見ている方向
リランは人混みをかき分けて、前に見える人影を追っていた。
「避けろ!!帝国騎士団だ。暗殺者を追っている!!」
リランは叫びながら何としても見失わないように追っていた。
人混みを抜けると、路地の方に追っている影を見つけた。
「待て!!」
精鋭の中でもリランとアランは身軽であり、小回りが利くため追跡や尾行によく使われる。
身体能力の高いサンズやマルコムもいいかもしれないが、二人は小回りが利かない。
アレックスやミヤビは尾行が苦手で、なにより二人は目立つ。ジンとヒロキはもっと目立つ。
双子も目立つかもしれないが、その辺の若者と変わらない感じがする。
リランは路地に踏み込んだ。
なによりの強みは、小さいころから路地裏を駆け回った経験だ。
「…この先は」
リランは向かう先を見て、顔を顰めた。
途中で横道に逸れて、別の道を走り出した。
角を曲がり、真っすぐ走り、また曲がり、王都の門に止まっている馬車に向かった。
「こいつ貸して!!」
リランは馬車をひく馬を引っ張った。
「おい!!何しやがる!!」
馬車の主は叫んだが、リランの恰好を見て黙った。
「後で団長に言ってくれ!!」
リランは馬に乗って、王都の外に走った。
しばらく門の外を沿うように走ると、馬に乗った影が三つ見えた。
「待て!!」
影に叫ぶと、三匹の人を乗せた馬たちは走り出した。
ゴシャン
マルコムは式典用の豪華な鎧を地面に叩きつけた。
「くそ…ああ、もう、クソが。」
マルコムは何度も舌打ちをしながら悪態をついていた。
マルコムとは違い、ミヤビは丁寧に鎧を脱いで置いた。
が、彼女もマルコムと同じように歯ぎしりをして悪態をついていた。
座っているだけに耐え切れなくなったのか、ミヤビもマルコムも剣と槍をそれぞれ持って訓練場に歩いた。
いつも色んな噂話をしながら笑顔で歩くのだが、二人は終始無言で訓練場に入った。
数人の騎士たちが訓練をしていたが、二人が来たら視線がそっちに向いた。
二人は視線が集中したことを気にする様子も無く、的用の丸太を取り出し、位置取りをしてから剣を構えて訓練に入った。
いつものように精鋭部隊が訓練場に来ると様子を観察される。
今回もその例からは外れなかったが
マルコムは槍を構えて丸太を見た。
目を据わらせて、足場を確認するように何度が足踏みをした。
脚力のあるマルコムは勢いよく突進して丸太に斬りかかった。いや、突きかかった。
一度の突きで槍が貫通した。
だが、マルコムは足で丸太を固定して床に叩きつけた。
床に固定された丸太から勢いよく槍を引き抜くと繰り返し槍を丸太に突き刺した。
ガゴン
ガゴン
ガゴン
ガギャン
金属部分が床に当たり、金属がぶつかる鈍い音が何度か響いたあと、槍が壊れる音が響いた。
ミヤビは剣を構えて丸太に斬りかかっていた。
最初は何度か試験的に斬るように数回振ったが、ペースを上げて何度も何度も切り刻み始めた。
丸太は表面がズタズタになると、その表面を削がれまたズタズタにされ、そしてまた表面を削がれた。
ミヤビの足元に木くずが散らばって、丸太は薄い曲線の板のようになっていた。
普段の状況から明らか違う二人の様子に周りの騎士たちは訓練場から出て行った。
「俺が殺す。」
マルコムはミヤビを見て淡々と言った。
「…私が殺す。」
ミヤビはマルコムを見て淡々と言った。
ジンは自室で、王族らしい正装から、いつもの騎士団の鎧に着替えていた。
「団長!!」
ノックもせずにサンズが部屋に飛び込んできた。
着替えているジンは扉に背を向ける形だった。
「…なんだ?」
ジンはサンズに背を向けたまま聞いた。
「…軍の馬が全て放されていて、直ぐには捜索隊を出せません。」
「そうか。」
ジンは包帯を手に持って頭に巻き始めた。
「けが人も命に別状はないですが、ライガが馬で騎士を突き飛ばしたことよりも、ミヤビが王家を殴り倒したのが、問題になっています。」
サンズは申し訳なさそう顔をした。
「あの輩を殴りたくなる気持ちはよくわかる。任務の妨害と報告して責任転嫁させようか。」
ジンはサンズの方を向いて、口元を歪めた。
「あの、団長の怪我は大丈夫ですか?」
サンズはジンを探る様に見た。
「…怪我など…」
「ヒロキさんから聞きました。庇って倒れた時に、体勢を整えられなかったからわき腹から地面に着いたと。…きっと痛めているはずだとアレックスも言っていました。」
サンズは気を遣うようにジンを見た。
「アレックスにまで察せられるとは…いや、当然か。」
ジンは参ったようにため息をついた。
「馬が準備出来次第探索に出るようにします。」
サンズは姿勢を正して礼をした。
「…何かあったら連絡する。」
そう言うと、ジンは扉まで歩き、サンズも一緒に部屋の外に出た。
「俺はこれから怒られないといけない。…少し色々任せるが、俺が戻るまで出るな。」
