表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/10

ディミヌ「カナタは、そろそろ強くなったかな……?」


試練を終えた俺たちは、この一年間住処にしていた洞穴の中でこれからのことを、考えていた。


「これからどうすっか、って話なんだが……どうしたい!」


「どうしたいって、言われても」


「やっぱり、ほかの英雄のとこに弟子入りに行っちゃうの……?」


「やっぱ、そうするべきなのかな」


俺は、一年間一緒にいたこともあり、この二人と過ごす時間が気に入っていた。


役目を考えれば、一刻も早くほかの英雄のところに行くべきなのだろうけど、この二人ともっと一緒にいたいという思いもある。


「まあ、そうだな。小僧には、早く強くなってもらわないと。いざって時に、使い物になりませんでしたじゃ、話にならねえからな」


「だよな……」


「えっと、嬢ちゃん、こっから一番近いところにいる英雄は誰で、どのくらいだ」


「えっと……」


リーリアは、ステータス画面を表示し、英雄たちの居場所を調べる。


「ここからだと、一番近いのが……ディミヌさんと、アクセラさんです。割と近くにいますね、西の方に歩いて行ったら一ヶ月くらいかな?」


「ふむ……二番目は」


「コクランさんと、ギリシャさんです。こちらも、西の方ですけど、距離は……とっても遠いです。魔法とか、特殊な移動手段を使わないと、どれだけかかるか分かりません」


「なるほどな、じゃあ、なんにせよ、西に向かって進むか。一ヶ月くらいの旅になるな。あと一ヶ月、仲良くしようぜ小僧」


「付いてきてくれるのか?」


「当たり前だろ、道中で死なれちゃたまらねえからな!」


「そうですよ!まったく!カナタさんにはまだまだ、私たちが必要なんです!」


「……ありがとう」


よかった、一ヶ月はまだ、この二人と一緒に居られるようだ。


「じゃあ、とりあえず、明日は近場の街に行くか。旅の支度と、情報収集をかねてな」


「街か、そういえば、俺初めて行くな」


「あー、そういえばそうですね。私とマキシムさんが交代で買い出しなどには行ってましたからね」


そう、俺はこの一年間、街などの異世界に触れることを許されなかったのだ。


マキシムにその理由を聞くと、お前は余計なこと考えてないで修行に集中してろ、と言われた。


お金などは、適当に魔物を買って稼いでいたらしい。


もちろん俺は、魔物とも戦っていない。


理由は、聞かせてもらってない。


「なんか、便利な移動手段でも見つかりゃいいけどな」


「そうですね。私たち、ずっと修行してて、この世界の文化なんてほとんど知りませんからね」


「敵の神の使いとか、魔王とか、どうなってるのかな……」


「さあな、街を歩いてくるくらいじゃ、最近魔物の動きが活発だーくらいしか、話を聞かねえからな。そこらへんも、明日、調べるべ」


そこまで言うと、マキシムは、横になった。


「じゃ、おやすみ。また明日な」


目を閉じると、その瞬間マキシムは眠りに落ちる。

眠るのも修行のうちだと、言っていた。

眠ろうと思えば眠れて、起きようと思えば起きれるらしい。

自分の身体を十全に操れている証拠だ。


「ねえ、カナタさん」


リーリアも、コロンと寝転びながら話しかけてくる。


「今日で修行は終わりました」


「ああ」


「明日からは、私たちもカナタさんのことを弟子としてではなく、ちゃんと、戦士として扱います」


「ああ」


「もちろん、魔物が出たら戦ってもらいますし、悪と対峙したらそれを切ってもらいます」


「ああ」


「カナタさんには……」


そこで、リーリアは懐かしむような顔をして告げる。


「命を奪う覚悟は、ありますか?」


「…………」


命を奪う。


ああ、そっか、だから、魔物と戦わせてくれなかったのか。


俺は、普通の高校生だった。


動物も殺したことがない。


ましてや、人なんてもってのほかだ。


現世では、それが普通でよかった。


でも、ここでは、違う。


魔物を殺して金を稼がなければいけない。

必要とあらば、人も切らなければいけない。


命を奪う覚悟、それが、俺にあるのだろうか。


「昔の話です。私は、魔法で簡単に魔物だって殺せちゃうから、命を奪ってるっていう自覚が薄いままで、いっぱいの魔物を殺めてきたんです。自分の手を血に染めることなく、遠くからドーンって」


リーリアの音が、ゆっくりと、体の中に響く。


「でも、ある時。一緒に戦っていた仲間が殺されてしまいました。そのとき、相手が言ったんです」


「『オトウトノカタキ!』と」


「その瞬間は、私は仲間が殺されたことで頭がいっぱいで、とっさに、魔法を発動して、そいつを虫の息にしました」


「そして、私も仲間の仇とばかりに、仲間の使っていた剣でとどめを刺そうとしました」


「しかし、そのとき、その魔物は、ゴメンナ、ゴメンナと言いながら涙を流していたんです」


リーリアは、なんともいえない表情で話をしていた。


「そのとき、先ほどの発言も思い出して、私、気づいてしまったんです」


「この魔物にも、家族がいて、この魔物にも、死を恐れる心がある。彼らも、生きているのだ、と」


「そうしたら、とても、剣なんて振り下ろせませんでした。私、どうしていいかわからなくなったんです」


「やがて、その魔物はとどめを刺されることなく、ゆっくりと生き絶えました」


「それから、しばらくは戦うことが怖くなりました。でも、戦わなければならなかった。それが、私の使命だから」


「今でも、時々考えますよ。これが正しいことなのかどうか」


「でも、私はちゃんと、命を奪うことを自覚した上で、彼らを殺しています。それが生きていくためになるし、誰かのためになるから」


途中から、フードを深くかぶって顔はよくみえなくなった。


「長くなっちゃいましたね。でも、カナタさんにも、考えて欲しかったから。えっと、おやすみなさい、また明日」


そう言って、リーリアは眠りについた。


「命を奪う、覚悟」


お遊び気分じゃいられないことは、一年間の修行の中で自覚した。


戦いは、そんな甘いものじゃない。


チートスキルだー、などと、浮かれている余裕なんてない。


そんな真剣さを、この二人の英雄と過ごすうちに、自覚した。


しかし、だからこそ、重くのしかかる問い。


命を奪えるのか。


世界のために戦うこと。


それが、俺にとっての、命を奪う理由になるのかどうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