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宝物の彼女  作者: 近江 由
崩壊へ~結末その1~
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期待の空回り

 

 朝陽が出てくると前日のうちに用意した朝食を温めた。

 ミラも早起きして小川の水で顔を洗い、ポチも外で用を足している。


 ミラは興味深そうにポチを観察していたが、ポチの排泄したものの匂いに顔を顰めて戻ってきた。

「朝ごはんの前に何やってるんだよ。」

 ライガはミラの顔を見て思わず笑った。


「だって、ポチが気持ちよさそうにのびのびしていたから…何事かと思って。」

 ミラは口を尖らせて言った。


 二人で朝食を済まし、これも前日のうちに用意した荷物をポチに括り付け、ライガもミラも最低限の装備をした。

 ミラはライガに白い花の髪飾りを差し出した。


 ミラは期待するようにライガを見ていた。

 ライガも彼女の意図がわかり、頷いて、髪飾りを取り、ミラの髪につけた。


 二度目となると慣れたのか、今回はきっちりと固定できた。


 チリンチリン

 と可愛らしい鈴の音が響く。

「ありがとうライガ。」

 ミラは嬉しそうに髪飾りに手をそっと添えて笑った。


「これ、旅人同士の恋人への贈り物らしいよ。…離れないようにって。」

 ライガは髪飾りに添えたミラの手をそっと掴んだ。


「離れないよ。」

 ミラはライガを見て頷いた。


「俺もだ。」

 ライガも頷いた。


 二人は軽く唇を重ねて、ポチに乗り込んだ。


「行くぞ。ポチ。」

 ライガは少し不満そうな様子で鼻を鳴らすポチに言った。


「お願いね。ポチ。」

 ミラは優しくポチに言った。


 ブヒヒ

 ポチは嬉しそうに鼻を鳴らして歩き始めた。


「…納得できないな。」

 ライガはポチの手綱を握りながら呟いた。


 



 日が昇り、仮眠を取っていたアレックスは明るさに条件反射で起きた。


 流石にまだ団長室は使えない。何せまだ団長ではない。

 アレックスは気が重くなりながらも体を起こし、軽く身支度を整えて詰め所に向かった。


 いつもならサンズがいて、ヒロキも途中で来て、詰め所には顔を隠しているが怖い顔をしたジンがいて、しばらくするとマルコムとミヤビとライガがアランとリランを起こしてひと悶着がある。


