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宝物の彼女  作者: 近江 由
手を取り合う
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騒ぎのあと

 

 酒場に着くと、ミヤビの言った通り、アレックスとサンズが喧嘩をしていた。


「お前はいっつも俺が弱らせた奴を捕まえやがって、俺の手柄を取りやがって…」

 呂律の回らないサンズは唾を飛ばしながらアレックスに怒鳴った。


「うるせー筋肉だるま。要領がいいんだよ。俺は」

 アレックスも呂律が回っていない。


「誰か!!」

 店主が困った顔をして喧嘩を止めてくれるものを求めているが、ほとんどは周りで囃し立てるか、純粋に止められる喧嘩ではない。


 帝国騎士団の精鋭部隊に勝てるものなど、ほとんどいないのだから。


 そして、同じ帝国騎士団の精鋭たちは


「いっけーサンズ」

「アレックスー!!」

 と囃し立てるリランとアラン。


「どっちが勝つと思う?サンズ?アレックス?」

 と賭けを取り仕切ろうとするマルコム。


「あー!!もう!!止まってください!!」

 止めようとしても、全く相手にというよりかは間に入れないミヤビ。


 だが、いつもの光景だ。


「アレックスさん!!サンズさん!!」

 ライガが二人の間に割って入ると、観衆は沸いた。


「新手が来た!!さあ、ライガにはいくら賭ける?」

 マルコムは周りを盛り上げるように騒ぎ始めた。


「お前らが一番質が悪い!!」

 ライガは周りで囃し立て騒ぐマルコム、リラン、アランを見て言った。


 三人は怒鳴られても楽しそうにキャッキャと笑っていた。


「何だ?やるのか?ライガ。」

 サンズは肩を鳴らし、ライガに拳を向けた。


「若者が立ち向かってくるのはいいことだ。」

 アレックスも同じように拳を鳴らした。


「二対一ですか?」

 流石に分が悪いと思い、周りに武器になりそうなものを探した。


 ゴン


 ライガの前に拳が落ちた。

 サンズのごつい拳だ。


「よそ見するなよ。男前。」

 サンズはライガの方を見てにこりと笑った。


「サンズさんちょっと」

 ライガは顔を上げて慌てて体勢を整えた。


 ドカン

 後ろにいるアレックスがライガの背中を蹴飛ばした。


「おい、こっちもだろ?」

 アレックスはにこりと笑ってライガを見下ろした。


「はあ?」

 ライガは気が付いたら完全な二対一になっていることに混乱した。



「さあ、始まりました。「サンズ、アレックスの大人げないペア」対「今売り出し中の男前騎士のライガ君」。どっちを応援する?ライガ君でしょ。」

 マルコムは机に上に上り、囃し立てるような実況を始めた。


「汚いぞーサンズ」

「アレックス臭いぞ!!」

 訳の分からない野次を飛ばし始めるリランとアラン。


 こうなったらもう止められないと泣きだす店主をミヤビが宥める。


 殴られ殴り返す。

 サンズの一撃を受けながらアレックスをぶん殴る。





「ほう。いつも馬鹿騒ぎをしているわけか。」

 こめかみに青筋を立てて、口元を引きつらせてジンは目の前に立つ部下を見た。


 目は見えないが、睨まれた部下たちは姿勢を正した。


 酒場での喧嘩の翌朝、ライガたちは騎士団長の部屋に呼ばれた。

 部屋には青筋を立てたジンと呆れた顔をしたヒロキがいた。

 それで今に至る。


「サンズ、アレックス、ライガ。そして賭け事をしていたというマルコム、リラン、アラン。」

 ジンは見えないが、一人一人顔を向けた。


 肩を縮めて一人一人委縮していた。


「そう言わないでください。ここんところキツイ任務続きでしたし、店からは庇うようなことを言われました。」

 ジンの横で苦笑いをするヒロキは、いつも自分が遭遇している場面だからなのか庇ってくれた。


「いつもはここまで聞かない。だが、今回に限って何故だ?」

 ジンは頭を抱えながらライガたちの後ろにいるミヤビに顔を向けた。


「え…っと」

 ミヤビは急に自分に向けられて事に驚いて何か考え込んだ。


「ミヤビ。どうしてだ?」

 ジンは更に問い詰めるように訊いた。


「いつもは…ヒロキさんが全員ぶん殴るんで…いや、止めるんで!!」

 ミヤビは言ったことを慌てて訂正した。


「…ヒロキ。」

 ジンはいつも低いが更に低い声で後ろのヒロキを呼んだ。


「はい」

 ヒロキは流石に表情が引きつった。


「お前らの休日の過ごし方が分かったぞ。…では、俺から命じよう。」

 ジンは立ち上がりアレックスを見た。


「アレックス。」

 声を張り、任務の時のような声色にアレックスは条件反射で姿勢を正した。


「はい!!」


「今度からは、お前が止めろ。これは騎士団長からの命令だ。」

 ジンは口元に笑みを浮かべて言った。


「は…はい!!」

 アレックスは緊張した様子だが、嬉しそうに返事をした。


「今日はその無様な面のまま任務につけ。」

 ジンはアレックス、サンズ、ライガを見て言った。


 三人とも見てわかる青あざと切れている唇、目が腫れて瞼が閉じかけていて、明らかに喧嘩した痕だ。


「では、行け。」

 ジンはヒロキ以外を部屋の外に追い出した。



 部屋から出たライガたちは未だに体は硬直したように固まっていた。


「こわかった…」

 リランがため息と一緒に呟いた。


「ヒロキさん大丈夫かな?」

 アランは残されたヒロキを心配していた。


「まあ、大丈夫でしょう。」

 アレックスは少し申し訳なさそうにしていた。


「さて、本当に持ち場につかなかったら殺されます。」

 ミヤビが手を叩いて切り換えるように言った。


「ミヤビサラッとヒロキさん売ったよね。」

 マルコムはミヤビの方を見て悪い笑い方をしていた。


「だって、あれが一番早く切り抜ける方法だったし、行きましょ。」

 ミヤビに促され、みんな仕事の持ち場に行った。


 騎士の仕事は警備や任務での出張や、悪者を捕まえるのもあるが、町に立っていることも大事な仕事の一つだ。

