望まぬ再会(2/2)
「リミル、ここからは慎重に行こう」
私の提案に無言でうなずくリミル。
この先が危険なのはお互いが理解しているからだろう。
山賊種の住処なんだから当然だろう。しかし、彼女たちはそれ以上の危険があることまでは察知出来なかったようだ。
周囲に警戒しつつゆっくりと進んでいく。しかし、いくら進んでも何かが近づいて来る気配も見られてる気配も無い。
一体どうなっているんだ。
薄暗い洞窟を進んでいると少し先の所に明かりが付いているのが見えた。
「この先が一番怪しそうだね。気を引き締めていこう」
「うん。山賊種に囲まれても私達ならなんとかなるよ」
二人は気合いを入れて明かりのある場所まで行った。しかし、そこに広がっていたのは予想外の光景だった。
無残に転がっている数体の山賊種がそこにはあった。そして、その中心らしき場所には男が立っている。
赤い瞳に黒の翼……。
間違いない、吸血種だ。
吸血種の男はこちらに気付くなり、一瞬で間合いを詰めてきた。余りの早さに目で追いかけることなど不可能だった。
そして彼は口を開く「あれー、見たことある顔だなぁ」と……。
私の顔を間近で見ている彼からは異様な雰囲気が漂っていた。
「あぁ、久しぶりだね。ルネミア・ストレフィア王女。いや、元王女か」
それを言われた瞬間私は顔を強ばった。
隣にいたリミルは状況が把握できておらず一人きょとんとしている。
当然だ、リミルはルネミアの過去を何一つとして知らないのだから。
「違う、私はもうその名を捨てた。私の今の苗字はエレッジだ」
「なるほど。しかし、こんなところで会うなんて偶然だねぇ」
男はニッコリと笑って見せる。その笑顔に男の他意は無い。しかし、私は警戒せざる得なかった。
男は続いてリミルの方を見た。
「君、面白いねぇ。良かったら僕の実験に付き合わない?」
リミルはどう返答して良いかわからずしどろもどろになっている。
そして、リミルが返事を出す前に待ちくたびれたのか興味が失せたのか「まぁいいや」と言って視線を私に戻した。
「ルネミア、10年ぶりの再会だね。身体の調子はどう?」
この男は私の身体を心配して言っているわけでは無い。私の中に存在する吸血種の心配をしているのだ。
10年前私はこの男に吸血種の心臓を植え付けられた。そして「またね」と言って何処かへ飛び去って行ったのだ。
「問題無いわ」
私はこう答えざる得なかった。これは、過去に植え付けられた恐怖が彼女を縛り付けているのだ。
「そう、ならよかった」
機嫌良さそうに返事をする男に私は反抗する事すら出来ないという事実に絶望していた。
「あ、あの。二人はどういう関係なんですか?」
ここで、初めてリミルが口を開く。素朴な疑問だが、二人を見ていれば当然の疑問だろう。
そして、リミルは続けて口を開いた。
「それに、ストレフィアってあの10前滅びたというストレフィア王国のことなの?」
それは、冒険者なら誰でも知っているような話しだった。
10年前ストレフィア王国で起こった人類最悪の悲劇。
――怪物曲芸。
それは、悲劇。いや、悪夢と言うべきだろうか。それほどに人類を絶望させるような事件だった。
何故起こったのか、今でもわからない。わかっていることとすれば、多くの異種族が王国を襲ったという事実だけだ。
当時ルネミアは7歳である。それに、この当時は王国直結の娘、いわば未来の王女であった。
王国はいつものように賑やかに暮らしていた。そんなある日、空が闇に包まれた。
そして、現れたのは一体の吸血種。そう、今リミルとルネミアの前に立っている男である。
そして、男はこう告げた「今から楽しいパーティーの時間だ。楽しもうじゃなか!」と。
そして、それが合図だったのか次々と王国に異種族が押し寄せてきた。
当然、王国にも冒険者は存在する。しかし、一人を除いて山賊種を倒すので精一杯な奴らばかりだった。
そう一人を除いては……。
その男は英雄と謳われし8人の一人第8席に身を置く男。名はヴィルム・ストレフィア。
ルネミアの兄に当る男だ。
その男は山賊種等の異種族をなぎ倒していった。その姿を見た者達もやる気を出し少し希望が見えたかと思われた。
しかし、吸血種の男にあっけなく敗れてしまった。戦闘時間わずか10秒。ほぼ、一瞬である。
そして、王国はこの悲劇が始まってからずっと王都の冒険者に救援依頼を出し続けていたが、ほとんどの冒険者が地位や富に目が眩み拒否したのだった。
当時の冒険者はなれるだけで称えられる存在だったせいか国の中枢の存在だと言われてきた。が、この事件を境に冒険者の地位は剥奪されたのだった。
考えてもみれば当然である。国の要請のは答えるという暗黙の了解があったのにも関わらずそれぞれの私欲の為に拒否し、自分の地位や富を護ろうとしたのだ。
駆けつけた冒険者が到着した頃には半壊していた。可能な限り人を助けようとしものの全て失敗している。それも、冒険者の手で人が屠られていたのだ。
これは何が起きたのか未だにわかっていない。突然殺し始めたのだ。
外が悲鳴の渦に巻き込まれている中国王と王姫は居場所のわからなくなってしまったルネミアを探していた。
ルネミアを無事見つけ出せたののとほぼ同時のタイミングで国王と王姫が後ろから刺し殺された。
それは、狙っていたかのように絶妙なタイミングであった。
男はルネミアに挨拶をする。
「やぁこんばんは」
「貴方、誰?」
「僕はリュクス。君は?」
「私はルネミア・ストレフィア。お父さんとお母さんを返して」
「ルネミアか。僕の実験に付き合ってくれれば返してあげるよ」
「ほんとに?」
「あぁ、ほんとさ」
「じゃあ、付き合う」
その返事を待ってましたと言わんばかりに男は笑い出す。
それからルネミアは男の人体実験に付き合った。毎日悲鳴を上げ、そして気絶するまで使い潰される。
そんな言葉ではとうてい言い表せることの出来ないような苦痛と恐怖を味わい続けたのだ。
その結果が今の彼女である。
「とまぁこういう関係です」
リュクスは満足そうにリミルに向けて言った。
それを聞いて青ざめ今にも倒れてしまいそうな程の目眩に襲われた。
当然聞いていていい話でも何でも無い。しかし、リミルはルネミアの背負っている過去がどれほどの物なのかわからないなりに受け止めようとしたのだ。
その結果が倒れてしまいそうになっているのだ。
対してルネミアは溢れんばかりの恐怖をなんとか押さえ込み双刀の刀身をリュクスに向けた。
ルネミアに出来る限界はここまでである。これ以上は身体が動いてはくれなかった。
ルネミアはこの恐怖をいつまでも克服出来ない自分自身を責めいていた。
リュクスは向けられた刀身に一瞬殺意を放つが直ぐに押さえそして「またね」と言ってまた何処かへ飛んでいってしまった。
その場に崩れているルネミアをリミルはただただ見ていることしか出来なかった。
どんな言葉をかければ良いのだろうか。リミルにはわからなかった。
しばらくするとルネミアが無気力に立ち上がる。
「リミル、ごめんね……」
「ルネミアは何も悪くないよ。謝られるようなことされてないよ」
「そう……」
その後ルネミアが口を開くことは無かった。
はい、恋夢です!
今回は主人公の過去の話しになっています。
この作品の主軸になってくる部分です。
それでは、また次の作品でお会いしましょー!