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宝物の彼女  作者: 近江 由
崩壊へ~結末その1~
58/135

冷たくて


 夜の森は冷える。

 体を密着させライガとミラは暖を取った。


「ミラの足、冷たい。」

 ライガはミラの足を掴んで笑った。


「ライガの手は温かい。…ってライガも足冷たい。」

 ミラもライガの足を掴んだ。


「あ、俺の足は触らない方が…」

「臭い…」

 ミラはライガが言い終える前に顔を顰めた。


「だから…ね。言ったよね。」

 ライガは溜息をついて、言った。


「私、ライガにそんな苦労させていたのね。…私の足…臭くないかな?」

 ミラは申し訳なさそうにしたが、直ぐに自分の足の匂いを嗅いだ。


「ミラ…この前まで王城で暮らしていたとは思えないって。」

 ライガはあまりにもはしたないミラの体勢をみて呆れたように笑った。


「ふふ…私の足も臭い。」

 ミラは顔を顰めながら笑った。


「俺が言わないであげたのにね…」

 ライガは溜息をついたが、こんなやり取りも幸せだった。


 ブルルル

 二人の後ろにいるポチが構ってほしそうに鼻を鳴らした。


「ポチお手洗い?」

 ミラはポチを心配そうに見た。


「さっきたくさん出していたからたぶん構って欲しいんじゃないかな?」

 ライガはいい感じになるたびに鼻を鳴らすポチを軽く睨んだ。ポチはライガのそっぽを向くような仕草をした。


「ポチの手冷たい。」

 ミラはポチのひづめを触って悲しそうにした。


「ポチは足だからね。ミラ。こっちにおいで。」

 ライガはポチを軽く睨みならミラを手招きした。

 ミラはポチの頭を軽く撫でてライガの胸に飛び込んだ。


「冷えるから離れないで。」

 ライガはミラを腕で包み込んだ。ミラは嬉しそうにライガの胸に顔を摺り寄せた。


「明日は山奥に行こうか。そこで小屋でも作って…」


「畑を耕して作物を作って二人で町に売りに行こう。」

 ミラは目を輝かせて言った。


「そうだね。…そんな暮らしもあるんだよな。」

 ライガはふと剣に目をやった。


「でも、ライガは鍛錬を怠っちゃダメだよ。いつか団長さんを倒すんでしょ?」

 ミラはライガの鼻を指でつついた。


「気が重いな…」

 ライガはミラに顔を顰めて見せた。


「ライガ、ポチみたいで可愛い。」

 ミラはライガの顔を見て、後ろのポチを指して言った。


「それは嫌だな…」

 ライガは後ろのポチを睨んだ。




 


