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宝物の彼女  作者: 近江 由
逃避へ~結末その1~
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捨てられたもの


 心配だったミラの着替えは、小屋に置いてあった母が着ていたものを洗えばどうにかなった。

 最低限の着替えと保存食を作り、道具を揃えていた。

 ミラは外で馬に餌を上げている。


 彼女の前では深く考えられなかった追手のことを考えた。


 ライガを追うのなら、精鋭でないと敵わないとはわかるはずだ。


 全員の手の内は見えているとはいえ、向こうもそれは同じであるから厄介なことには変わらない。


 純粋に一対一ならアラン、リラン、ミヤビには勝てると確信している。

 ただ、向こうは数名で追ってくる。


 もし、戦う場合になったら、どうにかして一対一に持ち込む必要がある。


 逆に勝てるかわからないのはサンズ、アレックス、マルコム、ヒロキ、ジンだ。

 極力戦わない方法を取れればいいが、アシはかなり怒っていると言っていた。


 式典用とはいえ、剣だけは実用性のあるものを支給されたのが幸いだった。


「…できれば戦いたくない。」

 当然だが全員が全員帝国屈指の騎士である。


「ライガ。ポチ、ご飯美味しそうに食べていたよ。」

 餌やりを終えたミラが、足を弾ませて入って来ていた。


「わ!!」

 ライガは飛び上がった。

 考え事に集中していたせいか、全く気付かなかった。


 ライガがミラのことをよくわかるだけでなく、ミラもまたライガのことが分かるようで、鑑目を使って問い詰めなくても変化は気付いたようだ。


「ライガ?どうしたの?」

 ミラは眉を寄せてライガに詰め寄った。


 ただし、質問されたらもう負けで、ライガは全て白状するしかなかった。


 ライガは悩んでいたことをや戦いたくないこと、だが、ミラと離れるのはもっと嫌なことを全て話した。


 ミラは険しい顔をして聞いてくれた。


「やっぱり、わたしよりもライガの方が捨てるものが多かったものね。…私もライガと離れるのはもう嫌。」

 ミラは悲しそうだが力強く言った。


 昨日まで外の世界を知らなかったか弱い少女が、一日でここまで逞しい表情を出来るようになるのだと思うと、ライガは胸が締め付けられる思いになった。


「私…我儘になったの。だって、この前はライガが一緒に逃げてくれると言っただけで嫁ぐことを我慢できるほど幸せだった。」

 ミラはライガから目を逸らして、申し訳なさそうに言った。


 彼女が思っている通り、ミラの言ったことはライガにとっては怒るに値することだった。

「…どういうこと?」

 ライガは冷静に問い詰めようと思いながらも声は震えた。


「私は、ライガの思い出だけでもいいと思っていたの。逃げるのも夢見た。今は本当に夢みたいで…幸せで…」

 ミラはやはりライガを怒らせていると自覚しているのか、俯きライガの様子を窺いながら言った。


「…ライガには苦しんでほしくなかった。私のせいで…」

 ミラは口元を震わせて言った。


「俺は言わなかったか?…ミラと一緒にいれない方が苦しいって、君をあのくそ王子に渡すことは耐えられないって!!」

 思った以上に声を荒げたことにライガは驚いたが、今はそんなことを気にしている場合じゃなかった。


「くそ王子は聞かなかったけど、確かに言ってくれた!!それだけでも幸せだった。」

 ミラもライガ同様に声を荒げた。彼女も自分の声が思った以上に大きいことに驚いていた。


「じゃあ、何で!?」

 ライガは厳しく問い詰めるように言った。


「私は知らなったから!!」

 ミラは大きく首を振って、叫んだ。


「知らなかった?」

 彼女の叫びにライガは思わず声の勢いを緩めた。


「そう…外の世界のことも…」

 ミラは俯いていた状態からゆっくりと顔を上げてライガを見た。


 ライガはミラの顔を見て息を呑んだ。


「…こんなに幸せなこと…」

 ミラは涙で目を滲ませながらも、すごく優しそうに微笑んでいた。


「それは…俺も…」

 ライガは首を振って優しく言った。


「幸せだけど、ライガとは違うの…私、すごく我儘になったの。」

 ミラは首を振った。


「私、ライガのことを考えていたのに、今…自分のことしか考えていない。」

 ミラはライガから目を逸らし、俯いて言った。


「自分のこと…」


「そう、私、自分がライガと一緒にいたいって、すごくすごく思うの。そして、ライガがどう思おうが、私はあなたから離れたくない。…それって、すごく我儘で…」

 ミラが言い終わる前にライガはミラを抱き寄せ、強く抱きしめた。


「俺と同じだ。…俺もそうだ。」

 ライガはミラに何度も頷いた。


「ライガは私に優しい。ずっと私のために…」


「違う。俺はミラと一緒にいるために、自分のために君に優しくしているんだ。」


「…ライガ。幻滅しないで聞いて欲しいの。」

 ミラはライガの胸に顔をうずめた。


「何?」

 ライガはそっとミラの肩を掴み、彼女の顔を上げさせた。


「…私、ライガと一緒にいるためなら…どこまでも逃げられる。私もどんな手段を使っても構わない。…覚悟はできている。」

 ミラはライガの目を真っすぐ見て言った。


「ミラ…実は、俺もだ。」

 ライガもミラの目を真っすぐ見て言った。


「俺は、戦いたくないけど…戦う覚悟はできているんだ。」

 ライガは低い声で言った。




 

