女騎士
堅実に様子を見る。
派手に動く前に相手の動きを見る。
アレックスのようにミヤビはライガの剣を何度が弾いて深追いをしなかった。
ライガも下手にミヤビを深追いできなかった。
ミヤビがヒロキのように流すのが得意なら、つっ込むような攻撃は命取りだ。
「誰の戦い方を参考にしているかわかるでしょ?」
ミヤビはまた様子見の剣を振ってライガに訊いた。
「アレックスさん。」
ライガが答えるとミヤビは嬉しそうに笑った。
「やっぱりね。」
ミヤビはしならせるようにライガの剣を絡めとるようにした。
「ヒロキさん。」
ライガは絡めとられずにその攻撃を弾いた。
ミヤビはバランスを崩しかけたが、惰性を利用し片足を軸に体を回して立て直した。
ライガが追撃しようとするとミヤビは素早く剣を懐前に出し、防御した。
キイン
剣がぶつかり合う音が響いた。
ミヤビは正直弓しか知らない。
腕が立つのは知っているが、それだけだ。
今、こうして合わせるとやはり精鋭だ。下手な騎士よりもずっと強い。
ライガとミヤビとマルコムは騎士団でも同期だ。
なので、どんな人間なのかは嫌というほど知っている。
彼女は負けん気が強い。
力に対して力で意地でも向かおうとする。
今の彼女を何が突き動かしているのか知らないが、ミヤビは激情家でもある。
彼女自身が女性であるから女性に対しての暴力には過敏で、普段は女性の味方に付くことが多い。
「何で、ミヤビはミラが逃げることに反対なのか?」
ライガは彼女がミラに対して異様な敵意を向いていることが分からなかった。
ミヤビは一瞬驚いた顔をした。
いつものミヤビの顔だ。
「…そんなはずないでしょ。」
彼女は絞り出すような声で言った。
「なら、何で?ミヤビはお宝様として道具のように扱われるミラを何で?」
ライガの問いにミヤビは顔を歪めた。
「ミヤビ?」
ライガは彼女の表情の理由が分からなかった。
「…何でわからないのよ。」
ミヤビは剣を構え直すとライガに向かって来た。
今度はかなり攻撃的だった。
キン
キン
何度か段階的な力で叩かれた。
サンズの戦法だ。
だが、彼の戦法は自分よりも非力な相手か、優位な状況でないと扱うのが難しい。
ライガは逆にミヤビの力を超える力で彼女の攻撃を弾いた。
ミヤビはバランスを崩した。
ライガはそこを狙い、剣の面でミヤビの腹部を狙った。
ガギン
ミヤビは鎧でそれを甘んじて受け、痛みに呻くことなくライガに斬りかかった。
攻撃した後のライガには隙が生じていた。
「ライガ!!」
ミラの声が響いた。
ミヤビは帝国内でもかなりの山間部の田舎の地方の出身だった。
生まれた家は貧しく、いつも働いていた。
貧しい家庭が仲良しというわけではなく、ミヤビの両親仲は良くなかった。
暴力がちの父と、大人しい母。
貧しさも拍車をかけて父は母によく暴力を振るっていた。
そんなある日、母が家を出て言った。
父に愛想を尽かしたようだが、ミヤビを置いてだ。
父はミヤビに暴力を振るうようになった。
働いて家に帰ったミヤビを稼ぎが少ないとなじり、殴る。
最初は我慢していたが、そのうち我慢できなくなり、ミヤビも家を飛び出した。
行く先は決まっていないが、漠然と母の元に行けばどうにかなると思った。
母の行方を求め、ミヤビは王都まで出てきた。
田舎者で汚い恰好のミヤビは王都では浮いた。
だが、彼女の最大の強みは容姿がいいことだった。
ミヤビ自身もそれに気づいており、それを利用し幼くても仕事を見つけた。
とにかく母親を探すことを考え、ミヤビは働いた。
ある日、母の特徴にあう女性を見たという話を聞いた。
仕事も途中だったが、ミヤビは荷物をまとめてその場所に向かった。
その話は確かに母だった。ミヤビは母に会えたが、母は知らない男と見たことない幼子を連れていた。
ミヤビに気付いた母は気まずそうな顔をしただけで、ミヤビに声をかけることもせず去った。
呆然として王都に戻ると、途中で抜けた仕事の雇い主が怒ってミヤビを待っていた。
無気力で説教を聞いていたが、ミヤビは今までの目的が無くなり、足元から崩れ落ちそうになっていた。
惰性のように王都で仕事を続けることにしたが、何もないミヤビは幼くしてただ生きているだけになった。
成長するにつれて容姿のいいミヤビは色んな男たちに目をつけられるようになり、ある日、仕事帰りを襲われた。
無気力で生きていたが、襲われると、それが嘘のように攻撃的な感情になった。
だが、拳を握り殴ろうとすると、襲い掛かってきた男が父親の姿と被った。
