狂い始める者たち
嵐のようにライガがミラを攫ったことに祭典会場は呆然としていた。
一矢でパニックに陥って、それからの流れについていけなくなっていた。
「何だと?おい!お宝様が…」
「ミラ殿が攫われただと!?」
次第に王族や貴族たちも騒がしくなってきた。
ミヤビは未だ呆然としていた。
「え?…ライガ?何でお宝様を?」
首を傾げていた。
ライガに倒された白い服の男達が立ち上がった。
「おい!!騎士!!お前等なんて体たらくだ!!」
ミヤビを叱責するように言った。
ミヤビは呆然としていた。
「聞いているのか?おい!!お…」
ゴシャン
「がああ!!」
ミヤビは白い服の男を殴りつけた。
「うるさい。」
拳に男の鼻血なのか赤い血をつけていた。
「お前…俺らを、たかが騎士が…」
ゴギン
ミヤビは男が言い終わる前に殴り倒した。
「うるさいって言ってんでしょ?」
ミヤビは青筋を立てて表情を歪めていた。
「マルコム!!」
ミヤビはライガの追走に失敗したマルコムを叫んで呼んだ。
マルコムはミヤビの声を聞くと頷いて近くの騎士から弓矢をぶん取った。
アレックスは苦い顔をしながらも首を振って何かを振り払った。
「まずは矢を放った奴を見つけろ。サンズ。お前が向かえ。」
アレックスは同じように苦い顔をしたサンズの肩を叩いた。
「あ…ああ。」
サンズは慌てて王都に出て行った。
出て行く途中でサンズはアランとリランの頭を小突いた。
二人も首を振ってから動き出した。
サンズが王都に向かってすぐに、逃走劇に未だ呆然としながらも、パニックになっている観衆のなかからフードを被った男が現れた。
いち早く察したリランとアランが剣を構えて向かった。
キン
ガッ
二人の攻撃を、フードを被った男は弾き、そして二人の手首に持ち手と拳を叩きこんだ。
「クソ!!」
流石に二人は剣を落とすことは無かったが、体勢を崩した。
その隙にフードの男は王族の席に走った。
王族の席には、全員が避難してジン以外はもういなかった。
それでも男は向かって来た。銀色の長い刀を持った男だった。
フードの男の前にはヒロキが立ちはだかった。
そして
キイイン
と剣と刀がぶつかった。
「やるね。実力が伴っていない団長の愛玩人形だと思っていたけど…」
被っていたフードが取れ、男の顔があらわになった。
男は白い髪と赤い目をして、牙のような八重歯が生えている、皇国のシューラだった。
「…何が目的だ?」
ヒロキは男の攻撃を弾き、そのまま流れるように反撃の体勢に移った。
「お前のご主人を殺しに来た。」
シューラも長い刀を滑らすように回し、攻撃の態勢を整えた。
「ヒロキ。剣を俺に寄越せ。」
ヒロキの後ろに立っていたジンが威圧的に言った。
「俺の剣あんただと折りますよね!その辺の騎士から奪ってください!!」
ヒロキは後ろのジンを軽く睨んでからシューラに斬りかかった。
キイイン
とまた剣と刀がぶつかった。
その様子を見てアレックスは周りの騎士に手を挙げて合図を送った。
「援護しろ!!」
アレックスが叫んだときにまた矢が飛んできた。
「クソ!!早く抑えろよ。サンズ」
アレックスは矢を弾き返して呟いた。
ドン
「寄越せ」
マルコムは近くにいた槍を持った騎士から槍を奪った。
槍を二本確保するとマルコムは戦っているヒロキとシューラの元に向かった。
槍を二本同時に構えて、彼の持つ脚力を全部使って突進した。
小さな戦車のようにマルコムはシューラに狙いを定めた。
だが、シューラもだが、応戦しているヒロキはマルコムに気付いていない。
「やめろ!!マルコム!!」
ジンの怒鳴る声が響いた。
マルコムはジンの声を無視してそのまま走り続けた。
「クソヤロー!!」
ジンは叫ぶと同時に戦うヒロキとシューラに向かった。
ドサ
丸腰のジンは応戦しているヒロキの服の襟を掴みマルコムから庇い倒れ込んだ。
ガキン
「ぐ」
マルコムの突進を真に受けたシューラは刀を折ってしまったうえに、動きで衝撃を殺せず体を不自然にしならせた。
どうやら体の筋を少し痛めたようだ。
「…お前等がライガの協力者なのか?」
マルコムは呻きながらも攻撃に構えるシューラを睨み付けた。
「…可愛い顔した騎士だね。団長殿は趣味がいいね。…それにしては些か乱暴すぎないかい?」
シューラは倒れ込んだジンとヒロキを見て言った。
「答えろ。」
マルコムはシューラに言われたことを気にする様子も無く、彼を睨み続けた。
「イエスと答えたら?」
シューラは逃げる機会をうかがっているのか周りを見渡しながら訊いた。
「殺す」
マルコムは淀むことなく淀んだ瞳を向けて答えた。
「ノーと答えたら?」
シューラは足の位置を変えて体勢を変えながら訊いた。
「殺す」
マルコムはまた淀むことなく答えた。
シューラはすでに騎士に包囲されていた。
「団長。大丈夫ですか?」
「副団長も、早くこちらに。」
