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好きでもないのに彼女になるだと?  作者: しーたけの手
16/46

自称彼女は浮気性

歌い手と並行してると結構更新に支障でるな。

「まぁ、ベッドにでも座れよ」


一応、カーテンを閉めて、コードネーム:俊樹部屋は名目上封印してから、俺はそう言った。


「………」


理事長の娘は彼女にしては珍しく素直に従った。


「まずは、言い訳から聞こうか?」


「………」


俺は、理事長の娘の監視システムのことを少し誤解していたようだ。


ある程度、探偵とかに探らせて、それを纏めさせているとかそんなもんだと思っていた。


だが、これはあかんやつや。


大阪弁になってしまうほどにこれはいただけない。


理事長の娘は黙ったままだった。


「言い訳はないんだな」


「……何よ!もういいでしょ!どうせあんたはこれをネタにあんなことやこんなことをするんでしょ!同人誌みたいに!同人誌みたいに!!!」


理事長の娘は下から俺を睨みつけてそう言った。唾が飛ぶのを気にせず吠えるさながら狂犬のような視線を俺は上目遣いとは認めたくない。


「……お前、オタクが嫌いとか言っときながら実は案外理解があるだろ?」


だが、そんな視線とは裏腹に俺はまずこの事実を読み取ってしまったのだ。


だから文句よりも前に口をついてこれが出てしまった。別に理事長の娘をこちらの道に引き込もうなどとは微塵も考えてない。理事長に何をされるか分かったもんじゃないからな。


「ち、ちがっ!これはただ俊樹君が家にいない間に、あんたの見てるアニメを見てたのよ!」


「どうして?」


「か、彼氏の趣味くらい知っとかなきゃダメでしょ!」


「お前、ほんと変なところで律儀だよな!」


「それでね……」


「?」


「その……。案外……面白かった」


ヤベェ、理事長に殴られる。いや、殴られるだけじゃ済まないかもしれない……。


「な、なるほど……。まぁ、その辺は後でじっくりと話し合おう。今は俊樹の話だ」


「俊樹君の話!?」


「がっつくな、お前のしでかしてることについてだよ」


俺は、理事長の娘の興奮気味の目を見て、俺にこの女を許容できるだろうかと心配になってきた。まぁ、そもそも相手に許容されていないのだがな。けっ。


「……」


「なんで黙るんだよ……」


「だって言い逃れのしようもないもの。今更言葉を重ねても無駄だわ。だから私は黙る。黙秘権の行使ってやつよ!どう?悔しいでしょ?私から情報引き出せないで」


理事長の娘は嬉しそうに笑った。


何がおかしいのだ。俺の神経を逆撫でして何が楽しい?


「とんでもない方向に開き直ったな、お前……」


「いいじゃない別に。監視したって俊樹君の何が減るってのよ?」


減るもんじゃあるまいしなんておっさんの吐く言い訳である。ついにここまで落ちたか理事長の娘。


「お前の信用がなくなるんだよ」


俺はそう言うとため息を吐いた。あー、不幸になるわー。いや、今現在不幸か。


「見つからなければ問題ないわ」


「俺に見つかってんだろ」


「周りにいいふらせないチキン野郎は計算に入れないわ」


「コイツ……」


俺は、なんというか居直って何をするのかわかりゃしない理事長の娘が逆に怖くなってきた。だが、説教を続けなくては未来の嫁(泣)が社会的に残念な人間になることは確実なのである。


俺は自分の心に檄を飛ばしながらまた、言葉を紡いだ。


「とにかく、ダメだ!ダメなものはダメなんだ!」


「なんであんたは私にそこまでいうの?あんたは一体私の何なのよ!」


「そりゃ……」


「何よ?言えないの?ふーん、じゃあ私はあんたに口出しされる筋合いなんてないってことでいいわよね?」


「いや、ダメだ。こんな性格ブスが世に放たれるなんて放って置くわけには行かない!」


「なっ、なんですって!?」


俺は理事長の憤りのお言葉を無視して考えた。


俺とこの理事長の娘との関係性。……ないって選択肢はダメかな?


