ガルダ「とんだ、大仕事だぜ!」
プロローグを最初に書きました……一月八日十時十三分
マキシムと別行動を取っていた、カナタとリーリアは街の入り口である門の前に立っていた。
「なあ、さっきの、魔物かなんかなんだろ。マキシムを一人にしてよかったのか?」
「ええ、あれが魔物だとしても、こちらに街を脅かす魔物の軍勢がいることは変わりませんから。それに、マキシムさんが任せろといったのですから、そうするしかないでしょう」
「それもそうか……」
「それよりも、カナタさん」
リーリアはステータスカードから愛用の杖を取り出す。
「魔物を殺す覚悟、できたんですか?」
「……分からない」
「そうですか、では、足手まといですね」
リーリアはフードを深くかぶる。
「そこで、見ていてください。英雄の戦いざまを、この世界を守る戦士たちの戦い振りを」
そういって、リーリアは魔法を使い空中浮遊をしながら、魔物の方へ向かっていった。
「見てろって……」
リーリアの言われた通り、戦場を見れば、そこには大量の魔物と、勇敢な戦士たちがいた。
先ほどまで、ギルド内で、酒を飲んで酔っ払っていた人が、半分眠っていたような人が。
剣を握り、
杖を握り、
故郷のため、
同郷の民のためと、
彼らは、猛る。
「何が為に、戦うのか……」
カナタの答えは、いまだに出ない。
しかし、英雄候補は戦場に駆け出した。
✴︎
リーリアは、空の上から、静かに戦況を見つめる。
「降雷の陣」
街の人々に当たらぬよう、いまだ戦場になっていない場所にいる、魔物の群れにむけ、雷を放ちながら。
「なるほど、そういうことですか。しかし、なぜ」
魔物はたしかに、大量にいた。
それぞれが、とても弱いということはない。
だが、強いというほどでもない。
リーリアから見れば、弱いけれど、街の人にとっては、連続で戦うにはちょうどいい強さ。
そして、街の戦力から考えれば、リーリアたちがいなくてもギリギリ乗り越えられるように思われる。
そう、ギリギリ。
大きな被害を出さず、時間だけを使わせる為にちょうどいい戦力。
おそらく、そうなるように調整したのだろう。
近頃、魔物が頻繁に現れていたというのは、そのための偵察。
「戦力は街の外に出払っている。ならば、街の中……?」
リーリアは、魔力を感じることによるセンサーを使う。
「一つ、それも巨大な魔力……ですが、これはマキシムさんが戦っている。ふむ。どうやら、私たちがいること、マキシムさんが街に残ったことは相手方の不測の事態ですね。街の人に内通者はいない、と」
内通者がいたのならば、マキシムとリーリアに警戒をするはずなのだから。
たまにしか訪れないとはいえ、マキシムとリーリアの力は十分街の人に示してある。
「この街の自衛力のためにも、私は大量殲滅ではなく、彼らの援護に徹しますか」
リーリアは杖を振るい、大きな魔法陣を作る。
「攻撃の陣、守護の陣、俊足の陣、治癒の陣。こんなところですかね」
リーリアは、街の人々全てに、魔法でバフを施した。
「拡声の陣。みなさん!今、みなさんにいくつかの魔法をかけました!体の治癒力なども向上させてますので、致命傷でなければその場で治癒します!もし、致命傷をおったら、下がってください、私が治します!」
魔法で声を大きくし、リーリアは戦士たちに告げる。
「さあ!戦いましょう!愛すべき家族のためな!愛すべき家のために!力を存分に振るいましょう!」
その声を受けて、戦士たちは『うぉぉぉぉ!』っと、吠え、自らを鼓舞した。
「さて、カナタさんは、走り出しましたか……答えは、あの顔だと見つかってないのでしょう。しかし、そこで誰かのために走り出せるから、きっとカナタさんは英雄に選ばれたのでしょうね」
街の方からは、戦場の音に混じって、轟音が響いている。
「マキシムさん、そっちは頼みましたよ」
チマリは、後ろを英雄に任せて、前を向く。
そして、また、雷で魔物を確実に減らしていく。
✴︎
カナタは戦場を駆け抜け、そして、魔物と対峙する。
対峙する敵の姿は、剣と盾を持った、二足歩行のリザードマン。
カナタは、氷で剣を作り、それを構える。
『グルォォォ!』
リザードマンが雄叫び、剣を振るう。
カナタは、しっかりとした剣筋でそれを受け流す。
何合か、剣を打ち合ったのち、リザードマンの剣を弾き飛ばした。
「さようなら……」
カナタは静かに呟いて、リザードマンの首を切り落とした。
首からは血が大量に溢れ、それがカナタの袖を汚す。
地に落ちた、トカゲの頭は、物言わず、ただ、カナタの目を見つめる。
「悩むのは後にする。今は、剣を振るわなきゃならない。この瞬間のために、俺は牙を研いだのだから」
トカゲはそこまで聞き、静かに瞼を閉じ、眠りについた。
カナタも、ゆっくりと瞼を閉じ、そして開く。
決意をその瞳に宿して。
カナタは、戦場を駆ける。
✴︎
「はぁ、はぁ……」
一体、また一体と魔物を切るたびに、剣が重くなっていく感覚を覚える。
普段の修行と比べれば、全然ハードなことはしていないはずなのに、息が上がる。
これが、命の重さ。
これが、実戦。
覚悟ができれば、この重さは、無くなるのだろうか。
疲労に足を止めていると、後ろからリザードマンが襲いかかってきた。
「くそ……!」
振り向き、敵を切ろうとすると、すでにそれは事切れていた。
「ぼさっとすんな小僧!貸し一つな!」
先程ギルドで会った、ガルダが、カナタを助けようと剣を振るってくれたのだ。
その顔にはもちろん、魔物の命を奪うことに対する戸惑いなどない。
「そうか……」
その顔を見て、カナタの中のパズルのピースがカチリとはまった。
人のために剣を振るうこと。
それが、頭の中にしっくりときた。
世界のために、命を奪う。
それは、守りたいものがあるから。
この世界には俺の守りたいものがあるのか。
それを考えて、カナタの頭の中に浮かぶのは、
マキシムとリーリアの姿、
三人で過ごした洞穴の姿、
リーリアと戦った平原の姿、
マキシムと戦った谷の姿、
ギルドにいた酔いつぶれたおっさんの姿、
戦場で戦う戦士たちの姿、
そして、自分自身の姿。
なんだ、いっぱいあるじゃないか。
この世界にも、守りたいものが。
敵の神が、この世界を滅ぼそうというのなら、
そのために、魔物を放つというのなら。
俺は、奪おう。
彼らの命を。
なってやろうじゃないか、この世界の英雄に!
十人の英雄たちには、救ってきた世界がある。
ならば、十一人目の英雄が救うのは、この世界だ!
「さあ!ここからだ!」
カナタは、魔法を用いて、谷の戦いのように、自分の姿を増やす。
それらは、迷いない足取りで、敵に向かう。
「ここからが、俺の英雄譚の始まりだぁぁぁぁぁぁ!!」
気づけば、剣からは余剰の重さは消えていた。