二人の冒険(2/2)
「ここは……?」
意識を取り戻したのかリミルはゆっくりと目を開ける。
水の中……。そう、巨人種に吹き飛ばされて溺れてしまったのね。
ルネミアは近くにいない。多分何処か違う方向に吹き飛ばされてしまったのだろう。
早く合流しなくちゃ。
それにしても何だろう息苦しくない。ここは水中のはずなのに。
水面へ上がろうと身体を動かすが相当深く沈んでしまっていたのか水面が中々見えてこない。
そればかりか、本当に水面に向かっているのかすらわからなくなってしまっている。
必死に泳いでいると一体の人魚種がこっちにめがけて泳いで来る。
リミルはその人魚種に構っていられるほど精神的な余裕は無かったが、一応こっちに向かってきていることは視認していた。
(目が覚めたのね)
リミルの頭に直接話しかけてきているような感じがした。
これは、何の声?もしかして、あの人魚種の声?でも、異種族が喋るなんて聞いたことないし……。
それに、頭に直接語りかけてくるような感じだしなんだか気持ちが悪い。
(私の声聞こえてる?多分聞こえているはずなのだけれど)
そんな声が頭に響く、どうやら私の返事待ちらしい。
「私に何の用なの?」
しかし返事はない。多分聞こえていないのだろう。
しかしテレパシーのような事なんてやったこともないしイメージも出来ない。
こんなのどうやって会話をするんだろう。
頭の中で相手に送る感じで「何?」と送ってみようとやってみた。
(やっと、返事が来た)
どうやら相手に届いたらしい。出来たという喜びは多少あっても実感が全くない。
(息苦しくない?一応、水の加護はつけたけど)
さっきから全く息苦しくなかったのは水の加護とやらのおかげだったらしい。
「苦しくないよ。それで、私に何の用なの?」
(簡単に言うと助けて欲しい)
「えっと、巨人種を討伐してほしいって解釈であってる?」
(そうよ)
「でも、見ての通りこの有様だよ。今のままじゃ私達じゃどうにもならないよ」
(そこは私が少し貸してあげる)
「どうやって貸すの?それに貸すって何を?」
人魚種はリミルの質問には答えない。それどころか、人魚種の姿はもうそこには無かった。
何か変わった様子は感じられない。でも、不思議と安心感はあった。
とりあえず地上に戻ろう。
なんとか身体の回復が終わってリミルを探していた。
リミルどこにいるの……。
無事だと良いんだけど。
「リミル!いるなら返事して!」
返事は無い。
近くにいないのだろう。
すでに日は落ちていてこのまま闇雲に探しても見つからないだろう事はわかっている。
しかし、私は探すのは辞められなかった。
理由は簡単だ。心配だからだ。
別に私のせいで、とかは思っていない。二人で決めて受けた依頼だ。何が起こってもそれは二人の責任だ。
いくら歩き回って見つかる気配はない。正直体力的にも限界だ。
もしかしたらキャンプに戻っているんじゃ無いかと思ってキャンプに戻るもやはりリミルの姿は無かった。
非常に悔しいがここで倒れてしまっては意味が無いと私は自分に言い聞かせ目を閉じた。
しっかりと眠りにつくには時間がかかってしまった。
朝目が覚めると隣で寝息のような音が聞こえてくる。まさかと思って隣を見るとリミルが寝ていた。
「無事でよかった……」
私は安堵し軽く脱力した。
しばらくして、リミルが目を覚ました。どうやら、気絶している間にそこそこの距離を流されていたらしい。
これからどうするのか、私達は話し合った。
「ルネミア、私巨人種に再戦しようと思う」
「まだ、そんなこと言っているの?あんなの今の私達じゃ太刀打ち出来ないじゃない」
「そうだけど、まだ可能性はある。私を信じて」
信じてと言われても簡単にわかったとは言えなかった。
第一この短時間で何が変わったというのだろうか。人魚種との話しだって信じがたいものでしかない。
もちろん信じてあげたい。
だけど、信じれる範疇を超えているような話しだった。
こんな状況でなければ笑い飛ばしていただろう。
リミルの方を見るとまっすぐで迷いの無い視線で私を見つめている。
なんだろう慣れない……。
これまで二人で旅してきてわかったけどリミルは案外頑固だ。
一度決めたら中々譲ってくれない。
仕方無い……。
「わかった。リミルに賭けてみるよ」
「ありがとう!」
笑顔で返事をするリミル。どうも、気後れしてしまう。
「でも、私の武器はこの有様。正直何にも役に立たないよ」
「確かに……、それなら敵の攻撃を私に伝える役とか?」
「うーん、確かにそれくらいなら出来るかな」
「じゃあ決まりだね」
方針は決まった。だけど、肝心巨人種が見当たらない。
浜辺に姿は無く、前回のように海の方から歩いてくる気配もない。
一体何処に行ったのか。
しばらく探し回っていると何処かに繋がっているのかわからない空洞のような場所を見つけた。
