冒険の始まり(2/2)
「はぁ……、はぁ……。うぅ、痛い。痛いよぉ……。お母さん助けて……」
「やぁ、こんにちわ」
またのあの日の夢だ。あの日以降この夢にうなされてばかりだ。
あの日の夢を見なかった日はこの十年間一度も無い。
それにしても、私は何故眠っていたんだ?
確か山賊種の討伐依頼を受けて森に行ったはずだ。
依頼が早く終わったから帰ってきた?いや、違う。
私はあのとき遭遇した山賊種に殺されかけたんだ。そこで……、そうか気を失ってしまったんだな私は。
それにしてもここは何処だ?
私は辺りを確認するためにゆっくりと身体を起した。すると、青年のような声がした。
「お、起きた。森の中で気絶してたみたいだけど大丈夫?」
どうやら助けてくれた人みたいだ。
「えぇ、なんとか。倒れているところ助けていただきありがとうございます」
私はお礼を言って荷物をまとめて立ち去ろうとした。
「きみ、あんな酷い怪我を負ってたのにもう動いて大丈夫かい?」
その質問に私は言葉を少し詰まらせしてしまう。
「だ、大丈夫です。動ける程度には回復しています」
嘘は言わない程度で私は返事をした。
男は疑惑の目を私に向けながら「ふーん。あんな傷を負って一日足らずで動けるようになるんだ……」などと一人で呟いていた。
恐らく、私の自然回復速度は一般的にみたら異常なのだろう。
これ以上いても仕方無いと思った私はここから立ち去ることにした。
「私はこれからやることがあるのでこれで失礼します。助けていただいてありがとうございました」
私は伝えるべき事を伝えその場を後にした。
私のやるべき事は二つある。一緒に来たはずの男達の捜索、そして山賊種の討伐。
山賊種が強いのは数時間前の戦かったことで良く理解している。
とりあえず、男の人達を探すの優先にしないと……。
もしかしたらもう……。いや、これを考えるのは辞めよう。
男達を探すために私は森の奥深くまで来てしまった。
近くで物音がする。私は慎重に物音のする方へ近づいて行った。
ある程度近づくと物音が止む。周辺を見渡すとそこにはぐちゃぐちゃに潰されて内蔵やらと臓器などが無残に散っている死体があった。
私はそれをみて思わず吐いてしまう。
気持ち悪い……。一体誰がこんなことを……。
いや、わかっている。山賊種がやったに違いない。ということは近くにまだいるのかもしれない。
ここを離れなければならないことは理解している。しかし、頭で理解していても身体が言うことを聞いてくれない。
どうしたら良いんだ。何か良い方法は?見つからない。とにかく一旦ここから離れないと……。
動いてくれ、お願いだ。このままだといつ殺されてもおかしくは無い。
動け、動けと何度も身体に言うことを聞かせ必死に身体を動かした。
ようやくまともに動けるようになってここから離れようとした刹那、後ろで爆発音がした。
爆発音とともに現れたのはさっきの男だった。どうしてここに、それに今の爆発音は一体……。
「全く、心配になって後を着けていたらこのざまだ。速く逃げるよ」
着けていた?どういうことだ?全く理解出来ない。
「どうしたの、早く!」
男の叫ぶ声で我に返った私は男に必死で着いていった。
「よし、ここまで来ればとりあえず安全だろう」
また。助けて貰ってしまった。
「さっきは危なかったね。何を見たのか知らないけどあんなところで立ち止まってちゃ山賊種の良い的だ。俺がなんとかしてなかったらきみ、今頃死んでたよ」
軽い説教を受けてしまった。見ず知らずの男から説教を受けてしまうなど恥ずかしいことこの上ない。
「二度も助けていただいてありがとうございました」
「そーやってまたすぐどこかに行こうとする。何を隠しているのか知らないけど、武器なしでどーやって戦うのさ」
よくよく考えて見れば私の短剣が何処にも無い。多分気を失った時に落としてしまったのだろう。
しかし、ここに長居していては男達が……。
「だから!直ぐに何処かに行こうとしないの!話聞くから出て行くのはそのあとにしろ」
確かに今の私では山賊種を倒すことは出来ない。やはり、ここは手伝って貰うしか無いのか。
私は、一人でどうにか出来る範囲を超えていると判断し男にこの森であった出来事を話した。
「なるほど……。それにしてももうその男達は生きてないんじゃないか?現に俺は一つ死体を見てけている。それも、きみが見たしたいと同じように無残に散っていた」
もし生き残っているとしたら一人だけか……。可能性はかなり低い。でも、生きてるかもしれないのだから探すべきだ。
「私一人じゃどうにも出来ない。だから、力を貸してほしい……です」
「わかった。それで、君の名前は?俺は、ジル・ルディアよろしくな」
「ルネミア・エレッジ……よろしく」
名前を聞いて何か首をかしげるように見えたけど気のせいだよね。
