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宝物の彼女  作者: 近江 由
崩壊へ~結末その1~
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地に伏して

 

 話している時間も惜しい、まさにそんな感じでジン、ミヤビ、アランは市場に向かった。

 ミヤビに案内された小屋の前には、目が据わったマルコムがいた。

 彼の表情から怒りが薄れたことに喜ぶべきなのだろうが、今の状況だと喜べない。


 ジンはマルコムに目をかけることなく小屋に入った。


 おそらく、夜に盛んになる商売に使われていた小屋なのだろうが、今は働いている女性も客もおらず、ただサンズと呼ばれた医者、そしてベッドには手当てをされても意識を取り戻さないヒロキがいた。


「…団長。申し訳ございません…」

 サンズはただジンに頭を下げた。

 ジンはサンズに目をかけることなくヒロキの元に駆け寄った。


「…ヒロキ」

 ジンはそっとヒロキの首に手を当てて生きているかを確認した。


「今は生きています。ですが、予断を許さない状況です。」

 呼ばれた医者は険しい顔をしていた。


 外にいたマルコムも中に入り、小屋の中にはジン、ヒロキ、サンズ、ミヤビ、医者、アランがいる状況になった。


「矢での出血もそうですが…わき腹の怪我が内臓近くまで達していました。今は…とにかく彼に頑張ってもらうしかないです。」

 医者は申し訳なさそうにしていた。


 ジンは医者の言葉が頭に入っているのかわからないが、ひたすらヒロキの髪を撫でていた。

 ミヤビもマルコムも顔は真っ青で、何かを責める気力もない状況だった。

 かろうじてサンズだけがどうにかしないといけないという様子で全員の顔を見ていた。


 アランはそんな状況に、もう限界だった。


 彼はジンの横に駆け寄り、その場で土下座をした。

「すみません!!団長…自分が…自分が…ヒロキさんを一人にしたのが悪かったんです!!」

 アランは額を地面につけてひたすら叫んだ。


「止めろ。アラン。悪いのは皇国のやつ…」

 サンズが慌ててアランを引っ張り立たせようとした。


「違うんです!!…その前に俺たちは皇国のやつから接触されたんです。そんなことがあったのに、俺は…」

 アランはサンズの手を払った。


「皇国の?」

 マルコムが眉を吊り上げて反応した。


「どういうことだ?」

 サンズはアランの肩を掴んだ。


「…皇国のやつは、ヒロキさんにあの、母親の話とか皇帝の話とかしていた。ヒロキさんにお前を逃がさないとか言って…なのに俺は…」

 アランはサンズの腕を払い、また地面に座った。


「…そうか。」

 ジンは驚いた様子も無く、ただ呟いた。


「俺が悪いんです。」

 アランは縋るようにジンを見ていた。


「…ヒロキは何か言っていたか?」

 ジンはヒロキの方から顔を逸らさずにアランに訊いた。


 アランは少し考え込んだが、頷いた。

「…今更皇国も何もないって、自分は団長と前団長に助けられた…と。」

 アランは真っすぐジンを見て言った。


 ジンはそれを聞いて、少し笑みを浮かべた。

「…馬鹿が。」

 声を震わせて呟くと、歯を食いしばった。


「アラン。医者たちを王都から呼んでくれ。俺の名を使ってくれて構わない。」

 サンズはアランの肩を叩いた。


「…わかりました。」

 アランは力強く頷いて言った。


「アラン。王都にリランが戻って来ていれば呼んで欲しい。」

 マルコムは何やら思いつめた表情をしていた。


「わかった。」

 アランは頷くとヒロキの方を見た。


 自分のせい

 という思いが消せなかった。事実そうだと思っていた。


 何も自分を責めないジンに、なおさらそんな思いが強くなる。


 アランは深く頭を下げると小屋から飛び出した。


 とにかく、早く王都の良い医者を呼ぶのが自分のできることだ。

 そう思い走り出そうとした。


 すると長いアランの髪が引っ張られた。


「あ…」

 アランは予想外のことにつんのめり、その場に尻もちをついた。

 だが、慌てて起きようとするとアランはその場に押し倒された。


 地面に頭が打ちつけられ一瞬意識が朦朧としたが、目の前の人物を見てそれどころでないことが分かった。


「ミヤビ…」

 アランは自分の上に馬乗りになるミヤビを見て、緊張で息を呑んだ。


 ミヤビはアランを何か探るように見下ろしていた。


「なんだよ。俺は王都に言って早く医者を…」

 アランがミヤビを押しのけて行こうとすると、彼女に頭を掴まれてまた地面に叩きつけられた。


「おい!!やめ…」

 アランはミヤビを振り払おうとするが、女性とはいえミヤビは精鋭の一員だ。そして、今は完全にアランが不利な体勢だ。


「皇国のやつらの話って、それだけじゃないでしょ?」

 ミヤビはアランを責めるように言った。


「え?」


「ライガのこともあったんでしょ?」

 ミヤビは目が据わっていた。


「お前、今は王都に行かないと…」


「言うまで放さない。私本気よ。」

 ミヤビはアランを押し付ける手を強めた。


 彼女の言葉通り、手を放すつもりは無いようだ。むしろ押し付ける手が強まり、地面に頭がめり込みそうだった。


「…偽の情報を流したってことだ。本当は違ったって…」

 アランは諦めて話した。


「それ以外は?」

 ミヤビは手を放す気配が無かった。

 これ以上は話されていない。しかし、彼等の滞在場所をアランは知っている。

 それを話せと言っているのだろうが、話すことはヒロキが望まないことだ。


「皇国のやつらはそれだけだ!!」

 アランは叫ぶとミヤビを振り払おうとした。


「なら何であんたは団長のところにいるの?ライガたちに関して何かわかったからじゃないの?」

