同期の共同戦線
ライガは辺りを見渡した。
「地の利がある分、夜の方が俺らの有利だよ。」
マルコムは焚火の火を洞窟の中に入れた。
「…暗闇での…探索か。」
ライガは辺りを見渡した。
「一瞬の勝負だよ。悟られて逃げられたら終わり…まあ、そうしたら君と戦うだけだけど…」
マルコムは背中に一本槍を背負ったままだった。
「ミヤビが把握していた木、覚えている?…俺はあの木の中のどれかにいると睨んでいる。」
マルコムは洞窟の中に明かりがあるのを確認すると、足で焚火を踏み消した。
「覚えている。…俺も狙うならそこだ。」
ライガは頷いた。
マルコムは森の中に入って行った。
風で木が擦れる音が響いた。
「木が多い森はいいよね。…だって、異質な金属音以外は目立たないからね。」
マルコムはライガを見た。
「だから、俺に鎧を…」
ライガはマルコムを見て納得した。
マルコムは鎧の音が二手に分け、混乱させるつもりのようだと思ったからだ。
「君馬鹿だね。言ったよね?気付かれたら終わりだって。君には意地でも金属音は立てずに歩いてもらうよ。もちろん俺もね。」
マルコムは呆れたように言った。
焚火が消え、辺りは月明かりがかろうじて入ってくる暗闇だった。
「…いいかい?ライガ…一瞬だよ。」
マルコムは人差し指を立てた。
ライガはマルコムを見て頷いた。
「…わかったが…お前…。」
ライガは少し苦い顔をしてマルコムを睨んだ。
マルコムはライガの表情を気にした様子はなく、槍を持って歩き始めた。
市場に着いたサンズは、真っ先にジンたちの元に向かった。
もう沢山の騎士が市場にいて、作戦本部のようなテントも設置されていた。
「…こんなに大規模に…」
アランは驚いたように呟いた。
「…皇国絡みとアレックスが報告したらしいからな…とにかく団長の元に行くぞ。」
サンズはテントでなく小屋の方向かった。
正面からチャーリーが歩いてきた。
「サンズ様。」
チャーリーはサンズを見て礼をした。
彼の後ろにいるアランとリランにもだ。
「ああ、チャーリー。すまんが…母上にこの二人を貴族街で探偵仕事できるようにして欲しいと伝えてくれないか?」
サンズはアランとリランを指して言った。
「わかりました。…あの、サンズ様は?」
チャーリーは心配そうにサンズを見た。
「俺は、アレックスや団長に報告と情報整理してから…マルコムを探しに行く。俺かアレックスくらいしか抑えられないし、アレックスは団長から離すわけにいかない。」
サンズは困ったように言った。
「…悲しんでいられないのですね…」
チャーリーはサンズを気遣うように見た。
「…言うな。…とにかくこの双子を頼む。いい奴だから。」
サンズをアランとリランの頭を叩いた。
「…存じております。」
チャーリーはサンズに礼をした。
「…そういえば、団長様から…ヒロキ様のご遺体を馬車に乗せて王都に連れて行って欲しいと…」
チャーリーはサンズに許可を求めるように訊いた。
「…そうか。じゃあ、頼む。」
サンズはチャーリーに礼をした。
「アランもリランも、また後でな。」
サンズは二人の頭を撫でた。
「サンズさんも気を付けて。」
アランは叩かれなかったことに少し驚いた顔をしたが、姿勢を正してサンズに言った。
「王都で仕事します。」
リランも姿勢を正して言った。
「ああ。」
サンズは頷き、チャーリーを見た。
チャーリーはサンズに頷き、アランとリランと歩いて行った。
サンズは三人の背中を見て溜息をついた。
「…ガキどもよりも厄介な、聞かん坊の相手があるからな…」
サンズは少し笑いながら言ったが、直ぐに悲しそうな顔をした。
小屋の前には、沢山の騎士たちがサンズを見て姿勢を正し礼をした。
サンズは手を挙げてそれに応えた。
小屋の中も騎士が沢山いた。
彼等の中心にはアレックスとジンがいた。
ジンはいつも通り、包帯を巻いていた。
そういえば、結局ジンの素顔は見れていない。あの時包帯を取ったのも、ヒロキに向けてだけで、アレックスくらいした彼を見ていない。
普段なら気になって仕方ないが、今はそれどころではない。
「…マルコムを俺と数人の騎士で追います。アランとリランは最初の予定通り、王都に戻ってもらいました。」
サンズは周りを見て、あまり大声で言わなかった。
