逃げへの祈望
お宝様一族の三人は用事が済んだのか立ち上がった。
「では、我々はこれで失礼する。」
リーダーの男はアレックスがこの中の頭だと判断したのか、彼に礼をした。
「待ってください!!」
ミヤビは慌てて、部屋の扉の前に立った。
「今出るのは危険です。夜が明けてからの方が…」
「暗い方がいい。場所を特定されないためにな。」
ミヤビの言葉の途中で男は言った。
「せめて少し時間を置いてください。」
サンズも立ち上がってミヤビの横に立ち、扉を塞いだ。
「…あなた方が辛いでしょう。」
男はどうやら、目を逸らし、接し方に注意をして居るアレックスたちに気を遣ったようだ。
「いえ。平気です。」
アレックスは首を振って言った。きちんと目を逸らして。
「あ、俺たち聞きたいことがあったんです。」
リランは何かを思い出したように言った。
「おい!!遊びに鑑目を使うな。」
アレックスは何かを察したのかリランを叱った。
「いえいえ。決して減るわけではないですから。」
男達はリランとアランの無邪気な様子に和んだのか穏やかな顔だった。
「ライガおいで。」
アランがライガに手招きをした。
「なんだよ。」
ライガは思いがけない呼び出しに眉を顰めた。
「お前等まさか…」
サンズは何を質問するのか分かったようだ。
「ライガ。鑑目を見てろよ。」
アランがライガの頭を男の前に固定した。
お宝様一族の者たちも少し楽しそうにライガを見ていた。
「ライガ。団長とヒロキさんはどんな話をしていた?」
リランは尋問する時の声色で訊いた。
「え?…知らないよ。」
ライガは質問内容がミラに関することじゃなくて安心した。
ライガの反応を見て双子とサンズは首を傾げた。
マルコムも楽しそうに笑い始めている。アレックスは呆れたように見ていた。
「じゃあ、何でさっき聞いた時気まずそうな顔をしたんだ?」
サンズが更に追及するように訊いた。
「何でって…」
ライガは何を思い浮かべたかを考えた。
考えてしまった。
慌てて目を閉じた。
「あ!!こいつ!!」
アランとリランは二人がかりでライガの目を開かせようとした。
ここまできたらミヤビもアレックスも気になるようだ。
「おい。ライガ。なんだよ。」
「そうよ。話しなさい。」
「そんなことを言われても、言っても誰も幸せにならない話だ。」
ライガは目を力いっぱい閉じて首を振った。
「悪口か!?悪口なんだな!!」
サンズはなにやら納得したようで、アランとリランに加勢した。
騎士団随一の怪力自慢のサンズの手にかかるとライガも目を開かざる得ない。
「さあ。答えろ。」
サンズはライガの目を鑑目に向けた。
言うもんか
と思っても、思ったことや頭に出たことを言ってしまう。
「ヒロキさんの部屋で、あの二人が半裸で一緒にいるところを見たから。」
墓まで持って行こうと思っていたことは簡単に公表された。
ライガを押さえるサンズの手の力が抜けた。
アランとリランもだ。
「なにとんでもないこと言ってくれるんだよ。これからどんな顔してあの二人の部下やればいいんだ!?」
アレックスは何故かライガに文句を言った。
「俺は言いたくて言ったわけじゃないです!!」
ライガは取り押さえていたサンズとアランリランの腕を払った。
「まあ、俺たちだってたまにやるもんな。筋肉の見せ合いを。」
サンズはアレックスを見て同意を求めた。
アレックスはサンズから目を逸らした。
「…あの?」
お宝様一族の男達はライガたちに遠慮しがちに声をかけた。
「あ、ああ。そうでしたね。すみません。何か耳汚しなことを聞かせてしまって。」
アレックスは申し訳なさそうに彼らに頭を下げた。
「正直一番の耳汚しはサンズさんの発言だと思う。」
アランはポソリと言った。
「お待たせいたしました!!馬の準備をしました。」
騎士が部屋に入ってきた。
「よし、ライガ。お前先に王都に戻れ。」
アレックスは全員を見渡してから言った。
「俺ですか?」
「ああ。状況を団長に知らせてくれ。馬ならお前が一番早い。俺たちはここの収束にかかる。」
アレックスはそう言うと一族の男達を見た。
「あと、彼等を途中まで送ってくれ。…もちろん断ってもいいのですが…」
アレックスは遠慮がちに彼を見て目線を逸らした。
「いえ、お願いします。」
一族の男達はライガにはどうやら気を許したようだ。
「…じゃあ、お先に失礼します。」
ライガは一族の男達と部屋を出て行った。
ライガは指定された馬を引き、一族の男達を先導して歩き始めた。
「松明を消していただいていいですか?我々は、暗闇の方が慣れている。」
リーダーの男が、ライガが持っているたいまつを見て言った。
