彼女の存在(1/2)
「逃げて……!」
女性が私の方を見て叫ぶ。
その延長線上には何かわからないが、恐らく異種族だと思う。
確認しようと動こうとしても私の意思でこの身体を動かすことは出来ないみたいだ。
女性が目の前で無残に殺される姿を呆然と眺めていた。
この身体を動かしたいけど、私の意思では動かす事は出来きない。
この場所から見えるギリギリの所に男性が倒れているのが見える。
辺りを見渡しながらコツコツと徐々にこちらに歩いて来る音が聞こえる。
目が合う。
その鋭い目を見て私はぞわっとした。
しかし、この身体は動かない、目をそらそうとしない。
一体どうなっているの?
私の方を見て彼は微笑む。
「やっと見つけたよ。さぁ、私の元に来るんだ」
リミルは目を覚ます。なんだか、気分があまり良くない。
きっと、あの夢のせいだ。寒気が凄い。
それとは別にこれは私へのメッセージだともとらえることが出来る。
私の深読みしすぎだろうか。
しかし、考えておくことに超したことは無い。
「リミル、起きてる?」
ノックをしながらルネミアが私を呼んでいる。
あぁ、そうだ。私達は今一つ屋根の下で過ごしているんだ。
頼れる仲間が近くにいるじゃ無いか。
私は誰も見ていないのに笑顔になる。
「今行くよ、先にご飯食べてて」
「わかった。早めに来てね」
「うん!」
取りあえず着替え、皆の集まる所へ向かう。
案外広くて迷いそうになるが流石に道は覚えてきた。
広間に来ると三人が話しあっていた。
「取りあえず、地図はなんとか手に入ったがこれ、大雑把過ぎないか?」
「でも、無いよりましではなくて?」
「そうだよ、無いよりはましだね。でも、文句言いたくなる気持ちはわかるわ」
どうやらジルがなんとかして手に入れた地図に文句を言ってるみたいだ。
そんなに酷いのかな?
少し後ろから地図を見る。
確かにこれは酷い。こんなのが役に立つのかどうかで言えば立たなさそうとしか思えない。
「リミルおはよう。起きたんだね」
「うん、おはよう」
こんな風に過ごせるなんて前は思ってもいなかっただろうな……。
「ねぇ、これ見て。酷くない?」
私に先ほどの地図を見せる。さっき一応見たけどね。
「そうだね。これじゃ、大雑把過ぎて使い物にはならないね」
リミルの方を見ている三人に私は微笑む。
「どうしたの?良いことでもあった?」
「うん。ちょっとね」
「そっか。良かったね」
そのあとは今後どうしていくかについて話しあった。
吸血種の事、悪魔種の事、私達にはやらなければならない事が山積みになっている。
それに、ルネミアは英雄になるという夢も持っている。
一応、皆にはまだ内緒だと口止めされてはいるから知ってるのは私だけだけど。
何で言わないのか聞いたら皆を驚かせたいし、現実的に可能な所まで私達が来たら伝えたい。なんて無邪気笑いながら言っていた。
「あ、今日の晩ご飯どうするよ」
「私作って見たいですわ」
「リアご飯作れ無いじゃん」
「あ、あのときはちょっと失敗しただけですの!」
「それじゃ、皆で作ろ?」
「それ良いね。流石リミル」
「それで、良いんじゃないのか?俺は出来るまで色々整理しておくよ」
「ジルも一緒に作るのよ」
「はぁ?!女三人に囲まれて男一人で台所に入るって厳しいものがあるだろ」
「いいじゃんか」
「第一、そんなに台所広く無いだろ。四人も入った熱いわ」
皆それぞれ楽しく過ごしているんだね。それにしても師匠とルネミアはほんとに仲がいい。
見ていて微笑ましい。
「ふふふ」
「リミル、私達見て笑ったでしょ!」
「ごめん、面白かったからつい」
「どこがよ。リミルからも言ってやってよジルったら意地でも来たがらないんだから」
「えー……」
「なんでちょっと嫌そうなの?!」
