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宝物の彼女  作者: 近江 由
手を取り合う
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美しい飾り


 にぎやかな酒場では、きらびやかに着飾った女性に囲まれたアレックスとサンズが頬を赤らめて笑っていた。


 騎士は女性に人気だ。精鋭部隊となるとなおさらで、酒場では女性が寄ってくるし、男性からは羨望のまなざしを受ける。


 騒ぐアレックスとサンズを見て、未成年であるリランとアランはジュースを飲んでつまらなそうな顔をしていた。


「サンズさん。あれが目当て?」

 呆れたようにミヤビは見ていた。


「まあ、ご飯はだいたい奢ってもらったし、文句は無いよね。」

 マルコムは苦笑いをしていた。


 ライガもいつもとおなじみの光景に苦笑いをしていた。


 たいてい町に繰り出すとアレックスとサンズが酒場のお姉さんたちと騒ぐ。


 派手な顔で華のあるアレックスと、逞しく男らしいサンズは魅力的なようで、女性が寄ってくる。もちろん男性もだが、酒場に出れば主役になれる。


「今日ヒロキさんは?」

 酒場にいた別の女性がライガに声をかけた。


 どうやら騎士が来ていると聞いて探しに来たようだ。


「ああ。今日はヒロキさんはいないんだ。」

 ライガが笑いかけて言うと女性は残念そうな顔をした。


「へー。ヒロキさんも人気だもんね。」

 ミヤビは女性を見て、ライガの横に駆け寄ってきた。


「そうだな。」

 ヒロキのことを聞きに来たのは、アレックスたちと騒いでいる女性たちはまた違った感じの女性だ。


 ヒロキはどちらかと言うと良家の女性に人気がある。


 線の細い顔立ちと、切れ長な目が理知的なようで、筋肉隆々ではないがきっちりとついている筋肉と、洗練されたような動きは確かに男のライガから見ても優雅だ。

 それとは違い、砕けた口調もギャップがあっていいらしい。


「ねえ、ライガ君もこっちで飲まない?」

 アレックスたちと騒いでいた女性の一人がライガの元に寄ってきた。

 胸元の開いた服で目のやり場に困る色気全開の女性だ。


「こっちで飲んでいるので。結構です。」

 ライガではなく横にいたミヤビが間には言って断った。


 女性はミヤビを見て気まずそうな顔をして目礼だけをして去った。


 ミヤビは帝国騎士精鋭唯一の女性で、美しく男からも女からも一目置かれる。


「俺は誘ってくれないのか。」

 マルコムは少し寂しそうに言った。


「マルコムは、俺たちと同じく未成年だと思っているからだと思うよ。」

「中身は醗酵が進んで腐敗している性根なのにね。」

 リランとアランはきゃっきゃと笑いながら言った。


「二人とも飲んでいる?シラフ?嘘?」

 マルコムは双子の様子を見て二人に飛び込むように軽く殴りかかった。


「ちょっとー」

 ミヤビは三人を止めにかかった。


 ライガは苦笑いをしながら酒場の外に出た。


 特に何も無くご飯を食べて町を見て回って買い物をして、最後は酒場について騒ぐ。

 これがライガたちの日常だった。


 日によったら平日に酒場に連れて行かれることもある。


 最初はお供のような扱いで、傍でジュースを飲んでいればよかった。だが、成長するにして酒場に来る女性たちや町の女性たちがライガを誘惑の対象として見始めた。


「…はあ。」

 どうにも慣れないことにライガは溜息をついた。


 夜の町というのは、昼の町と違った趣がある。


 歩く人が変わっているのもあるが、暗い空に浮かぶ星と月、明かりが灯る王城が綺麗だ。


「あ、空いている。」

 ライガは夜の店に似合わない、小物屋さんが開店しているのに気付いた。


 覗き込むと可愛らしいアクセサリーがたくさん置いてあった。


 白い花の髪飾りが目についた。


 黒い髪と黒い瞳に映える。

 そう、ミラにとてもよく似合うと思ったのだ。


 店に入って、白い花の髪飾りを手に取った。

 よく見ると白いだけでなくうっすらピンクも混じった花は、ふわふわとしており、キラキラした金属加工部分、そしてプラプラとぶら下がる鈴が愛らしい。


「恋人にですか?」

 店の主らしき女性がライガの様子を見て出てきた。


「え?あ…ええ。まあ。」

 ライガは照れながら答えた。


「初々しいこと。安くしますよ。」

 女性が出した値段は安くなったとっても思えないほど高かった。


「高…でも」


「金属細工が職人技です。白い花は愛を告白する花言葉を持つんですよ。そして、その鈴はどこにいても分かる…離れることが無いようにということで着けています。基本的に旅人の恋人同士で着けることが多いのですけど、ロマンチックですよね。」

