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宝物の彼女  作者: 近江 由
崩壊へ~結末その1~
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剣の思い出

 

 訓練所で、訓練に勤しむ騎士の声が響く。


 その様子を見られているのかわからないが、二階のデッキから覗くジン。


 サンズとマルコムが剣でなく組手を始めた。


 サンズの掴みをマルコムはぎりぎりまで見て避ける。


「お前、俺で遊ぶつもりか?」

 サンズはマルコムの様子を見て眉を吊り上げて訊いた。


「まさか。中々ない機会ですから…有効活用するんですよ。」

 マルコムはそう言うと、サンズに掴みかかった。


 サンズはそれを片手で流すように避けた。マルコムは腕を持ってかれないように体を丸めてサンズの周りを転がるように動く。


「剣当てくらいならやってやるぜ。双子。」

 ヒロキはアランとリランの頭を軽く小突いた。


「今日こそはギャフンと言わせますよ!!」

 アランはヒロキに剣を構え挑むように言った。


「ギャフン!!」

 リランが叫んだ。


「お前が言うのか。」

 ヒロキはリランの様子を見て笑った。


「「いざ!!尋常に勝負!!」」

 アランとリランは軽く地団太を踏んでからヒロキに剣を構えた。


「俺は異常の方が好きだぜ。」

 ヒロキも二人に剣を構えた。


「あー…取られちゃったな…」

 ライガは手合わせを始めた面々を見て溜息をついた。


「おいおい、ライガ。俺は?」

 ライガの肩をアレックスが叩いた。


「いやー、今日は普通じゃない組み合わせで行きたかったんですよ。できればマルコムかサンズさん…」

 ライガは組手が泥仕合になり始めている二人を指して言った。


「俺は普通なのか?」

 アレックスは少し悲しそうに言った。


「いえいえ…アレックスさんは強いですけど…力のある人と闘いたいなと思って…」

 ライガは訂正するように言った。


「俺も実は今日はライガでなくて、ヒロキさんか双子に頼もうと思っていたんだ。だけど、あいつ等おっぱじめやがった。」

 アレックスはヒロキと双子を指して言った。


 ガシャン

「ひい!!」

 別の場所でやっている手合わせの勝負が着いたようだ。


 パチパチパチ

 拍手が聞こえる。


 数人の騎士をギャラリーとしていたのはミヤビだった。


 精鋭相手ではないが、3人の騎士を相手に勝ったようだ。


「お前、ミヤビと手合わせしたことあるか?」

 アレックスはライガを見て訊いた。


「いや、ミヤビは俺よりも双子の方が…」

 ライガはアランとリランを見た。


 二人はどうやらヒロキに負けたようだ。

「「ギャフン…」」

 アランとリランは、口を尖らせて何やら呟いていた。


「強いぞ。」

 アレックスはミヤビを指して言った。


「アレックスさん、戦ったこと…」


「というより、ミヤビは女であるからどうしても男と比べて身体能力に差が出ることが分かっている。」

 アレックスはライガが言い終える前に言った。


「それは…仕方ないことです。」


「ミヤビはそれで終わらせない。事実、彼女はああやって精鋭以外なら男相手でも全然勝てる。」

 アレックスは何やら誇るように言った。


「アレックスさん。剣を教えているんですか?」

 ライガは彼の様子を見て納得したような顔で訊いた。


「彼女は俺、サンズ、ヒロキさんに教わりに行っている。一番参考にすべきはヒロキさんと思ったが、目の良さが無いとできないやつでな、俺のつまんねえ戦い方とサンズの段階的な戦い方を取り入れている。強いから…手合わせしてみろよ。今度でもな。」

 アレックスはミヤビを指して言った。


「今は…」

「あほ。さっき男三人倒したばかりだろ。」

 アレックスはライガの頭を叩いた。



 