ジンはサンズを向いて、何やら首を傾げていた。
「どうしました?団長…?」
サンズは彼の視線のような注目に気付いて訊いた。
「…お前も王都に行け。俺がマルコムを追う。」
ジンは声を潜めて言った。
「ダメです。」
アレックスがきっぱりと言った。
「そのほうが確実だ。」
ジンはアレックスの方を向かずに言った。
「確実な状態で…団長は仮にも王族です。」
アレックスは淡々と言った。
ジンはアレックスの言葉に口を歪めた。
「そうです。アレックスと団長はここに残っていてください。アランとリランが情報を集めます。あいつ等は小回りが利くから…」
サンズは小声でジンを宥めるように言った。
「…アレックス。今の言葉は本気か?」
ジンは歯軋りをしてアレックスに訊いた。
「はい。団長は、マルコムたちが帰ってくるのを待っていてください。」
アレックスは淡々と言った。
アレックスの様子が何かおかしい。
サンズは不審に思いながらも、彼がこんな対応を団長にするのは、何か考えがあるはずだと思い、深く追求しないことにした。
「…では、自分はマルコムを探しに行きます。」
サンズは周りの騎士を見渡して、数人疲れてなさそうなものに声をかけ始めた。
「お疲れ様です。」
そこに数人の騎士たちが入ってきた。
彼等は丁度、外から戻ってきたようだった。
あの騎士たちは選ぶべきではないなと、サンズは思った。
騎士たちは若干目を輝かせて、成果があるような顔をしてジンたちの元に来た。
「団長!!ライガが滞在していたと思われる小屋を先ほど調査してまいりました。」
一人の騎士が言った。
とうとう、精鋭以外に小屋のことがバレたなとサンズは思った。
「マルコム殿から聞いた通りでした。…マルコム殿は?まだ戻っていないのですか?」
別の騎士が辺りを見渡していた。
その言葉にアレックスとサンズは顔色を変えた。
「おい!!」
ジンは彼等よりも先にその騎士に詰め寄った。
「はひいい!!」
騎士は驚いて声を裏返して返事をした。
「…マルコムは…どこに向かった?」
ジンは顔が見えないのに、とてつもない迫力で騎士に訊いた。
イシュは、少しおかしくて笑いそうだった。
明かりが消えたのも、お宝様を隠そうとしたのも見えている。
どうやらあの槍の騎士は自分の存在に気付いたようで、ライガに協力を要請したようだ。
よりによって、お宝様を行き止まりの洞窟に隠すという暴挙に出た。
イシュは完全に足音が聞こえなくなってから、そっと動き始めた。
大体、お宝様を隠すのは、明かりを消してからすべきだった。
イシュは内心彼らを嘲笑った。
「…せいぜい、地の利がある森の中で木を探し回ればいいさ。」
イシュは洞窟の上の岩場からゆっくりと顔を出した。
明かりが消えているからよく見えないが、周りに人はいない。
足音を殺すのは慣れている。
静かに森の音に紛れて着地した。
我ながら完璧な音量だ。
イシュは洞窟の中に明かりがあるのを確認した。
中に入ると、馬が三匹いた。
「…用意がいいな…」
イシュは馬の確保もできたと思ったが、どうお宝様を運ぼうかと考えた。
とにかく、気絶させればいい。
か弱い女性に乱暴はしたくないが、これも全て仕事だから仕方ない。自分を叱咤してそっと馬の元に寄った。
ブルルルル
馬はイシュを見て威嚇するように鼻を鳴らした。
「…静かにしろ。…どこ…」
イシュは馬一匹以外繋がれた綱を切って、洞窟の外に放した。
洞窟の中はいくつかの部屋が彫られている。
誰かがかつて暮らしていたようだ。だが、今はどこに彼女がいるかだ。
いや、誰もいない…
「…クソ!!」
イシュは何かの不自然さに気付いて慌てて洞窟を出ようとした。
振り向くと、槍を持った騎士が突進してきた。
ガキン
間に合わず、剣を抜いて止めるが、準備不足と油断で完全に押し負けそうだ。
「…一瞬が勝負だよ。」
槍の騎士はイシュを見て歪んだ笑みを浮かべた。
「…こんにちは、マルコム君。」
イシュは彼に笑い返した。
槍の騎士マルコムは笑ったままだ。
彼の背後から剣を構えたライガが出てきた。
流石に槍を剣で防ぎながらは分が悪い。
イシュは慌てて体勢を変えて槍を振りほどいて距離を取った。
だが、ライガはマルコムの横をすり抜けて斬りかかった。
