幸せな悩み
私は国内メーカーにするか海外メーカーにするか迷っていた。
実はこういうことだ。
今年は夏のボーナスが出たので、憧れの高級万年筆を買えるだけの資金ができたのだ。
だが困ったことに私には“いつか手に入れたい高級万年筆”の候補が2本あった。
普段は地方で勤めているので、都内出張で銀座に来ている今が年内ラストの購入チャンスだ。
新幹線の乗り継ぎを考えて猶予はあと2時間。
国内メーカーの万年筆は、名品と言われるだけはあって、よく手に馴染みインクもスラスラと出てくる。
黒を基調としたオーソドックスなデザインはビジネスシーンで使っても違和感がなく、実用的である。
海外メーカーの万年筆は何といってもデザイン性が際立っている。色合いの美しさ、
存在感は筆記具というよりは1つのアクセサリーと言っても過言ではない。
ただその分、普段使いには向かず、プライベートで使うのが中心になるだろう。
何度も試し書きをして、見比べているうちに残り時間は30分を切った。もう時間がない。
さんざん悩んだ末に、私は海外メーカーものに決めた。
確かに普段使いはできない。
だが
「この万年筆ならばプライベートで筆記する時、その瞬間を特別なものにしてくれる」
と思い、これを選ぶことにした。
これからの時代、国内だけを見ているようでは先細りだ。
海外にも目を向け、広い視野を持っていこう。
そうしたマインドづけの意味でも、1つのきっかけになるのではないだろうか。
私は緊張と興奮で震える手を長財布の中にあるクレジットカードへ伸ばした。