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宝物の彼女  作者: 近江 由
手を取り合う
21/135

決意の夜

章最終話

次話から違う章に入ります。

 

 自分だけ早く戻ったのが申し訳なく思ったが、行きのときに荷台に乗せられたことを思い出すと、そんなことは無い気がした。


 ライガは自室に戻る前に鎧を脱いで剣を置こうと詰め所に向かった。


「よう。ライガ。」

 詰め所にはヒロキがいた。


「ヒロキ…さん。」


「どうだった?外は?」

 ヒロキは何かを期待するようにライガを見ていた。


「…あの、ヒロキさんは儀式のこと」


「あ、知ったのか。」

 ヒロキは眉を顰めた。


「知っていたんですね。」


「知っているも何も、俺はそこで剣舞をやれって、団長命令だ。」

 ヒロキは参ったように頭を掻いて笑った。


「剣舞ですか。…剣舞はわかりませんが、ヒロキさんの剣技は芸術みたいですよね。」

 ライガはヒロキの剣技を思い出した。


「…俺はな、今の団長に引き抜かれるまでは騎士でもなんでもなかったんだぜ。」

 ヒロキはライガを見て笑った。


「そうだったんですか?」

 ライガは騎士であるヒロキしか見たことが無いから意外だったが、確かにヒロキは強いが、騎士のような骨太さはない。


「…俺はな、皇国出身だ。」

 ヒロキはライガを見た。


「え?」


「もちろん、団長くらいしか知らない。今はな。…俺は、皇国の権力抗争で一族が失脚してしまってな。お前の父親、前団長が遠征した時に拾われた。俺が13の時だ。」

 ヒロキは懐かしそうにライガの目を見た。


「権力抗争…どうしてそんなところに父さんが…」


「さあな。気にしたことは無かったが…」

 ヒロキはライガを見た。


「今更向こうの国に何か思い入れは無い。」

 ヒロキは断言した。


「どうして騎士に?」

 ヒロキの話からすると、たぶん彼は相当育ちがいいと思われる。

 そんな彼が手を汚すかもしれない騎士を選んだのか不思議だった。

 いや、不思議というよりもいまだに騎士らしくないと言われる彼を見ると選んだのが不自然な気がした。


「団長に見初められて?なんてな。…俺は剣技が得意だし、団長殿からの引き抜きもあって…前団長の恩もあるからな。」

 ヒロキは遠くを見た。


「俺、父さんに似ているんですね。」

 ライガはお宝様の一族が自分を似ていると言ったことを思い出した。


「ああ。お前だって覚えているだろ?」


「あまり身内同士って似ていると思わないんですよ。」


「はは。そうだろうな。」


「…今日会ったお宝様一族の人にも団長さんに似ているって言われたんですよ。父さんは一族に対して親身になっていたので…。」

 ライガは笑いながら言った。

 そして、自分はその一族に対して怒りを覚えたことを思い出した。


 ミラを見捨てるようなことを言ったからだ。


「そうか。」

 ヒロキはライガの横顔を見て言った。


 ヒロキはライガを通して誰か見ているようだった。


 彼は、母国を捨てたも同然の人間なのだ。

 父がそうさせたのか、いや、父が救ったのかもしれない。


「ヒロキさんは…もし、大切な人の為に仲間を裏切れと言われたら、どうしますか?」

 ライガは国を捨てたであろうヒロキなら、何か自分に対する免罪符となる言葉をくれる気がした。


「はは。仲間って誰だよ。」

 ヒロキは鼻で笑った。


「え?例えば…騎士とか?」


「仲間の定義に寄るけどよ…俺は自分のために国を捨てた身だ。」


「自分のためって、ヒロキさんはそうしないと…」


「その大切な人の為ってなんだよ。結局は自分のためだろ?」

 ヒロキは呆れたように言った。


「自分の為?」


「そうだ。むしろ「ため」というのがよくない。結局決めてんのは自分だろ?」


「裏切るも何も知らないな。だって仲間は過去形だろ。俺は母国ではあっても今は違う国の人間だ。事実はあってもそれは過去だ。裏切った時点で仲間じゃない。」

 ヒロキは呆れたように言った。


「…仲間じゃない…」