ジンはサンズを見上げた。
「しかし、一刻も早く」
「マルコムとミヤビを落ち着かせてくれ。」
ジンの言葉にサンズは苦そうな顔をした。
普段温厚な二人は、今回のライガの裏切りで随分荒れている。
他人に当たり散らし、過剰なまでに攻撃的になっている。
「…わかりました。」
サンズはそう言うと、礼をして歩いていくジンを送った。
王都からだいぶ離れた小さな村の市場を、ライガは完全に鎧を脱いで、普段着に着替えてから歩いていた。
ミラは馬の傍で待っている。上等なドレスに身を包んだ彼女の恰好は目立つ。
小さな市場には、根菜や干し肉などの食糧だけでなく、斧や鍬などの武器となりそうな作業道具も売っていた。
それに、大きな布などもあった。
「すみません。ちょっとその布いただけますか?」
ライガは財布からお金を取り出した。
市場の人は珍しそうにライガを見た。
「お兄ちゃんが布かい?へー。いや、金さえ払ってもらえば売るけど…」
「いや、実は連れが狩りで獣に服を持ってかれて…あ、そこの斧や鍬も。あと食料も」
ライガは目につく食材を選んだ。
「どうしたんだい?長旅かい?」
流石に市場の者もライガを不審そうに見た。
「ええ。これから長い旅をするんで…ちょっと商売を始めないかいと異国の者に持ちかけられてね。」
ライガは笑いながら言った。
「そうかい。国境は物騒だから気をつけなよ。それに遠いだろ?」
市場の者はライガに言われたものをまとめながら言った。
「ああ。だから長旅なんだ。」
ライガは頷いた。
値段よりも多めにお金を払い、ライガは市場を後にした。
ライガ:
主人公。帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと想い合っており、彼女が絡むことには若干頭に血が上りやすい。ミラと逃げることを決意した。父が前騎士団団長で行方不明。
ミラ:
ヒロイン。「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっている。ライガと思い合っており、彼と逃げることを決意した。
ジン:
帝国騎士団団長。前騎士団団長であるライガの父を決闘で破り、最年少で団長に就く。精鋭部隊の隊長でもある。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。剣の腕はまさに帝国一と言われるほどであり、酒場の喧嘩も強い。王族の人間だが、王族に対して冷ややか。
ヒロキ:
帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。全体的に細長い印象のある顔の造りをしている。ジンが気を許している数少ない人物。流れるような剣術で他の騎士に比べて非力だが、目の良さと器用さがあり、確かな実力を持っている。元皇国の人間。前団長に拾われた。
マルコム:
精鋭部隊の一員。穏やかな青年。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目をしている。地方貴族の出。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で自分の力に自信を持っており誇っている。サンズに継ぐほどの力がある。
ミヤビ:
精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。剣の腕は他の精鋭に比べると劣るが、弓の名手。ライガに何か想いがある。
アラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。弟。
リラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。兄。
サンズ:
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。貴族の出。精鋭では数少ない戦場経験者。
アレックス
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。ジンの代理で全体の指揮を任される。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。サンズ同様に戦場経験者。
アシ:
隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。小刀を使う。
イシュ:
隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。弓を使う。
シューラ:
隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。長い刀を使う。




