力への好意
真っ黒に燃えた小屋の前でマルコムは考え込んでいた。
小屋の内部を見て、燃え具合や破壊されたものを見ていた。
「ミヤビだな…変わらず下品な暴れ方する。」
マルコムは顔を顰めて言った。
当たりを見渡し、馬の足跡や糞を見て考え込んだ。
「…これはライガたちの方だな。ミヤビの馬はこれか…」
マルコムは足跡を踏み消して考え込んでいた。
「もし、ライガが俺たちが遠くに行ったと思ったなら、土地勘のある場所に行くよね。」
マルコムは何かを思い出したのか、自分の乗ってきた馬に乗り込んだ。
「とにかくここを離れないと。ここにサンズさんたちが来るのは時間の問題だし…」
マルコムは馬を走らせながら辺りを見渡した。
マルコムは背中に二本の槍を装備していた。
シルエットは目立つが、仕方ない。
そう言えば、ミヤビを追跡している騎士がいたはずである。
マルコムは道に出て、旅人を探した。
こんな時でも旅をして居る者はいる。
マルコムは数人の旅人に話を聞くことができた。
ミヤビの目撃情報は無かったが、集団で動く騎士の話は聞けた。
「それ…どの方向ですか?」
マルコムは丁寧に聞き込み、騎士たちのいる場所の検討をつけた。
馬を走らせマルコムは考えていた。
ライガとどう闘うかだ。
ライガは剣士だ。対してマルコムは槍使いだ。剣ももちろん使えるが、自分の腕力を槍の方が生かせる気がするのが気に入っている。
アレックスの堅実な戦い方も、サンズの力技に見えて段階的な戦い方もマルコムは好きだ。
というよりマルコムは自分より強い騎士が好きだ。
ジンの絶対的な反応速度と剣筋の鋭さも、ヒロキの流れるような剣筋で実際に攻撃を流すような戦い方もマルコムは好きだ。
彼等は自分よりも強いからだ。
いや、アレックスとサンズはもう自分と互角だろう。
ヒロキは最近闘っていなかったからわからない。
そして、ずっと張り合う存在であったライガも好きだ。
いや、ライガに関しては好きだけではなかった。
騎士となった自分を構成する一つだった。
同期でおそらくライバルだ。
いつか、騎士団の頂点に二人で立つだろうと、そんな将来を確信し、いつか来ることを期待していた。
ライガは自分の夢でもあった。
「…はは…」
マルコムは首を振って、その考えを振り払った。
ライガとどう闘うかの考えに戻った。
ライガはどちらかと言うと、ジンに戦い方が似ている。
ライガも反応速度が速い。ただ、剣筋の鋭さと純粋な速さがジンの方が上だ。
結構昔に酔っぱらったヒロキから話を聞いたことがあるが、ジンは昔ヒロキに剣で負けたことがあるらしい。
なんでも、ヒロキの剣筋があまりに静かで、見ていないジンは慣れるまで反応するのが遅かったらしい。
それも慣れたらジンには敵わなくなったとヒロキは言っていた。
ヒロキがライガに戦いを挑んだのは、間違いなくジンと闘わせることを想定している。
ならば、ヒロキのような剣の使い方をしてくるのではないか。
マルコムは笑みを浮かべた。
もう手合わせの出来ないヒロキだが、もしライガが彼のような戦い方を取り入れていれば、きっと手合わせはいいものになるだろうと思ったからだ。
それを思ったのと同時に、ライガが裏切ったことも思った。
「…俺と一緒に騎士を志したくせに…」
マルコムは口を歪めて憎々し気に呟いた。
が、首を振って諦めたように笑った。
「…でも、それも全て終わるよ。」
走る馬に乗り、正面からの風を受けてマルコムは遠くを見つめていた。
「俺が夢見た未来も…全てね…」
マルコムは自嘲的に笑った。
アレックスはやっとジンが行動を起こそうとしてくれたことに安心していた。
あのまま死んでしまうのではないかというほどジンは危うかった。
さきほどの発言も充分危ういが、彼が死を選ぶことは無くなった。
ただ、ジンを抑える存在がいないのは不安材料だった。
「…俺がしっかりしないと…」
アレックスは自分を鼓舞させるように呟いた。
小屋の外に待機させている精鋭たちに話をして、どんな目的であれ協力して皇国や黒幕の連中を倒そうと意気込み、アレックスは小屋の外に出た。
外にはアランとリランが倒れているサンズを見ていた。
「…お…おい!!」
アレックスは慌ててサンズに駆け寄った。
「何事だ?…マルコムは?」
アレックスはマルコムの姿が見えないことがやたらと気になった。
「役割分担して…俺とアランは王都に戻って情報収集で、サンズさんとマルコムはライガを追うってなったんですけど…」
アランは頬を抑えていた。
よく見るとリランも顔に殴られた跡がある。
「…まさか、マルコム…」
アレックスは怒りが収まった状況のマルコムに安心しすぎていたと後悔した。
「その…まさかだ…」
サンズが呻きながら立ち上がった。
「単独でライガの追跡に出やがった。」
サンズは舌打ちをした。
「サンズさんは不意を突かれたんです。マルコムがまさか背後から殴るなんて思わないですから…」
アランは頬を抑えながら言った。
彼とリランは正面から殴られたようだ。
「クソ!!俺たちも…」
アレックスは急いで出ようとしたが、ふと思った。
マルコムは徹底している。
「…お前等、殴られてからどれくらい気絶していた?」
アレックスは三人を見て訊いた。
「…30分」
アランとリランは答えた。
「俺はそれプラス…」
サンズは双子を見た。
「…今でだいたい一時間くらいです。」
アランは困ったように言った。
「…アラン。ライガがいた場所を案内しろ!!数人騎士を連れて行け。俺はここで団長を見ている。サンズもマルコムを抑えられるのはお前だけだ。」
アレックスは頭を抱えながら指示をした。
「「はい!!」」
アランとリランは姿勢を正して、急いで飛び出した。
サンズはまだ殴られた場所が痛むのか、顔を歪めて溜息をついていた。
だが、心配そうにアレックスを見た。
「どうした?」
アレックスはサンズの視線が気になった。
「団長は…大丈夫だったか?」
サンズはどうやらジンの様子が気になるようだ。