 騎士の顔を覚えてもらうことにもつながるし、防犯上もいい。


 ただ、ライガ、アレックス、サンズの今日の顔はそうでもない。


 ボコボコになった顔で町に立つと、皆好奇の目を向ける。


 騎士の鎧を着るとしても、基本的にフルアーマーにはならず、顔は出している。


 よって、ボコボコにされた顔面が晒される。


 

 ライガは自分の持ち場について、昨日の夜買ったものを思い出した。

 喧嘩では幸いこわれなかったが、渡せなかった。


 白い花の髪飾りはきっとミラに似合う。

 自分が彼女につけてあげたいなどど、淡く思い、少し笑顔になった。


「なににやけているの?」

 同じ持ち場のミヤビがにやけているライガの様子を見て不思議そうな顔をした。


「え…いや。そういえば、ミヤビは、今日はすさまじい勢いでヒロキさん売ったよな。」

 ライガは先ほどマルコムが指摘したことを言った。


 ミヤビは分かりきったことを訊かれたように呆れたように笑った。

「だって、団長は副団長に甘いのよ。知らなかった?」

 ミヤビは得意げに言った。


「え?」


「だって、何かやらかしてもヒロキさんが関わっていたなら私たちは帰されるもの。」

 ミヤビはケロリと言った。


「…それはヒロキさんは?」


「ヒロキさんだけ残ってる。」


「それはヒロキさんに甘いって言わない!!」

 どうやらヒロキを盾にすれば楽に済ませられるということらしい。




 部屋に残ったヒロキは、引きつった笑いを浮かべてジンと対面していた。


「ミヤビが言っていた通り、いつもはお前が止めているのか?」

 ジンは目の前に立たせたヒロキを見上げて言った。ただし、目隠しをしているため見えない。


「…ええ。いつも俺が殴って止めています。」

 ヒロキは観念したように言った。


「今度からアレックスに任せろ。サンズのような重量級を殴るのは負担がかかる。お前の拳だと怪我をする。」

 ジンは淡々と言った。


「は、怪我を恐れる帝国騎士ですか?自分は副団長ですよ。」

 ヒロキは呆れたように言った。


「剣技の美しさは帝国一だと認めているがな。」

 ジンは肩をすくめてとぼけたようなポーズを取った。


 ヒロキはそれを見て困ったように眉を寄せた。


「あとは、お前が意外と強かったことだな。あの二人を殴って止める力があるとは思わなかった。」

 ジンはヒロキの手を指して言った。


「自分は副団長もやっているので、剣技だけでなく腕っぷしもある程度は持っているつもりです。でないと副団長は…」

「お前は強くなくていい。ただ、美しければいい。」

 ジンはヒロキを見て力強く言った。


「目と頭がおかしいんじゃないですか?」

 ヒロキは呆れたようにジンを見ていた。





 昨日の疲れで起きるのが遅くなってしまったが、目覚めると珍しく侍女がいた。


「お宝様。あまり遅くに起きると習慣が乱れます。」

 どうやら朝起きるのが遅いのがよくないようだ。


「ごめんなさい。少し疲れていて。…ご飯いただけます?」

 ミラは懸命に目を合わせないようにしている侍女に気を遣って俯いて訊いた。


「はい。」

 侍女はミラの様子に気付いたのか、申し訳なさそうに頭を深く下げて部屋から出て行った。


 ミラは部屋の窓の方に歩いて行き、外を見た。

 よくよく考えると高いのに、よく飛び降りたなと思えてきた。


 ミラの部屋は5階建の小さな塔の5階にある。下は芝生で柔らかいとは言え、木に飛び移るなどとんでもない。


 そういえば、ライガはミラが飛び移るときに下にいてくれた。

 失敗したら受け止めてくれるつもりだったのだろう。


 考えただけで幸せな気持ちになる。


 また、あの木に飛び移って会いたい。

 窓から見える木には何もない。

 昨日は来てくれなかったが、忙しかったのかもしれない。


 嘗め回すように見てきた王子のことを思い出した。


「嫌だ。嫌だよ。」

 結婚なんてしたくない。

 いつ来るかわからない侍女に気を遣って言葉は飲み込んだ。


 とにかくライガに会いたかった。

「…今日は来てくれるかな。」

 ミラは木を見下ろして呟いた。



ライガ:

帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。


ミラ:

「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。王子に嫁ぐことが決まっている。ライガとは相思相愛。


ジン:

帝国騎士団団長。最年少で団長に就く。精鋭部隊の隊長でもある。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。王族の人間。


ヒロキ:

帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。全体的に細長い印象のある顔の造りをしている。ジンが気を許している数少ない人物。ライガとミラの関係に好意的。


マルコム:

精鋭部隊の一員。穏やかな青年。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目。



ミヤビ:

精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。


アラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。弟。


リラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。兄。


サンズ:

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。


アレックス

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。長い金髪で緑色の瞳で顔立ちのはっきりしている。


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