 王都近くの詰め所に着くと、飛び込むようにミヤビとマルコムは駐在騎士たちの元に向かった。

 その様子を見ていたサンズは慌てて二人と騎士たちの間に入った。


 ずっと前を走っていたアランはげっそりとしていた。

 深刻な事態だが、精神を思った以上に摩耗した彼は弱った表情をジンとヒロキに向けていた。


 ジンはそれを察したのかアランの元に歩いた。

「安心しろ。アラン。お前はこれからヒロキと行動してもらう。」

 ジンは安心させるように言った。


 アランも安心したような顔をして頷いた。

「…いつもあの二人のこと好きですし、組むのも悪くないんですけど…」

 アランはミヤビとマルコムを見て言った。


「ああ。わかる。ずっと怒っているミヤビも怖いし、普段の表情は穏やかになったが、行動をするときに豹変するマルコムも怖い。」

 ヒロキも頷きながら言った。


「…はい。」

 アランは同意するように頷いた。




 全員が詰め所に入り、騎士たちに聞き込みを開始しようとしたとき、詰め所に旅人が入ってきた。


「ちょっと!騎士さん!!」

 旅人は何やら息を切らしていた。


 その様子に駐在の騎士たちはミヤビとマルコムを抑えて聞き込みをしていたサンズに申し訳なさそうに頭を下げて旅人の元に向かった。


 案の定、ミヤビとマルコムは険しい顔をした。


 その様子が分からない旅人は急かすように騎士を呼び続けた。


「すみません。お待たせしました。」

 騎士はどちらかにかわからないが申し訳なさそうにしながら旅人の前について、話を聞く体勢を整えた。


「いやね、俺は別の泥棒じゃないんだ。まずは、それを聞いて欲しいんだ。これはわからずに買ってしまっただけで…」

 旅人は何やら弁明し始めた。


「一体なにが?」

 今度は騎士が急かした。


「これね…市場で買ったんだけど…盗品だったんだ!!」

 旅人は持っていた荷物の中から何かを取り出した。


 それを見た瞬間、駐在の騎士ではなく精鋭部隊が顔色を変えた。


「これは…」

 駐在の騎士も見覚えがあるようで、旅人が取り出したものを見て唸った。


 旅人が取り出したのは、王家の紋章が入った豪華な鎧だった。

 きらびやかな装飾は動きにくそうだが、値が張るのは見てわかる。


「これ、俺は盗んでいませんからね!?気付かずに買ってしまって…」

 旅人は更に弁明を続けた。


 マルコムやミヤビが飛びつく前に、素早くヒロキが旅人に詰め寄った。

「なあ、それどこで買った?」

 ヒロキは手を後ろにまわし、制止するようなジェスチャーをした。


「えっと、向こうの市場です。あの、東に行くとあるんですけど…」

 旅人は思ったよりも問い詰められなかったのか安心したように話し始めた。


「市場か…たしかに、物を揃えるならそこに向かうべきだな。」

 ジンは納得したように頷いた。


「ちなみに、どんな奴が売っていた?」

 ヒロキは気を遣うように旅人に訊いた。


「ああ。あいつは有名なコソ泥だからすぐわかった。ただ、掘り出し物をよく売っているから、俺たちも無礙にせずに利用しているんだ。もちろん盗品かは本人に確認する。今回もあいつは拾ったって言っていたから…」

 旅人は弁明を交えながら言った。


「…そいつのところに行くのが一番だね。」

 マルコムは呟くと外に出て行こうとした。


「待てマルコム。」

 サンズが慌てて彼の前に立ちはだかった。


「何ですか?」


「単独行動はダメだ。お前とミヤビは俺と行動する。」

 サンズは横から出て行こうとしたミヤビを見て言った。


 ミヤビは苦い顔をして立ち止まった。


「怒る気持ちはわかるし、怒るなとは言わない。」

 サンズは二人を見て言った。


 ミヤビは変わらず険しく、マルコムは穏やかな顔でサンズを見た。


「冷静になれとは言わないし、腹が立ってそれどころでないのはわかっている。だから、俺は冷静になってお前らが効率よく動くために動く。それを踏まえて、俺の後ろに付け。」

 サンズは冷静な口調でありながらも有無をいわせない様子で言った。


 彼の威圧感と自分たちの視野が狭いと自覚があったか、二人はしぶしぶといった様子でサンズの後ろに付いた。


「団長。俺たちは市場に行きます。」

