彼女の存在(2/2)
龍神湖は大昔に龍神種が造ったとされる湖だ。
特に異種族が蔓延っているという様な場所では無く、ある種の観光地とされている場所だ。
なんでも、龍神様の加護があるから異種族が少ないとか、色々言われている場所である。
そんな良い噂とは別に良くない噂も聞く場所である。
観光地に影響が出る恐れがあるため冒険者の間のみの話しにはなるが、別名帰らず湖とも言われている。
どこからこんな物騒な名前が出てきたかと言えば、過去に調査として派遣された冒険者達は必ず帰って来ないのだ。
不思議なのが冒険者だけだと言う所だ。
何故、観光に来ている人達は被害に遭わないのか、今でも謎のままだそうだ。
龍神様の呪いだとか言われているが、加護と言われたり呪いだと言われたり龍神様も大変だなぁなんて思ってしまう。
そして、私達三人は冒険者であるため、呪いを受ける可能性は十分にある。というのも、可能性は十分に高い。
寧ろ必ず遭ってしまうんじゃ無いかと不安に思うくらいだ。
三人はそんな事を十分に理解してここに来ている。
「ここから先は龍神湖だ」
「そうだね。必ず皆後で会おう」
「当然ですわよ。誰一人として欠けることは許しませんわよ」
当然だというように三人がうなずく。
三人の思いは一つ、必ずリミルを連れて帰ることだ。
三人は帰らずの湖と呼ばれた場所に足を踏み入れる。
そして、リミルはというと気がつけば何処かわからない所に来ていた。
私は何でこんな所にいるのか。
正直記憶が曖昧だ。
確か散歩に出て、それで帰る間際に頭の中で声を聞いて――。
そこから記憶が無い。
そして、気がつけばこんな所にいる。ここに何があるのかもわからないけど、意味も無くこんな所に来る事は無いだろう。
洞窟の様な場所を一直線に進む。すると、神殿のような場所に出る。
ほんとにここは何処なんだろうか。
少し先にいかにも怪しい扉がある。
恐る恐る開け中に入ると一人の男がそこには立っていた。
「待ちわびたぞ、古の巫女よ」
古の巫女……?
この人は一体何を言っているのだろう。
「あの、人違いじゃないんですか?」
「わしの声が聞こえているのに人違いも何もなかろうて」
「え、貴方。人間じゃないんですか?」
「わしは、龍神種じゃ。ディアルドと言う。覚えておらんのか」
「覚えて要るも何も始めましてですよ」
「レイラよ……。わしを覚えておらんのか?」
レイラ……。何処かで聞いた事ある名前だ……何処だったかな。
私は必死に記憶を探った。しかし、出てこない。
「私はレイラじゃなくてリミルです」
「知っておるわ。ただ、お主はレイラに良く似ておる」
そうなんだ。ってそこじゃ無くて今この人?この龍?わからないや。
私の名前知ってるって言ったよね。てことは私をここまで連れてきたのはこの人ってことでいいのかな。
しかし、一体何の為に……。もしかして、古の巫女と何か関係が……。
それ以前に、声を聞こえている時点でって言ってたし……。前にも似たよな事が……。
人魚種の時だ。私確か人魚種と会話したんだ。
あの時は人魚種が私に何かしたから出来たものだと思っていたけどもしかして私自身が異種族と会話出来るの?
そうだとしたら今まで退治してきた異種族と喋れた事になる。もっと他のやり方が今までもあった?
もしそうだとしたらレンも死なずにすんだんじゃ……。
「いつまで黙りこくっておるのじゃ」
「あ、ごめんなさい。考えごとをしてたんです」
「まぁ、思うところは沢山あるじゃろ。だが、そんなことを考える必要はもう無いんじゃ。お主はこちら側に来るべき人じゃ」
「こちら側?」
「そうじゃ、龍神種と人間の混血の娘よ。わしらの元へ来い」
え、私が龍神種と混血?つまり、半人の異種族みたいな存在ってこと?