「それで、ルネミア。これから山賊種を狩りに行く。実はルネミアがさっき行ったところは山賊種の住処の直ぐ近くなんだ。だから、そこへ向かおうと思う」
「わかった。武器の無い私は一体何をすればいいの?」
「武器ならこれを使え。何をするって?一緒に狩りに行くんだよ。安心しろ俺がしっかりカバーするから大丈夫だ」
そう言ってジルが私に渡したのは一刀の短刀だった。丁度良いくらいの長さだ。
二人は準備を整え山賊種の住処へと向かった。
洞窟の中はやけに静かだ。奥に進むに連れて不気味さが増していく。
少し進んだ先でジルが足を止める。広間のような場所に出ていた。
なにがあったのかと覗き込むとそこにはとんでもない光景があった。
男の四肢を砕き玩具のように振り回している。時々鳴る何かが潰れる音、恐らく内蔵か何かが破裂しているのだろう。
男が死んだのを確認すると隅っこの方へ放り投げてしまった。
なんて、惨いの……。
私は腹の内から込み上げ来る感情を抑えきれなくなってしまっていた。
我に返った頃には山賊種達に囲まれている。
「おい、ルネミア!勝手に動くな危ねぇだろ」
上から降りてきたジルは至って冷静だった。どうしてこんなに冷静でいられるんだろう。
それが私には不思議で仕方無かった。
「ちっ、ルネミア背中任せたぜ。自分で巻いた種だ。しっかり、動けよ」
「わかった。できる限りのことはする」
一気に三人くらいで襲いかかって来る山賊種に私は避けることもままならなかった。かろうじて、致命傷を負わないので精一杯だった。
あんまり使いたくないけど……。
私は目を解放した。
一気に攻撃を仕掛けてくる山賊種の数は4匹。右に避ける?いやダメ。避けるなら、前!
直ぐに、攻撃を切り出されるだろうから次の攻撃のタイミングでまずは一匹仕留める!
見えすぎるが故に敵の動きが普通より遅く動いているように見えるこの目を使いこなさなくちゃ。
ここを、右に避ける。からの、一番近い山賊種の頭をめがけて短刀を突き出す。
「せいやああああ」
かけ声と共に短刀は山賊種の頭に直撃。
よし、まずは一匹仕留めた。
この調子で次も……。
突然、全身に込み上げる痛み。これが何なのか理解するのに数秒かかった。
死角からの一撃。
確かに直撃はした。痛みも尋常じゃ無い。だけど、まだ動ける。
ちらっとジルの方を見ると複数体の相手に少し苦戦しているようだ。
ジルに迷惑はかけられない。もっと頑張らなくちゃ。
死角からの攻撃に注意をしつつ目の前の攻撃を冷静に把握できた。
これは、上に逃げるしか……。
「ふっ」軽い息継ぎで私は上へ攻撃を避けた。高さが足りず軽く受けてしまうがこれくらいなら全然なんとかなった。
上からの突きを出すがあっさりと避けられてしまう。このままだと着地のタイミングを狙われてしまう。
どうするべきかと考えた私は短刀を投げた。
見事に的中させ、着地と同時に回避そして投げた短刀を拾った。
後二匹と思った矢先に他の山賊種達が現れた。このままじゃ切りが無い。
「きりねぇな。しゃーない、やるか。おい、ルネミア!俺の合図でできる限り高く飛べ!いいな」
「ちょっと、いきなり何?!説明してよ」
「そんなことしてる暇があるかっての。いいな?飛べよ!」
お互い山賊種の攻撃を避けながら、ジルは何かの準備をルネミアはジルの合図を待った。
数分してジルの合図が来た。
「飛べえええ!」
合図と共にできる限り高く飛んだ。
すると、下でとんでもない爆発音がした。爆発が収まると今度は洞窟が崩れはじめた。
「やっべ。走れえええ!」
「だったら、最初から出口に向かって走らせなさいよおおお」
なんとか脱出できたもの山賊種との戦いで体力は限界だった。
我ながら良く無事で脱出出来た物だと感心してしまう。
余りにも体力を消耗しすぎた私はその場に倒れ込んでしまった。
「まだ、倒れるのは早い……ぞ。仮キャンプ立ててそこで休まないと何かに襲われるかもしれない」
「そんなこと言ったってジルもくたくたじゃない」
「当たり前だ。もう動きたくないって思うほどにはくたくただ」
後残り少ない気力と体力で仮キャンプを立てて二人はそこで気絶したように寝てしまった。
朝起きると、木々の隙間から見える日差しが凄く眩しく感じる。
隣ではまだジルが寝ている。
帰って依頼達成の報告をしてって……そーいやどおやって報告するんだっけ?
あ、異種族の身体の一部を証拠として持って行かなきゃならないんだった。
やってしまった。戦うのと逃げるので必死になって何も素材を取ってない。
これじゃ、達成にならないじゃ無い。
こうして、私の初めての依頼は苦労が無かったことになってしまったかのように失敗に終わってしまった。
はい、恋夢です!
今回のは書いてて凄く楽しかったです!いやー、戦闘シーンものすごく書くの楽しいですね。
これから、戦闘シーンもっとたくさん入れて行きたいと思ってます。
それでは、また次の作品でお会いしましょー!