第五十話 そして物語は終わる
フルの視界が回復すると交差点のど真ん中で、 目の前にはビル群が広がっていた。
手はこの場にあまりにもそぐわない、古びた剣が握られている。
夜だというのに、ビルからもれ出た光や、街灯の放つ光で、 辺りは明るくなっていた。
(ここは…どこだ?……)
周辺を観察していると、 交差点から分岐する一方の道から一人の女性がまるで、 なにかから逃げるかのように近くまで走ってきた。
2つの封筒を大事そうに抱えている。
そして、その方向からいきなり爆発音がした。
そう遠くないビルが炎を上げて倒壊を始め、ついに完全に崩れて、 大きな音を上げてゆく。
女性はその音に気づいて後ろを振り向き、 うずくまるような仕草をみせた。
そこに大柄な男が数名辺りを囲んで、 その一人が女性に話しかけた。
「おい、ねぇちゃん。それ、冷凍保存の封筒だよな? 余ってんだろ?くれよ」
女性を押し倒して、2つの封筒を奪った。
「もう…… ダメ……」
女性が小さな悲鳴をあげる。
フルは、そのカツアゲを無視してその場から立ち去ろうとした。
「へえ……『木葉秋穂』ってのか」
封筒をうばった男の一声で、“何か”を思い出した。
自分にとって重要な“何か”。
しかし、その“何か”が何なのか思い出せない。
気づけば、フルは男たちの元までたどり着き、こう呼び止める。
「おい」
男たちの視線が集まる中、フルはついにこう叫んだ。
「偉大なる母から手を離せ」
「ハハハハハ…!! 何が偉大なる母、だ!」
「離せ、と言っている! もし、離さぬというのなら…」
フルは瞬時に剣を男の喉に突きつけ、こう言った。
「我が剣が相手しよう」
「う…う…。」
「に、逃げるぞ!」
男たちは、皆恐怖で封筒も置いて逃げていった。
剣を、腰にかけてあった鞘に収める。
そこで、襲われていた女性、木葉秋穂が話しかけてきた。
「ねぇ」
「何でございましょう?」
「名前、教えていただきます?」
フルは思い返す。
しかし、フル・ ヤタクミという名前も古屋拓見という名前も思い出せるわけが無かった。
「分からない……」
「え?」
「何もかも…分からないんだ……」
彼女は名案が思いついたようにこういった。
「わかりました、あなたに名前をつけましょう。 あなたの名前は今日から風間修一。分かりましたか?」
とりあえず頷く。
右も左も己もわからぬ以上、彼女にしたかった方が得策だ。
「それでは、これを」
そういって渡されたのは、 彼女が大事そうに持っていた封筒の片方だった。
その封筒には、『人類補完委員会』『風間修一様』と書かれてる。
「じゃあ、行きましょう」
彼女は修一の手をとってどこかへと走っていった。
後に、この二人の間に一人の子供を授かった。
その子供の名を“ガラムド”と言う。
ODD 完




