追う者と追われる者
日に当たった洗濯物は直ぐに乾いた。
干し肉は日持ちがしそうだからまとめて持ち運べるようにした。
乾いた服を嬉しそうに着て、手を泥だらけにしたミラが楽しそうに草を抜いていた。
どうやらミラは本で見た薬草の知識を活用して薬になりそうなものを摘んでいるようだ。
場所を取らないように洗って干して、持ち運べるようにした。
食材も同じくだ。
「ライガ。やっぱりここからも更に逃げるの?」
ミラは不安そうにライガに訊いた。
「ああ。…遠くに言ったような話を少ししたから、大丈夫だと思う…今日明日はいるつもりだけど、俺は騎士団を知っている。いつかは必ず見つかる。」
ライガは不安そうなミラを落ち着かせるように髪を撫でた。
彼女の髪は、手と同じように泥だらけだった。
「ミラ。はしゃぎすぎ。」
ライガは溜息をついて濡れた布で彼女の髪を拭いた。
「違うって。飛び散るの。草を引っこ抜くとね。」
ミラは身振り手振りで説明してくれた。
王城での贅沢な暮らしをしていた彼女であったから、不便な暮らしに嫌な顔をするのか心配だったが、彼女は汚れるのが結構苦にならないようだ。何よりも好奇心旺盛なため何を見ても楽しそうだった。
「…追ってくるのかな。やっぱり。」
ミラはやはり不安げだった。
「だとしても、俺はミラと一緒にいる。」
そうだ。
この大切な時間を得るために、自分のためにライガはミラを国から奪った。
ミラが自分を愛してくれているのもあるが、やはりライガは自分がミラと居たいからという気持ちが一番だった。
「それに、俺たちはもう、夫婦だから。」
ライガは、まだ泥だらけでも構わずミラの頭に顔を摺り寄せた。
「そうだよね。…私たちは…」
ミラは嬉しそうに頬を赤らめてライガにくっついた。
そうだ。
決して逃げたことは後悔しない。
ミラとのこの時間を得られただけでも、いつ死んでもいいほど幸せなのだから。
ただ、一つ得ると、またさらにもう一つ、そしてもっと、もっと欲しくなる。
死んでもいいほど幸せな時間と分かっていながらも、彼女との時間をもっと得たい、ずっと一緒にいたい。
そのためなら手段を選ばない。
裏切るだけでなく、邪魔をするなら剣を奮うことも厭わない。
ミラを腕の中に包み、ライガは静かに決心した。
欲が深くなると同時に、取る手段もどんどん広がっていった。
やっと馬が確保できたのは、正午前になった。
割り当てられた馬をそれぞれが整備しながら、ライガの追跡を任された精鋭部隊は深刻な表情をしていた。
「…まずは、一日で動ける範囲で聞き込みをする。」
ジンは辺りを向きまわって何かを考えているようだった。
ミヤビは地図を広げ厳しい顔つきで考えていた。
アランは何かを思いついたように手を挙げた。
「あ…あの!!」
手を挙げたアランに視線が集まった。
いつもなら臆することなく発言するアランだが、この状況だと流石に委縮した。
「どうした?アラン。」
周りの者達よりも張りつめた空気のないヒロキが柔らかい笑みでアランに訊いた。
「…もし、もし俺が逃げるなら…あの式典用の鎧は絶対に脱ぎます。」
アランは断言した。
「…そうだね。俺も動きづらかった。どこかに捨てられているか…誰か拾っているかもしれない。この前の詰め所に行くのはどうですか?」
マルコムは意外なほど穏やかに言った。
「それがいいな。…先頭はアラン。それであれは順番は気にしない。行くぞ。」
ジンはアランの肩を叩いた。
どうやら一番冷静に物事を見られるアランを先頭にすることでマルコムとミヤビの暴走を抑えようと思っているようだ。
サンズとヒロキは納得したように頷いたが、案の定、ミヤビとマルコムは不満げだった。
「忘れるな。向こうはお宝様とライガ。俺たちは全員騎士だ。移動する速さはこっちの方が上だ。」
ジンはマルコムとミヤビを見て言った。
ミヤビは表情を歪めながら頷いた。
マルコムは普段通りの笑顔で頷いた。
全員が馬に乗り込み、アランが先頭についた。
「では、行きますよ。」
というとアランは馬を走らせ始めた。
最初は等間隔であったが、そのうちアランが先頭ではあるがミヤビとその後ろにマルコムが煽るようにくっついた。
いつもは軽口を叩くアランも今回は表情が引きつっていた。
それなりに距離を置いてサンズ、ヒロキ、ジンが走っていた。
「おい、サンズ。」
ジンはサンズの横に付いて、彼を呼んだ。
「はい。なんですか?」
サンズは馬の速度を若干落として、ジンの声が聞きやすい位置にまで寄った。
「聞き込みの時にお前はマルコムとミヤビについていろ。あの二人から目を離すな。アランだと役不足だ。」
ジンは前を走る三人を顎で指して言った。
「そうですね。」
サンズは困ったようにため息をついて頷いた。
マルコムとミヤビの煽りがひどくなったので、サンズは溜息をつきながら馬を前に進めて前の三人の近くについた。
「…まったく危険だな。」
ジンの横にヒロキが付いて、困ったようにため息をついていた。
「ああ。お前はアランと聞き込みをしろ。絶対に単独行動をするな。」
ジンは横に付いたヒロキに念を押すように言った。
「わかっていますよ。」
ヒロキは手をひらひらとさせて頷いた。
「わかればいい。…しかし」
ジンは前の四人を少し不安そうに見ていた。
「…思った以上に怒っている展開で驚いているんですか?」
「ああ。…ライガには見つからない場所まで逃げてもらった方がいいかもしれない。」
ジンは困ったように言った。
ヒロキはそのジンの様子を見て面白そうに笑った。
「何がおかしい?」
「いや、やっぱりあんたはライガに甘い。」
ヒロキは前の四人に聞こえないように声を潜めて言った。
「…ちがう。…ただの、罪悪感だ。」
ジンは静かに首を振って否定をした。
ライガ:
主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと想い合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げる。彼女に求婚し晴れて結ばれる。父が前騎士団団長で行方不明。
ミラ:
ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっていた。ライガと思い合っており、彼と逃げる。晴れてライガと結ばれる。
ジン:
帝国騎士団団長。前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。精鋭部隊の隊長でもある。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどであり、酒場の喧嘩も強い。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。団長から退く決意をする。
ヒロキ:
帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。全体的に細長い印象のある顔の造りをしている。ジンが気を許している数少ない人物。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。皇国の元大臣の息子。前団長に拾われた。ジンと共に騎士団から退く決意をする。
マルコム:
精鋭部隊の一員。穏やかな青年。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目をしている。国境の貴族ブロック伯爵の息子。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で自分の力に自信を持っており誇っている。サンズに継ぐほどの力がある。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れている。
ミヤビ:
精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに何か想いがある。ライガの裏切りに激怒し、非常に荒れている。
アラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。弟。
リラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。式典の乱入者の追跡を任される。兄。
サンズ:
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。貴族の出。精鋭では数少ない戦場経験者。
アレックス
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任され、新団長として指名される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。サンズ同様に戦場経験者。
アシ:
隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。
イシュ:
隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。襲撃の際、ミヤビに肩を射抜かれた。
シューラ:
隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。襲撃時、マルコムの攻撃を受けて肩と腰の筋を痛めた。




