騎士の会話
騎士団の訓練場にはヒロキが一人でいた。
他の者は仕事で町や持ち場に出払っているようだ。
一人、剣を持ち、目を閉じていた。
身体を捻り、胴体、肩、腕、手首、剣と動いていくのに、全てが流れるように滑らかだ。
目の前にある人を模した丸太を斬り付けている。
「頭一つ分」
ヒロキは呟いて、丸太の斬り付け方を変えた。
丁度彼の頭一つ分大きい人間の首の位置に数回斬り込みを入れて、最後は心臓を刺した。
「同じ…」
ヒロキは呟いてまた斬り付け方を変えた。
次は彼と同じ身長を対象としたようだ。
斬り付け終わると、剣を高く掲げ上から振り下ろした。
だが、力が足りなかったのか、剣は丸太の途中で止まった。
「はあ。」
諦めたように剣から手を離してヒロキは手首、腕、肩をほぐすように振った。
パチパチパチ
拍手する音が聞こえた。
騎士団の訓練場は天井が高く、三階ほどの高さまで吹き抜けになっている。
その中で入り口の一階部分とは別に二階から入れる入り口がある。そこから下の訓練場にはアクセスできないが、訓練場を一望できるデッキがある。
「剣舞の練習か?感心だ。」
声の主は団長であるジンだ。
彼は包帯を外しているようだ。
「…あんたが包帯外しているってことはここ、今閉鎖しているんですね。」
ヒロキは二階のデッキ部分にいるジンに言った。
「だが、最後のはいただけないな。手を痛めるだろ?」
ジンはヒロキの言葉を無視して話し続けた。
「…ライガに言った方がいいのではないですか?」
ヒロキは諦めたような顔をしていた。
「何をだ?」
ジンはしらばっくれているのか、わかっていることのように笑みを浮かべていた。
「婚礼の一週間前の儀式の話ですよ。…あまりにも酷い。」
ヒロキは顔を歪めた。
ジンは何も言わず、デッキの柵に足をかけて、そのまま飛び降りてきた。
ダン
彼が飛び降りた音が響いた。
「一週間前に、お宝様の目を潰すことか?」
ジンは何でもないことのように言った。
「そうです。彼女は何も見えない状態で嫁ぐことになります。」
ヒロキは訴えるように言った。
「前のお宝様が不道徳な行いをしたのが悪い。」
ジンは口元に嘲るような笑みを浮かべた。
「外の任務に出た時にでも話すつもりだったんでしょう。あんたのことだ。やっぱり彼には甘いところがっ…」
ヒロキはジンを若干諭すような口調で言ったが、途中でジンが彼の口を手でふさいだ。
「それ以上は言うな。ヒロキ。」
ジンはヒロキの方を見て目を光らせた。
「黙らせたいならこのやり方はよくないのでは?」
ヒロキはジンの手を払って、呆れたように言った。
「俺が楽しみなのは、一週間後の儀式のときの催しものだ。お前の剣舞だ。」
ジンはヒロキを見て言った。
「そんなところに催し物をぶち込むなんて、あんたは何を企んでいる?」
「十分な隙が出来た方がいいだろう。俺がお前の剣舞の美しさを懇々と説明したら是非見たいと、そして、お宝様が最後に見ることになる者に相応しいということでな。」
ジンはヒロキが持っていた、丸太に突き刺さった剣を引き抜いた。
「やっぱり、あんたはライガに甘いですね。」
ヒロキはジンを見て笑った。
ジンは持った剣を振り、ヒロキの首元にぴたりとくっつく位置で止めた。
ヒロキは口元に笑みを浮かべたままジンを見ていた。
「まだ怒っているのか?」
「王都外の任務ですか?そりゃあ、出たかったですからね。」
ヒロキは口を尖らせて言った。
「恨むなら上を恨め。俺が出ることを止めやがった。何を不安に思っているのか…」
ジンはヒロキを見て口元に歪んだ笑みを浮かべた。
「俺も道連れですか。つくづく損な立ち位置だ。」
「そう言うな。お前の剣舞のお陰で、想い合う恋人が引き裂かれずに済むかもしれないのだからな。」
ジンは持っている剣の側面をヒロキの顔に撫でつけるように動かした。
「精鋭が儀式の見張りについて、あんたは王族について…なるほど。いい舞台ですね。」
ヒロキは感心したようにジンを見た。
「舞台か…そうだな。」
ジンは笑い、持っていた剣を床に落とした。
そして、その手をヒロキの顔に先ほどの剣のように当てた。
「…やはり、お前は美しいな。」
「いつも気になっているんですけど…団長とヒロキさんはどんな話をしているんですか?」
マルコムは正面に座るアレックスとサンズを見た。
「そりゃあ…ヒロキさんはいつも俺たちと任務の話と軽口と、俺たちの愚痴を聞いてるから…」
サンズは横に座るアレックスを見た。
「え?確かに。一緒に長く居るけどわからないな。ヒロキさんが俺たちと話していることと同じことを団長に話すとは思えないな。というより、話せないだろ。」