 人が行きかう市場、日も落ちてきて晩御飯の買い出しや飲食店で騒ぎたいもの、女性と戯れたいもので賑わっていた。


 そんな大通りから逸れた小屋の前で数人の騎士が俯いていた。


 アランは真っ青な顔をしてひたすら下を見ていた。

 リランは絶望した表情で何度も首を振っては涙を拭っていた。

 マルコムは口元に怒りと憎しみを浮かべ、歯を食いしばっていた。

 サンズは額に手を当てて静かに泣いていた。


「…俺のせいだ…俺の…俺が」

 アランは何度も呟いていた。


「うるさい。」

 マルコムは苛立ったような表情をアランに向けた。


「だって、みんなわかっているだろ!?俺がヒロキさんを置いて行かなければ…俺のせいだって!!ヒロキさんの言葉よりも団長の言葉を…」

 アランは泣き出しそうな顔をしていた。


「だからうるさいって言ってんだろ!!気づけよ無能!!」

 マルコムはアランに怒鳴った。


 アランは普段なら飛び上がるのだが、ここは引き下がらなかった。

「無能だよ!!俺は…俺のせいだってマルコムだって」

 アランが首を振ってマルコムに言いかけた時


 バキン

 マルコムはアランの顔を思いっきり殴った。


 ズシャ

 アランは地面に叩きつけられた。


「マルコム!!」

 リランは思わずマルコムに飛び掛かろうとしたがサンズが止めた。


「だから気付けよ。お前は無能で弱い。」

 マルコムはアランを見下ろして言った。


「何だよ」

 アランは無能よりも弱いという言葉に少し反応した。


「お前が居たから何か変わったか?…思い上がりも甚だしい。勘違いするなよ。」

 マルコムは口を歪めて言った。


「マルコム…」

 アランはマルコムの言葉に拳を握った。


「正直言おう。ヒロキさんでなくて君が死ねばよかった。だけど、皇国の連中はヒロキさんを狙った。君ならすぐに死んでいたのにね。」

 マルコムは冷たい目をアランに向けていた。


「おい、それは言い過ぎだって…」

 サンズもさすがにこれ以上言わせない方がいいと判断したのか、マルコムを宥め始めた。


「アランはわかる必要があります。」

 マルコムは首を振ってアランをまた見下ろした。


「どの道君がいない時を狙って接触を試みたはずだ。君が居ようといなかろうとね。弱い君がヒロキさんの死に責任を感じる資格は無いんだよ。」

 マルコムは変わらずアランに冷たい目を向けていた。


「だけど、俺がいれば…」


「君が認識すべきは、君の方が死ぬのに相応しい価値の人間ってことだよ。」

 マルコムは吐き捨てるように言った。


 流石にこれにはリランが飛びかかった。


 マルコムはリランの拳を叩いて弾いて、足払いをして彼を地面に押し付けた。


「君もだ。今の君たちが代わりに死ねばよかったのにね。」

 マルコムはアランとリランを見下ろして言った。


「マルコム…これ以上は…」

 サンズはマルコムの肩を掴んだ。

 マルコムもさすがにサンズには力負けをする。


「…わかりました。」

 マルコムはリランを抑える手を止めた。


「…今は俺たちが争っている場合じゃない。アランもいつまでも自分を責めるな。」

 サンズはアランを見て慰めるように言った。


 サンズの言葉で事態は収まったわけではなく、アランとリランはマルコムを睨んでいた。マルコムは二人の視線を受けても気にした様子はなかった。


「…とにかく休め。お前等全員だ。わかったな!!」

 サンズは三人を指さして言った。


「で…ですが!」

 アランが何か言おうとしたときサンズは首を振った。


「ずっと動きっぱなしだったんだ。何があっても休ませる。明るくなってから全部始めろ!!」

 サンズは三人に有無を言わせない口調で言った。


 三人は不満そうにサンズを見たが仕方なさそうに小屋の中に入って行った。


「…おい」

 サンズは近くにいた騎士に声をかけた。


「はい…」

 騎士もヒロキのことが悲しい様で、目を腫らしていた。


「ミヤビを探してくれ。必ず集団で動け。…おそらく今の精鋭は動けない。」

 サンズは縋るように言った。


「わかりました。」

 騎士は姿勢を正してサンズに礼をした。

 彼は複数の騎士を連れて歩いて行った。


 サンズは溜息をついて小屋の前に立って見張りのようにしていた。


 歯を食いしばり、鬼の形相で、涙をこらえていた。


「後で来るって言ったのは…誰ですか。」

 サンズは堪え切れない涙を流しながら一人誰が聞くわけでもないのに呟いた。


「俺には下手に追うなって言ったくせに…」

 サンズは誰が聞いているわけでもないのに憎まれ口を叩いた。



 

