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宝物の彼女  作者: 近江 由
崩壊へ~結末その1~
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歪みの方角

 

 市場の一角の小屋でアシ、イシュはうなだれて居た。


「…やっちまったな…」

 イシュはアシの肩を叩いた。


 アシは呆然としていた。


「まあ、あいつは予定になかったから、今はお宝様だけもらうように方向転換しよう。」

 イシュはアシを慰めるように言った。


「…刺しちまった。俺、お前の矢が飛んで刺さったのに…」

 アシは自分の手を見ていた。


「あれで俺たちが逃げられたのは幸運だ。シューラはもう体制を整えに一旦戻っている。」

 イシュはアシの手を掴んだ。


「…」

 アシは何か考え込むように俯いた。


「言っただろ…実力者だって、だから負けそうになったことは…」


「負けていた。お前の矢が無ければ俺は負けていた。」

 アシはイシュを見て断言した。


「…とにかく、ここの市場に騎士団が集まるのも時間の問題だ。俺たちはライガたちを追って…」

 イシュはアシの肩を叩いた。アシは変わらず呆然としている。


「あの弓の女が単独行動しているらしい。うまくライガとぶつけられれば…」

 イシュはアシを諭すように彼の目を見て言った。


「…すごく綺麗だった…」

 アシはおもむろに自分の小刀を取り出した。それには血がべっとりとついていた。


「あのコマチの息子だから当然だろ。…早くそれを整備しろ。」

 イシュは何やら険しい顔をして言った。


「…」

 アシは血まみれの小刀を眺め、しばらくすると口元に笑みを浮かべた。


「俺が殺した…」

 アシは笑みを含ませて呟いた。



 



 市場の周りをぐるぐると少しずつ範囲を広げてミヤビはライガを探していた。


「おい!!ミヤビ!!単独行動は止めろ!!ヒロキさんが大変な時に…」

 ミヤビの後ろからサンズが説教するように叫んだ。


「早く元凶を見つけないといけないですよね。だって、全部、全部、ライガがあの女と逃げたことから始まったんですよ。それを始末しないと…」

 ミヤビはサンズの言葉を聞き入れない様子だった。


「いい加減にしろ!!お前、マルコムは冷静になったぞ!!」

 サンズは思わず叱った。


「彼と私は違いますよ。あいつ、女の子を殴るなんて最低。」

 ミヤビは腫れている頬をさすりながら言った。


「アランにやったことも訊いた。手段はよくないが、お前にも非がある。」


「サンズさんはヒロキさんの方に行った方がいいんじゃないですか?」

 ミヤビはサンズを見て淡々と言った。


「お前もだ。」


「だって、サンズさんの方が付き合いが長いですよね。…みんなわかっているんですよね。」

 ミヤビはサンズを見て皮肉気に笑った。


「…」

 サンズはミヤビの言葉に黙った。


「アランが医者を呼びに行きましたが…わかりますよ。私だって、ヒロキさんが助からないことくらい…」

「やめろ!!」

 サンズはミヤビの言葉に怒鳴った。


「じゃあ、私の行動は遮りでもないですよ。医者に見せるのも…自己満足ですよね。貴族であるあなたの力を発揮できるかもしれない場面だから…」


「可能性に縋るのが普通だろ!!お前どうしたんだ?」

 サンズは思った以上に声を荒げてミヤビに怒鳴った。


「ライガを追わないといけないのに追わない方もどうかしていますよ!!」

 ミヤビは叫ぶと馬を走らせ始めた。


「おい!!ミヤビ!!」

 サンズは舌打ちをしてミヤビの後を追った。



 

 市場に場違いな馬車が着いた。

 馬車に乗った白衣の男と、執事のような姿をした男とその手伝いのような数人の男が出てきた。


 それに加えて警備のような男が二人。


「…あちらですね。」

 執事のような男が先導して市場の色んな人の視線を受けながら一行は進んだ。

 市場の大通りから少し逸れた小屋の前に着くと、小屋の前に立っている青年が集団に気付いて姿勢を正した。


「…あなたは。」

 執事は青年に見覚えあるのか少し驚いた顔した。


「フロレンス家執事のチャーリー殿。久しぶりです。お医者様も早くこちらへ。」

 入り口にいた青年は慣れた様子で礼をして、一行を小屋の中に案内した。


「…マルコム殿はこちらでの仕事になるのですか?」

 チャーリーは案内をして居る青年のマルコムを見て訊いた。


「今はここが…それよりも早く」

 マルコムはチャーリーと医者を見て急かすように一室に通した。


 チャーリーたちが通された部屋には、ベッドと椅子があった。

 椅子には色が白く顔に包帯を巻いて騎士の恰好をした男が座っており、ベッドに横たわる者の方をずっと向いている。


「…こちらですか…」

 チャーリーはベッドの方を見て、包帯の男に訊いた。


「…」

 包帯の男は無言で頷いた。動きがたどたどしく、相当参っている様子だ。

 これがあの帝国騎士団団長だとは思えないほどだ。


 医者とチャーリーは協力して、ベッドに横たわる者を診始めた。

 正直顔だけ見ると、線が細い美人にしか見えず、男か女かわからないが、彼は間違いなく男だ。


 傷を見るために服を脱がすと、本当に騎士なのかと思うほど細かった。

 筋肉が付きにくい体質なのだろう。

 わき腹の怪我や、背中の矢が刺さった部分は、筋肉粒隆々であったなら問題なかっただろう。かなり痛いが。


 細いのが命取り。


 チャーリーは彼を見てそう判断した。

 医者も同じようで険しい顔をしていた。


「う…」

 絶え絶えの呼吸の合間にたまに痛みに呻いている。


「…そうとう苦しいでしょう…」

 チャーリーは彼の様子を見て呟いた。


「…とにかく、傷に菌が入らないようにと…いくつか薬を」

 医者は一緒に入ってきた手伝いに目配せをした。


 包帯の男は呆然としている。


「…団長。治療に入りますから一旦出ましょう。」

 マルコムが彼に気を遣って、部屋の外に手を引いた。


「…ここにいる。」

 包帯の男は席を立って、部屋の隅に向かった。


 本来ならよく見ないで場所が分かるなと感心するところだが、彼の様子や状況からそれどころではなかった。



 


