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宝物の彼女  作者: 近江 由
逃避へ~結末その1~
24/135

酔いの終わり

 

「!?だ…団長!!」

 ライガは慌てて姿勢を正した。

 そして、双子を止めようと歩き出そうとした。


「いや、いい。止めなくていい。」

 ジンはライガを止めた。


「え?…でも、これって」


「後で絞る。俺の前だということを忘れているのか?あの二人は…」

 ジンは持っているグラスの酒をあおった。


 ライガは慌てて近くの酒瓶を持って注ごうとした。


「まだある。それに、俺はあくまで…財布らしい。」

 ジンはそう言うと顎でリランとアランと一緒に賭けに拍車をかけるヒロキを指した。


「…あ、あれは。」


「あれもいつもか?」

 ジンは呆れたように言った。


「ええ。まあ。」

 ここで嘘をつくわけにいかず、ライガは頷いた。


「…聞いたらしいな。あいつから、皇国の人間だったって…」

 ジンはライガを見て言った。


「…はい。」


「お前には何でも話すんだな。あいつ。」

 ジンはグラスをあおり、空にした。そしてそれをライガに向けた。


 ライガは慌てて注いだ。


「お前は聞かないのか?…俺に。」

 ジンはライガに注がれた酒をちびちびと飲みながら訊いた。


「聞くとは?」


「俺は前団長を倒した。父親の話だ。お前は一切俺に聞かない。」

 ジンはライガを見た。


 ライガの父は、ジンに挑まれた決闘に敗れ、団長の座を追われた。

 そして、その後は行方不明になっている。


「…聞いても父が出てくるわけじゃないですから。」

 ライガは何かを誤魔化すようにグラスの酒を一気に飲んだ。


 ジンはライガが持っていた酒瓶を持って、ライガに注いだ。

「…ありがとうございます。」


「…気にするな。」

 ジンはライガに笑いかけた。


 それこそ、あの話題になった人間らしい笑みだった。


「…団長は…王族ですよね。」

 ライガは何を聞きたいのかわからないが、ジンに訊いた。


「そうなっている。…なんだ?政治に興味があるのか?」

 ジンはライガを揶揄うような口調で言った。


「そんな。別にただ…」


「そうだ。お前が気にすることではない。…だいたい、王族はもう終わりだろうな。」

 ジンは自嘲的に笑った。


「終わり…?」


「一族はもう血縁を結ぶのを断っているのは、お前は聞いたな。それに付け込んで今度は貴族階級が手を伸ばそうとしている。元々無理があった仕組みだ。ただ、王族の権威を保つための仕組みだ。」

 ジンは何やら苦い顔をしていた。


「そうですよね。それに、生まれた子供が鑑目を持つわけでもないんですから…」

 ライガは知っていることを言った。


 そうだ。王族とお宝様の間に生まれる子供は不思議と鑑目を持たない。

 大体持っていたらいちいち血縁を結ぼうとしない。


「そうだ。ひたすら無駄なんだ。悲劇しか生まない。」

 ジンは口元から笑みを消した。


「…目を潰すのは、それこそ理由がわからないです。何で行動を制限して、物のように扱ったうえにそんなことを…」

 ライガは、言葉に怒りを含ませずにいられなかった。

 声がどんどん震えて来る。


「いたからだ。」


「え?」


「…不道徳な行いをしたお宝様がかつていたからだ。全くお笑い話だよな。お前らだって女を囲っているくせに何を言っているのか。そして、それを知られるともっと一族は離れるのにな。躍起になっている王族は終わりだ。」