 ライガは精鋭部隊の顔を思い浮かべた。


「まあ、割り切れるかどうかは別問題だ。そして、それは裏切られた方にも言えることだ。」

 ヒロキはライガを見た。


「…」


「もしだ、裏切ったとしたら、もう仲間じゃない。なら気にする必要は無い。けど、それは両面に言えることだ。」

 ヒロキはライガを責めるように見た。


「両面…」


「お前が何を考えているのかわからないが、俺は自分のために裏切らない道を選ぶ。」

 ヒロキはライガの肩を叩いた。




 

 自分の為に…


 そうだ。結局は自分がミラと一緒にいたいから裏切る道を選ぼうとしているのだ。


 ライガは中庭に忍び込んで、ミラの部屋の窓を見た。


 彼女と一緒にいたい。

 仲間は大事だ。だが…ミラがいなくなるのは嫌だ。


 手の届かない所に行くのも。

 彼女のためなら死ぬこともできる。


 全部を手に入れることは出来ない。


 ミラと逃げられたとしよう。

 その先、彼女と生きていられるのなら幸せだ。

 その時に仲間がいないのは寂しいかもしれない。


 けど、ライガは彼女と生きたい。


 彼女と生きる道をもし、もし、仲間が邪魔をするなら。



「ライガ!!」

 窓からミラが見下ろしていた。


 真っ黒な瞳は、月明かりが反射してキラキラ光ってて、とても綺麗だ。


「…ミラ。」


 ミラは目を輝かせていたが、徐々に表情に陰りが見えた。


「何かあったのか?」

 ライガは慌てミラのいる塔に駆け寄った。


 ミラはむすっとした口をして、いつもの木に飛び移った。


「だめだって!!」

 ライガは慌てて木の下に走った。


 ライガの心配は、心配でおわり、ミラはいつも通り木にしがみ付いていた。


 木の上から少し不安げにライガを見て来るミラが、可愛くて愛しくてどうしようもない気持ちになった。


「今行くよ。」

 先ほどまでの不安が吹き飛んだように彼女を見ると幸せな気持ちなった。


 仲間を裏切る心配よりも、彼女の表情に陰りがあったことが、彼女と顔を合わせて話すことが、彼女に触れることが、ミラのことがライガの心を占めていた。





 

 詰め所では、二人の騎士が剣を磨いていた。


「そんなことを聞かれたのか。」

 ジンは呆れたようにヒロキを見ていた。


「まあ。そうですね。俺が皇国の人間であったことも話しました。」

 ヒロキは自分の剣を磨きながら言った。


「いいのか?」


「いいんですよ。おそらくもう、言う機会も無い。」

 ヒロキは寂しそうに言った。


「あいつはまだ隠していることがある。」

 ジンは自分の剣をかざして、磨き残しが無いか見ていた。


「あんたもあるじゃないですか。」


「そうだな。だが、何か臭う。」

 ジンは顔を顰めた。


「俺臭いですか?」


「まさか。お前が臭いはずないだろ。ライガだ。」


「誰かが接触してきたということですね。彼に。」

 ヒロキも自分の剣をかざした。


「そうだ。」


「…物騒だな。どこに何が転がっているかもわからないですね。」

 ヒロキは磨き終わったのか、自分の剣を仕舞った。


「だからお前を出さないようにしている。物騒だからな。」


「あんたの方が物騒ですけどね。ライガに付きますか?」


「いや。…お宝様はあいつと一緒にやってもいいと思う。」

 ジンは口元に優しい笑みを浮かべた。


「それはそれは、お優しいこと。」

 ヒロキは大げさに驚いた。


「俺が優しいことはお前がよく知っているはずだろ?」

 ジンも自分の剣を仕舞った。


「どの口が言ってんだか。」

 ヒロキは口を尖らせて言った。


「汚い駆け引きに使われる可哀そうな若者が、なけなしの優しさを振り絞って言っている言葉だ。」

 ジンは胸を張って言った。


「どうしたんですか?…まさか寂しいんですか?」

 ヒロキは揶揄うような口調だった。


「さあな。」

 ジンは肯定しているように寂しそうに言った。



「俺は、あんたを裏切らないですよ。」

 ヒロキはジンを見つめて言った。


「わかっている。」

 ジンは口元に柔らかい笑みを浮かべて笑った。


 




