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彼女

作者: 中川夏希

毎週土曜日にいつもの場所で待ち合わせをする。約束された1時間前には既に待ち合わせ場所に着き、適当に過ごす。

「おまたせ」

時間ぴったりに僕の目の前に現れたのは柊美咲だ。一年前に僕から彼女に思いを伝え今日まで交際をしている。

「ごめん、待った?」

「いや、僕も今来たところだよ」

漫画やドラマでよくある台詞で誤魔化す。今日は彼女の希望で最近できたスイーツカフェに行くことになっていた。

「そのお店ね、沢山ケーキがあって全部美味しいらしいんだよ。楽しみだなあ……」

「本当に美咲って甘いもの好きだよね。太るよ」

「いいの! 甘いものは別腹って言うでしょ?」

そんな話をしているうちにその場所に着き中に入った。

「予約した柊です」

店員は予約リストを開き言われた名前を確認をする。確認を済ますと席に案内された。

「美咲はここに来たことあるの?」

「ん、ないよ? 私も初めて」

並べられたケーキの内、食べたいものをトレーに運び席に戻る。

「ねえ、この前の事なんだけど……」

「この前の?」

話を逸らそうとした僕だったが、当然覚えていた。

一週間ほど前に僕と彼女は初めてケンカをした。僕と彼女の共通の友人の家に行った時のことだ。僕が寝ている間、彼女はその友人と浮気をしたと事実を知り、別れようと話をしたのだ。

「本当にキス以外何もしてないからね。信じてほしい……」

「分かってるよ。僕と間違えたんだもんね?」

自分と友人を間違えた。それが原因だったと結論に至り彼女を許した。

「本当にごめんね」

「もういいって」

今にでも泣きそうな彼女。それを笑って許す。でも何故か腑に落ちないところがあった。それが自分でも分からない。

「本当に優しいよね。普通だったらすぐ別れるのに許してくれるなんて」

「信じてるから許せたんだよ。その時の感情で終わらせたくもなかったし、美咲がそんなことするわけがないって分かってるから」

彼女がその言葉で笑い、目の前にあるケーキを頬張る。幸せというのはこういうものだと実感していた。

その半年後。彼女との交際に終止符が打たれた。今度は僕が浮気をしてしまった。ひょんなことで他の女性と関係を持ってしまい、罪悪感に押しつぶされてしまい彼女にその事を正直に話した。僕も許したんだ。きっと彼女も許してくれる。と、安易な考えをしていたこともあったのか、彼女の言葉が酷く重たかった。

何をしているだ、僕は。と、自分を責めたこともあった。僕を信じ、ここまで付き合った彼女に酷い事をしてしまった。僕の考えと彼女の考えにどこかズレがあったと、価値観が違った。

一週間、そのショックから立ち直れずに部屋に閉じこもった。吹っ切れた……訳ではないが、彼女が新しい男と付き合ったと聞いた時に本当に終わったと感じてしまい一週間後にはスッキリしてしまった。

「やっと来たな、振られ男」

「うるさいな。泣くほど好きだったんだよ」

僕らの中では既に笑い話になっていた。

そして高校を卒業し、大学に進学。新しい彼女ができた僕は前回の失敗を繰り返さないようにと、心に決めていた。でも何かが違う。美咲とは違う何かがあった。

「どうしたの?」

考え事をしている僕に、梓が問う。

「ねえ、僕って梓のこと信じていいんだよね?」

「何言ってるの? もしかして私が浮気でもすると思ってるの?」

「そういう訳じゃないけど、なんか引っかかるんだよ。付き合ってから起こる不安感って言うのかな? 僕もあんまり分かんないけどそれがあるんだ」

寂しい顔をする梓は足を止めて言った。

「それって前の彼女さんのことがまだ好きなんじゃない?」

「好き……なのかな? でも俺は未練なんてないし、今好きなのは梓だけだよ」

口では言ったが、頭の中は分かっていなかった。誰が好きなのか。

「前の人のこと忘れて。私だけを見て。あなたが今思ってるのは勘違いだよ」

「ごめん、やっぱり梓のことが好きだ。忘れて」

それ以来この話をすることはなかった。

付き合って二年が経った。今も昔と気持ちが変わることなく、付き合えている……はずだった。

今の彼女にも以前と同じ感情を持ってしまい、その昔から胸の中で突っかかってる事がようやく分かった。単に彼女の事を信じていなかったのだ。そう言う勘はよく働く。

夜の十時。梓に電話をした。

「もしもし、どうしたの?」

「今どこにいるの?」

「どこって家だけど?」

勿論彼女はそう答える。

「本当に家なの? 今から行っていい?」

「今から? うん、いいよ。待ってるね」

彼女の了承を得て、真実を知るために家に向かった。

車を急いで走らせ、十分足らずで家に着いた。インターホンを押すとパジャマを着た彼女が出てきた。

「どうしたの? いきなり」

その姿を見た僕は安堵な顔をする。僕が思っていたのとは違ったのだと。

その一件の事もあり、それから何事なく時間が過ぎる。彼女も僕のことが好きなんだと言い聞かせていた。

それからも電話をすると、家にいると答える彼女。その度に安心を感じる。幸せと感じる。いい彼女を持ったと心から思った。


電話が鳴る。電話に出ると一人の男がもしもしも言わずに聞いてきた。

「どこに居る?」

「ん、家だけど?」

電話を出た隣には、彼氏ではない男の人がいることは彼氏は知らない。彼氏の話をこの人にして今日も眠りにつくことしよう。

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