顔を殴られ、押さえつけられた。
覆いかぶさる男の目に映る自分の姿が、母に重なった。
「…嫌だ。」
ミヤビは首を振った。
「嫌だ!!やだ!!」
精一杯の抵抗をした。
男は顔を歪めて舌打ちをした。
ミヤビは男を睨んだ。
その時、男の顔が物理的に歪んだ。
何かがめり込み、顔を先頭に横に吹き飛んだ。
「ストライク!!」
少年の声が響いた。
ミヤビは助かったことを知ると、ゆっくりと起き上がった。
そこには二人の少年がいた。
茶色のくせ毛をした少年と、栗色のくせ毛の少年だ。
「俺がやったほうが絶対に飛ばせた。」
茶髪の少年が口を尖らせて言った。
「貴族のお坊ちゃまに出来るか?」
栗色の髪をした幼年が不敵に言った。
だが、二人ともミヤビを見て慌てて駆け寄ってきた。
「大丈夫か?」
栗色の髪の少年が男を突き飛ばしたようだ。
「この屑みたいな男は俺たちの的にするから。」
茶髪の少年はミヤビに襲い掛かってきた男を見て吐き捨てるように言った。
「…あなたたちは?」
ミヤビは警戒するように二人を見た。
「俺は未来の帝国騎士だ。」
栗色の髪の少年は胸を張って言った。
「俺もだよ。ちなみに俺は団長希望。」
茶髪の少年も同じように言った。
「帝国騎士…」
ミヤビは今までなじみのなかった名前を聞いた。
「そうだよ。悪い奴を捕まえたり、特権を使って更にそれを痛めつけたり…」
茶髪の少年は穏やかな笑顔で言った。
「特権階級の貴族様なのに更に特権が欲しいのかよ…」
栗色の髪の少年は彼を見て言った。
「騎士団はそんなの関係なく騎士の特権だけだよ。」
茶髪の少年は呆れたように言った。
悪い奴を痛めつける。
騎士=(イコール)力という考えがミヤビの心を揺らした。
「それって…私もなれるかな」
ミヤビは二人を縋るように見て訊いた。
二人は顔を見合わせて首を傾げた。
「今年の入団試験の締め切りは今日だからな。」
栗色の髪の少年は困ったように言った。
「どこ!?どこに行けば!?」
ミヤビは彼に詰め寄った。
力が欲しかった。
父と母が好きじゃないのにそれに囚われ、男一人に抵抗しかできなかった自分が悔しかった。
襲われた恐怖よりも、力への渇望がミヤビを動かした。
彼女の様子に二人の少年は王城前まで案内してくれ、王城の前にいる騎士に何やら話しかけてくれた。
当時の入団担当の者にかなりの無理を言ってミヤビを試験にねじ込んでもらった。
試験が受けられると分かった途端、体の力が抜けてその場にへたり込んだ。
数人の騎士たちが駆け寄ってきたが、ミヤビの姿がボロボロで、どう見ても襲われた後なのに気付いて表情を変えた。
「何があったんだ?」
今までされたことのなかった心配の声を聞き、ミヤビは自分が怖かったのだと初めて実感した。
訳も分からずその場で声を上げて泣いた。
騎士たちは困ったような顔をしていたがミヤビが泣き止むまで待ってくれた。
王城から出ると、栗色の髪の少年も待っていた。
夜遅いのに待っていてくれたことにミヤビはまた涙が出てきた。
「あいつは貴族様だから長く外出したら連れ戻されるんだ。」
栗色の髪の少年は口を尖らせて言った。
どうやら茶髪の少年のことのようだ。
「…ありがとう。」
ミヤビは今まで忘れて言えてなかった礼の言葉を言った。
「いいって。」
少年はミヤビに笑いかけた。
「…私、ミヤビ。…未来の帝国騎士団の女騎士よ。」
ミヤビは少年に手を差し出した。
「ミヤビ…」
少年はミヤビの名を反芻した。
名前を呼ばれたことがすごくうれしかった。
「俺は、ライガ。未来の帝国騎士だ。」
少年は差し出されたミヤビの手を握った。
「ライガ…」
ミヤビは彼の名を反芻した。
呼ぶと、幸せな気分になった。
ライガ:
主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと深く愛し合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げる。彼女に求婚し晴れて結ばれる。父が前騎士団団長で行方不明。
ミラ:
ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっていた。ライガと深く愛し合っており、彼と逃げる。晴れてライガと結ばれる。
ジン:
帝国騎士団団長。歴代最強と言われた前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどである。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。副団長のヒロキに精神的に依存しており、彼の死に放心状態。
マルコム(マルコム・トリ・デ・ブロック):
精鋭部隊の一員。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目をしている。国境の貴族ブロック伯爵の息子。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で自分の力に自信を持っており誇っている。サンズに継ぐほどの力がある。普段は穏やかでわからないが、強いものを無条件で尊敬する反面、自分より弱い者に対してはその意識はかなり低い。ライガに激怒していたが、今は何か思うところがある様子。
リラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。兄。
アラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ヒロキが襲撃を受けたことを自分のせいだと責めている。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。弟。
サンズ(サンズ・デ・フロレンス):
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。王都の貴族で父が公爵だが階級意識が無い騎士団を好む。文学青年でロマンチスト。先輩のアレックスと親友。精鋭では数少ない戦場経験者。
ミヤビ:
精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに片思いをしていた。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れ、暴走して単独行動をとっている。
アレックス
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任され、新団長として指名される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。また、派手な様子からは察せられないほどの苦労人。サンズ同様に戦場経験者。
チャーリー:
フロレンス家の執事。医者と共に市場に駆けつける。
アシ:
隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。ライガの逃亡に協力的だが、真意が測れず怪しい。ヒロキに剣で追い詰められたことや、彼の様子から何か思うところが出てきた。
イシュ:
隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。襲撃の際、ミヤビに肩を射抜かれたが、サンズ並みのガタイのお陰で深手にならず、弓も引ける様子。ミヤビを追っているサンズを襲撃するなど、単独行動を助長させる。
シューラ:
隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。襲撃時、マルコムの攻撃を受けて肩と腰の筋を痛めた。彼の攻撃を真に受けたことにプライドが傷ついた様子。
モニエル・デ・ブロック(ブロック伯爵)
皇国との国境を統治する地方貴族。皇国の事情に詳しい。マルコムの父親。
レイ・タイナー:
元帝国騎士団団長。ライガの父。ジンとの決闘に敗れ団長を退いたが、歴代最強と言われるほどの剣士だった。団長時代は敵国である皇国の大臣と交流を持つなど帝国の命令から反する行動をしていた。現在行方不明。
ヒロキ:
帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。女性顔負けの端麗な容姿故に飾り物と陰口を言われることが多い。ジンとは付き合いが長い。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。皇国の元大臣の息子。一族の失脚の際、ジンとライガの父に命を助けられた。アシたちの襲撃を受けて死亡。ジンに看取られる。
コマチ:
ヒロキの母でヒロキそっくり。皇国前大臣の妻。傾国の美女と言われるほどの美貌を持っていた。ヒロキが見ているところで首を刎ねられ死亡する。現在も皇国の支配層に影響力があるらしい。