 木の上で触れあうと、何を言いたかったのかなど頭から飛んだ。

 ただ、ライガと触れ合いたかった。


 頬と頬を摺り寄せ合わせた時の肌の体温が恋しくて首筋に貌を摺り寄せた。

 ライガは困ったような顔をした。


「ミラ。どうしたの。」

 何か慌てた様子だった。


「本当は話したいことがあったのに、ライガと沢山触れ合いたい。」

 手を繋いで、指を絡めて、首筋に擦り寄っても足りない。


 だが、これ以上は恥ずかしくて口には出せない。


 ライガは顔を真っ赤にして俯いていた。


「…その話したかったことが、ミラが気になっていたこと?」

 ライガはミラが何かを気にしていたことを察したようだ。


「どうして?」


「ミラの顔が一瞬暗くなったから…」

 ライガは心配するように言った。

 だが、まだ顔は真っ赤だった。


「…ライガは、他にもいると思って。」

 ミラは侍女から聞いた話を伝えた。


 ライガは驚いた表情をした。

「ミヤビと俺が?ありえないよ。俺はミラしかいない。」

 ライガは断言した。


「でも、男の人は他にも女の人を…」


「他に選択肢があると思っているの?俺に?」

 ライガはあり得ないとまた繰り返した。


「信じていいんだね。」


「信じるも何もない。」

 ライガは力強く頷くとミラの手を取った。


「ミラ。」

 ライガは真剣な顔だった。


「…はい。」

 ミラも真剣な顔で応えた。


「君が嫌がるかもしれない。けど、一緒に、一緒に逃げよう。」

 ライガは決意をした顔をしていた。


「逃げるって…ライガは騎士だよ。逃げれるの?だって、私は…」

 ミラは嬉しくて仕方なかったが、それよりも彼が心配だった。


「婚礼一週間前に…君が外に出る日がある。その日に…俺は君を連れて逃げる。」

 ライガは真っすぐミラを見た。


「え?そんな日が…」


「これは君の為ではなくて、俺の為なんだ。俺がミラと一緒にいたい。君を他の男のところにやりたくない。」

 ライガは目を逸らさずに話し続けた。


「俺の欲だ。俺の意志だ。」


 ライガは取ったミラの手に軽くキスをした。そして


「…俺と、一緒になってください。俺と一緒に逃げてください。」

 ミラより視線を下げて、懇願するようにライガは言った。


 答などミラの中では決まっている。

「…喜んで。」

 うれし涙で目の前の景色が滲んだ。


「一緒になろう。一緒に、一緒に逃げよう。」

 ミラはライガに抱き着いた。


「一緒に…」

 二人は手を取り合った。




ライガ:

帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。


ミラ:

「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっている。ライガとは相思相愛。


ジン:

帝国騎士団団長。最年少で団長に就く。精鋭部隊の隊長でもある。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。王族の人間。


ヒロキ:

帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。全体的に細長い印象のある顔の造りをしている。ジンが気を許している数少ない人物。ライガとミラの関係に好意的。


マルコム:

精鋭部隊の一員。穏やかな青年。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目をしている。


ミヤビ:

精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。


アラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。弟。


リラン:

精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。兄。


サンズ:

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。


アレックス

精鋭部隊の一員。ライガの先輩。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。




アシ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。


イシュ:

隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。彫が深く、目が細く鋭い。


シューラ:

隣国の皇国の者。白い髪と赤い目をしている。牙のような八重歯が特徴的。


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