「…ああ。元凶ぶっ潰すと意気込んでいる。そうとう不穏だが、死んでしまうことは無いからひとまず安心だ。」
アレックスはそのままのことを言った。
「そうか。…じゃあ、俺は困った後輩たちを…迎えに行くからよ。」
サンズはアレックスの肩を叩いた。
「悪いな。」
アレックスもサンズの肩を叩いた。
「…嫌な予感がするんだ。俺達は単独行動をしてはいけない…気をつけろ。」
サンズはアレックスに忠告するように言った。
「ああ。お前もな。」
アレックスはサンズの頭を叩いた。
サンズはまたアレックスを見た。
「…絶対にまた会おう。」
サンズは縋るようにアレックスを見た。
ライガ:
主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと深く愛し合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げる。彼女に求婚し晴れて結ばれる。父が前騎士団団長で行方不明。
ミラ:
ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっていた。ライガと深く愛し合っており、彼と逃げる。晴れてライガと結ばれる。
ジン:
帝国騎士団団長。歴代最強と言われた前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどである。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。副団長のヒロキに精神的に依存しており、彼の死に対して、手段を問わず復讐することを決意する。
マルコム(マルコム・トリ・デ・ブロック):
精鋭部隊の一員。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目をしている。国境の貴族ブロック伯爵の息子。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で自分の力に自信を持っており誇っている。サンズに継ぐほどの力がある。普段は穏やかでわからないが、強いものを無条件で尊敬する反面、自分より弱い者に対してはその意識はかなり低い。ライガに激怒していたが、今は何か思うところがある様子。
リラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。兄。
アラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ヒロキが襲撃を受けたことを自分のせいだと責めている。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。弟。
サンズ(サンズ・デ・フロレンス):
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。王都の貴族で父が公爵だが階級意識が無い騎士団を好む。文学青年でロマンチスト。先輩のアレックスと親友。精鋭では数少ない戦場経験者。
アレックス
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任され、新団長として指名される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。また、派手な様子からは察せられないほどの苦労人。サンズ同様に戦場経験者。
チャーリー:
フロレンス家の執事。医者と共に市場に駆けつける。
アシ:
隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。ライガの逃亡に協力的だが、真意が測れず怪しい。ヒロキに剣で追い詰められたことや、彼の様子から何か思うところが出てきた。
イシュ:
隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。襲撃の際、ミヤビに肩を射抜かれたが、サンズ並みのガタイのお陰で深手にならず、弓も引ける様子。ミヤビを追っているサンズを襲撃するなど、単独行動を助長させる。
シューラ:
隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。襲撃時、マルコムの攻撃を受けて肩と腰の筋を痛めた。彼の攻撃を真に受けたことにプライドが傷ついた様子。
モニエル・デ・ブロック(ブロック伯爵)
皇国との国境を統治する地方貴族。皇国の事情に詳しい。マルコムの父親。
レイ・タイナー:
元帝国騎士団団長。ライガの父。ジンとの決闘に敗れ団長を退いたが、歴代最強と言われるほどの剣士だった。団長時代は敵国である皇国の大臣と交流を持つなど帝国の命令から反する行動をしていた。現在行方不明。
ヒロキ:
帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。女性顔負けの端麗な容姿故に飾り物と陰口を言われることが多い。ジンとは付き合いが長い。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。皇国の元大臣の息子。一族の失脚の際、ジンとライガの父に命を助けられた。アシたちの襲撃を受けて死亡。ジンに看取られる。
ミヤビ:
精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに片思いをしていた。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れ、暴走していた。ミラを襲ったことをライガに憎まれ、それに耐えられず自死する。
コマチ:
ヒロキの母でヒロキそっくり。皇国前大臣の妻。傾国の美女と言われるほどの美貌を持っていた。ヒロキが見ているところで首を刎ねられ死亡する。現在も皇国の支配層に影響力があるらしい。