 そんな日々を懐かしく思いながらアレックスは詰め所の扉を開いた。


「アレックスさん!!」

 詰め所にはアラン…?かリランがいた。


「…悪い。どっちだ?」

 アレックスは慌てて彼のつけている髪留めを見た。

 赤だ。


「リランか…追跡はどうだった?」

 アレックスは自身が追跡を命じたため、確かに彼は自分のところに戻るのが道理だなと考えていた。


「いえ。…それよりも、早くみんなに伝えないと。」

 リランはそわそわとしていた。


「他の精鋭は全員ライガの追跡だ。お前にも行ってもらうだろうな。」

 アレックスは目をこすりながら言った。


「アレックスさんは何で?」

 リランはアレックスだけ残っている様子に首を傾げていた。


「実は、次の団長になるように団長じきじきに指名された。王や大臣も知っていて、引継ぎもやっつけだが済ませている。」

 アレックスは本来なら胸を張るべきことなのに、疲労でそれどころじゃなかった。

 疲労で考えるならリランもそうだろう。彼は間違いなく走りっぱなしのはずだ。


「お前も休んだらすぐに出ろ。」

 アレックスはジンたちが向かったであろう方向とその近くにある騎士団の施設をいくつか伝えた。


「おめでとうございます。でも、妥当ですね。」

 リランはアレックスがいつか団長になると思っていたようだ。


「ありがとう。」

 アレックスは素直にリランの評価に礼を言った。


「それよりも、大変ですよ。早くみんなに伝えないと…」

 リランはそわそわしていた。


「どうした?」


「ライガは利用されていただけの可能性があるんですよ!!俺たちは皇国の奴らからライガとお宝様を守るのが一番で…」

 リランはマルコムの父から聞いた話をアレックスに話した。


「ブロック伯爵か…」

 アレックスはかつてあったマルコムの父を思い浮かべた。


「会ったことがあるんですね。」

 リランは少し安心したように言った。


「ああ。マルコムを役職に就かせるなと言われた。…その情報をお前に言ったのも、もしかしたらマルコムを落ち着かせるためかもしれないな…」

 アレックスは考え込むように俯いた。


「でも、雑談でしたから…」


「あの人は計算高い。お前に話すと必ずマルコムに情報が行くと思っているし、彼はマルコムを騎士から早く抜けさせたいはずだ。」

 アレックスの言葉にリランはしゅんとした。


「だが、ライガが利用されているのは本当だろうな。意図は別としてそれを踏まえて追跡する必要はあるな。」

 アレックスはリランを慰めるように言った。


「ですよね。ライガは…あいつ人がいいからきっと…唆されて」


「裏切りは彼の意志だと思う。」

 アレックスは断言した。


「…」

 リランはまたしゅんとした。


「とにかくありがとう。それを早く団長たちに…」

 アレックスが言いかけた時


 ドスン

 と詰め所の扉に何かがぶつかる音が響いた。


「「!?」」

 リランとアレックスは驚き、条件反射で剣に手をかけた。


 ギギギ

 扉がそっと開かれた。


 廊下からアランが流れ込むように飛び込んできた。


「アラン!?」

 アレックスは予想外の者に驚いた。だがアランはそんなアレックスたちの様子に構わず、二人を見つけると走り寄ってきた。


「おいおい!!大丈夫か?」

 リランはアランを落ち着かせるように言った。


「リラン早く来い!!マルコムが呼んでいるから…早く。」

 アランは息を切らせてリランの腕を引いた。


「おい!!お前も相当疲れた様子だろ。二人とも休んでから…」

 アレックスが落ち着かせようとしてアランの方に手をかけたが、それをアランは払った。


「「!?」」

 流石に彼の様子のおかしさにアレックスもリランも尋常でないと思った。


「どうした?追跡で何が?」

 リランがアランの肩を持って、目を見て訊いた。


 アランはリランの顔を見ると堰を切ったように涙をダーっと流した。


「俺のせいで…俺のせいで」

 嗚咽交じりにアランは必死に言葉を絞り出していた。


「落ち着けよ。どうした?」

 アレックスはアランの肩をそっと叩いて訊いた。今回は振り払われなかった。


「ヒロキさんが一人の時に…皇国の奴から襲撃を受けて、そして、ヒロキさん怪我をして…血がひどくて、目を覚まさなくて…」

 アランは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で必死に言葉を続けようとしていた。


「ヒロキさんが、死んじゃう…」

 アランはそう言うと、また泣き始めた。


 アレックスは一瞬絶望した顔をしたが、直ぐに首を振ってアランとリランの肩を叩いた。


「俺も行く。精鋭以外の騎士も連れて行く。皇国対策なら上も文句は言わない。」

 アレックスの言葉にアランは頷いた。


「だから、二人とも行くぞ。立て続けて悪いが、直ぐに出る用意をしろ。俺も直ぐに向かう。」

 アレックスは二人にそれだけ言うと急いで詰め所を出た。


 出て行ったアレックスを見送ってもアランは涙が止まらなかった。


「落ち着けよ。アラン。きっと、大丈夫だって。」

 リランは慰めるように言った。

 アランはその言葉に難しそうな顔をしたが、ゆっくり頷いた。


「だいたい、何でお前のせいなんだよ。悪いのは皇国の奴らだからな。」

 リランはアランの肩を叩いた。


「リラン…それだけじゃないんだ。」

 アランは意を決したようにリランを見た。


「え?」


「…馬で話す。お前疲れているだろ。俺と二人で乗ろう。」

 アランはリランの様子を見て言った。


 二人も詰め所を出て行った。



ライガ:

主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと想い合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げる。彼女に求婚し晴れて結ばれる。父が前騎士団団長で行方不明。


ミラ:

ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっていた。ライガと思い合っており、彼と逃げる。晴れてライガと結ばれる。


ジン:

帝国騎士団団長。歴代最強と言われた前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどである。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。副団長のヒロキに精神的に依存している。団長から退く決意をする。


ヒロキ:

帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。女性顔負けの端麗な容姿故に飾り物と陰口を言われることが多い。ジンとは付き合いが長い。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。皇国の元大臣の息子。一族の失脚の際、ジンとライガの父に命を助けられた。


マルコム(マルコム・トリ・デ・ブロック):

精鋭部隊の一員。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目をしている。国境の貴族ブロック伯爵の息子。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で自分の力に自信を持っており誇っている。サンズに継ぐほどの力がある。普段は穏やかでわからないが、強いものを無条件で尊敬する反面、自分より弱い者に対してはその意識はかなり低い。ライガに激怒していたが、今は何か思うところがある様子。


リラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。兄。


アラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ヒロキが襲撃を受けたことを自分のせいだと責めている。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。弟。


サンズ(サンズ・デ・フロレンス):

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。王都の貴族で父が公爵だが階級意識が無い騎士団を好む。文学青年でロマンチスト。先輩のアレックスと親友。精鋭では数少ない戦場経験者。


ミヤビ:

精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに片思いをしていた。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れ、暴走しがちになっている。


アレックス

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任され、新団長として指名される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。また、派手な様子からは察せられないほどの苦労人。サンズ同様に戦場経験者。他の精鋭とは別に王都に残る。



アシ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。ライガの逃亡に協力的だが、真意が測れず怪しい。ヒロキに剣で追い詰められたことや、彼の様子から何か思うところが出てきた。


イシュ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。襲撃の際、ミヤビに肩を射抜かれたが、サンズ並みのガタイのお陰で深手にならず、弓も引ける様子。


シューラ:

隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。襲撃時、マルコムの攻撃を受けて肩と腰の筋を痛めた。彼の攻撃を真に受けたことにプライドが傷ついた様子。


モニエル・デ・ブロック(ブロック伯爵)

皇国との国境を統治する地方貴族。皇国の事情に詳しい。マルコムの父親。


コマチ:

ヒロキの母でヒロキそっくり。皇国前大臣の妻。傾国の美女と言われるほどの美貌を持っていた。ヒロキが見ているところで首を刎ねられ死亡する。現在も皇国の支配層に影響力があるらしい。


レイ・タイナー:

元帝国騎士団団長。ライガの父。ジンとの決闘に敗れ団長を退いたが、歴代最強と言われるほどの剣士だった。団長時代は敵国である皇国の大臣と交流を持つなど帝国の命令から反する行動をしていた。現在行方不明。



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