アレックスも考え込んだ。
「仕事の話は確かにしていると思いますけど、なんというか、想像できないですよね。団長はあの通り、すごく強くてすごく怖い。」
リランは頷いて横に座るアランを見た。
「そうだそうだ。団長は怖いけど、ヒロキさんはいい人。」
アランは頷いていた。
「先輩たちみたくわかりやすい人なら何話しているのか分かりやすいんですけどね。」
マルコムはアレックスとサンズを見た。
「考えると副団長って団長と一緒にいる時間長いんだよな。絶対になりたくない。団長はそりゃあ尊敬できるほど強いけどよ…一緒に長時間居たいかって言われると絶対に嫌な人だからな。」
アレックスは頷きながら言った。彼の横でサンズも頷いていた。
「荷台に乗っているライガは知っているのか?」
サンズは荷台の方を見た。
「俺らで知らないなら知らないだろ。それよりも、若い衆は普段どんな話しているんだ?」
アレックスはマルコムとミヤビを見た。
「俺たちはねー」
マルコムはミヤビを見た。
「ねー。スイーツの話とか、町でかっこいい男の子の話とか。面白い本の話とかね。」
ミヤビはマルコムに頷いた。
「お二人は仲いいよな。何というか、女同士の親友みたいだな。マルコムが穏やかだからか。」
サンズは感心したように二人を見た。
「こいつ穏やかじゃないですよ。」
リランはマルコムを指さした。
「先輩たちだって知っていますよね。騎士団腹黒男子ダントツですよ。」
アランもマルコムを指差して言った。
「その謎のランキング何だ?」
サンズはアランの方を見た。
「騎士団内でアンケートを取ってやっているんですよ。ちなみにイケメンランキングとか、美女ランキングもありますよ。美女はもちろん我らがミヤビ様です。」
リランはミヤビを両手で指した。
「女性が少ないから…仕方ないわよ。」
ミヤビは謙遜しながらもまんざらでもない様子だ。
「イケメンは?」
アレックスはそっちの方が気になるようだ。
「サンズさんは入っていませんね。」
リランはまずサンズを見て言った。
「それわざわざ言うか?」
サンズはリランを睨んだ。だが、入っていないことについては何となくわかっていたようだ。
「今は我らがライガ君が一位です。これは騎士としての強さで変動してしまうことがあるので、一概には言えませんがね。」
アランは荷台を指して言った。
「じゃあ、俺らはあいつをイケメン君と呼ぶか。」
アレックスは荷台を見て言った。
「おい、イケメン。荷台はどうだ?」
サンズは聞こえていないのに荷台に向かって言った。
「…なあ、ちなみに俺は?」
アレックスはリランとアランにこっそり訊いた。
ライガ:
帝国騎士団の精鋭部隊に所属する。小さいころからミラを守る立場にいた。短い栗色の髪をした茶色の目をした青年。
ミラ:
「お宝様」と呼ばれ、鑑目を持つ少女。真っ黒な髪と真っ黒な目をしている。王子に嫁ぐことが決まっている。ライガとは相思相愛。
ジン:
帝国騎士団団長。最年少で団長に就く。精鋭部隊の隊長でもある。栗色の長い髪を束ねており、瞳の色は顔にかかる包帯のせいで分からないが、色が白く線の細い輪郭をしている。王族の人間。
ヒロキ:
帝国騎士団副団長。精鋭部隊の副隊長でもある。長い濃い茶色の髪で切れ長の目をしている。全体的に細長い印象のある顔の造りをしている。ジンが気を許している数少ない人物。ライガとミラの関係に好意的。
マルコム:
精鋭部隊の一員。穏やかな青年。瞳も髪も茶色で中性的で幼い顔立ち。オールバックの髪型で、優し気な眉毛とたれ目をしている。
ミヤビ:
精鋭部隊の一員。隊の紅一点。赤みがかかった金髪で、目はグレーで中々の美人。厚みのある唇がチャームポイント。
アラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。リランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は黒。弟。
リラン:
精鋭部隊の一員。ライガの後輩。アランと双子。長い赤毛をポニーテールにして全部束ねている。瞳の色は茶色で髪を留めている紐の色は赤。兄。
サンズ:
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。硬そうな短い黒髪をして目も黒く、彫が深くて眉が太く骨骨しい輪郭をしている。
アレックス
精鋭部隊の一員。ライガの先輩。長い金髪と緑色の瞳で顔立ちがはっきりしている。