「師匠意固地だから私が言っても来ないよ。もう、三人で作っちゃおうよ。ほら、早く行かないとリアさんが勝手に始めちゃう」
「あ、ほんとだ。リアいないじゃない。リア待ちなさいってば」
ほんとにここは平和だ。こんな平和がいつまでも続けば良いのにね。
私は朝の不安は和らいではいるもののやはり拭い切れないものでもあった。
――やっと見つけた。わしの元にくるんじゃ。
この言葉が引っかかって仕方が無い。
これから何かが起きるそんな嫌な予感がする。
晩ご飯も食べ終わりそれぞれがそれぞれの部屋で休む。
皆はもう寝てしまったのかな。
なんだか眠れない。
少し、外に出て気分転換でもしようかな。
扉を開け外に出て軽く散歩をする。
気分もすっきりする。今寝ればなんだか気持ちよく寝れそうな気がする。
――こっちに来い。
頭の中に声が聞こえる。
夢で聞いた声と同じ声だ。
どうするべきか……。
一旦戻って皆に話しをするべきだろう。
――何処へ行く?お前はこっちに来るべきじゃ。
私を呼びかける声。
私は無視してギルドホームまで走ろうとする。
しかし、私の前に二人の大人が立っている。
「……誰?」
誰かわからないのに酷く動揺してしまった。
「……誰なの?」
問いかけるが返事は無い。無言でこちらに向かって歩いてくる。
「こ、こないで!」
振り払おうとするが、そのまま抱きつかれてしまう。
この懐かしい匂い……。
「お父さん、お母さん……?」
二人は私を見てニッコリ笑う。
抱きつき返そうとするとふれ瞬間に二人が霧散した。
「消えた……?」
何処に行ったのかと辺りを見渡せば少し離れたところで歩いているのが見える。
「待って……。待ってってば!」
気がつけば私は夢中で二人の後を追っていた。
朝、目覚めると私は皆を起そうと部屋を回る。
リミルの部屋をいくらノックしても返事が無い。
まだ寝てるのかな?
扉を開こうとするとすんなり空いた。
どうやら、鍵はかかっていないみたいだ。
部屋に入るとそこにリミルの姿は無かった。
「どういうこと……?」
私は慌てて二人を起こしに行く。
「二人とも!リミルがいない!」
「はぁ?!どういうことだ。詳しく説明しろ!」
「そんなのわからないわ」
「くっそ……。どうしたんだよ。あいつ……」
「そんなことしてる暇ありませんわよ。とにかく王都内をまずは探しましょう」
リアの一言に二人は頷く。
手分けして三人は王都内を走り回り色んな人に「リミルを見なかったか」と聞いて回った。
しかし、三十分探し回って誰も見ていないと言う。
再度集まり戻った三人は他に探して無いところが無いか確認しあう。
「南門の方って誰か行った?」
二人が首を振る。
「じゃあここが王都で最後の所ね」
南門の付近の人に尋ねても誰も知らないと答えるだけで、収穫は無い。
しかし、南門の警備兵に尋ねて見たところ夜中に誰かが南門を潜ったらしいと言った。
赤髪の小柄な少女が潜ったらしい。
リミルの見た目と一致する。
潜ったのはリミルで間違いは無いだろう。
問題は、何処に向かったか、だ。
ほとんど使い物にならない地図を拡げ、私達は模索する。
「夜中ならまだそんなに遠くに行ってないはずだ」
「そうだね、それにこの辺りで一番近い所といえばここだね」
「あぁそこだな。というかこの辺りじゃここしか行く所がないと思う」
「それには同意だわ。行こう、龍神湖に」
三人は直ぐに準備をし、龍神湖に向かった。
はい、恋夢です!
今回の話しの主軸はリミルになってます。
リミル視点でこんなに書いたのは初めてな様なきがします。
そして、ここからいよいよHELDは中盤に入って行きます。楽しみにしといてくださいね!
それでは、また次の作品でお会いしましょー!