馬にひかれて
市場に行く途中でヒロキは馬を止めた。
「ヒロキさん…」
アランもヒロキと同じように馬を止めた。
「この辺で滞在できる場所って知っているか?」
ヒロキはアランに訊いた。
「それはちょっとわかりませんね。やっぱり、市場に行って聞き込むのが一番だと思います。」
アランは辺りを見渡して、自分があまり知らない地域であることを認識して言った。
「わかった。じゃあ、市場での聞き込みはサンズたちと合流して…」
「ヒロキさん。さっきのやつが言ったこと信じるんですね。」
アランはヒロキを見て言った。
「…そうだな。使える情報は使う。」
ヒロキはそう言うと馬を再び走らせ始めた。
市場に着くと。薄暗くなってきたため、近くの村の者が買い出しに来ていたり、夜の用事のために働きに出ている者でにぎわっていた。
「…サンズたちは…」
ヒロキは馬を市場から離れたところに繋ぎ見渡した。
「いませんね。どこかで聞き込みしているんでしょうか…それとも、さっき言った奴の違う情報を掴んだとか…」
アランはヒロキの様子を窺うように見た。
「とにかく聞きに行くぞ。聞き込み要項にサンズたちのことをも入れておこう。」
ヒロキはそう言うと歩き出した。
アランも彼に続いた。
数人聞き込んだが、やはりサンズたちは市場で聞き込みをしたことだけはわかった。
「あら可愛い。どう?」
夜の仕事の女性がアランを見て、誘惑をするように仕草で寄ってきた。
「いや、俺は聞き込みできているので…」
アランは、精鋭で一番若手であり、こういうときはいつもサンズやアレックスと一緒であったり、マルコムやライガもいたので、誘惑の被害に遭うことは滅多になかった。
「あなたも?今日は多いわね。」
女性はアランを見て頷づいた。
「今日は…どんな奴が?」
アランは少し恥ずかしいので女性と距離を取って訊いた。
「逞しい男の人と美人な女の子よ。二人とも騎士だって言っていたけど、あなたも騎士なの?確かに恰好は騎士だけど、若手?苦労しているの?慰めてあげようか?」
女性はアランが騎士見えない、というよりかはかなり下っ端に見えているようだ。
「いえ。それよりも…他に何か…」
アランは近くに滞在できる場所があるのか聞こうとした。
「そういえば、同業の子から聞いたけど、今日とんでもない暴力沙汰があったらしいのよ。若い男が私たちの仕事場に来て、お客さんをボコボコにしたって。それも何か聞き込みだったみたいだけど、騎士がそんなことするわけないものね。」
女性はアランに更に詰め寄り、指先で彼の頬をつついた。
「それどこだか教えてくれますか?」
アランはその話を聞いて、ある人物の顔がよぎった。
違うと思いたいが、たぶん思った通りだろうと確信していた。
女性から場所を聞き出し、次はヒロキを探そうと、辺りを見渡した。
姿が見当たらないから探すのに苦労するなと思ったのもつかの間、ヒロキはすぐに見つかった。
「君なら絶対に稼げる。どうだ?そんな物騒なもの振り回すよりもこっちで面白可笑しく過ごさないか?」
旅の商人数人に囲まれていた。
「いやあ。俺剣くらいしか取り柄が無いので、それよりも…聞きたいことが」
ヒロキは苦笑いをして聞き込みをしようとした。
「謙遜しないでくれ。君の容姿なら帝国だけでなくて異国でも稼げる。なあに、少し愛想よくしていれば女性が寄ってくるはずさ。」
ヒロキの聞き込みを妨害しているのか、商人たちは聞く耳を持たず勧誘していた。
「ヒロキさん!!」
アランは必要以上の大声でヒロキを呼んだ。
ヒロキは助かったという顔をしてアランを見た。
アランを見た商人たちはしぶしぶという形でヒロキから離れて行った。
「気が変わったらいつでも声をかけてくれ。」
去り際に数人がヒロキに声をかけていた。
ヒロキは収穫が無かったのか、申し訳なさそうにアランを見た。
「モテモテですね。いつものことですけど、商人には初めてですよね。」
アランは呆れながら言ったが、ヒロキは真剣に困った顔をしていた。
「誰も俺の剣を信じてくれないのは寂しいな。」
ヒロキは少し寂しそうに言っていた。
確かにジンも腕が立つことを認めているようではあったが、信じるよりも心配が勝っていた。
「自分が帝国騎士団副団長だと言えばいいじゃないですか?」
アランは呆れたように言った。
「それ逆効果だろ。外で俺が何て言われているのか知ってるだろ?」
ヒロキは少し悲しそうに言った。
騎士団内では定期的に手合わせを行うから、ヒロキの剣の腕がサンズやアレックスたちよりも上なのは騎士ならみんな知っている。
だが、外の一部では、剣の腕よりも目立つ彼の外見からお飾りだと陰口をたたく者が多い。
「腕が立つのは知っています。」
「ありがとな。それよりも、何か収穫があっただろ?」
