リーリア「カナタさん、頑張ってくださいね」
「カナタさん、起きてください。もう、カナタさん!」
霞みがかった意識の中に、リーリアの声が響く。
「あぁ、リーリア……おはよう」
「おはようございます!どうしたんです?こんなに目が覚めないなんて珍しいですね」
「ああ……夢を見てたんだ。一年前の、懐かしい夢」
あの日、突然召喚されたあの日から、一年の日々が流れた。
「あぁ……それはそれは。あれから、色々ありましたもんね」
あの日から、俺はひたすらに修行をした。
体の中に流れるもう一つの波動、を感じる訓練をしたり。
世界から流れ込んでくる大自然のエネルギー、を操る訓練をしたり。
戦いの駆け引きを教わったり。
剣の使い方を教わったり。
基礎と名のつくようなことを、片っ端から学んだ感じだ。
幸いにも、召喚の特典である、あらゆる技能を手に入れられる力、のおかげで普通の人よりは圧倒的に早いペースで身につけられた。
「今日で、私たちとの修行も一段落ですね」
「そうだな……早いような、短いような」
今日は、修行の最終段階。
マキシムからの、免許皆伝の試練を行う日だ。
リーリアからの試練は、昨日終え、無事に合格した。
魔法のみで行う、ガチンコバトルだった。
リーリアに有効打を与えられたら勝ちというルールでやって、何とか、勝った。
もっとも、まだまだリーリアのほうがまだまだ実力は上で、リーリアは自分に様々なハンデをつけて、試練に望んでいたのだが……。
しかし、俺も魔法のみに絞った戦いであり、魔法とマキシムから教わった格闘を合わせた戦闘方は用いてないので、それを使えばもうちょっとはまともに戦えるはずだ。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
俺たちは、寝床にしていた洞穴から外に出て、マキシムの待つ谷に向かう。
「どうですかカナタさん、あのマキシムさん相手に、緊張とか」
「うーん、どうだろうね。リーリアには勝てたしさ」
「あー、なんですかそれ。私はあんなにも手加減してあげたのに」
「ほんとかなぁ」
「カナタさんだって知ってるでしょ!私の全力はそこら辺一帯の地形が変動してしまいます!」
「あぁ……そういえば、そうだったな」
以前、リーリアに最強の魔法を見せてと言った時、地面に隕石が落ちて来たかのような大穴が開いた。
あの時は、普段から豪快な生き方をしているマキシムも冷や汗を流していた。
「マキシムさんは、なんだかんだ言って強いですからね」
「ああ」
「遠距離と、近距離と相性が悪いとはいえ、大賢者の私があんなにもボロボロにされるとは……やはり、近距離ももうちょっとなんとかしたほうがいいのでしょうか」
「アニキは、無茶苦茶だからな。拳を振っただけで、数十メートルまで拳圧がくるから……」
「無茶苦茶ですよね。ふふ。そんな相手とカナタさんはこれから戦うんですよ」
「ぶっちゃけ、だるいわ」
「もう、そんなこと言って」
リーリアと、話していたら、自然と肩の力が抜けた。
自覚はなくとも、体はどうやら緊張していたらしい。
「ありがとう」
リーリアは、なんのこと、と言った感じにおどけて微笑む。
「じゃあ、行ってくるよ」
いつのまにか、たどりついていた、谷の上から俺は飛び降りていく。
「行ってらっしゃい」
これから、単身、ステゴロで自分の世界を救った格闘家と戦うのだ