いくら考えても一つしか思い当たらない。それでも、それだけは、こいつの彼氏だということだけは認めるわけには行かない。


だって俊樹という他の男が彼女の意中の人なのだから。こんな無理やり付き合うなんて言うのは認められない。


ならば俺は誰か。


あぁ、はっきり分かった。


「俺は、お前の好きな俊樹の親友だ」


俺はそう言い放った。


「だから何?」


理事長の娘の言葉は冷たい。だが、そんなものはもはや慣れた。


「だから、俊樹に代わって言ってやる。多分これはアイツドン引きする。多分千年の愛も冷めるレベルだ」


「え……」


「おい、そこまで驚くことじゃないだろ……」


「それは……、困る……」


「だろ?」


「うわぁぁぁぁぁぁ、どうしよう!隠蔽しなくちゃ!隠さなきゃ!あぁー、でもどうすればいいのよ!燃やす?そうね、燃やせばいいわ!」


「おい、不穏な方向に議論を進めんな……」


「ねぇ、あんた、ガソリンはどこ?」


「そんな純粋な笑顔で聞く質問じゃねぇよ!」


俺はその日の始バスが来る直前になるまで彼女の説得を続ける羽目になってしまった。


--------------------------------------------------------------------------------


翌日。


俺は遅刻することになった。


『ねぇ、恭ちゃん?早寝早起きをしっかりするって約束したよね?なのに、どうして目覚まし時計は14:30だったの?』


バスの車窓からは背の高いビルが我よ我よと自己主張している。出る杭は打たれず、伸び伸びとそれらは天へと突き立っており、俺はそんは奔放さが羨ましかった。


え?ミナの声?


気のせい気のせい。


『ねぇねぇ、聞いてるの恭ちゃん?ねぇねぇ?」


やめてください……。


俺は切にそう思った。


コイツを怒らせると、色々酷いのだ。


心に酷い傷を負うことになるのだ。あの俊樹ですらどうしようもないと言われるコレだ。


『ふーん、いいんだー。じゃあ、恭ちゃんのとっておきの秘密話を大暴露してあげよっかなー』


ミナちゃんの秘密暴露大会である。


一体どこから仕入れたのかわからない恥ずかしいやつを教室のど真ん中で叫ぶのだ。


あぁ……。思い出す。俺のこっそり仕入れたとっておきのタイトルを大声で叫ばれたのを……。


その日から主に俺の中学生活は終わりを告げた。青春的な意味で。


ちなみに俊樹は居もしない姉ちゃんと風呂に入って居ることを大声で叫ばれ、その一年間、俊樹はナンパが一度も成功しなかったそうな。


いつかの『ねぇ、ちゃんとお風呂はいってる?姉ちゃんとお風呂はいってるんだってぇぇぇぇぇ!!!!???』のあれである。だが、ミナの場合、濃厚な描写まで捏造するのだからタチが悪い。


