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宝物の彼女  作者: 近江 由
崩壊へ~結末その1~
70/135

望むこと

 

 ガギン


 ジンはアレックスに斬りかかっていた。


 アレックスはそれを剣で止めた。


「普通なら、ここでやられるのだがな…流石精鋭だな…」

 ジンはアレックスと鍔迫り合いしながら、言った。


「こちらは…団長が赤ちゃんのころから剣を握っていますのでね…」

 アレックスは皮肉気に笑いながら言った。


 ガギン


 二人は剣を弾き合い、距離を置いた。


「投げやりになることが…ヒロキさんが望むことですか?」

 アレックスは剣をジンに向け、警戒するようにしながらも気遣うように言った。


「望むこと?…俺はあいつを赦さないと言った。今更…」

 ジンもアレックスに剣を向けていたが、彼は警戒している様子はなかった。


「あなたが、何をしようとしているのかは分かりませんが、間違いなくヒロキさんが望まないことです。そんなことして…あの人が喜ぶと思いますか?」

 アレックスはジンに訴えるように言った。


「喜ぶはずない。」

 ジンは断言した。


「当然です。あの人は、きっと悲しむか…苦しむかもしれない。」

 アレックスは悲痛な表情でジンに言った。


「…お前とサンズは、他のやつよりもあいつとの付き合いが長いからよくわかるのだろうな…」

 ジンはアレックスを見て、少し悲しそうに言った。


「…だったら…」

 アレックスが言いかけたが、彼は表情を変えて剣を構えた。


 ガギン

 ジンはアレックスに斬りかかっていた。


 ギリリ

 とアレックスはジンの攻撃を剣で止めた。


「喜ぶのも、悲しむのも…苦しむのも生きているからだ。」

 ジンはアレックスに口を歪めて言った。


「団長…」


「悲しむのか?苦しむのか?ならそうして欲しい!!」

 ジンは叫ぶように言った。


 ジンの剣は速かった。


 ガゴン

 アレックスは構えたが、胴体に攻撃を食らった。


 鎧だから衝撃だけだが、それでもよろめく。


 ガキン

 次の攻撃はかろうじて止めた。


「…悲しんで、苦しんで…いつも通り俺の前で顔を顰めて止めに出てくればいい…」

 ジンは歯を食いしばっていた。


 ガギン


 ジンはアレックスの剣を完全に弾き飛ばした。


「…く…」

 アレックスは慌てて、ジンの攻撃の防御をしようと体勢を立て直したが、ジンは素早くアレックスの腹部を剣の柄で殴りつけた。


「が…」

 アレックスは地面にうずくまった。


「…だが、死んだら…出てこない。苦しむことも…ない。喜ぶこともない…」

 ジンはアレックスを見下ろして、呟いた。


 アレックスは慌てて起きようとしたが、ジンはとっとと歩き始め、アレックスが乗ってきた馬に乗ろうとしていた。


「あの人が居たことを無かったことにしないでください!!」

 アレックスはジンの背中に叫んだ。


 ジンはピクリと反応した。

「…無かったことだと?」


 ジンはアレックスに振り返った。

「俺がヒロキがいないこととしようとしているというのか?あいつの存在を無かったことになど俺には…」


「あの人が残した言葉…俺達には無かったけど、あの人はあなたにだけ残した」

 アレックスはジンを真っすぐ見た。


「知っている。忘れるわけない…」

 ジンは歯を食いしばった。


「あなたがやろうとしていることで…あの人の存在が無意味のようになるのは…俺は嫌です。」

 アレックスは悲しそうに叫んだ。


「あの人が最後に選んだ言葉は…あなたへの感謝だった。」

 アレックスはよろめきながら立ち上がった。


「…」

 ジンは口を引き結んで黙った。

 が、直ぐに馬に乗った。


「団長!!」

 アレックスはジンに叫んだ。


 ジンは馬で走り始めた。

 アレックスはジンを追えず、ただ、見送るしかできなかった。


「…どうか、思い直してください…」

 アレックスは祈るように言うと、また地面にうずくまった。




 