頭の上に疑問符が沢山浮かぶ、それと同時に受け入れがたいことだと頭が判断している。
「聞こえておるのか?お主はこちら側に来るべきなのじゃ」
「こっち側?一体どういうことなの?」
「お主は人間の住む所にいるべきでは無いのだ。よいか?お主一人で世界をひっくり返すことが出来るのじゃ。そんな事をしったら有権者が黙ってはおらんだろう。だからこそお主はこちら側にくるべきのだ」
世界をひっくり返すことが出来る?話しのスケールが大きすぎて正直思考が追いつかない。
私は一体どうすればいいんだ。
私には大切な仲間がいる。
ルネミア、師匠、リアさん。皆を困らせる事は出来ない。
きっと今だって私がいないことで大騒ぎしているはずだ。だからこそ、私は答えが出せないでいた。
「ちっ、招かれざる客が来たようじゃ……」
目の前の男は舌打ちをし、邪魔が入ったと言った。
ルネミア達が来てくれたの?だけど、私はどういう顔をしていればいいんだろう。
「お主はここで待っておれ、わしが片づけてくる」
男はそう言ってこの部屋を後にした。
三人は龍神湖に入るなり、手分けして探すことにした。
固まって動くよりも効率が良いからだ。
正直ちゃんと合流できるのか不安はある。でも、各々がそれぞれの覚悟を持ってここに来ているんだ。
そんなことで、止めてはいけない。そんな気がしていた。
辺り一帯を隈無く探しながら歩いていると、何かをすり抜けた様な感覚に襲われる。
まるで薄い壁を幽霊の様にすり抜けた様な感覚だ。
違和感はあるものの、身体に違和感があるわけでは無い為、探索を続ける。
少し探索してわかったのが風景がさっきと全く違うという事だ。
それに、こんな洞窟の様な場所はさっきまで歩いていた近辺には無かった。
ここに何かあるのでは無いかと私は考えている。
周りを警戒しながらゆっくりと進むと正面に明かりが見えてくる。
そんなに距離がある場所では無かったのか……。
洞窟を潜り抜けた先は、神殿の様な場所だ。
先ほどの明かりはきっとこの松明の明かりだろう。
以前入った神殿とは違い、この神殿はかなり明るい。
辺りを見渡していると足音が聞こえる。
確実にこっちに向かってきている音だ。
「誰?」
私の問いに姿で証明する。そう、目の前にいるのは龍神種だ。
「っ龍神種が何故こんな所に……」
龍神種が吠え、こちらに突進して来る。
直ぐに構え応戦しようとするが早すぎて何も出来なかった。
「がはっ」
勢いよく吹き飛ばされ、壁に身体を打ち付けられ尋常じゃ無い痛みが身体全体に走る。
身体なんてもう動かない。たった一撃でこの有様だ。
相変わらず自分の無力さには反吐が出る。
辛うじて意識があるのが奇跡というべきだろう。
力の無い瞳で龍神種を見る。しかし、そこにいるのは龍神種では無く男が立っていた。
そして、男は問う。
「お前は何者だ。人間の殻を被った吸血種よ」
しかし、私に答えられるほどの力は残っていない……。
「久しぶりじゃないディアルド。まさか、私を忘れたの?」
答えることなど出来ないはずなのに私は答える。しかも、私じゃ無い誰かが答えているかの様に。
「まさか、お主とこんなところで再会出来るとはのぉ。リュルよその身体はお主の身体にしては脆いようじゃな」
「余計なお世話よ。私は案外この身体気に入っているのだから」
「そうか、それで?何しに来た」
「ここに来たのは私ではないわ。この身体の持ち主だもの。私は一定の状況下でしかこうやって喋ることも身体を動かすことも出来ないのよ」
「それは、実に興味深い話しだ。しかし、不便な身体じゃな」
「私の勝手よ。ここに何に来たのか私では無くこの身体の持ち主に聞きなさい。私はこれで失礼するわ」
身体の自由が戻った。一体さっきのは誰だったのか。恐らく私の中の吸血種なんだろうけど、どうして突然出てきたのか。
