ゆっくりと朽ちていく
窓の外には雨が降っていた。
僕達には家の外で起こっている事より、家の中で起こっている事の方がエキサイティングで楽しかった。僕達は…引きこもりだった。
家の中ではあらゆる事が起こる。六畳のアパート。ここは全宇宙よりも、広く大きい。ここではどんな事も起こる。どんな事も体感できる。あらゆる宇宙がこの中で輪廻し、回帰し、接続し、果てしなく流れていく。
…昨日、僕はウィトゲンシュタインと仏教哲学の間にある類似性に気付いた。一昨日、僕は古代の人々が見ていた神の姿を見た。書物の奥にそいつはいた。
…現代の人々はある種の妄執に囚われているが、それは過去の妄執と何ら変わるものではない。科学があらゆる未探索の領域を制覇したと人々は考えた。それによって、世界はより深い「闇」に囚われた。世界は闇に覆われている。
一部の人達が、AIが人間の代わりになると極論していた。人工知能が人間を越える事を恐れている人もいた。…僕は、嘲笑う。
人工知能に頼るまでもない。人間自体が、自ら、ロボットに近づいている世界では、ロボットが人間の代わりになるのは至極当然の流れだろう。…昨日テレビを見ていたら、アンドロイドのようなお飾りタレントがピーチクパーチク喋っていた。アンドロイドにしたら、「劣化」する事もなかろう。
一時的な刺激を求めて群がる人々の中に可能性があると、「知識人」と呼ばれる預言者が叫んでいて…僕は薄く嘲笑う。その先には何があるのか? …歴史は色々な事を教えてくれる。全ては、ポンペイのように、火山の灰を被って終わっていくだろう。せいぜい、今の内に騒いでおくんだ。パーティーの時間がいつまでも続くとは、現在の最も甘い夢だろう…。
窓の外には雨が降っていた。
僕達は家の中にいた。外に出るつもりはなかった。ただ僕は…こんな風に…家でぶつぶつつぶやいているだけなんだ…。
僕は家の中で静かに、静かに朽ちていった。植物のように、ゆっくりと萎れて、腐っていった。
僕は時の中で少しずつ終わっていった。
僕達はそれでも、家の外には出なかったんだ。臆病だったから。外では「戦争」が起こっているかもしれなかったから…。
僕はゆっくりと朽ちていった。
僕達はゆっくりと朽ちていった。