 午前中にどうにか報告を終えて、昼前に王都を出られるようになってアレックスは安心していた。

 いや、安心はできない。


 数人の騎士を自分と先につれた。

 本当はそれだけでよかったのだが、何を不安がっているのか上がアレックスが離れるのを嫌がったため、その後市場を中心に騎士団を動かすように連絡体制を臨時で変えた。


 アランの顔を見てヒロキの容態は思わしくないことは容易に想像できた。

 さきほどフロレンス家から医者を派遣したという話を聞いたが、どうやらサンズが家の力を使って動くほどの事態だ。


 動いているメンツを見ると、団長のジンは精神的に動ける状態ではないのだろう。


 今頃リランとアランは目的地に着いているころだろう。


「行くぞ。」

 アレックスは数人の騎士に声をかけて馬を走らせた。

 騎士団ももうアレックスが団長になるという噂が広まっているのか、彼に対していつも以上に従順だった。


 精鋭は別物というがそれは本当だ。

 精鋭部隊が作られる前の体制では、アレックス、サンズ、ヒロキはそれぞれ部隊を持って隊長をやることになる。

 マルコム、ライガ、ミヤビ、アラン、リランは若いため副隊長までしか任せられないが、純粋に実力で言うとその形になる。


 ただ、ジンが騎士団全体での純粋な強さで人を集め、精鋭部隊を作り上げた。

 そこには騎士団の士気を王族であるジンに向けやすくするためや、強い騎士を王都に置くためという思惑があったのだろう。


「もう、思惑はいっぱいだ。」

 アレックスは思考の度々にどこかしこの思惑がよぎることに嫌気がさした。


 ジンが騎士団団長から逃げ出したいと思っていたのも理解できる。彼は若すぎた。

 若く強い王族の騎士が、王族の権威を保つための生命線だった。


 お宝様の一族と、王家を結ぶ…

 アレックスはかつて接した一族の人間を思い出した。

 会ったのは、数週間前のことだがずいぶん昔のことに思える。


「…戻りてえよ。」

 ジンには悪いが、彼が団長でヒロキが副団長、サンズと自分がライガを始めとした後輩の面倒を見る日々が恋しい。



ライガ:

主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと想い合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げる。彼女に求婚し晴れて結ばれる。父が前騎士団団長で行方不明。


ミラ:

ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっていた。ライガと思い合っており、彼と逃げる。晴れてライガと結ばれる。


ジン:

帝国騎士団団長。歴代最強と言われた前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどである。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。副団長のヒロキに精神的に依存している。団長から退く決意をする。


ヒロキ:

帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。女性顔負けの端麗な容姿故に飾り物と陰口を言われることが多い。ジンとは付き合いが長い。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。皇国の元大臣の息子。一族の失脚の際、ジンとライガの父に命を助けられた。


マルコム(マルコム・トリ・デ・ブロック):

精鋭部隊の一員。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目をしている。国境の貴族ブロック伯爵の息子。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で自分の力に自信を持っており誇っている。サンズに継ぐほどの力がある。普段は穏やかでわからないが、強いものを無条件で尊敬する反面、自分より弱い者に対してはその意識はかなり低い。ライガに激怒していたが、今は何か思うところがある様子。


リラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。兄。


アラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ヒロキが襲撃を受けたことを自分のせいだと責めている。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。弟。


サンズ(サンズ・デ・フロレンス):

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。王都の貴族で父が公爵だが階級意識が無い騎士団を好む。文学青年でロマンチスト。先輩のアレックスと親友。精鋭では数少ない戦場経験者。


ミヤビ:

精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに片思いをしていた。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れ、暴走しがちになっている。


アレックス

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任され、新団長として指名される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。また、派手な様子からは察せられないほどの苦労人。サンズ同様に戦場経験者。他の精鋭とは別に王都に残る。



アシ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。ライガの逃亡に協力的だが、真意が測れず怪しい。ヒロキに剣で追い詰められたことや、彼の様子から何か思うところが出てきた。


イシュ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。襲撃の際、ミヤビに肩を射抜かれたが、サンズ並みのガタイのお陰で深手にならず、弓も引ける様子。


シューラ:

隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。襲撃時、マルコムの攻撃を受けて肩と腰の筋を痛めた。彼の攻撃を真に受けたことにプライドが傷ついた様子。


モニエル・デ・ブロック(ブロック伯爵)

皇国との国境を統治する地方貴族。皇国の事情に詳しい。マルコムの父親。


コマチ:

ヒロキの母でヒロキそっくり。皇国前大臣の妻。傾国の美女と言われるほどの美貌を持っていた。ヒロキが見ているところで首を刎ねられ死亡する。現在も皇国の支配層に影響力があるらしい。


レイ・タイナー:

元帝国騎士団団長。ライガの父。ジンとの決闘に敗れ団長を退いたが、歴代最強と言われるほどの剣士だった。団長時代は敵国である皇国の大臣と交流を持つなど帝国の命令から反する行動をしていた。現在行方不明。



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