 ピチャン

 と朝露が顔に落ちて目が覚めた。

 目の前にはミラがいて、今は森の中だった。


 さっきのは夢だ。

 いつかの騎士団でのことだ。


「…何であんな夢を…」

 ライガは溜息をついた。


 よりによって一番モヤッとしていることだ。


「ライガ…?」

 ライガの様子を察してミラが目を覚ました。


「ごめん。起こした?」

「ううん。…どうしたの?」

 ミラはライガの目をわざと見ないで訊いた。


 彼女のささやかな気遣いだ。

「ありがとうミラ。でも、俺は全て話すから安心して。」

 ライガは自分が見た夢の話をした。

 騎士団の訓練所のことや会話もだ。


「…ミヤビさん…」

 ミラは考え込むように呟いた。


「だから、彼女と俺はただの同期だって。」


「違うと思う。ライガ…私、彼女がライガのこと…」

 ミラが言いかけた時


 ヒヒン

 ポチが啼いた。


「ポチ?」

 ライガは慌ててポチの方に寄った。


 別にもよおした様子ではないが、何やら気になるようだ。


「…追手かもしれない。」

 ライガは慌てて荷物をまとめた。

 ミラも彼に倣い荷物をまとめてポチに括り付けた。


「この先に雨風を凌げる洞窟があるんだけど、そこまで飛ばすよ。」

 ライガはミラを馬に乗せてから自分も乗った。


「わかった。」

 ミラは急に迫ったような追手の気配に不安になっていた。


「大丈夫。」

 ライガはミラを見て言った。


「うん。」

 ミラは笑顔で頷いたが、やはり不安だった。


 ライガは馬を走らせ始めた。

 森の木の間を徐々にスピードを出して進む。


 ポチもすごいがライガもそれを操るのはすごい。

 ミラは素直に感心した。

 だが、それで彼女に生じた不安は消えない。


「ねえ、ライガ。」

 ミラはライガに捕まりながら訊いた。


「なに?」


「何でさっきの夢がモヤッとしているの?」

 ミラはライガが見た夢がモヤッとしていることだと言ったのが気になった。


「ああ、実はね…」

 ライガは思い出すように首をひねった。


「ライガ?」


「いや、無いんだ。どんなに思い出しても…俺はミヤビと闘ったことが無いんだ。」

 ライガは困ったように言った。


「それがどうしてモヤッとしているの?」

 ミラはライガの様子に更に不安になった。


「…手の内を知らないからだ。」

 ライガも少し不安な様だった。


 木々の間をくぐるようにポチは走った。

 人はあまり歩かないが獣道と言うには歩きやすいような道をポチは進んだ。

 ライガも周りを見ながら徐々にスピードを落とす。


「この方面に仕事できたことがあるんだ。…コソ泥みたいな盗賊を捕まえるやつでね。」

 ライガはこの辺にわずかに土地勘があることを言った。


「ライガの騎士での話、あまり聞かないから新鮮。」

 ミラはライガの仕事の話を聞いて、少し嬉しくなった。


「そんな。だって、ミラには悪いかなって…」

 ライガはどうやら騎士団でなくミラを選んだため、比較対象となった騎士団のことを話すのはよくないと思ったようだ。


「そんなことないよ。ライガが話したくないなら聞かないけど…だって、ライガが好きだった場所でしょ?」

 ミラは確かに騎士団の面々に嫉妬しないわけではないが、言った通りライガが好きだったものを自分が嫌いになるわけがない。


「そうだな…また、ゆっくり話そう。」

 ライガは少ししんみりした様子で言った。


「うん。私はいつでも聞くから。」

 ミラはライガに捕まる手をぎゅっとした。


 チリン


 聞き覚えのある鈴の音が響いた。


「え?」

 ミラは頭につけている髪飾りを見た。だが、落とした鈴は無かった。

 ミラは辺りを見渡した。


「ミラ?どうかした?」

 ライガはミラの様子が変わったことに気付いた。


「ライガ。鈴の音が聞こえ…」

 ヒヒン

 ポチが啼いて急に止まった。


 ライガとミラは前につんのめりながらもポチに捕まりどうにか落馬しなかった。


 ライガは警戒するように周りを見渡した。

 剣に手をかけて、ミラを庇うようにした。

 ミラはポチの手綱をしっかりと握った。


 カサ


 森の草が踏まれる音がした。


 チリン


 鈴の音もした。


 ライガは音を聞いて馬を走らせて逃げようとした。


 ヒュン

 風切り音がした。

「伏せろ!!」

 ライガは咄嗟に叫んで、ミラをポチから抱えるようにして地面に落ちた。

 ポチには当たらなかったが、矢はミラが居た場所を通過した。


 ドサ

「キャ!!」

 急な衝撃にミラは叫んだ。

 だが、ライガがクッションになってくれてミラは特にケガも無かった。


 ライガはミラが無事なことを確認すると、剣を構えてミラの盾になるように立った。


「…」

 ライガは険しい顔をしていた。

 どうやら誰の仕業か心当たりがあるようだ。


 カサ

 チリン


 足音と鈴の音が近づいた。


「…避けたのね。」

 落胆したような女性の声が聞こえた。


 ライガは一瞬悲痛な顔をしたが、覚悟したように剣を横に構えた。


「残念だったなあ…」

 声の主は一人の騎士の女性だった。


 金髪の綺麗な騎士だ。

 彼女は確か、精鋭部隊の一人だ。


 精鋭の女性は一人しかいない。


「…ミヤビ…」

 ライガは彼女を見て少し悲しそうに呼んだ。