 サンズはジンに報告するように言った。


「わかった。こっちは…」

 ジンはヒロキとアランを見た。


「俺とアランが後で追う。それまで下手に追うなよ。」

 ヒロキはジンが向いたことを無視してサンズに言った。


「わかりました。」

 サンズは返事をして、後ろについたマルコムとミヤビに急かされるように出て行った。



ライガ:

主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと想い合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げる。彼女に求婚し晴れて結ばれる。父が前騎士団団長で行方不明。


ミラ:

ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっていた。ライガと思い合っており、彼と逃げる。晴れてライガと結ばれる。


ジン:

帝国騎士団団長。前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。精鋭部隊の隊長でもある。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどであり、酒場の喧嘩も強い。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。団長から退く決意をする。


ヒロキ:

帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。全体的に細長い印象のある顔の造りをしている。ジンが気を許している数少ない人物。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。皇国の元大臣の息子。前団長に拾われた。ジンと共に騎士団から退く決意をする。


マルコム:

精鋭部隊の一員。穏やかな青年。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目をしている。国境の貴族ブロック伯爵の息子。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で自分の力に自信を持っており誇っている。サンズに継ぐほどの力がある。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れている。


ミヤビ:

精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに何か想いがある。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れている。


アラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。弟。


リラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。式典の乱入者の追跡を任される。兄。


サンズ:

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。貴族の出。精鋭では数少ない戦場経験者。


アレックス

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任され、新団長として指名される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。サンズ同様に戦場経験者。


アシ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。


イシュ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。襲撃の際、ミヤビに肩を射抜かれた。


シューラ:

隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。襲撃時、マルコムの攻撃を受けて肩と腰の筋を痛めた。


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