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変日

作者: 夏野簾

 ある朝気がかりな夢から目覚めると蟲になっていた。

 なんていうこともなく、ただただ普通に目覚めた今日このごろ。あぁ今日も蟲にならないでよかった、なんて当然思うわけがなく、変わり映えのしない一日を過ごす予定だ。

 ときどき、そんな風にドラマチックな展開があってもいいんじゃないかって思う。蟲になるのはゴメンだが、それでも目覚めた瞬間、いろいろなことが変わっていたっていいんじゃないかって。

 例えば、定番のネタなら異世界に飛ばされていたりとか。とはいえ、異世界は色々不便そうだ。もちろん、なにか能力をもらえればいいのかもしれないけれど、多分普通の人が普通に異世界にいったらそうもいかなくて、もしかしたら異世界だと思ったらただただそこはアフリカの奥地だったとかいうこともあるかもしれない。誰かに拉致されて連れてこられても、状況認識が追い付かなければ異世界と大差ないだろうし、そうだとしたら言語が通じる保証はない。そう考えると、あんまりよくはなさそうなので、却下である。

 例えば子供に戻る。これはなかなかよさそうだ。できなかった、あるいはやり直したいことの一つや二つ、年を取ればあるだろう。今の知識でもう少し勉強してみてもいいかもしれない。だけど子供って残酷で、案外勘も悪くないから、中身が自分たちと違うんだってこと、気づいてしまうかもしれない。それに、よくよく考えると、私は従兄弟の小学生が嫌いだ。乱暴で、粗暴で、バカで仕方がない。そんな空間に同級生として一緒に過ごさなきゃいけないことを考えると、当時でこそ大丈夫だったけれど、とても今の価値観ではしんどそうだ。

 それなら、動物になっているのはどうだろう。言葉がしゃべれないのはいやだなと、あっさり反対。他にはなにかいいものはあるだろうか。

 結局、あれこれと考えてみたものの、今のままが一番だということに気が付いてしまった。つまらない日常。退屈な毎日。それでも、私はまさしくその退屈な日常というものに、あまりにも浸りきってしまっていた。全身ずぶずぶだ。とても抜け出せそうにない。それとも、抜け出そうとしていないのだろうか。

 そもそも、考えてみればある朝目覚めたら、なんて、他人任せもいいところだ。自分で環境を変えようとしない。環境が変わってくれるのを待っているだけだ。

 けれど、まぁそれはそれで一つの正解だろうとも思うし、自分が変われば何かが変わるだなんて――もちろんなにかは変わるだろうけど――幻想だ。そんなに劇的に変わるわけじゃないだろうし、例えば出家したりクリスチャンになったりしたとして、それは物の見方が変わっただけだ。結局のところ、私が変わろうが周りが変わろうが、実のところ大して変わっていない。

 大体、人間の一人や二人、どころか百人、はたまた一万人、死んだところであんまり影響なんてないんじゃないだろうか。実際、世界の一日の死亡数は十五万人程度だそうだ。日本だけでも三千人を超えている。もしこれが全員若い世代だったとしたらそれなりにショックがあるかもしれないけれど、やっぱりそれは部分的なものでしかないだろう。

 思ったよりも、世界はアバウトなようだ。だからきっと、しないよりはしたほうがいいんだろう。だって、私が何をしたって大して世界は変わらないのなら、そしてしなくたって同じなら、した方が多少はいいかもしれない。もしかしたら、何かが変わるかもしれない。

 そんな風に考えて、でも結局のところ、変えたい何かが分からない。ただ、私はいつもと同じということに不満があるだけなんじゃないだろうか。実際、厳密に言えば当然同じではないんだけれど、そういう細かいところは抜きにして。

 揺れる余地すらなさそうな電車に乗りながら、せめて通勤だけでも快適になってほしいと思った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 話の散らばり具合などが、うまくオチに繋がっていたと思います。この話の殆どが、電車内での思索だと。 [気になる点] 冒頭に何か意味があったかと考えてみると疑問です。 [一言] あらすじ先見て…
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