親友の心情
ヒロキの号令の元、精鋭部隊全員での飲み会というものが行われることになった。
鎧を脱いで私服になっているのにもかかわらず、全員が青筋を立てたジンを先頭に、ライガたちは町を歩いている。
完全に巡回だ。
ヒロキがきちんと誘ったのか、ミヤビも一緒に並んでいた。
彼女もいつものような顔をしていたが、やはりライガにだけ気まずい。
誤解ではないが、彼女にはミラのことを隠してでも他に好きな人がいることを話すべきで向き合うべきだと何となく思った。
それが、ミヤビに甘えていることかもれ知れないが、逃げるのなら問題は全て無くしていきたいと思うのは、当然のことだろう。
町を巡回するように歩く精鋭部隊は、完全オフにも関わらず全員が凛々しい。
ジンの顔は見えないが、威圧感が凄まじい。
いや、ヒロキだけは楽しそうに歩いている。彼以外の全員がいつでも戦えるような戦闘力に満ちた顔をしている。
町の人たちも何事かという顔をしていた。
「確かな経済力のあるお財布だけど…」
リランは気まずそうにしていた。
「…全員で行けるのは、中々無いからな。」
ヒロキはリランを見て笑った。
おそらくヒロキはわかっているのだ。
ライガが何を選ぼうとしているのか。
ミヤビとのことをどうにかしようとするのなら、精鋭部隊の者に話してしまってもいいのではとも思えた。
彼等は…協力はしないかもしれないが、見逃してくれるかもしれない。
そして、自分の心が軽くなるかもしれない。
だが、言うのを躊躇ってしまう。なぜなら、もし精鋭部隊の者に止められたなら、諭されたならミラと逃げようと思っている決心が鈍る可能性が高いのだ。
ライガにとって、精鋭部隊の者達はそれほどまでの存在なのだから、仕方ない。
ライガたちは精鋭部隊の巡回のような行進をし、酒場に到着した。
店に入った瞬間、なじみの店主と、いつも絡んでくれる女性たちが笑顔で迎えてくれたが、直ぐに表情は固まった。
「失礼する。」
とジンが先頭で入ってきたからだ。
普通に考えて包帯で顔を隠した男が入ってきたらびっくりする。
まして、帝国騎士の精鋭たちがその後ろで縮こまっているのなら尚更だ。
「やあ。」
アレックスは引きつった笑いで、店主たちに挨拶をした。
「なーに飲もうかなー」
あからさまな棒読みでサンズは言った。
店にいた女性がライガたちに駆け寄ってきた。
「ねえ、ライガ君。あの人誰?」
女性も表情はただ混乱した顔をしていた。
「…彼は、私たちのリーダー。帝国騎士団団長よ。」
ライガではなくミヤビが答えた。
ライガはミヤビの方を振り向いた。だが、彼女は直ぐにそっぽを向いて歩き去ってしまった。
やはり、気まずい。
「え?団長さん!!…てことは王族!?」
女性は大声で驚いた。
それを聞いた店主は慌ててジンの前に出て頭を下げた。
「いつもお世話になっています。団長さんとは知らずに…」
「いや、気にするな。世話になっているのはこいつらだ。」
ジンは顎でアレックスとサンズを指した。
二人は気まずそうに頷いていた。
「包帯は意味不明だけど、素敵な人ね。」
ジンの対応を見て、ライガたちに話しかけた女性は微笑んだ。
「その包帯が決定的だと思うんだけどな…」
マルコムはジンに聞かれないように呟いた。
気まずさがあったが、お酒の力、アルコールの力は偉大だった。
そして、気まずさがあるからこそ、アルコールが回ると大惨事になる。
「聞いてくださいよー団長―。あの双子俺らに対する態度が悪いんですよー」
サンズはアルコールが回りきって呂律の回らない様子でジンに言った。
「サンズさんだけですよ。」
「そうですよー」
アランとリランはサンズを指さして言った。
「お前等未成年だよな。」
ジンは双子を見て言った。
アレックスは、いつもの調子で女性を口説きに行っている。ヒロキは女性に口説かれている。
「団長がいても、みんなあんな感じになるんだね。」
マルコムはライガの横に来た。
「みたいだな。」
ライガは思った以上にジンが仕事の時ほど威圧的でないことに安心していた。
「いいの?」
マルコムはライガに囁くように訊いた。
「何が?」
「ミヤビ、口説かれているよ。」
マルコムは、町の男に囲まれて飲んでいるミヤビを指した。
「いいんじゃないか?ミヤビも息抜きは必要だと思う。」
ライガはミヤビの様子を見て、なぜか安心していた。
「そうなんだ。…でも、君も彼女と話さないといけないんじゃない?」
マルコムはライガを横目で見て言った。
「…」
「俺は、二人のこと結構好きだからね。…ああ、ライガの方が好きだよ。」
マルコムは慌てて付け加えるように言った。
「何だよその補正。」
「安心して。俺は他人と恋愛関係になれる人間じゃないから」
「何の安心だよ…」
ライガはマルコムの意味の分からない補正に思わず笑った。
「なあなあにするの?」
「!?」
ライガは急に声色の変わったマルコムに驚き、彼の方を見た。
「…まあ、俺は君のそう言うところ好きだけどね。」
マルコムは慣れたようにグラスを傾け、酒を舐めるように飲んでいた。
「何だよ。急に。」
「君の、実は自分のことしか考えていない所。俺たちには決して見せない所とか…、何か奥底に潜んでいる黒い面が見えそうで見えない所…」
マルコムはライガを見てにやっと笑った。
「黒いならマルコムだろ。」
ライガはマルコムに言われたことを聞いてどきりとしたが、彼の表情を見て安心した。
「…ひどいな。」
マルコムは一瞬寂しそうな顔をしたが、グラスの酒を一気に飲んだ。
「ミヤビのこと…俺、やっぱり…」
「俺は分からないよ。さっきも言ったけど、俺は他人と恋愛関係を築けない人間だから…愛とかそんな問題はね。」
マルコムは自嘲するに言った。
「そんなこと分からないだろ。お前ならいくらでも…」
ライガはマルコムの優男というべき容貌、どう見ても色男に部類されるような甘いマスクを見て首を振った。
「俺“が”…無理なんだよね…。まあ、政略結婚ならするんじゃない?」
マルコムは口を歪めて笑った。
「…大変だな。」
「俺よりも、ミヤビとのことだよ。」
マルコムは空になったグラスを眺めながら言った。
「…分からないと言いながら、気にするんだな。」
「…俺は、君もミヤビも好きだからね。」
マルコムはやはり寂しそうだった。
「棘のあるいい方だな。お前の好きな人間が少ないようないい方だろ。未来の帝国騎士団を導く人間と言われる人間がね…」
ライガは彼の寂しさや、自嘲がわからなかった。
いつも優しく穏やかで周りを見ている青年であるマルコムは、今彼の言った自己評価が該当するとは思えないのだ。
「…そう思うのは、ライガだからだよ。」
マルコムはそう言うと、グラスを机に置いて歩き出した。
「さてと、俺はせっかくだから団長と腕相撲しようか。」
マルコムは小柄ながらも逞しい腕を振りながらジンの元に向かった。