 ジンの口調はどこまでも冷めていた。


「団長は王族なのに…なんでそんなに冷たいんですか?」

 ライガは思った以上にジンが王族に対して辛らつなことが気になった。


「今度教えてやる。…そうだな。俺に勝ったら。」

 ジンはライガを挑発するように言った。


「絶対勝てませんよ。」

 ライガはジンが剣で戦っているところを思い出した。

 確か、ずいぶん昔にサンズとアレックスと戦っていた。


 二人は全く手が出ていなかった。


 剣筋の鋭さもそうだが、反応する速さがすさまじいのだ。


「なら、今度俺と戦うといい。俺がやったように倒して団長になってみるか?」

 ジンは挑むように言っているのに、どこか自嘲的だった。


「そんなこと、できるはずないです。」

 ライガは首を振った。

 本当にできないと思った。


「わからんぞ。…その日が来ないことを祈るがな。」

 ジンは遠くを見るように、ライガの向こう側に顔を向けた。


「ッチ」

 そして、舌打ちをした。


 ドガン

 ガシャン


「やんのか?」

「上等だ!!」

「二人まとめてこいや!!」


 中央で騒いでいたサンズとマルコム、そしてヒロキが何やら喧嘩を始めた。


「いつも止めているんじゃないのかよ。」

 ジンは吐き捨てるように言うと立ち上がった。


 流石にこれはヤバいと思ってライガも立ち上がった。




 女性を口説いていたアレックスもジンの手前止めなければいけないと動き出した。


「いくぞ!!」

 サンズはヒロキに殴りかかったが、華麗に避けられた。

 いや、ヒロキは千鳥足だった。


「遅くていかんなー。当たらなければ意味が無いぞ。」

 ヒロキは煽るように言った。


「ヒロキさんてこんなに腹立つ人だったんですね。」

 マルコムは肩を揺らしてヒロキに構えた。


「可愛い可愛いマルコム君か?攻撃も可愛らしいのかな?」

 ヒロキはもはや酔っぱらいだった。


「可愛くないのは性格ですよ!!」

「さあ、めったに見ないカードだよ!!」

 アランとリランが三人の周りで踊りながら囃し立てた。


「おい!!お前等やめろって。今誰がいると思って…ブホッ」

 アレックスが注意しに割り込んだが、ヒロキの拳が当たった。


「柔らかい顔してんな。アレックス。」

 ヒロキは呂律の回らないままにやりと笑った。


「やめろって。」

 ライガも入った。

 だがそれよりも早い動きでジンが入り込んだ。


「うわ!!」

 マルコムの足を掴んで、サンズに向けて転ばせる。

「ぐあ」「がっ」

 そしてマルコムを上から叩いてサンズごと倒した。


 さらに踊っていたリランとアランと二人とも床に叩きつけた。

「「ぎゃん」」


「おお!!」

 ジンの動きに周りは湧いた。


「流石団ちょブフッ」

 何故かアレックスも殴られた。


「情けないなー。お前等。」

 ヒロキは倒れた面々を見て笑った。


「飲みすぎだ。帰るぞ。」

 ジンはヒロキの顔を掴んだ。

 そして、店主に大量の金貨が入った袋を渡した。


「これは…」


「迷惑をかけた。」

 ジンは軽く頭を下げると倒れている面々を見下ろした。


「お前等もいい加減にしろ。俺は全て見ていたからな。」

 ジンはリランとアランを見た。

 二人はポカンとしていた。どうやら倒されたことを実感していないようだ。


 ライガは正直、彼に見ていないだろと言いたかったが、言えない空気だった。

 たぶん、その言葉を呑みこんだ者は沢山いるはずだ。


 マルコムとサンズは冷静になったようで、地面に正座をしていた。

 暴れたわけでないが、アレックスも正座をしていた。ミヤビは呆れたようにその様子を見ていた。


 ジンはライガを見た。

「お前と話せてよかった。」

 また、あの人間的な笑みを浮かべた。


 そんな彼の顎をヒロキが掴んだ。


「!?」

 酒場にいる全員の表情が固まった。


「まだ飲む…可愛い部下たちと…」

 ヒロキは名残惜しそうに酒場で固まっている面々を見た。


 ジンは溜息をついた。

「…もう、終わりだ。」

 ジンはヒロキを持ち上げておぶった。


 ヒロキは騎士にしては細身であり、ジンは平均的寄りもやや背が高かった。

 簡単に持ち上がった。


「明日楽しみしてろよ。」

 ジンは脅すように全員を見て笑った。

 その笑顔はいつもの騎士団長としての笑顔だった。



 まだ、可愛い部下と飲みたい

 ヒロキは、これが最後だと思っている。


 そして、ジンは終わらせた。


 ライガは二人を見た。


「…ありがとうございました。」

 姿勢を正して、礼をした。深く。


 ライガに倣って他の者も礼をした。

 ただ、彼等はライガと思っていることは違うだろう。





 ジンとヒロキが帰ったことにより、飲みは解散となった。


 酔いを醒ましたいからとライガは一人で散歩をしていた。


 リランとアランはサンズに引きずられて、マルコムはミヤビに引きずられて、アレックスは納得しない様子で帰って行った。


 そう、全員帰った。


 ライガは路地に入り、壁に寄りかかった。


「よう。酔っぱらい騎士団。今日は酒場で楽しそうだったな。」


「見ていたのか?」

 ライガは壁越しから聞こえる声に言った。


「言っていた意味がわかった。…桁違いだな。あの団長は。」

 声の主であるアシは納得した様子だった。


「お前は言っていたな。精鋭に位置を教えればいいと。」


「ああ。決心がついたのか?今日の様子はなれ合いにしか見えなかった。」

 アシは嘲るように言った。


「…お前が気にすべき団長は、王族の席にいる。」


「…教えてもらうなら、こっちも何か協力しないとな。」

 アシの声色は変わった。


「教える。だから、用意して欲しいものがある。」

 ライガは酔いを醒ますのと同時に、頭の中の仲間の顔を振り払った。


ライガ:

帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。ミラと想い合っており、彼女と逃げることを決意した。父が前騎士団団長。


ミラ:

「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっている。ライガと思い合っており、彼と逃げることを決意した。


ジン:

帝国騎士団団長。最年少で団長に就く。精鋭部隊の隊長でもある。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。王族の人間。


ヒロキ:

帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。全体的に細長い印象のある顔の造りをしている。ジンが気を許している数少ない人物。元皇国の人間。前団長に拾われた。


マルコム:

精鋭部隊の一員。穏やかな青年。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目をしている。地方貴族の出。槍使いで、顔からは想像し難いほど筋肉質で、サンズに継ぐほどの力がある。


ミヤビ:

精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。ライガに何か想いがある。


アラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。リランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。弟。


リラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。アランと二人で「赤蠅あかばえ」と呼ばれるほど戦いにくいと騎士団内で有名。兄。


サンズ:

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。見た目通り力が強く、騎士団一の怪力を誇る。貴族の出。精鋭では数少ない戦場経験者。



アレックス

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。普段の生活態度とは違い、堅実で手堅い戦い方をする。サンズ同様に戦場経験者。




アシ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。


イシュ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。


シューラ:

隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。



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