中に入って見ると何も無いただの空洞としか言い様がなかった。一言で言うならとてもでかい。
巨人種だと思われる足音が聞こえる。
わずかな物陰に隠れて様子を伺って見るがたいした変化はない。ここが奴の寝床なのかもしれない。
「リミル、どうする?」
「やろう、私突っ込むからお願いねルネミア」
「任せて」
巨人種に向かって一目散に突進していくリミル。
リミルが刀をなぞるような動きを見せると水のような物が刀の周りに纏っているように見えた。
あれは何なのだろうか。
しかし、ここで余計な考え事をしている余裕はない。
私はリミルの戦闘に集中した。
人魚種が貸してくれた力が何なのか全くわからないけど、私は自分の愛刀御劔強化するイメージを脳内で描いた。
すると、水が刀の周りに纏っていた。
昔、かつてのパートナーから聞いたことがある。
自分の武器に特定の何かを付与する事が出来る人がいると。
それも、ごく少数の人物しか使えない能力らしい。
属性付与と呼ばれる能力なんだそうだ。
現に私が使って見せているのはその類いに入る物なのだろう、多分。
こんなに冷静にこんなことを考えていられる余裕があるなんてなんだか笑ってしまう。
「せいやああああ」
かけ声と共に勢いよく声を出して斬りかかった。
巨人種に確実に攻撃を当てた感触はあった。しかし、巨人種がダメージを受けているようには見えなかった。
一撃じゃダメ……かな。
でも感触的には悪くなかった。攻撃を続けるしかないかな。
「リミル、右から攻撃が来るよ」
ルネミアから指示が飛んできた。私に気付いた巨人種が攻撃仕掛けてきたみたいだ。
私にはこの攻撃が早すぎて視認できない。
だからこそのルネミアの目を頼りにしているのだが、それでもやっぱり反応が遅れてしまう。
ギリギリの回避でなんとか避けるがこの調子ではいつ攻撃を食らってもおかしくない。
巨人種の攻撃した後の隙はでかい。そこを狙って何度も同じ所を狙い続けた。
まだ、ダメみたいだ。
次の攻撃が飛んでくる。自分の後ろから「後ろに下がって」と聞こえてきた。
その意味を理解した私は即座に後ろに飛び退いた。
巨人種の周辺の地面が割れた。
飛び散った破片で髪を結んでいたリボンが千切れてしまった。
千切れたことによって結ばれていた赤い髪がボサボサになってしまった。
そんなことは今気にしてられない。
隙を突いて巨人種に斬りかかった。
初めて巨人種はよろめいた。
これならまだ勝算はある。
巨人種もまた初めてダメージという感覚を負ったのか鼓膜が破れてしまいそうなほどの雄叫びを上げた。
リミルは思う、ここからが本番なのだと。
しかし、やることは変わらない。一カ所を集中狙いし回避これを巨人種が倒れるまで続ける。
正直体力勝負だと言っても過言ではない。
しかし、やるしかないのだ。
巨人種の攻撃をルネミアの指示を聞きなんとかギリギリのところで回避している。
先程との巨人種とはまるで別の生き物だと感じさせるかのようにこっちに反撃させる隙を与えず、猛攻撃を繰り返していた。
完璧に回避しきれず何度かかすってしまう。その時の激痛だけで意識を持って行かれそうに何度もなった。
精神的な疲れが凄まじい。早期決着をしたいがそんな実力など持っているわけがない。
集中力が切れてきて属性付与も切れてしまいそうになっている。
だんだん巨人種の動きが鈍くなってきている。疲れて来ているのだろう。
攻撃をする隙間が少しづつ現れ同じ箇所を何度も攻め続けた。
時折見せる怯みの合間にさらに攻撃を繰り出す。
「せいやあああ」
叫びながら一撃を与える。
さらに巨人種がよろめく。私自身こんな感覚は初めてだ。
今度はこっちの番。
可能な限り攻撃を繰り返した。反応ある。
しかし、まだ倒れない。
起き上がろうとする巨人種。
一体いつになったら倒れるんだこいつは。
タフすぎる。
戦闘を始めてからもうすでに日は落ちている。リミルはもう体力の限界だ。
最後の力を絞って渾身の一撃を繰り出す。
しかし、巨人種は倒れてくれるなどしてくれなかった。
その場に座り込んでしまったリミルに容赦の無い一撃が飛んでこようとした。しかし、その直後巨人種の動きが止まり。
やがてそこに倒れてしまった。
勝ったのだ。これほど嬉しい物はない。
「やった!やったよ!」
嬉しそうに騒いでいる。そして、果ててしまった体力のせいでその場で寝てしまった。
ルネミアはルネミアで力を使いすぎて疲れてしまっている。
お互いがお互いの顔を見て無気力に笑う。
私達は勝ったのだと。
はい、恋夢です!
三日くらい空きましたが、その分のクオリティーは詰め込んだつもりです。
今回は主にリミルがメインになっています。それに、会話文がかなり少ないかと思います。
ほんとはもう少し先まで書いて置きたかったんですがキリが良かったのでこの辺りで切り上げました。
それでは、また次の作品でお会いしましょー!