 小屋のヒロキがいる部屋にはジンとアレックスがいた。


 ジンは横たわり、冷たくなったヒロキの髪を撫でていた。

 手は握ったままだった。

 アレックスは心配そうにジンを見ていた。


「…手が冷えている…」

 ジンはヒロキの手を両手で包んで温めるようにさすった。


「団長…」

 アレックスはジンの肩を叩いた。

 ジンは黙ってヒロキの手を放した。


 ヒロキは手を胸の前に置かれ、ベッドの上で眠っているようだった。


「…アレックス、無理をするな。」

 ジンはアレックスに目を向けた。


「無理なんて…」

 アレックスは俯いて首を振った。


「お前もみんな疲れているだろ…休め…」

 ジンは俯いて言った。


「団長も…」


「頼む…」

 ジンはアレックスを見た。


「…」

 アレックスはジンを真っすぐ見た。


「…まだ、ここに居させてくれ。」

 ジンは縋るようにアレックスに言った。


「断れるわけ、ないじゃないですか…」

 アレックスは目を伏せて答えると、ジンに礼をした。ヒロキにも。


「では…失礼します。」

 アレックスは部屋から出て扉を閉めた。


 外に出て一人で見張りでもしようと思い、外に向かった。


 もう夜遅い、みんなきっと休んでいるだろう。その証拠に小屋の中のあちこちの部屋には人の気配がある。

 今日は動きっぱなしであったのだから休んで明日から、また動けばいい。

 アレックスは、姿は見えないが隊員たちを労った。


 アレックスは明日からのことを考えた。何から手を付けるか、王都の騎士たちを大勢呼んでいるからここに本部を設置しようかとも考えた。


 頭を忙しく働かせていないとやっていけない。


 アレックスはやけくそのように外への扉を開いた。


「!?」

 外には驚いた顔をしたサンズがいた。


「おい…お前、休めって…」

 アレックスはサンズの様子を見て言葉を止めた。


 目が赤い。

 ここで一人で泣いていたのだろう。


「…考えることは、同じか…」

 アレックスはいつもなら呆れて笑うのだが、今は歯を食いしばって涙をこらえた。


「アレックス…先輩。」

 サンズはアレックスの顔を見ると、涙を流し始めた。


「取ってつけたような先輩止めろ…もう。」

 アレックスはサンズの胸を軽く叩いた。

 サンズは少しだけ笑みを浮かべてアレックスに軽く礼をした。


 アレックスはサンズの横に並び、二人で見張りの様に立った。


「アレックス…」

 サンズはしばらくの沈黙のあとアレックスに声をかけた。


「何だ?」

 アレックスはサンズを見ず、前だけ見て応えた。


「ガキどもが暴れまくるから俺がしっかりと叱らないといけないのに…」

 サンズもアレックスと同じく前だけ見て話した。


「…」

 アレックスはサンズの肩を叩いた。


「悲しくて悲しくて仕方ねえんだよ…団長はもっと辛いのに、俺は…」

 サンズは、今回は涙を堪えずに顔を歪めた。


「だったら、無理をするなよ。馬鹿が。」

 アレックスはサンズの頭を叩いた。


「…お前もな。」

 サンズはアレックスの頭を叩いた。

 



 チリン


「綺麗…」

 道に落ちているキラキラと光る鈴を見下ろしてミヤビは笑っていた。


「これ…やっぱり。」

 ミヤビは宝物を拾うように鈴を持ち上げた。


 空は暗く、夜は深くなっていた。

「ふふ、思った通りだ。」

 ミヤビは空を見上げて嬉しそうに笑った。


 ミヤビは鈴をつまみ、方位磁針のようにあちこちに向けて方角を確かめていた。


「どっちに行ったのかな?」

 ミヤビは無邪気に遊ぶように鈴を鳴らしながら周りを見た。


 チリン


「こっちの方が音が綺麗かも。ふふふ」

 ミヤビは森の方を指さして言うと、堪えきれないように笑い出した。


「今の私の勘、当たるからなー」

 ミヤビは誰もいないのに、一人で笑いながら同意を求めるように言った。



ライガ:

主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと深く愛し合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げる。彼女に求婚し晴れて結ばれる。父が前騎士団団長で行方不明。


ミラ:

ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっていた。ライガと深く愛し合っており、彼と逃げる。晴れてライガと結ばれる。


ジン:

帝国騎士団団長。歴代最強と言われた前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどである。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。副団長のヒロキに精神的に依存しており、彼の死に放心状態。


ヒロキ:

帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。女性顔負けの端麗な容姿故に飾り物と陰口を言われることが多い。ジンとは付き合いが長い。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。皇国の元大臣の息子。一族の失脚の際、ジンとライガの父に命を助けられた。アシたちの襲撃を受けて死亡。ジンに看取られる。


マルコム(マルコム・トリ・デ・ブロック):

精鋭部隊の一員。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目をしている。国境の貴族ブロック伯爵の息子。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で自分の力に自信を持っており誇っている。サンズに継ぐほどの力がある。普段は穏やかでわからないが、強いものを無条件で尊敬する反面、自分より弱い者に対してはその意識はかなり低い。ライガに激怒していたが、今は何か思うところがある様子。


リラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。兄。


アラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ヒロキが襲撃を受けたことを自分のせいだと責めている。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。弟。


サンズ(サンズ・デ・フロレンス):

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。王都の貴族で父が公爵だが階級意識が無い騎士団を好む。文学青年でロマンチスト。先輩のアレックスと親友。精鋭では数少ない戦場経験者。


ミヤビ:

精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに片思いをしていた。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れ、暴走しがちになっている。


アレックス

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任され、新団長として指名される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。また、派手な様子からは察せられないほどの苦労人。サンズ同様に戦場経験者。


チャーリー:

フロレンス家の執事。医者と共に市場に駆けつける。


アシ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。ライガの逃亡に協力的だが、真意が測れず怪しい。ヒロキに剣で追い詰められたことや、彼の様子から何か思うところが出てきた。


イシュ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。襲撃の際、ミヤビに肩を射抜かれたが、サンズ並みのガタイのお陰で深手にならず、弓も引ける様子。


シューラ:

隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。襲撃時、マルコムの攻撃を受けて肩と腰の筋を痛めた。彼の攻撃を真に受けたことにプライドが傷ついた様子。


モニエル・デ・ブロック(ブロック伯爵)

皇国との国境を統治する地方貴族。皇国の事情に詳しい。マルコムの父親。


コマチ:

ヒロキの母でヒロキそっくり。皇国前大臣の妻。傾国の美女と言われるほどの美貌を持っていた。ヒロキが見ているところで首を刎ねられ死亡する。現在も皇国の支配層に影響力があるらしい。


レイ・タイナー:

元帝国騎士団団長。ライガの父。ジンとの決闘に敗れ団長を退いたが、歴代最強と言われるほどの剣士だった。団長時代は敵国である皇国の大臣と交流を持つなど帝国の命令から反する行動をしていた。現在行方不明。



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