「ちょ、やめ!?」


まぁ、そんなトラウマもあるわけで、俺はバスの中でつい大きな声を出してしまった。


だが、他の人には見えないのだ……。俺が唐突に叫び出した頭のおかしい奴だと思われるのも当然である。


俺は変な注目を集めてしまった。


『秘密はみんなに教えられないけど、今の私にはこんな攻撃方法ができるのだよ!えっへん!』


ミナはそう言うと俺に顔を近づけて笑った。


夏の青空みたいな清々しいほどに綺麗なその顔を見て俺は目をそらさずには居られない。


だが、惑わされてはいけない。


ここで俺の未練タラタラの恋心が息を吹き返したとなると、理事長の娘と付き合うなんて俺の方から不可能になる。


そうすると、俺と理事長の娘は共倒れだ。


それだけは何としても阻止せねばなるまい。


「ミナ……。バスを出てから話そうか」


俺は小声でそういった。


『やだよー。バスから出たら私のことどうせ無視するつもりなんでしょー?恭ちゃん、浮気ー?』


そう言うミナはまたくるくると回っている。


幼いようなそんな仕草は、時としてみせる大人のような艶やかさと相まって絶妙に男の心をくすぐる。


だが、ダメだ。


こいつは俊樹の女だ。


そう。


俊樹の彼女なのだ。


だから、俺は手を出してはいけない。手を出さない。手が届かなかった。


手が、届かなかったのだ。


ズキ


と頭の片隅が疼いた。


いつかの脳内出血がぶり返したのかと一瞬不安になるがそれはすぐに引いた。


『まぁ、恭ちゃんは約束、守ってくれるんだもんねー。だから、別に私は心配してないよ』


そう言うと、彼女はどこかへ消えてしまった。


きっと俊樹にでも会いに行ったのだろう。


そう思った時には、校内にバスが付いて居た。


「あれ?」


俺は敷地の中央な立つビルの最上階あたりが焼け焦げて居るのを目にした。


「まさか……、本当にやりやがったのか」


そこには、まだ帰っていない消防車やら何やらが何台が止まっていた。


俺は中央にある天へと突き立つ巨塔へ向かって走り出した。


何故か心臓が早鐘を打っていた。


暫くして、俺は、走り出した足を規制線の前で止めざるを得なくなった。


そこには制服を着た職員達が暑そうに汗を拭きながら、図書館に来る生徒や、通常業務に来た他の職員達を誘導していた。


そんな様子を遠巻きに見つめる少女を見つけて俺は何故か胸を撫で下ろした。


「はぁ……パパに怒られちゃったわ……」


半袖の制服を着て、透き通るような白い肌をした美少女が

、見たものすべての目をその(かたち)で奪い取る強欲なほどの端正を持つ彼女がそう呟いていた。


「おい、理事長の娘」


俺は彼女にそう話しかけた。色々なこいつの残念さを知ってしまった俺は、別に周りにいる奴らみたいに、話しかけることを躊躇することはなかった。


「うわ、何よ?」


「人の顔を見て、うわってなんだよ?」


「え、あんた自分が嫌われてるの直接聞いて耐えられるの?」


「お前なぁ……」


心配して損をした。


そんなふうに思って、俺は彼女に背を向けて歩き出した。


「ちょっと待ちなさいよ」


理事長の娘は俺の後を追いかけてついて着た。


「なんだよ……」


俺はそういいながら、顔に拒絶反応が出てないかを心配していた。


「私、まだ俊樹君とお弁当食べるっていうミッションを達成してないわよ」


「昨日、俊樹が彼女いるのを聞いて諦めたんじゃなかったのかよ?昨日いなくなった後、どうせ一人で枕濡らしてたんだろ?おぅ、可哀想に」


俺は適当にそんな風に嘯いた。


「違うわよ、私がそんな無駄なことに時間を使うわけないでしょ?」


「無駄なことって、お前なぁ……」


「うるさいわね、実際、その時間使ってさっさとデータを纏めて、俊樹君に彼女がいる可能性がゼロであるってことを突き止めたんだから!」


あの後妙に落ち着いていると思っていたが、そう言うことか。


まぁ、この世の法則に基づいて調べりゃ、そうでしょうね。


だが、俊樹の彼女との逢瀬は夢の中ですらあるのだと、この前俊樹にも聞いたしな。


