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宝物の彼女  作者: 近江 由
逃避へ~結末その1~
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明けない謎

 

 アレックスへの引継ぎのために、ジンとアレックスとヒロキは団長室に向かっていた。

 三人は宿舎の階段を上っていた。


「とうとう、全て捨てるんですね。」

 ヒロキは歩みを止めてジンを見た。


 ジンもヒロキと同じように歩みを止めた。アレックスも二人と同じように歩みを止めた。


「ああ。アレックスに丸投げになるが、今回のことを俺の最後の仕事とさせてもらう。」

 ジンは口元に笑みを浮かべていた。


 アレックスはジンを見た。


「いい人選ですな。アレックス、サンズは本来なら俺のポジションにくる人材だ。」

 ヒロキは納得したように頷いた。


 アレックスはヒロキを見た。


「ただ、マルコムとミヤビを落ち着かせるためには、ライガをどうにかしないといけない。」

 ジンは困ったように溜息をついた。


 アレックスはジンを見た。


「俺たちが立ち会いで会わせたらいいんじゃないですか?…今のままよりかはあの二人の状況を見てもらったほうが分かりやすいですからね。くっさい茶番でしたっけ?」


 アレックスはヒロキを見た。


「くさいは言っていないが、そうだな。皇国の衆についてもライガに聞かないといけない。」

 ジンは頷き考え込むように俯いた。


 アレックスはジンを見た。


「俺が先に単独でライガたちに会います。」

 ヒロキは手を挙げて提案するように言った。


 アレックスはヒロキを見た。


「危険だ。外は王都の中と違う。ゴロツキが沢山いる。」

 ジンは首を振った。


 アレックスはジンを二度見した。


「あんたが思うほど俺は弱くないです。だいたい俺は騎士ですから。」

 ヒロキは何でもないことのように言った。


「お前は傍に置くために副団長にしただけだと言っているだろ。だめだ。」

 ジンは頑なに首を振った。


 アレックスはジンをガン見した。


「俺は、お宝様の彼女の気持ちがよくわかる。ライガは知らないですけど、彼女はきっと話を聞いてくれます。」

 ヒロキはライガの名は投げやりにいったが、お宝様と言うときは敬意を表すような丁寧な口調だった。


 ジンは納得していない様子だった。


「外の世界を初めて見た時は感動した。手を引いてもらった身にしかわからないこともある。…立場は結構違うけど、命がけで逃げたことと全て捨てたのは同じだ。」

 ヒロキは遠くを見るように目を細めた。


「…そう言われると、俺が弱いと知っていて言っているな。」


「もちろんです。俺は彼女と話してみたい。」

 ヒロキはジンを見て言った。


「お前と話していると、この包帯が疎ましく思うことが多い。…今のお前の顔は、さぞ美し…。」

「あの!!」

 耐え切れなくなったアレックスがジンの言葉を止めた。


「あの、早く引継ぎしましょう。」

 アレックスはそう言うと一人だけ早足で階段を上がり始めた。


 