「わかりました。」
ライガは言われた通り松明を消した。
「君よりもあの金髪の男性の方が先輩だろう?君の方が我々の対応が慣れているのは、多くあの子に接しているからか?」
リーダーの男はどうやらライガがサンズやアレックスたちよりもお宝様への接し方が慣れていることを言っているようだ。
「…俺は彼女の護衛でした。王城に来たばかりの彼女と一緒に過ごしました。」
ライガは少し冷たい口調で言った。
彼等は、ミラは嫁がせてもいいと考えているのだから。
「そうか。」
「…次のお宝様からは出さないと言ってましたね。」
「ああ。」
「彼女は、ミラは犠牲になってもいいということですね。」
ライガは男達を見た。
男達は信じられないような目をライガに向けた。
「…それは、仕方ないことだ。もう王城に渡してしまった。」
リーダーの男は悔しそうに目を細めていた。
仕方ないことだ
その言葉がライガの心にすとんと落ちた。
「…そうですか。わかりました。」
ライガは心がとても冷静になった。
だが、彼等の目を見ると本当のことを言ってしまう。
別に隠そうとは思っていなかった。
「なら、ミラはあなた方一族にはもう見放されていると思っていいんですね。」
はっきりとした声で言っていた。
「何だと?」
リーダーでない男がライガの言葉に突っかかった。
「…失礼しました。…どこまでお送りすればいいですか?」
ライガは男たちの目から目を逸らした。
「…因果なのか…」
リーダーの男は納得したように呟いていた。
外は暗かった。
心待ちにしている音も聞こえなかった。
同じ隊の女性。
侍女の話を聞いたが、彼女はライガのことをどう思っているのだろう。
もし、彼女が彼のことを好きだったら、自分よりも傍にいる人が、彼のことを好きだったら。
ミラは何を確かめたいのかわからないが、ただライガと話したかった。しかし、それ以上に怖かった。
「ライガは、私以外にもいるのかな。」
ミラは窓に映る自分の顔を見つめた。
別に王家に嫁ぐ身としては、妻以外に女性を囲っている可能性があるのは承知している。
だが、ライガは違うと信じている。
ミラが聞かされていた男というのは基本的に王族の者のことだから彼が該当するとは思っていなかった。
問題はそれではない。
自分以外の相手が彼にいるのなら、もしそうなら、彼は自分の手を引いて逃げてくれるのだろうか。
もう、ミラは逃げることしか考えていなかった。
見張りが無ければ、遮るものが無ければ逃げているのに。
中庭についている見張りを見るたびに思う。
だが、逃げた先にライガが居なければどうする。
彼がいないのなら、逃げることに意味があるのか?
いや、彼がいないなら、生きていられるのだろうか?
その時は、生きることから逃げればいい。
ライガ:
帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。
ミラ:
「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっている。ライガとは相思相愛。
ジン:
帝国騎士団団長。最年少で団長に就く。精鋭部隊の隊長でもある。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。王族の人間。
ヒロキ:
帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。全体的に細長い印象のある顔の造りをしている。ジンが気を許している数少ない人物。ライガとミラの関係に好意的。
マルコム:
精鋭部隊の一員。穏やかな青年。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目をしている。
ミヤビ:
精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。
アラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。弟。
リラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。兄。
サンズ:
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。
アレックス
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。
アシ:
隣国の皇国の者。黒髪と褐色の肌、グレーの目をしている。大きい目と大きい鼻が特徴的な顔の造りをしている。