 ミヤビは鋭くアランを見た。もちろん手も放してくれない。


 アランは仕方ないがミヤビを殴ろうかと思った。


 バキ


 ミヤビの顔に拳が入り、彼女は殴り飛ばされた。


「…え?」

 アランは目の前で起こったことにポカンとした。


 ミヤビはアランから離れ、顔を抑えて拳の主を睨みつけた。


「アランを早く王都に行かせなよ。弱い君のせいで彼が死んだらどうする?」

 マルコムは拳を握りミヤビを睨んだ。


「マルコム…」

 予想外の人物にアランは驚いたが、マルコムはアランを睨んだため喜べなかった。


「今は君が王都に行くべきだ。早くしろ。俺だって状況はわかる。」

 マルコムはアランの背中を押した。


 ミヤビはその様子を見て舌打ちをした。

「裏切りのせいなのに…」

 捨て台詞のように言うとミヤビは市場の方に消えて行った。


 アランはマルコムの方を見た。


「今は彼女がいた方が迷惑だ。勝手にさせればいい。」

 マルコムは冷たい目で言うとアランの肩を叩いた。

 彼はアランにも同じように冷たい目を向けていた。


 彼の本当の本性が分かったようでアランは少し怖いのと同時に寂しかったが、自分にはやることがあると思い、とにかく走り出した。


ライガ:

主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと想い合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げる。彼女に求婚し晴れて結ばれる。父が前騎士団団長で行方不明。


ミラ:

ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっていた。ライガと思い合っており、彼と逃げる。晴れてライガと結ばれる。


ジン:

帝国騎士団団長。歴代最強と言われた前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどである。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。団長から退く決意をする。


ヒロキ:

帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。ジンとは付き合いが長く、妖しい間柄。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。皇国の元大臣の息子。前団長に拾われた。ジンと共に騎士団から退く決意をする。


マルコム(マルコム・トリ・デ・ブロック):

精鋭部隊の一員。穏やかな青年。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目をしている。国境の貴族ブロック伯爵の息子。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で自分の力に自信を持っており誇っている。サンズに継ぐほどの力がある。普段は穏やかでわからないが、強いものを無条件で尊敬する反面、自分より弱い者に対してはその意識はかなり低い。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れている。


ミヤビ:

精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに何か想いがある。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れている。


アラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。弟。


サンズ:

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。貴族の出。精鋭では数少ない戦場経験者。ミヤビとマルコムを抑えるため行動を共にする。


アシ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。ライガの逃亡に協力的だが、真意が測れず怪しい。


イシュ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。襲撃の際、ミヤビに肩を射抜かれた。


シューラ:

隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。襲撃時、マルコムの攻撃を受けて肩と腰の筋を痛めた。


リラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。式典の乱入者の追跡を任される。兄。


アレックス

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任され、新団長として指名される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。サンズ同様に戦場経験者。他の精鋭とは別に王都に残る。


モニエル・デ・ブロック(ブロック伯爵)

皇国との国境を統治する地方貴族。皇国の事情に詳しい。マルコムの父親。


コマチ:

ヒロキの母。皇国前大臣の妻。傾国の美女と言われるほどの美貌を持っていた。ヒロキが見ているところで首を刎ねられ死亡する。現在も皇国の支配層に影響力があるらしい。


レイ・タイナー:

元帝国騎士団団長。ライガの父。ジンとの決闘に敗れ団長を退いたが、歴代最強と言われるほどの剣士だった。団長時代は敵国である皇国の大臣と交流を持つなど帝国の命令から反する行動をしていた。現在行方不明。


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