そんな事を考えるのは後だ。今は目の前にいる男と対峙しなくてはならない。
「お前はここに何しにきたのだ」
「リミル、私の仲間を探しに来たの」
「そうか、残念だがそんな奴はここにはいない。お前の中にいるリュルに免じて帰るがよい」
「悪いけど、ここを探索させて貰う。じゃないと帰れない」
男が私の真横を殴る。
「さっさと帰れ」
「いやよ。探索されて困ることでもあるの?」
「生意気な……」
男が口籠もったのを私は見逃さなかった。
「リミル!!いるの?」
私は今対峙している男との恐怖を吹き飛ばす勢いで力一杯叫ぶ。
「やかましいわ!ちょっと優しくすれば調子に乗りおって、お前さんはここで終わりじゃ!」
男がルネミアに向かって殴る。
パーンと大きな音が鳴り響いた。
「リミル!!いるの?」
リミルは扉の向こうから聞こえてきた。大きな声に反応する。
ルネミアだ。聞き間違えるはずなんて無い。
私は飛びだし声のした方へ一心不乱に走った。
私が着いたのはルネミアが殴られる瞬間だった。
無意識に身体を動かし男とルネミアの間に入る。それに驚き慌てた男が攻撃をそらし壁に拳がぶつかる。
パーンと壁が砕ける音が神殿内に鳴り響く。
「お主はあそこにおれと言ったじゃろうが」
「仲間の声がしたから私はここに来たの。仲間に手を出すなら貴方は敵だ」
男は何か言いたそうにこっちを見ているだけで何も言わない。
「リミル良かった無事で」
「ルネミアこそボロボロじゃない。いつも無理するんだから」
「ここから出よう?」
「そうだね。だけど、やること済まさないとね」
リミルは男と向き合う。
「私はやっぱり仲間と一緒に冒険がしたい。だから、そっちには行けない」
「お主は龍神種と人間の献血なのじゃ。あそこに居てはならん」
「私には仲間が居る。一人じゃないんだ!だから、私はどんなことがあっても仲間と一緒に過ごしたい!」
「しかし……」
「私からもお願いする。リミルは私の大切な仲間。だから、ここで失うわけにはいかない。どんな事情があろうと私達は必ずそれを守ってみせる」
「お主が背負おうとしている物は人の手に負える物では無い」
「それなら大丈夫。私は吸血種だから」
二人は男に頭を下げる。男とて、こんな状況を望んだわけではない。ただ、この世の安寧を思っての行動でもあるのだ。
だからこそ、引き下がれないものがある。しかし、まだ任せても大丈夫かもしれないと心は揺らぎつつあった。
「わかった。だが、ダメだと思った時は容赦なく連れて行くぞ」
二人の顔が明るくなる。なんとかなったと喜んでいるのだ。
「一つ注意することがある。いいか、なんとしてでもこのことが公に出してはならぬぞ。困るのはお前達なのだからな」
「わかりました。ありがとうございますディアルドさん」
「お主の仲間だと思われる二人は既に入り口に着いているはずじゃ早く行け」
私はルネミアに肩を貸し、一緒に歩いた。
洞窟を抜けるとそこは入り口に繋がっていた。
まるでワープしたような気持ちになる。
「おーい!二人とも−!」
「リミルですの?無事で何よりですわ!ルネミアもお疲れ様ですわね。こんなにボロボロになっちゃって……」
「こりゃ、大変だな。一体何があったんだ。俺たち二人は気がつけばここに戻って来ていたんだ」
「帰ってから話すよ。それよりも帰ろう」
私達四人はゆっくりとギルドホームまで帰った。
はい、恋夢です!
今回はめっちゃ楽しく書きました!何というかこう言った話しを書くのって凄く楽しいです。
さて、中盤最初のストーリーは如何だったでしょうか?
そして、次はリアの話しになってます。どんな話しになるのか楽しみしといてください!
それでは、また次の作品でお会いしましょー!