同期の思い出
サンズは焼けた小屋を見て険しい顔をしていた。
「…ここにライガは居ました。お宝様もです。」
アランは焼けた小屋を指して言った。
「…すごいボロボロにされている。…いくら手掛かりを無くすと言っても…」
リランは小屋の内部を見て顔を顰めた。
サンズは辺りを見渡して、馬の糞や足跡を調べた。
「…いや、焼いたのは違う。…おそらく…ミヤビだ。」
サンズは焼け具合を見て言った。
「いくらライガが好きだったからと言って…ここまでやりますか?」
リランは信じられないような顔をした。
「ライガ、マルコム、ミヤビは同期だ。…それだけだと割り切れないものがあるんだろうな…」
サンズは馬の足跡を見て舌打ちをした。
「どうしました?」
アランが駆け寄った。
「…この辺踏み消されている。これはマルコムだろう。」
サンズは辺りを見渡した。
アランとリランは不安そうな顔をしている。
不幸中の幸いと言えるのは、ヒロキの死を嘆いていられるほど状況がよくないことだ。
ヒロキが死んで、ミヤビとマルコムは単独行動で行方が掴めないのだからだ。
「…マルコムが分からない。俺は…確かに腹黒い奴とは思っていたけど…」
リランは考え込むように俯いた。
「…マルコムは強い奴が好きなんだ。それは何となくわかっているだろ?」
サンズはアランとリランを見た。
「確かに…でも、あそこまであからさまに俺たちに冷たくしなくても…」
アランは険しい顔をしていた。
「あいつはミヤビに冷たかった。…今は余裕が無いからそんな態度だと思っているが…」
サンズは考え込むように辺りを見渡した。
「俺、あいつがものすごく怒っていなくなって安心したけど…何かおかしいとは思った。けど、今はあいつ…ライガに戦いを挑みに行っているし…」
リランは首を傾げていた。
サンズは困ったように空を見上げた。
思った以上に時間を食ってしまい、暗くなり始めている。
「…手あたり次第進むには遅い時間だな…」
サンズはアランとリランを見た。
「何ですか?」
アランはサンズの視線に気づいて姿勢を正した。
「お前等…最初の予定通り、王都で情報収集しろ。」
サンズは二人を見て言った。
「え?でも…」
リランはサンズを見た。
「市場までは一緒に行く。俺はそこから別の騎士を連れてマルコムを探しに行く。お前らは…チャーリーたちの護衛をしながら戻ってもらっていいか?」
サンズはどうやら執事のチャーリーたちが心配のようだ。
「え…ええ。」
アランは戸惑ったように頷いた。
「…チャーリーに言っておくが、お前等がこっそり貴族街で活動できるようにしておく。」
サンズは二人を見た。
「それって…」
リランは少しだけ目を輝かせた。
「…王都の貴族を探れ。ただし、バレない様にな。」
サンズは二人の肩を叩いた。
「そんなことして…サンズさんは?家を利用するって…貴族としての立場は…」
アランは心配そうにサンズを見た。
「俺は、今はただのサンズだ。帝国騎士団…次期副団長だ。」
サンズは胸を張って言った。
「それに、俺の家は自由恋愛派だ。なにより、お前等が心配することじゃない。」
サンズはアランに頷いた。
「サンズさんは自由恋愛なんですね。」
リランは納得したように言った。
サンズは軽くリランを小突いた。
「…了解です!!」
アランは頷いた。
リランも頷いた。
森の中を馬で駆ける。
先頭はマルコム、その後ろにライガ、最後尾はミヤビ。
「ライガ。木の位置を大体覚えておいて。ミヤビもだよ。」
マルコムは辺りを見渡しながら言った。
「無茶言うな。こんなに多いのをどうやって…」
ライガは困ったように言った。
「上りやすい木の位置は覚えるわ。」
ミヤビはライガとは対照的に頷いた。
「迷いやすい森だから、はぐれた時に困るよね。」
マルコムは溜息をついてライガに言った。
「じゃあ、真っすぐ進んで突き当りまで行く。そこが待ち合わせでいいだろ?」
ライガは口を尖らせて言った。
「…ライガ、そこたぶん先客がいるって。」
ミヤビは呆れたように言った。
「だから、俺たちは、はぐれずに任務を全うするんだ。」
ライガは剣に手をかけて言った。
「ライガ、今回の仕事。俺がリーダーなの分かっている?」
マルコムは呆れたように言った。
「ああ。頼りにしているぜ。リーダー。」
ライガはマルコムに笑いかけた。
「取ってつけたようなリーダーありがとう。」
マルコムは溜息をつきながらも笑った。
「リーダー。前の方…変な煙見えない?」
ミヤビは前方を指差して言った。
確かに森の木々が邪魔で見にくいが、立ち上る煙が見える。
「焼けているわけではないから…生活の煙だな。」
マルコムはミヤビに視線を送った。