 彼女、ミヤビはライガを見て嬉しそうに笑った。



ライガ:

主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと深く愛し合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げる。彼女に求婚し晴れて結ばれる。父が前騎士団団長で行方不明。


ミラ:

ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっていた。ライガと深く愛し合っており、彼と逃げる。晴れてライガと結ばれる。


ジン:

帝国騎士団団長。歴代最強と言われた前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどである。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。副団長のヒロキに精神的に依存しており、彼の死に放心状態。


マルコム(マルコム・トリ・デ・ブロック):

精鋭部隊の一員。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目をしている。国境の貴族ブロック伯爵の息子。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で自分の力に自信を持っており誇っている。サンズに継ぐほどの力がある。普段は穏やかでわからないが、強いものを無条件で尊敬する反面、自分より弱い者に対してはその意識はかなり低い。ライガに激怒していたが、今は何か思うところがある様子。


リラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。兄。


アラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ヒロキが襲撃を受けたことを自分のせいだと責めている。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。弟。


サンズ(サンズ・デ・フロレンス):

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。王都の貴族で父が公爵だが階級意識が無い騎士団を好む。文学青年でロマンチスト。先輩のアレックスと親友。精鋭では数少ない戦場経験者。


ミヤビ:

精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに片思いをしていた。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れ、暴走して単独行動をとっている。


アレックス

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任され、新団長として指名される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。また、派手な様子からは察せられないほどの苦労人。サンズ同様に戦場経験者。


チャーリー:

フロレンス家の執事。医者と共に市場に駆けつける。


アシ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。ライガの逃亡に協力的だが、真意が測れず怪しい。ヒロキに剣で追い詰められたことや、彼の様子から何か思うところが出てきた。


イシュ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。襲撃の際、ミヤビに肩を射抜かれたが、サンズ並みのガタイのお陰で深手にならず、弓も引ける様子。ミヤビを追っているサンズを襲撃するなど、単独行動を助長させる。


シューラ:

隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。襲撃時、マルコムの攻撃を受けて肩と腰の筋を痛めた。彼の攻撃を真に受けたことにプライドが傷ついた様子。


モニエル・デ・ブロック(ブロック伯爵)

皇国との国境を統治する地方貴族。皇国の事情に詳しい。マルコムの父親。


レイ・タイナー:

元帝国騎士団団長。ライガの父。ジンとの決闘に敗れ団長を退いたが、歴代最強と言われるほどの剣士だった。団長時代は敵国である皇国の大臣と交流を持つなど帝国の命令から反する行動をしていた。現在行方不明。


ヒロキ:

帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。女性顔負けの端麗な容姿故に飾り物と陰口を言われることが多い。ジンとは付き合いが長い。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。皇国の元大臣の息子。一族の失脚の際、ジンとライガの父に命を助けられた。アシたちの襲撃を受けて死亡。ジンに看取られる。


コマチ:

ヒロキの母でヒロキそっくり。皇国前大臣の妻。傾国の美女と言われるほどの美貌を持っていた。ヒロキが見ているところで首を刎ねられ死亡する。現在も皇国の支配層に影響力があるらしい。



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