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宝物の彼女  作者: 近江 由
崩壊へ~結末その1~
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冷めた心

 目指していた洞窟には着いたが、ミヤビが来たことで追手がいつ来るか分からない。

 いつでも出られるように、その辺にある木の枝などで寝床を作り、洞窟の外で火をたいた。


「…いった…」

 ライガは左手の怪我に顔を顰めた。

 思った以上に、左手の手のひらの傷は深かった。


「…ライガ…」

 ミラはライガの手に薬草を手に塗り込みながら心配そうに見ていた。


 ミラはミヤビの死について、ライガを心配しているようだ。


「…あれでよかったとは言わない。」

 ライガは手の傷を見て言った。

 そうだ、ミヤビの気持ちを自分は知らなかったとはいえ、もっといい終わり方があったはずだ。


「でも、俺はミヤビを赦せないと思った。…それは絶対だ。」

 ライガはミラを見た。


「でも、あの人は…」


「俺を好きだと言ったけど、だからといってミラを傷つけようとするのは違う。俺はそれが赦せなかった。」

 ライガはミラを見て言った。


 ミラは悲しそうな顔をしたが、頷いた。


「よくないことが起こっているのはわかる。けど、俺はどんなことがあっても、ミラの手を引いたことを後悔しない。」

 ライガはミラの肩を掴み断言した。


「私も…後悔しない。」

 ミラも断言した。


 ブルルル

 二人の後ろにいるポチが啼いた。


 



