地獄の巨人(1/2)
何も無いはずの平地で近頃地震が相次いでいた。特にたいした影響はないものの人々はなにかわからない地震に不安を感じていた。そこで、冒険者組合はある男に調査の依頼を出した。
「今日は地鳴りが激しいな。何か起こるかもしれない」
男は独りでに呟いた。ここには男以外誰もいない。誰に向けての言葉なのか男自身もわかっていない。
そんなことを考え男は笑う。もしかするとかつての仲間達に向けての言葉かもしれないなと……。
山賊種の討伐依頼を終え帰って来た二人はルネミアの家で休んでいた。
本来ならリミルは自分の家に帰って休んでいるはずなのだが、ルネミアをこのままにしておくのは不安でしかなかった。
あのリュクスと言う名の吸血種の男にあってから様子がおかしい。ずっと、怯えている様子だった。
そんな彼女をリミルは見ていられなかった。
「ルネミア、しかっりしてよ!」
しかし、リミルの方を見るだけで何も答えてくれない。
「貴女がこんな調子でどうするのよ!私達の夢はこの程度だったの?!」
リミルがルネミアに対して問いかける。
ルネミアはリミルの方を見て泣いていた。ただ、涙を流すだけで返事はしないがそれだけでリミルは理解する。
――諦めたく無いけど怖くてどうすれば良いのかわからないのだと。
無言でルネミアに抱きつく。
二人はしばらくそのままの状態が続いた。
「リミル、ありがとう……」
「ううん、いいの。二人で頑張ろ?」
「……うん」
そんな短いようで長い一日は幕を閉じた。
朝早く二人は組合に来ていた。
組合に入ると何やら騒がしいように見える。
受付嬢に聞いてみると巨人種に似た異種族が暴れているらしい。
何人かの冒険者が依頼を受け行ったらしいのだが何人もの冒険者が重傷を負って帰って来たらしい。
近頃王都近隣で地震が相次いでいたのを一人の冒険者に調査を依頼したらしい。
その男は今医務室で寝ているらしいのだがまだ意識が戻らないらしい。
最後に男が組合に報告したのは巨人種に似た異種族が現れたことだそうだ。
その男は元黄金階級。
――ジル・ルディア。
ルネミア達のよく知る人物だ。
時間は遡り、ジルは震源地だと思われる平地の調査に来ていた。
この平地は特に何も無い場所のはずでこんな所にいくつもの地割れがあるのが不思議でしか無かった。
「ここで一体何があったんだ?」
思わず声に出してしまう。調査を続ければ続ける程何が起こったのかわからなくなる一方だ。
「なぁ、これ――」
誰かに声をかけようとして辞める。何故ならここにはジル一人しか居ないのだ。
先日ルネミアとリミルを見たときにかつての仲間を思い出していた。
ジルの姉ライナ・ルディアを筆頭に集まった四人のギルドメンバー、“黄金の輝き”。
ライナを除いた全員が黄金階級のギルドだ。
ライナは白金階級でかなり名の知れた冒険者だった。
ジルにとって憧れの存在であった。
10年前の怪物曲芸に行く時、行くのに反対する人もいた。しかし、ライナが助けに行くと言って聞かず俺たちはストレフィア王国に向かった。
今の俺ならばどんなことを言われようと止めていたかもしれない。止めれば良かったなどと何を言っても変わらないのに後悔してしまう。
奴にさえ出くわさなければ俺達はきっと生き残れたのだ。
「みなさーん、こんばんわ」
不意に空から声が聞こえてきた。
上を見るとそこにいたのは吸血種だ。
すぐさま臨戦態勢に移る。しかし、吸血種は攻撃をしてこない。
それどころか笑っていた。吸血種が何かをしたと同時に突然目の前に巨人種が現れ、そして俺達をバラバラに分けてくるのだ。
巨人種にそんな知能があったとは思えない。きっと、あの男の仕業だろう。
やっとの思いで巨人種を倒しライナの方へ向かうとライナが男に殺される直前だった。
俺は足がすくんで動かず結局自分の姉が殺される瞬間を見ているだけしか出来なかったのだ。
そして、次々と仲間が男の手によって殺された。
そして男は笑った。次はお前の番だと言わんばかりに。