だが、逆に、こいつにそれを説明するのも難しいんだよな……。


「まぁ、そりゃよかったじゃん。じゃあ、これで俊樹に安心してアタックできるな」


「何よ、あんた。この前まで俊樹君に彼女がいるって必死で言ってたくせに手の平返しちゃって。なに?もしかして私のことついに諦める気にでもなった?」


「元からあなたのことを欲しておりませんよ、お嬢様」


「あんたに、お嬢様って言われるのほんとムカつくわね」


「じゃあなんて呼べばいいんだよ」


「んー、希ちゃん?」


「随分と気安いな……」


「彼氏なんだから当然でしょ?」


「じゃあ俺は浮気するか満々の彼女持ちかよ。もうちょっと顔面指数低くてもいいからもう少しまともな女の子をあてがって欲しいぜ神様」


「なによ、私に文句があるなら神様じゃなく、私に言いなさいよ」


「はいはい、希ちゃんはもっと他人に気を使おうね」


「うっわ、寒気がしたわ」


「自分で呼ばせといてなんなの、こいつ……?」


「うるさいわね、事実を述べたのよ。じゃあ私はあんたのこと恭ちゃんって、呼ぶわ」


「な、なんでよりにもよってそれなんだよ!なんなの?自虐趣味でもあんの?高槻とかせめて恭弥でいいじゃねぇかよ」


俺はそう言うが、実際はミナの呼び方と被るので勘弁して欲しいというのがのが本音だ。正直、あいつの存在自体が俺を辛くさせるもんだからな。


「いやよ、絶対あんたのこと恭ちゃんって呼ぶわ!あんたの嫌そうな顔見てるとなんか、こう、スッとするのよ!」


「性格がひん曲がりすぎてついていけねぇ……」


「なによ、恭ちゃん。文句あんの?」


「ねぇ、俺の話聞いてた?文句ならさっき言ったぞ?」


理事長の娘改め、希はそっぽを向いて俺のことを無視した。


そんな時だった。


「おおっ、恭弥に理事長の娘ちゃんじゃん!えっとー、名前はたしか……」


「ひゃん!?」


また、あざとい声を……。


そう思ったときには、理事長の娘は俺の背中にまた隠れていた。


人の体をトーチカみたいに使うのはやめてもらいたい。


「ってか、俊樹よ。お前、全校の女子にあんなに詳しいのに、こいつの名前知らないのか?」


「それがよー、実は理事長の娘さんの名前を誰も知らなくてだな。毎回学年トップだって噂を使って、名前を見ようにも、学校名が書かれているんだよ。第一位の下に」


あぁ、そうか。


こいつの名前、確か黄瀬希だったな。学校名と被ってるんだったな。


「なるほどなぁ。じゃあ、お前自己紹介して来いよ」


俺はそう言って、彼女の背中をそっと押した。


「ちょっ、やめてよ!」


理事長の娘は不満そうにそう言った。


「ははは、恭弥。結構理事長の娘さんと仲よさそうじゃん、お前。女の子の友達が一人もいないもんだから結構心配してたんだぜ?」


一体俺たちのどこを見て仲がいいというのか。俊樹とは価値観が割りと違うのでまぁ、理解しようとしても無駄なのだが。しかし、それより、もっと聞き捨てならないことがある。


「なんだと、俊樹!?お前俺に喧嘩売ってんのか?」


「俺は一方的にボコるのは嫌いなんだ。喧嘩なんか売ってない」


「お前……。確かに俺は腕力に自信はないけどさ」


「はは、冗談だよ。それでえっと、俺に名前を教えてくれるんだっけ?」


俊樹はそう言って、イケメンスマイルで笑った。


希は顔を赤くして俊樹と目も合わせられないでいた。


「あ、あの!」


希はそのまま意を決したように、口を開いた。


「か、かた、片桐俊樹くん!わ、私、黄瀬希って言います!その、えと、あの……。わ、わわ私と、付き合ってください!!!」


「はぁ?」


俺は突然すぎる出来事に、呆然とした。


だが、彼女は自分でしでかしたことの重大さに気がついていないようだった。


ただ、涙目で俊樹の目を見つめるばかりだった。


そして、心臓が引き絞られるような緊張の後に、俊樹の口から答えが出た。


「いいよ」


俺はその答えを聞いて、愕然とした。

ほんとはもっと女の子を増やしたかったんですけどね。

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