 森の中では、ライガとマルコムの叫び声と武器がぶつかる音が響いていた。


 ライガは頭から流れる血で、マルコムも顔から流れる血で二人ともドロドロで、肩で息をしていた。


「俺は、君との騎士が一番だったのに、君は違った。だから赦せないんだ。」

 マルコムは息を切らしながらライガを見た。


「赦しはしなくていい。俺は、ミラを選んだ。彼女と行くことを…」

 ライガも息を切らしていた。


 マルコムはライガに突進した。


 ガギン

 ライガは何度目かになるか分からないマルコムの攻撃を受け止めた。


「…そうだよ。決まっているだろ!?俺たちに赦しを求めたら、ここまでしてそんなことしたらぶっ殺してやる!!」

 マルコムはライガに怒鳴った。


「…そうだな。」

 ライガはマルコムの顔を見て少し安心したような顔をした。


 マルコムはライガから離れた。


 ライガは呼吸を整えた。

 マルコムも呼吸を整えている。


 二人とも限界だ。


 ライガもマルコムも殴られ、血を流して、お互いふらついている。


 マルコムは地面を足で踏みしめている。

 ライガも同じように踏みしめた。



「…これが、最後だ。」

 マルコムは血を流しながらも悲しそうに笑った。


「…ああ。」

 ライガもマルコムと同じように血を流しながら笑った。


 ザッ

 二人は同時に地面を蹴った。


 マルコムは最後の力を振り絞って槍の突きを出した。


 隙ができるからやらないと思っていた攻撃だ。


 ライガは別にそれを予想していたわけではないが、外側から剣で、剣筋をどこまでも鋭くして、マルコムに斬りかかった。

 ライガも限界だった。

 それもあり、うまく力の抜けて無駄のない剣撃を考えていた。


 何度もぶつかった剣と槍。


 側面にかすかに見えたヒビ。


 マルコムの突きは、どこまでも力強く暴力的で、ひたむきだった。


 ライガはかすかに見えたそれに剣の刃を視線で繋げた。


「あああああ!!!」

 ライガは叫んでマルコムの槍を斬り付けた。


 ガキン

 ライガは剣を振り切った。


 そして、追撃するように夢中で斬り付けた。

 ザシュ



 ライガは全て振り切った。彼がその先に見えたのは


「…は…はは…」

 真っ二つに斬られ壊れた彼の槍と


「…君の勝ちだ…」

 ライガを見て笑い

 ドサ

 と倒れ込むマルコムだった。



「…はあ…はあ…」

 ライガも剣を振ったら、力がもう残っておらず、その場にへたり込んだ。

 殴られた頭も痛いし、胴体に食らった攻撃でわき腹などの骨もおかしい。


 呼吸をするのも苦しかったが、必死で息をして、前を見ると、マルコムは地面に倒れ、血を流していた。


「…マルコム…おい」

 ライガは地面をはいずりながらマルコムの元に向かった。


「…生きている。」

 マルコムはうつぶせから仰向けに体勢を変えて答えた。


 マルコムは左肩に剣を食らったようで、そこから出血していた。


「…大丈夫か…」


「死なないよ。…この怪我じゃ死ねない。残念だったね…」

 マルコムは苦しそうだが、清々しい顔をしていた。


 ライガはマルコムの様子を見て安心した。

 そして、彼の横に並ぶように倒れ込んだ。


「…最後の戦い…満足だったよ。」

 マルコムは悲しそうに言った。


「その、最後って言うのは死ぬ気なんじゃないかって…」

 ライガはマルコムの怪我を見ながら心配するように言った。


「…騎士として、最後…だよ。」

 マルコムは空を見上げていた。


「君は、帝国騎士じゃない。もう…」

 マルコムはライガを見た。


「ああ。」


「…俺も…そうだ。」

 マルコムは決心したように呟いた。


「お前ほど騎士が好きな奴が…」


「君との、騎士団での未来が、将来が…俺の夢だった。俺の騎士の全てだった。」

 マルコムは眩しそうにライガを見た。


「そんな、お前はもっと大きな夢を…」


「いつか、君が団長をする横で俺は副団長になりたかったんだよ。」

 マルコムはライガに、いつも通りの穏やかな顔で言った。


「…マルコム…すまん。」

 ライガはマルコムから目を逸らした。


「…知っている。」

 マルコムは顔を心配そうに二人を見ているミラに向けた。


「…彼女を選んだ…嫌というほどわかったよ。」

 マルコムは溜息をついて笑っていた。


「すまん。マルコ…」

「次謝ったら許さない。」

 マルコムはライガを睨んだ。


「マルコム…」


「後悔することも、謝ることも許さない…そうだよね。…ミラちゃんだっけ?」

 マルコムはミラを見て笑った。


 ミラは心配そうに見ていたが、彼の様子を見て少し目を細めて複雑そうに笑った。



ライガ:

主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと深く愛し合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げる。彼女に求婚し晴れて結ばれる。父が前騎士団団長で行方不明。


ミラ:

ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっていた。ライガと深く愛し合っており、彼と逃げる。晴れてライガと結ばれる。


ジン:

帝国騎士団団長。歴代最強と言われた前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどである。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。副団長のヒロキに精神的に依存しており、彼の死に対して、手段を問わず復讐することを決意する。


マルコム(マルコム・トリ・デ・ブロック):

精鋭部隊の一員。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目をしている。国境の貴族ブロック伯爵の息子。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で自分の力に自信を持っており誇っている。サンズに継ぐほどの力がある。普段は穏やかでわからないが、強いものを無条件で尊敬する反面、自分より弱い者に対してはその意識はかなり低い。ライガに激怒していたが、今は何か思うところがある様子。


アレックス

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任され、新団長として指名される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。また、派手な様子からは察せられないほどの苦労人。サンズ同様に戦場経験者。ジンの様子がおかしいことを心配する。


サンズ(サンズ・デ・フロレンス):

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。王都の貴族で父が公爵だが階級意識が無い騎士団を好む。文学青年でロマンチスト。先輩のアレックスと親友。精鋭では数少ない戦場経験者。



リラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。兄。


アラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ヒロキが襲撃を受けたことを自分のせいだと責めている。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。弟。



チャーリー:

フロレンス家の執事。医者と共に市場に駆けつける。


アシ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。ライガの逃亡に協力的だが、真意が測れず怪しい。ヒロキに剣で追い詰められたことや、彼の様子から何か思うところが出てきた。


イシュ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。襲撃の際、ミヤビに肩を射抜かれたが、サンズ並みのガタイのお陰で深手にならず、弓も引ける様子。ミヤビを追っているサンズを襲撃するなど、単独行動を助長させる。ライガとマルコムの潰し合いを望み、隙を見てミラを奪おうと画策したが、バレて二人に返り討ちにされ重傷を負う。


シューラ:

隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。襲撃時、マルコムの攻撃を受けて肩と腰の筋を痛めた。彼の攻撃を真に受けたことにプライドが傷ついた様子。


モニエル・デ・ブロック(ブロック伯爵)

皇国との国境を統治する地方貴族。皇国の事情に詳しい。マルコムの父親。


レイ・タイナー:

元帝国騎士団団長。ライガの父。ジンとの決闘に敗れ団長を退いたが、歴代最強と言われるほどの剣士だった。団長時代は敵国である皇国の大臣と交流を持つなど帝国の命令から反する行動をしていた。現在行方不明。


ヒロキ:

帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。女性顔負けの端麗な容姿故に飾り物と陰口を言われることが多い。ジンとは付き合いが長い。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。皇国の元大臣の息子。一族の失脚の際、ジンとライガの父に命を助けられた。アシたちの襲撃を受けて死亡。ジンに看取られる。


ミヤビ:

精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに片思いをしていた。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れ、暴走していた。ミラを襲ったことをライガに憎まれ、それに耐えられず自死する。


コマチ:

ヒロキの母でヒロキそっくり。皇国前大臣の妻。傾国の美女と言われるほどの美貌を持っていた。ヒロキが見ているところで首を刎ねられ死亡する。現在も皇国の支配層に影響力があるらしい。



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