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好きでもないのに彼女になるだと?  作者: しーたけの手
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宣言しよう、あくまで僕は被害者だ。

「あれ、間違えた」


 聞き間違いではないかと一瞬耳を疑ったが、よくよく考えるとそりゃあそうだ。


 なんてったって俺様は次元を隔てた遠距離恋愛をするほどのオタクで、相手は三次元を謳歌する美少女だ。


 わかってたさ。そう思うと哀愁にも似た寂しさを感じた。だがいつまでもこうしてはいられない。俺はため息をひとつ落として適当に話しをつけることにした。


「呼び出す相手を間違えたのか?それにしても打ち間違えのメールアドレスの行き先が君の想いの人の学校と同じ生徒に届くだなんてとんでもない偶然だな」


 ピクンと彼女は肩を震わせた。


「そ、そうね……」


「俺の知り合いなら連れてきてやるよ。なんて名前なんだ?」


 彼女はその言葉を聞いて顔を真っ赤にして俺を睨みつけた。


「あ、あなたに教えるわけないでしょう!?」


 俺は彼女の言葉に気圧され言い返す言葉がついに出てこなかった。


「お、おぅ……」


 結局出たのはその程度だった。彼女は顔を赤くしたり困惑の表情を浮かべたり絶望的な表情になったりと顔を忙しく変化させていたが、意を決したようにドアへと足早に向かった。


「私は失礼するわ。これ以降、私には関わらないで」


 そう言うと彼女は乱暴に扉を閉めて、屋上から退出なさった。


 一人ぽつんと取り残された俺は無意識に空を見上げていた。


「うーん、リアル女子の心は読めん。やっぱ、女は二次元に限るわ……」


 一筋の光が頬を伝っているのに俺は気づかないふりをした。




「ぎゃははははっっっ!!!なんだそれ!お前超哀れだな!!!まぁ、お前にはお似合いか?え、何々、今どんな気分、ねぇねぇ、ねぇねぇねぇ!!!」


「うるせぇよ、俊樹。黙って聞いてりゃ好き放題言いやがって!!!こちとら心が抉られる思いだよ、高いところから一気に叩き落とされた気分だよ、潰れそうだよ、主に心がなぁ!」


 昼休み。マンモス校ではまさしく今、食堂で命のやり取りがなされているだろう。あれで死者が出ないっていうのだから毎日が奇跡だな、と俺は切実に思う。


 そんなこんなでバーゲンセールの実習をやっている彼らのことを気の毒に思いながら優雅に教室で飯を食う弁当組の俺なのであった。なのに、それなのに……。このアドバンテージを以ってしても、食堂組の哀れさを凌駕しそうになっているこの理不尽に震えている。


「それにしても、本当に偶然の力ってすごいなぁ、なぁなぁ、どんな子だったんだよ?お前だけいい思いをしてズルいぞ?」


 俺の前の女子の席にしれっと座っている金髪のイケメンは他人事のように俺にそう言う。とりあえず口の中のものがなくなってから喋ってほしい。


「お前、俺の話しを聞いていたか?このどこがいい思いなんだよ?なんだ、俊樹、お前真性のドMってやつなのか?」


 俺は卵焼きを口に入れながら、半ばドン引きした顔でそう言った。


「美少女になら別に構わんぞ?」


 そう言う俊樹はドヤ顔をしているのだが、一体何が誇らしいのだろう?


「友達やめようかな……」


「俺の懐は痛まないぞ?」


「くそ、リア充が……」


 未だ俺は信じたくないのだがこのドM変態DQNには友達が妙に多い。おまけに彼女もセットでお値段プライスレスだ。全く以って理解できないが天が人の上に人を作っていることだけははっきり分かる。


 俺はこんな奴とずっと一緒に育ってきたのだ。こんな生活続けてりゃ、どんな天使でも捻くれるってもんだろ?


「そんで、さっさと教えろよ、その子の特徴とかあんだろ?」


「がっつくなぁ……これだからリア充は……」


 俺は若干の嫉妬を込めつつそう言った。


「非リアオタは黙ってろ」


「あぁん?教えねぇぞ?」


「ああー、ごめん悪かった、教えてくださいお願いします」


 豹変とはこう言うことを言うのだろうか。まぁ、リア充に対するアドバンテージを得られて俺は満足したし良しとしよう。


「よろしい。確か、金髪で割とちっちゃめだったかなー」


「金髪?あぁー、そりゃ、この学校の理事長の娘さんだな。この学校で天然以外の金髪が許される道理はねぇ」


そう言いながら俊樹は流れるような金色の髪を誇らしげに撫で上げた。


自分もその例外の一人だとでも言いたいのだろう。俺はあえて突っ込まなかった。


「一発で決めつけられるとかどんだけ校内の女子知ってんだよ?なんだ?ギャルゲーのモブかなんかかお前は?」


「お前がなんの話をしているのかさっぱりなんだが……。ただ、逆にあの有名人を知らないお前がおかしい」


俊樹は箸をクルクルと玩びながらそう言った。


「そんなに有名なのか?」


「ファンクラブがある程度にはな」


「うぇぇ」


 なるほど。いわばオタサーの姫の大規模版みたいな奴に間違えられたのか。はた迷惑にもほどがある。


 そんなこんなで俺が伸びをしていると携帯が震えた。


「ん?メールか?友達のいないお前には珍しいな」


「おい、コラ、どう言う意味だよ?」


そう軽口を言い合いつつ、画面を見ると件名のみのメールが表示されていた。


『屋上に来なさい』


 この前のメアドと同じ奴からのだ。


 なんだよ、この態度の急変は……。そう思いながら俺は豹変とはこう言うことを言うのか、と改めて学ばされたのだった。

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