 皇国の国境に向かう道の途中にあった騎士団詰め所にリランは転がり込んだ。

 長時間馬を走らせたうえに日が暮れて影を見失いつつあった。

 だが、向こうも長時間は走れないはずだ。


 人も馬も限界だろうと見通して、リランは休憩と情報収集に移った。


「団長直下部隊のリランだ。…式典に乱入した賊を追っている。」

 詰め所には数人の騎士と旅人がいた。


「…悪いけど、馬の寝床と餌、俺の装備を整えるのを頼めないか?」

 リランと長時間走ってもらった馬は互いに崩れ落ちそうになりながら詰め所の騎士たちを見た。


 リランの所属を聞いたのと、おそらく噂もあるのだろう。


「は…はい!!」

 騎士たちは姿勢を正してリランに礼をした。


「…悪いけど、こいつを丁寧に扱ってくれ。…本業は馬車なのに無茶させちゃったから。」

 リランはリランと同じような顔をしている馬車屋から借りた馬を見て言った。


「はい。」

 馬に慣れているような騎士が、気を遣うように手綱をひいて馬をつれてってくれた。


「馬はいる?別の馬を借りて捜索する。あの馬は俺が戻るときに使う。だからそれまでしっかり休ませておいて。」

 リランは長時間を共にした馬に愛着と心配があるのか念を押すように言った。


「はい。」

 騎士たちはリランを労うように彼が休める準備を進めていた。


 いつもなら申し訳なくて一緒に動いたりするのだが、アランが一緒にいないことと心身ともに疲れていた。


 通された部屋には一通りの物が揃っていた。

 慣れない鎧を脱いで、水に浸した布で体を拭った。


 鎧を脱げたことで体はとても解放されたのか、力が抜けていく気がしていた。

 動くことを考えていない装飾まみれの鎧は、長時間馬に乗っていたリランの足を痛めていた。

 足の関節や、馬に接していた部分が軒並み赤くなっており、水がいたく沁みる。


 大体体を拭き終わると、近くにあった適当な服を着た。


 部屋の寝床に腰を掛けると、そこから沈み込むのではないかと思うほど動きたくなくなった。


 身体も、心も、頭もだ。


 だが、今は頭を働かせる時間だった。

 リランは一息つくと立ち上がって、他の騎士たちがいるところに向かった。


 リランの顔を見ると騎士たちは姿勢を正した。


 帝国騎士団でも団長直下部隊の精鋭は全然次元が違うのだ。


「悪いけど、情報収集に来たんだ。」

 リランは騎士たちの日誌が無いか尋ね、不審なものを見たなどの報告は無いかを確認した。


 結果は無かったが、皇国方面からの流れ者が全体的に増えつつあるという話があった。


「やっぱり、あいつらは皇国の奴らで間違いないな。」

 リランは自分とアランを退けた白い髪の男を思い出した。


 剣ではなく刀だったが、少しヒロキと戦い方が似ていた。


「…気のせいか。」

 リランは首を振って、皇国の暗殺者のことだけ考えようとした。


 だが、いやでも正面から馬に乗って突進してきた仲間は頭をよぎる。


 彼の腕の中には、精鋭が守り続けていたお宝様がいた。


「…せめて相談でもしてくれよな。」

 リランは憎悪ではなく、少し寂しさをにじませた憎まれ口を言った。


「マルコムとミヤビ…大丈夫かな?」

 ライガが裏切ったことにより傷つくであろう仲間を想った。



 


 父の顔が浮かんだ。

 帝国騎士団の鎧を身に纏い、白髪が混じってきた元栗色の髪と広がった額、眉間に寄った皺と太い眉。


「お宝様をお守りするのだぞ。」

 父は毎日言っていた。


 そうだ、長い間父が帰らなかったときがあった。


 俺が10歳くらいのときだった。


「一族は、帝国にいない方がいいのかもしれない。」

 父が母に話していた。


 母は悲しそうな顔をしていた。


「悲劇が…私のせいで起こった悲劇が、繰り返されないために…」


 父と母が話していた。


「悲劇って、何なんだ?」

 ライガは父に訊いた。

 いや、あのときは聞かなかった。


「ねえ、父さん。悲劇って何?…帝国にいない方がいいって、ミラたちが?」

 ライガは父に訊いた。

 あのときは聞かなかったが


「あの時、父さんは何をするつもりだったんだ?」


 訊けないことだ。

 だって、あのとき父に聞かなかった。


「教えて。母さん。」


 訊けないことだ。


 母にも訊けない。


「父さんは何で皇国に言ったんだ?父さんは何をするつもりだったんだ?」


 ライガの問いかけに父と母が消えた。


「お前は聞かないのか?」

 後ろに誰か立っていた。


「…団長。」

 ライガは振り向いて声の主を呼んだ。


 後ろにはジンが立っていた。


「父親のことを…聞かないのか?」


「あなたは…知っているんですか?」

 ライガは訊いた。


 だが、また、あのときは聞かなかった。


 違う。


 聞くことを拒否した。


「父さんは、今どこに…どこにいるんだ?」

 ライガは訊いた。

 だが、あのときは聞かなかった。


 他と違うのは


 彼にだけは、まだ聞くことができる。


「団ちょ」

 訊こうとしたら、視界が急に明るくなった。



 光がさしてきて、眩しくて、目を細めた。


 いや、眩しさに目を瞑るのに、眩しさに目を開いた。


「…大丈夫?ライガ。」

 目の前にはミラがいた。


 ライガは慌てて起きた。


「そうだ。…今は」

 ミラと一緒にいる。


 父に対する疑問も謎も、彼女といられるのなら放棄することも簡単だ。


 たとえ、胸につっかえるものがあっても


ライガ:

主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと想い合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げることを決意した。父が前騎士団団長で行方不明。


ミラ:

ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっている。ライガと思い合っており、彼と逃げることを決意した。


ジン:

帝国騎士団団長。前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。精鋭部隊の隊長でもある。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどであり、酒場の喧嘩も強い。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。


ヒロキ:

帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。全体的に細長い印象のある顔の造りをしている。ジンが気を許している数少ない人物。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。元皇国の人間。前団長に拾われた。


マルコム:

精鋭部隊の一員。穏やかな青年。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目をしている。地方貴族の出。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で自分の力に自信を持っており誇っている。サンズに継ぐほどの力がある。


ミヤビ:

精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに何か想いがある。


アラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。弟。


リラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。兄。


サンズ:

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。貴族の出。精鋭では数少ない戦場経験者。



アレックス

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。サンズ同様に戦場経験者。




アシ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。


イシュ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。


シューラ:

隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。


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