ガキン
と受け止め、弾く。
「どうして…」
イシュは舌打ちをした。
「あそこは、ミヤビが選んだ場所だ。」
ライガは剣を構えて言った。
「ミヤビは優秀な弓使いだからね。」
マルコムは笑みを浮かべて言った。
「…最初から、気付いていたのか。」
イシュは周りを見渡して、悔しそうに言った。
「お前に落ち込む暇なんか与えない。」
マルコムは槍を構え、イシュに向かった。
ガキン
ガキン
マルコムは力いっぱい槍を振り回す。
少し隙だらけなのでは、と思うが、ライガがマルコムの正面について、イシュを挟むような位置に付いた。
完全に隙が無い。
攻撃を凌げず、イシュは何度かマルコムの槍の裏が当たった。
刃を優先して避けることを考えると、食らうならそっちだと動いた。
だが、中々重い。
イシュは舌打ちをして、保険として用意した煙幕を取り出した。
思いっきり地面に叩きつけると辺り一面が煙まみれになり、視界が無くなった。
ガゴン
「が!!」
だが、横からは槍の攻撃が来た。
ザッ
反対からは剣の斬撃もだ。
イシュは慌てて剣を構え、振り回しながら飛び出した。
見えないが、槍の攻撃も剣の攻撃も止まない。
イシュを追うように攻撃が繰り返される。
正面から槍の突きが来た。
流石にこれは避けないと命に関わる。
イシュは剣で受け流してから避けたが、その隙を剣の攻撃で切られた。
背中を斬られ、背負っていた弓矢がばらけ、使えなくなった。
「クソ!!」
イシュは痛みに呻きながら脱出することを目的に洞窟の出口に向かった。
煙幕の外、洞窟の外に出ると
ザク
剣が左腕に刺さった。
咄嗟に腕で止めたが、どうやら先回りして外に移動したらしい。
やはり、地の利があるのは確かなようだ。
イシュは腕を払い、剣を振り払って、背後を警戒して正面のライガと距離を取った。
イシュの警戒通り、後ろにはマルコムがいた。
槍を素早く突いて、イシュの胴体を狙っていた。
勘で横に体を逸らしたのが幸いだったが、逸らさなければ風穴があいていた。
イシュは逸らした勢いのままマルコムとも距離を取った。
「…はあ…はあ…」
数度の打撃を食らい、剣の攻撃を受け、左腕は使えない。
絶対絶命だが…
「…まだ、死ぬわけにはいかないからな…」
イシュは残りの煙幕を取り出した。
これは、耐性が無いと、刺激臭で立ち眩みがするものだ。
イシュは地面にそれを叩きつけた。
案の定、煙と共に広まった臭いでマルコムとライガふらついた。
「じゃあな!!」
イシュは止血をしながら走り去った。
「黒幕に伝えろ!!」
マルコムがイシュに怒鳴った。
「後で会いに行くとな!!」
マルコムは脅すような口調だった。
「気が向けばな!!」
イシュは逃げることをとにかく考え、彼の伝言を吟味する余裕はなかった。
煙幕を持っておいて正解と思いながらイシュは走った。
弓使いで隠密活動に慣れているイシュは、体型に似合わず静かに素早く動く。
だが、弓も破壊されてしまい、戦闘に支障しかきたさない怪我を負ったイシュは、退散するしかなかった。
「…覚えてろ…」
イシュは憎々し気に呟いた。
ライガ:
主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと深く愛し合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げる。彼女に求婚し晴れて結ばれる。父が前騎士団団長で行方不明。
ミラ:
ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっていた。ライガと深く愛し合っており、彼と逃げる。晴れてライガと結ばれる。
ジン:
帝国騎士団団長。歴代最強と言われた前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどである。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。副団長のヒロキに精神的に依存しており、彼の死に対して、手段を問わず復讐することを決意する。
マルコム(マルコム・トリ・デ・ブロック):