 馬を走らせると、思った通り、数人の騎士がいた。


「お疲れ様。そっちはどう?」

 マルコムは努めて笑顔で騎士たちに訊いた。


「マルコム殿…申し訳ございません!!」

 騎士たちはマルコムに気付くと、姿勢を正して礼をした。


 どうやら思うような成果は出ていないようだ。


「そう…どの辺まで探した?」

 マルコムは誰をとは聞かなかったが、彼等はミヤビのことを聞いていると思ったようだ。


「この辺りで目撃情報があったのですが…この先は森ですからね。」

 騎士たちはある方向を指して言った。


「森…」

 マルコムはそこが、自分が仕事で言ったことのある場所だとすぐに分かった。


「ヒロキさんがああなってしまい…王都の方にも伝わったようで、数々の方々が嘆いておられます…」

 騎士は悔しそうな顔をした。


「ヒロキさんは人気があったからね…俺も惜しい人だと思う。」

 これは間違いなく本心だった。


 マルコムは森の方を見た。


「あの、他の方々は?」

 騎士はマルコムが一人のことが気になるようだ。


「ライガを追っているよ。そうだ。ライガが滞在した小屋が見つかったんだ。そこの調査、お願いしていい?手がかりがあるかもしれない。」

 マルコムは騎士たちに、ミヤビが焼いた小屋の場所を教えた。


 騎士たちは頷きながら話を聞いた。


「わかりました!!」

 彼等は礼をして、マルコムが来た方へ馬を走らせた。


 マルコムは彼らの後姿を見て溜息をついた。


「君たちは邪魔だからね。」

 マルコムは冷たく呟くと、森の方を見た。


「弱い奴は…特にね。」

 マルコムは森の方に馬を走らせた。



 穏やかなマルコムだが、やはり弱いものには辛辣である。


 森の方に入って行くと、マルコムは懐かしそうに周りを見た。



「俺がライガだったら…確かに選ぶな…」

 マルコムは自分の記憶の中にある森を頼りに馬を走らせた。


 かつてここの森を拠点とする盗賊を捕まえたことがあった。


 騎士団に入って3年ほどだ。

 まだマルコムは精鋭じゃなかった。


 同期のミヤビ、ライガで取り組んだ。


 ミヤビが援護の弓、マルコムは先頭を切る突撃、ライガが留め要員だった。


 盗賊は弱くて暴れたりなかったのを覚えている。


 その後直ぐに精鋭に抜擢されたため、三人で行った仕事というのは少ない。


「なつかしいね…」

 マルコムが呟くと同時に、馬が何やら反応し始めた。


 マルコムはその様子を見て警戒するように周りを見た。


 馬は鼻をフンフンと鳴らして辺りを見渡していた。


 ブヒヒ

 どこからか別の馬の声が聞こえた。


 マルコムはそこに馬を走らせた。

 着いてみると、そこには一頭の馬がいた。


「…これは、帝国騎士団の…ミヤビの馬か…」

 装飾や装備から見て、市場に居た馬の一匹だった。


 マルコムは辺りを見渡してミヤビを探した。


「ミヤビ!!いるのか?」

 マルコムは少し苛立たしさを滲ませていた。


 返事はない。


 カサカサ

 森の木が擦れる音がやたらと響いている。


「弱いくせに、程度に合わない戦いはするものじゃないよ。」

 マルコムは冷たい口調だった。


 返事はない。


 マルコムは溜息をついて馬を降りた。

「…馬を放置…戦いに出たか…」

 マルコムは顔を上げて辺りの空気を吸い込んだ。


「…鉄…」

 マルコムは呟くと眉を吊り上げた。


 ミヤビの馬と自分の馬を両方手で引いて、マルコムは歩き始めた。


 ザクザク

 草を踏みしめる足音が響く。


 キラ

 と光る物が見えた。


 地面に矢が刺さっている。


「高いところから…何かを狙ったな…」

 マルコムは木に刺さっていない様子からそう判断した。

 マルコムは辺りの木を見上げた。


「…高いところからだとすると…あの辺か…」

 刺さった矢の角度を見てマルコムは地面を見た。

 複数の何かの足跡が見える。


「馬に乗った人…何だ。ミヤビ、追い付いたんだ。」

 マルコムは感心したように言った。


 ブヒヒン

 どちらかの馬が何やら鼻を鳴らして首を振った。


「…情けないな。」

 マルコムは馬を見て呟いた。


 しばらく行くと、少し開けた場所に出た。


 木陰のどこかに弓と矢が置いていあった。ミヤビの装備だ。

 マルコムはゆっくり視線を動かし、辺りを見渡した。


 地面に一つ、黒い影が見えた。


 森の木が擦れる音とともにふわふわと何やらキラキラ光る物が揺れている。


 マルコムは馬を木に繋いで一人歩き出した。


 黒い影が木の隙間からの光を受け、色が見える。


 銀色の鎧、健康的な小麦色の肌。

 風に揺れる金髪。

 地面の赤黒いシミ。

 鎧にへばりついた酸化して黒くなったもの。

 腹部に刺さった、剣。


 マルコムはミヤビを見おろしていた。


「情けない。」

 マルコムはゆっくりとミヤビに寄って、形式程度の生存確認をした。


「…ここまで弱いなんて、幻滅だよ。」

 マルコムは脈を確認する手をミヤビにあて、冷めた口調で言った。


 マルコムは馬の元に戻り、ミヤビの弓矢を拾ってミヤビの馬に括り付けた。


「…最後に相応しいね。」

 マルコムは空を見上げて言った。

 二匹の馬を引いてマルコムはまた歩き出した。


 空は暗くなり始めている。


 マルコムは空を見上げて舌打ちをした。


「…余計なことはしたくないのにな…」

 マルコムは周りを見ながら呟いたが、歩みは止めなかった。



ライガ:

主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと深く愛し合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げる。彼女に求婚し晴れて結ばれる。父が前騎士団団長で行方不明。


ミラ:

ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっていた。ライガと深く愛し合っており、彼と逃げる。晴れてライガと結ばれる。


ジン:

帝国騎士団団長。歴代最強と言われた前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどである。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。副団長のヒロキに精神的に依存しており、彼の死に対して、手段を問わず復讐することを決意する。


マルコム(マルコム・トリ・デ・ブロック):

精鋭部隊の一員。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目をしている。国境の貴族ブロック伯爵の息子。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で自分の力に自信を持っており誇っている。サンズに継ぐほどの力がある。普段は穏やかでわからないが、強いものを無条件で尊敬する反面、自分より弱い者に対してはその意識はかなり低い。ライガに激怒していたが、今は何か思うところがある様子。


リラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。兄。


アラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ヒロキが襲撃を受けたことを自分のせいだと責めている。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。弟。


サンズ(サンズ・デ・フロレンス):

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。王都の貴族で父が公爵だが階級意識が無い騎士団を好む。文学青年でロマンチスト。先輩のアレックスと親友。精鋭では数少ない戦場経験者。


アレックス

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任され、新団長として指名される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。また、派手な様子からは察せられないほどの苦労人。サンズ同様に戦場経験者。


チャーリー:

フロレンス家の執事。医者と共に市場に駆けつける。


アシ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。ライガの逃亡に協力的だが、真意が測れず怪しい。ヒロキに剣で追い詰められたことや、彼の様子から何か思うところが出てきた。


イシュ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。襲撃の際、ミヤビに肩を射抜かれたが、サンズ並みのガタイのお陰で深手にならず、弓も引ける様子。ミヤビを追っているサンズを襲撃するなど、単独行動を助長させる。


シューラ:

隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。襲撃時、マルコムの攻撃を受けて肩と腰の筋を痛めた。彼の攻撃を真に受けたことにプライドが傷ついた様子。


モニエル・デ・ブロック(ブロック伯爵)

皇国との国境を統治する地方貴族。皇国の事情に詳しい。マルコムの父親。


レイ・タイナー:

元帝国騎士団団長。ライガの父。ジンとの決闘に敗れ団長を退いたが、歴代最強と言われるほどの剣士だった。団長時代は敵国である皇国の大臣と交流を持つなど帝国の命令から反する行動をしていた。現在行方不明。


ヒロキ:

帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。女性顔負けの端麗な容姿故に飾り物と陰口を言われることが多い。ジンとは付き合いが長い。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。皇国の元大臣の息子。一族の失脚の際、ジンとライガの父に命を助けられた。アシたちの襲撃を受けて死亡。ジンに看取られる。


ミヤビ:

精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに片思いをしていた。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れ、暴走していた。ミラを襲ったことをライガに憎まれ、それに耐えられず自死する。


コマチ:

ヒロキの母でヒロキそっくり。皇国前大臣の妻。傾国の美女と言われるほどの美貌を持っていた。ヒロキが見ているところで首を刎ねられ死亡する。現在も皇国の支配層に影響力があるらしい。



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