「ミヤビは援護、俺とマルコムが突っ込むのか。」
ライガはマルコムを見た。
「俺が先に暴れるよ。だって、剣よりも槍の方が様子見にはいいからね。」
マルコムは背負った槍を指して言った。
「それは文句ないけど、お前の場合、全員倒すからな…」
ライガは不満そうにマルコムを見た。
「なら、俺が倒す前に早く来なよ。」
マルコムは不敵に笑い、馬を速めた。
「あーあ…あいつ、かなりの脳筋よね。力至上主義って感じ。本当に貴族なの?っていつも思うわ。」
ミヤビはライガの後ろで呆れたように言っていた。
「…そうだよな。」
ライガは困ったようだが少し嬉しそうに笑った。
ミヤビは後方からの援護の為、目的地であった突き当りの洞窟の上の岩場に登った。
ライガとマルコムはミヤビが位置に付いたのを確認すると、洞窟に向かった。
「じゃあ、行くから。」
マルコムは、馬から飛び降りた。
「え?おい!!」
ライガは馬のまま突進すると思っていたため慌てた。
「俺の戦い方だ。」
マルコムは背中の槍を構え、洞窟に突進した。
ライガは少し呆れて彼の背中を見送ったが、清々しいように思えてきた。
ライガは作戦通り、数分経ってから突入することにした。
「ギャー」
ドスン
ドカン
バキン
中で叫び声と派手な音が聞こえる。
シ…ン
としたので、ライガは心配になって入った。
洞窟の中は人が生活しているのが分かるように色々な道具が揃えられていた。
入ってすぐは開けているが、いくつか枝分かれしたような部屋がある。それは自分で掘ったようだ。
元々はこの大きな空洞だけの洞窟のようだ。
松明が付いており、明かりには困らなかった。
数人の男達が倒れ、マルコムがその中の一人を踏みつけていた。
「君の分…残せなかったよ。」
マルコムはライガに笑いかけた。
「…お前は…」
ライガは呆れたように笑った。
その時、影から無傷の男が出て来て洞窟から逃げ出した。
「!?」
マルコムは槍を構えたが明らかに遅い。
ライガはマルコムに目で合図して飛び出した。
男を追い洞窟の外に出ると、矢で肩を射られた男がいた。
ミヤビだ。
ライガは剣を抜いて、面で男を殴った。
「…これで、全員…か?」
ライガは男を押さえつけて洞窟を見た。
洞窟から苦い顔をしたマルコムが出てきた。
「やーい。逃がしてやがるの。」
ミヤビが洞窟の上の岩場から笑いながら降りてきた。
「うるさい。これが本来の作戦だから。」
マルコムは悔しそうに口を尖らせていた。
「…で、これで全員?」
ライガはマルコム改めて訊いた。
「…たぶん。」
マルコムは少し考え込んでから言った。
「…全員だ。」
応えたのはライガが抑えた男だった。
パチパチ
焚火の火が揺れて、木が鳴る音がライガを回想から呼び覚ました。
ミヤビの死を見て、ショックでなかったわけがない。
ただ、本当に実感したのだ。
もう、戻れないと
自分で捨てて、覚悟もしたくせに生意気なことを考えているが、かつての仲間の死を望むわけでない。
自分と離れるがどこか別のところで、会うことは無いけど生きていて欲しい。
自分に好意的だったヒロキやアランのことを思うと更に胸が痛む。
「…やっぱり、気持ちは付いて行かないもんね。」
ミラはライガの様子を見て呟いた。
「…ごめんミラ。…俺も覚悟できてなかったのかな…」
「覚悟の話じゃないでしょ…だって、仲間だったんだよ。ライガ。」
ミラは少し悲しそうにライガを見ていた。
「…うん。」
「私を見なくてもいい、けど、私はライガが悲しいなら悲しんで欲しい。泣きたいなら泣いて欲しい。」
ミラはライガに向けて両手を伸ばした。
「…俺はミヤビを赦せなかった。」
「それは関係ない。だって、仲間だったのは本当…でしょ?だからライガはそんなに苦しそうなんだよね。」
ミラはライガに近付き立ち上がり、彼の頭を抱きしめた。
「…こんなんで、俺は大丈夫かな…」
「知らないけど…私がいる。」
ミラはライガの頭を撫でながら、優しく言った。
「…ミラにも、俺がいる。」
「そうだよ。」
ミラは嬉しそうに微笑んだ。
ライガ:
主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと深く愛し合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げる。彼女に求婚し晴れて結ばれる。父が前騎士団団長で行方不明。
ミラ:
ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっていた。ライガと深く愛し合っており、彼と逃げる。晴れてライガと結ばれる。
ジン:
