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっていた。ライガと深く愛し合っており、彼と逃げる。晴れてライガと結ばれる。
ジン:
帝国騎士団団長。歴代最強と言われた前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどである。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。副団長のヒロキに精神的に依存しており、彼の死に対して、手段を問わず復讐することを決意する。
マルコム(マルコム・トリ・デ・ブロック):
精鋭部隊の一員。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な顔立ちをしている。国境の貴族ブロック伯爵の息子。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で高い身体能力を持っており誇っている。強いものを無条件で尊敬する反面、自分より弱い者に対してはその意識はかなり低い。尊敬していたライガの裏切りに激怒していたが、騎士として彼に戦いを挑み彼に敗れたことから、何かを決心し騎士を辞めることを決める。
アレックス
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任され、新団長として指名される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。また、派手な様子からは察せられないほどの苦労人。サンズ同様に戦場経験者。ジンの様子がおかしいことや自分よりも若い隊員の死に心を痛めている。
サンズ(サンズ・デ・フロレンス):
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。王都の貴族で父が公爵だが階級意識が無い騎士団を好む。文学青年でロマンチスト。先輩のアレックスと親友。精鋭では数少ない戦場経験者。
リラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。兄。単独でブロック伯爵の元に向かう。
アラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ヒロキが襲撃を受けたことを自分のせいだと責めている。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。弟。リランと間違われ捕らえられる。
チャーリー:
フロレンス家の執事。精鋭部隊に協力的。
アシ:
隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。ライガの逃亡に協力的だが、真意が測れず怪しい。ヒロキに剣で追い詰められたことや、彼の様子から何か思うところが出てきた。
イシュ:
隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。襲撃の際、ミヤビに肩を射抜かれたが、サンズ並みのガタイのお陰で深手にならず、弓も引ける様子。ミヤビを追っているサンズを襲撃するなど、単独行動を助長させる。ライガとマルコムの潰し合いを望み、隙を見てミラを奪おうと画策したが、バレて二人に返り討ちにされ重傷を負う。
シューラ:
隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。襲撃時、マルコムの攻撃を受けて肩と腰の筋を痛めた。彼の攻撃を真に受けたことにプライドが傷ついた様子。
モニエル・デ・ブロック(ブロック伯爵)
皇国との国境を統治する地方貴族。皇国の事情に詳しい。マルコムの父親。三人の息子がいたが、マルコム以外を亡くす。彼を跡取りにするため、アレックスに交渉するなど動いていた。
レイ・タイナー:
元帝国騎士団団長。ライガの父。ジンとの決闘に敗れ団長を退いたが、歴代最強と言われるほどの剣士だった。団長時代は敵国である皇国の大臣と交流を持つなど帝国の命令から反する行動をしていた。現在行方不明。
ヒロキ:
帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。女性顔負けの端麗な容姿故に飾り物と陰口を言われることが多い。ジンとは付き合いが長い。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。皇国の元大臣の息子。一族の失脚の際、ジンとライガの父に命を助けられた。アシたちの襲撃を受けて死亡。ジンに看取られる。
ミヤビ:
精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに片思いをしていた。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れ、暴走していた。ミラを襲ったことをライガに憎まれ、それに耐えられず自死する。
コマチ:
ヒロキの母でヒロキそっくり。皇国前大臣の妻。傾国の美女と言われるほどの美貌を持っていた。ヒロキが見ているところで首を刎ねられ死亡する。現在も皇国の支配層に影響力があるらしい。