精鋭部隊の一員。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目をしている。国境の貴族ブロック伯爵の息子。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で自分の力に自信を持っており誇っている。サンズに継ぐほどの力がある。普段は穏やかでわからないが、強いものを無条件で尊敬する反面、自分より弱い者に対してはその意識はかなり低い。ライガに激怒していたが、今は何か思うところがある様子。
リラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。兄。
アラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ヒロキが襲撃を受けたことを自分のせいだと責めている。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。弟。
サンズ(サンズ・デ・フロレンス):
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。王都の貴族で父が公爵だが階級意識が無い騎士団を好む。文学青年でロマンチスト。先輩のアレックスと親友。精鋭では数少ない戦場経験者。
アレックス
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任され、新団長として指名される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。また、派手な様子からは察せられないほどの苦労人。サンズ同様に戦場経験者。
チャーリー:
フロレンス家の執事。医者と共に市場に駆けつける。
アシ:
隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。ライガの逃亡に協力的だが、真意が測れず怪しい。ヒロキに剣で追い詰められたことや、彼の様子から何か思うところが出てきた。
イシュ:
隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。襲撃の際、ミヤビに肩を射抜かれたが、サンズ並みのガタイのお陰で深手にならず、弓も引ける様子。ミヤビを追っているサンズを襲撃するなど、単独行動を助長させる。
シューラ:
隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。襲撃時、マルコムの攻撃を受けて肩と腰の筋を痛めた。彼の攻撃を真に受けたことにプライドが傷ついた様子。
モニエル・デ・ブロック(ブロック伯爵)
皇国との国境を統治する地方貴族。皇国の事情に詳しい。マルコムの父親。
レイ・タイナー:
元帝国騎士団団長。ライガの父。ジンとの決闘に敗れ団長を退いたが、歴代最強と言われるほどの剣士だった。団長時代は敵国である皇国の大臣と交流を持つなど帝国の命令から反する行動をしていた。現在行方不明。
ヒロキ:
帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。女性顔負けの端麗な容姿故に飾り物と陰口を言われることが多い。ジンとは付き合いが長い。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。皇国の元大臣の息子。一族の失脚の際、ジンとライガの父に命を助けられた。アシたちの襲撃を受けて死亡。ジンに看取られる。
ミヤビ:
精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに片思いをしていた。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れ、暴走していた。ミラを襲ったことをライガに憎まれ、それに耐えられず自死する。
コマチ:
ヒロキの母でヒロキそっくり。皇国前大臣の妻。傾国の美女と言われるほどの美貌を持っていた。ヒロキが見ているところで首を刎ねられ死亡する。現在も皇国の支配層に影響力があるらしい。