俺は逃げることも戦う事も出来ずその場で立ち尽くしていた。
「君、つまらない」
男は俺にそう言って闇の中に消えてしまった。
思い出すだけで自分に腹が立つ。何も出来なかった自分に……。
俺は仲間の敵討ちとしてあいつを殺すことで仲間達に報いるつもりだ。
今は大事な依頼中だというのに何てことを考えているのだろうか。
「今日も進展無し……だな」
キャンプに戻ろうとしたその時地面が揺れた。
調査期間中に何度も地震はあったもののここまで大きな地震は今まで無かった。
きっと、何かが来る。俺は確信していた。
何かの爆発音のような音が響いたのと同時にマグマが噴射していた。
この地面のあるか下にマグマがあるのはわかっていたらしいのだが、王都が建国されて以来一度もこんなことは起こっていないらしい。
そして、そんなマグマの中から出てきたのは巨人種のような大きな身体が溶岩で出来ているかのように赤黒い身体をした生き物だった。
こんな生き物は今まで発見されていなかったし存在自体することなど誰も知らなかった。
「これはやばいな」
ジルは笑っていた。こいつを倒せればあいつに勝てる一歩になるんじゃ無いかとそんな事を考えていた。
「やれるところまでやってやるさ」
短剣を構えながら突っ込み腰に入れていたナイフを投げた。
《属性付与――爆破》
これはジルの得意技である。
赤黒い巨人種に当ると同時に爆発音が鳴り響いた。しかし効いている様子は無い、それどころかこっちに気付いている気配すらも無かった。
「ちっ」軽く舌打ちをする。短剣で攻撃をするも硬すぎて弾かれてしまう。
何度か攻撃をしてみたものの効いている気配はない。流石にここまで硬いと話しにならなくなってしまう。
それに、何故一切こっちに反応しないのか全くわからないかった。
一切動かないと踏んで攻撃の通りそうな部位を探していると突然スイッチが入ったかのように動き暴れ出した。
余りに突然過ぎて最初の攻撃の回避が遅れる。
ギリギリで回避出来たものの追撃は避ける事が出来なかった。
「ぐああああ」
今まで味わった事の無いような痛みが全身に走る。
一撃でこの様だ。動こうとすると全身を砕かれたような痛みで動くこともままならない。
そんな事で相手の攻撃は止まってなどくれない。続けてもう一撃食らってしまった。
これでまだ意識を失わないで生きていられたのはジルの死にたくないという執着からなのか単純にジルの肉体が頑丈なだけなのかわからない。
痛みと死という恐怖に耐えながらジルは王都に向かった。
途中で追いかけては来なくなったのは何故なのか。そんなこと今のジルに考えている余裕など無かった。
ジルの中にあったのは一刻もはやくこの事を組合に伝えねばという冒険者としての使命感だけだった。
平地は王都からさほど離れていないことに救われ半ば意識の無い状態でなんとか組合までたどり着いた。
「平地に巨人種に似た……異種族が……」
そこでジルの意識は途絶えた。
詳しい経緯を組合長からルネミア達は聞いたがどうするのか悩んでいた。
そんなやばい異種族相手に私達は勝てるのだろうか?という不安が依頼の承諾をするか決められずにいた。
「もちろん今回参加するのは君たちだけでは無い。白金階級から黄金階級の冒険者達も多く参加する」
「英雄階級の人達はどうしたのですか?」
「彼らは今帰還の要請を出して現在こちらに向かっているはずだ」
こんなところで怖がっていたってしょうが無い。それは、リミルも同じ気持ちだ。
「もし、無事討伐して帰ってこれたならば黄金階級までの昇級を約束してください」
組合長は少し困ったような顔をしていたが「わかった」と承諾してくれた。
二人を戦いの準備をし、地獄へと足を踏み入れた。
はい、恋夢です!
今回はジルの話しが主な内容となっております。
ジルはちゃんと目を覚ますのか。そして、ルネミア達はどうなるのか。
楽しみにしといてください!
それでは、また次の作品でお会いしましょー!