帝国騎士団団長。歴代最強と言われた前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどである。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。副団長のヒロキに精神的に依存しており、彼の死に対して、手段を問わず復讐することを決意する。
マルコム(マルコム・トリ・デ・ブロック):
精鋭部隊の一員。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目をしている。国境の貴族ブロック伯爵の息子。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で自分の力に自信を持っており誇っている。サンズに継ぐほどの力がある。普段は穏やかでわからないが、強いものを無条件で尊敬する反面、自分より弱い者に対してはその意識はかなり低い。ライガに激怒していたが、今は何か思うところがある様子。
リラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。兄。
アラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ヒロキが襲撃を受けたことを自分のせいだと責めている。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。弟。
サンズ(サンズ・デ・フロレンス):
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。王都の貴族で父が公爵だが階級意識が無い騎士団を好む。文学青年でロマンチスト。先輩のアレックスと親友。精鋭では数少ない戦場経験者。
アレックス
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任され、新団長として指名される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。また、派手な様子からは察せられないほどの苦労人。サンズ同様に戦場経験者。
チャーリー:
フロレンス家の執事。医者と共に市場に駆けつける。
アシ:
隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。ライガの逃亡に協力的だが、真意が測れず怪しい。ヒロキに剣で追い詰められたことや、彼の様子から何か思うところが出てきた。
イシュ:
隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。襲撃の際、ミヤビに肩を射抜かれたが、サンズ並みのガタイのお陰で深手にならず、弓も引ける様子。ミヤビを追っているサンズを襲撃するなど、単独行動を助長させる。
シューラ:
隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。襲撃時、マルコムの攻撃を受けて肩と腰の筋を痛めた。彼の攻撃を真に受けたことにプライドが傷ついた様子。
モニエル・デ・ブロック(ブロック伯爵)
皇国との国境を統治する地方貴族。皇国の事情に詳しい。マルコムの父親。
レイ・タイナー:
元帝国騎士団団長。ライガの父。ジンとの決闘に敗れ団長を退いたが、歴代最強と言われるほどの剣士だった。団長時代は敵国である皇国の大臣と交流を持つなど帝国の命令から反する行動をしていた。現在行方不明。
ヒロキ:
帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。女性顔負けの端麗な容姿故に飾り物と陰口を言われることが多い。ジンとは付き合いが長い。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。皇国の元大臣の息子。一族の失脚の際、ジンとライガの父に命を助けられた。アシたちの襲撃を受けて死亡。ジンに看取られる。
ミヤビ:
精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに片思いをしていた。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れ、暴走していた。ミラを襲ったことをライガに憎まれ、それに耐えられず自死する。
コマチ:
ヒロキの母でヒロキそっくり。皇国前大臣の妻。傾国の美女と言われるほどの美貌を持っていた。ヒロキが見ているところで首を刎ねられ死亡する。現在も皇国の支配層に影響力があるらしい。