ヒロキはアランの聞き込みの成果を急かした。
アランは女性から聞いたことを話し、その小屋に向かった。
小屋の前には困ったように女性が数人座り込んでいた。
「あの、どうしました?」
アランは女性に話しかけた。
「何?騎士?もうやめてよね!!仕事は出来ないし、変な噂は立つから最悪!!」
女性はアランの鎧を見て、掴みかかる勢いで怒った。
「おい!!待て待て…何があった?」
女性とアランの間にヒロキが入った。
女性はヒロキを見て、直ぐに身を引いた。
「…教えてくれるか?」
ヒロキは女性の肩を叩いて、優しく訊いた。
「…一人の男の子が客をボコボコにして、まるで拷問のようにして尋問したのよ。帝国騎士って言っていたけど、あれは裏の世界の人よきっと。だって、あんなに容赦ないのは見たことないもの。仲間も来たけど、いなくなったわ。もう市場にいないんじゃない?」
女性は投げやりだが、怒りを滲ませて言った。
「…アランの思った通りだな。」
ヒロキは困ったように首をひねった。
「ヒロキさん。俺たちは市場でまだ聞いていないことがあります。」
アランはマルコムたちを追う気にはなれず、どちらかというと先ほど絡んできた乱入者の言った情報に気持ちが傾いていた。
「そうだな。」
ヒロキも同じようだった。
「とにかく、近くに滞在できる場所が無いか、聞きましょう。」
アランは、市場に聞き込みに戻ろうとした。
「待て、俺たちが聞き込むよりも頼りになるやつがいる…」
ヒロキは何か思いついたのか、元来た道を戻り始めた。
ライガとミラは向かい合っていた。
家の中では、かまどに火を入れて、それだけを明かりとして使った。
あとは日の光と月明かりだけだ。
かまどの上では今日の晩御飯がぐつぐつと言っている。
今日は市場で買った食材でも保存食にすぐにできない物とミラが摘んできた毒のない食べられる草だ。
「そのアシと言う人の言うことが本当だとしても、直ぐに出るのはよくないと思う。」
ミラは用心深そうに人差し指を立てて言った。
「そうだな。…下手に動いた方が居場所を特定される。…でも、明日には出た方がいい。明るい内に出た方が、市場を行きかう人たちに紛れて。」
ライガの言葉にミラは頷いた。
「大丈夫。私はいつでも…でも、お手洗い中とかはダメだけどね。」
ミラは困ったような顔で言った。
「それは俺もだから。」
ライガは笑顔で言った。
ミラとの日常的な会話で軽口を交えられるようになって、とにかく変化も全てが幸せだった。
「さて、出来た。食べよう。」
ライガはかまどの上の鍋を見て言った。
「じゃあ、私が毒見だね。」
「逆だよ。俺が毒見をして、ミラは最終確認。」
ライガは鍋を下ろして、床に置いた。
「私たち毒見しかしてないよ。それ。」
ミラは可笑しそうに笑った。
ライガは下品だが、お椀が無いため、二人で鍋からつつくように食べることにした。
ミラも周りを見てそれに従った。
今まで王城内で不自由なく暮らしていたミラには申し訳ないが、いつか、王城のようではなくても普通に生活させられるようにしようと思った。
正直、鍋の味はすごくおいしいものではない。ただ、体に必要な栄養とはわかる。
空腹だった二人は直ぐ平らげた。
小屋の中に入れた、ミラがポチと名付けた馬も食事を終えたのかブルブルと言い始めた。
「あ、ポチ、もしかして…」
ミラはポチの変化に気付いて、駆け寄った。
「どうしたの?」
ライガもポチに駆け寄った。
なにやら、とても食後に嗅ぎたくない匂いが漂った。
「…トイレだって。」
ミラは鼻をつまんで言った。
ライガも鼻をつまんだ。
「俺がそれ外に出すから、ミラはポチを一回外に出して。」
ライガは汚れてもいい錆びたスコップを持って、ミラに指示をした。ミラは頷いて外に馬を連れて行った。
ライガは急いでポチの粗相したものをスコップで掬い外に出た。
「少し臭うから、遠くに持って行こう。」
ライガは小屋の中に直接入る臭いに顔を顰めた。
ミラも頷いて、二人で小屋から離れた。
小屋から離れ、道沿い近くにポチの粗相を置いた。
これなら旅の途中でもよおしたと思う。
疑われないと思い、ミラと頷き合った。
周りも暗くなり、明かりもつけずにライガとミラは小屋に戻ろうとした。
ある程度行ったところで、ポチがブルブル言い始めた。
「また?」
ミラは少し呆れた声を上げたが、何やら様子がおかしい。
周りを見てクワクワと表情を変えていた。
ザクザク
自分達の足音だけかと思ったが、別の足音もあった。
ライガは剣に手をかけて、音の元を警戒して見た。
ライガたちが動きを止めると音も止んだ。
「…アシか?」
ライガは心当たりのある名前を挙げた。
ザッ
足音が動いた。
ブルブル
どうやら向こうも馬をつれているようで、鼻を鳴らす音が聞こえた。