倒れたジンとヒロキを庇うように騎士たちは二人をシューラから遠ざけた。
ジンたちを囲む騎士たちの方とは別方向をアレックスは見ていた。
彼は、何かに気付いて走り出した。
彼が走り出した先には同じくフードを被ったアシがいた。
アレックスの動きに気付いたアシは舌打ちをしながら、小刀を取り出した。
キン
アレックスの剣をアシが弾いた。
「見た目よりつまらない剣筋しているな。お前。」
アシはアレックスを見て煽るように言った。
「お前はこの前の騎士だな。俺らを騙していた。」
アレックスは体勢整えながらアシの動きを探る様に見ていた。
アシはそんなアレックスをあざ笑うように斬りこんできた。
「見て」
キイイン
「観察して」
キイン
「分析して」
ガキン
「それから戦略を立てるのか?」
ガギン
アシは細かい攻撃をアレックスに繰り出した。
「初心者みたいな戦い方するんだな。」
アシは変わらずアレックスを煽った。
アレックスは何も言わずアシを見ていた。
「俺だけ見ていると、お前死ぬよ。」
アシは何も言わず自分を見ているアレックスを更に煽るように言った。
ヒュン
風切り音が響いた。
ガキン
カタン
「周り見てください!!」
リランが飛んできた矢を弾いてアレックスに文句を言った。
「アランはサンズの援護に回せ。お前はこっちにいろ。」
アレックスは後ろにいるリランに淡々と命令した。
アレックスは目の前のアシを見て剣を構え直した。
「俺には、お前だけ見ても大丈夫な仲間がいるんでな。」
アレックスはアシを煽るように笑った。
「…弱いくせに。」
アシは舌打ちをした。
ミヤビは戦う仲間たちを見ながらも一切動かずに周りを観察していた。
当然だが、彼女の近くにはもう白い服の男達はいなかった。
マルコムから渡された弓を構えて、何かを探していた。
ミヤビは剣こそ他の精鋭よりは劣るが、弓の名手だ。
剣だけで済ませられない作戦では彼女は重宝される。
なにより、彼女の長所は誰を射ればいいのか判断できるところだ。
敵の親玉を狙うこともあれば、先頭の要や、任務の収束の為なら敵味方関係なく最善を狙うこともある。
弓を引き絞り、王都の方に向けた。
「三本も射たら、バレるに決まっているでしょ?」
ミヤビは口元を歪めて言った。
ライガ:
帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと想い合っており、彼女と逃げることを決意した。父が前騎士団団長。
ミラ:
「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっている。ライガと思い合っており、彼と逃げることを決意した。
ジン:
帝国騎士団団長。最年少で団長に就く。精鋭部隊の隊長でもある。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。王族の人間。
ヒロキ:
帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。全体的に細長い印象のある顔の造りをしている。ジンが気を許している数少ない人物。元皇国の人間。前団長に拾われた。
マルコム:
精鋭部隊の一員。穏やかな青年。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目をしている。地方貴族の出。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で、サンズに継ぐほどの力がある。
ミヤビ:
精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。ライガに何か想いがある。
アラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。弟。
リラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。兄。
サンズ:
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。貴族の出。精鋭では数少ない戦場経験者。
アレックス
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。サンズ同様に戦場経験者。
アシ:
隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。
イシュ:
隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。
シューラ:
隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。