 女性は髪飾りを持ち、ライガに差し出した。


「離れることは無い…」

 ライガは髪飾りを持って、ミラのことを考えた。



「いた!!ライガ!!」

 店の外から騒がしい声が聞こえた。


「ミヤビ!?」


 外にいたのはミヤビだった。息を切らしてどうやらライガを探しに来たようだ。


「…こんなところで…それは?」

 ミヤビはライガの持っている髪飾りを見て訊いた。


「あ、いや。どうした?」

 ライガは慌てて髪飾りを置いて、会話を別方向にもっていった。


「ああ、えっと、アレックスさんとサンズさんがいつも通りの喧嘩をはじめたのよ。ヒロキさんがいないからあなたじゃないと止められない。」

 ミヤビはライガの腕を引っ張った。


「すぐ行くから。先に行ってて。」

 ライガは思わずミヤビの手を払った。


「あ、うん。」

 ミヤビは驚いた顔をしたが、ライガが置いた髪飾りを見てから頷いた。


「じゃあ、直ぐに来てね。」

 ミヤビは店から出て行くと走って酒場に戻って行った。


「綺麗な人ですね。あの方ですか?」

 店の主の女性はミヤビのことを訊いた。


「…あの、これください。」

 ライガは財布を取り出した。


「お買い上げありがとうございます。」

 財布を取り出すと女性は詮索することなく直ぐにお会計に取り掛かった。





 長い食事会の後は、ひたすら意味のない庭の鑑賞や、芸術品を眺める作業だ。


 いつも見ている身分のくせに何故こういうときも見るのか理解できない。

 あくびを噛み殺している副団長の男を団長が横からつついて注意をしていた。


 騎士たちのそんなやり取りを見ていたミラは、彼等が羨ましく思った。


 ライガに会いたくてここにいて欲しいが、いて欲しくない。


 後ろの騎士たちは飾り物の役目を果たしていた。

 強そうで、豪華で美しく。


 やっと終わり、部屋の前まで送ってもらった。


 目を見ることのない団長は別として、何度もこの仕事こなしているせいか、副団長の男は慣れたようにミラの目を見ても平気そうな顔をしていた。


「ありがとうございました。」

 ミラが礼をすると二人は姿勢を正し、彼女以上に深く礼をした。


 二人が礼から頭を上げる前に部屋に入るのが決まりになっているのか、いつも見送りの騎士は部屋に入るまで頭を上げてくれない。


 部屋に入ると、力が抜けたように床にへたり込んだ。

 下品ではあるかもしれないが、着ている服を急いで脱いで床に散らかした。


 身体に纏わりつくあの空気、浴びた視線を振り払いたくて仕方なかった。


 お宝様の身の回りの世話は、基本的に緊急時以外はいない。

 部屋の掃除やベッドメイキング、服の用意は全て彼女がいない時に行われる。

 お茶などが欲しければ呼び出せばいい。


 それでもしなければお宝様の精神衛生上よくなく、狂うお宝様が続出した過去がある。

 更に言うなら、お宝様を取り込もうと画策する者の陰謀が働かないようにということもある。更には、純粋に聞かれたことに嘘を付けないというのが侍女たちにとっては苦痛らしく、過去にいたお宝様ではゴシップ好きがいて、王城内をかき回された過去がある。


 ミラは決してそんなことはないが、侍女が常に傍にいないのは嬉しかった。


 というわけで今は、ミラは一人の部屋で全ての服を脱ぎ捨てた状態だ。


 早く湯浴みをして、全て流したくて仕方ない。

 今日は浴室の準備はしてもらっているので、飛び込むように浴室に向かった。




 王城の廊下を豪華な鎧を着た騎士が二人歩いていた。


 一人は顔に包帯を巻いた色白の男、騎士団団長のジンだ。

 もう一人は切れ長の目を細めて、営業的な笑みを浮かべた副団長のヒロキだ。


「似合いますよ。団長。やっぱり様になりますね。」

 ヒロキは隣を歩くジンを冷やかすように言った。


「お前も似合うぞ。」


「見えないくせに言いますね。」

 ヒロキは自分の目を指して言った。


「お前は飾り立てると映えるし美しい。だから連れてきた。それに、侍女の視線を独り占めしていた。そのくらいわかる。」

 ジンは呆れたように鼻で笑った。


「団長もですよ。」


「俺のは奇異の目だ。」

 ジンは自嘲的に笑った。


「そうなんですね。しかし、お宝様可哀そうですね。」

 ヒロキは同情するように言った。


「王族にまともなやつなんかいないさ。実際国の利益を考えるならお宝様の一族が上だ。その均衡を取るためにこんな糞みたいな決まりがある。」

 ジンは嘲るように笑った。


「糞みたい…ですか。」

 ヒロキは可笑しいのか、肩を震わせて笑った。


「婚礼さえ終わってしまえば、次のお宝様が入ってくる。」

 ジンは表情を引き締めて言った。


「…そうですね。入ってこれますかね?」

 ヒロキは挑発するような目でジンを見ていた。


「見えないが、お前の今の表情は想像がつく。」


「ほお。」

 ヒロキは可笑しいのか、楽しそうに笑っていた。


「…今日も茶番の手伝いをするのか?」

 ジンの問いにヒロキは意味深に笑うだけで答えなかった。



ライガ:

帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。


ミラ:

「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。王子に嫁ぐことが決まっている。ライガとは相思相愛。


ジン:

帝国騎士団団長。最年少で団長に就く。精鋭部隊の隊長でもある。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。王族の人間。


ヒロキ:

帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。全体的に細長い印象のある顔の造りをしている。ジンが気を許している数少ない人物。ライガとミラの関係に好意的。


マルコム:

精鋭部隊の一員。穏やかな青年。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目。



ミヤビ:

精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。


アラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。弟。


リラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。兄。


サンズ:

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。


アレックス

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。長い金髪で緑色の瞳で顔立ちのはっきりしている。



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