「…アシ、ではないけど…」
聞き覚えのある声が響いた。
ライガは険しい顔をして、剣を持った。
「…本当にいたんだな。」
声の主は、ライガたちの前に現れた。
馬一匹と二人の騎士。
「…アラン。ヒロキさん…」
ライガは、対面するかつての仲間を呼んだ。
ライガ:
主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと想い合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げる。彼女に求婚し晴れて結ばれる。父が前騎士団団長で行方不明。
ミラ:
ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっていた。ライガと思い合っており、彼と逃げる。晴れてライガと結ばれる。
ジン:
帝国騎士団団長。歴代最強と言われた前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどである。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。団長から退く決意をする。
ヒロキ:
帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。全体的に細長い印象のある顔の造りをしている。ジンとは付き合いが長く、妖しい間柄。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。皇国の元大臣の息子。前団長に拾われた。ジンと共に騎士団から退く決意をする。
マルコム:
精鋭部隊の一員。穏やかな青年。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目をしている。国境の貴族ブロック伯爵の息子。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で自分の力に自信を持っており誇っている。サンズに継ぐほどの力がある。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れている。
ミヤビ:
精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに何か想いがある。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れている。
アラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。ライガの裏切りにそこまで怒っておらず、少しだけ好意的。弟。
サンズ:
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。貴族の出。精鋭では数少ない戦場経験者。ミヤビとマルコムを抑えるため行動を共にする。
アシ:
隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。ライガの逃亡に協力的だが、真意が測れず怪しい。
イシュ:
隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。襲撃の際、ミヤビに肩を射抜かれた。
シューラ:
隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。襲撃時、マルコムの攻撃を受けて肩と腰の筋を痛めた。
リラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。式典の乱入者の追跡を任される。兄。
アレックス
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任され、新団長として指名される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。サンズ同様に戦場経験者。他の精鋭とは別に王都に残る。
モニエル・デ・ブロック(ブロック伯爵)
皇国との国境を統治する地方貴族。皇国の事情に詳しい。マルコムの父親。
コマチ:
ヒロキの母。皇国前大臣の妻。傾国の美女と言われるほどの美貌を持っていた。ヒロキが見ているところで首を刎ねられ死亡する。現在も皇国の支配層に影響力があるらしい。
レイ・タイナー:
元帝国騎士団団長。ライガの父。ジンとの決闘に敗れ団長を退いたが、歴代最強と言われるほどの剣士だった。団長時代は敵国である皇国の大臣と交流を持つなど帝国の命令から反する行動をしていた。現在行方不明。




