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ODD  作者: 巫 夏希
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第四十八話 願いよ、届け

(ここにまできて…死んじゃうのかな……)



 ――フルは走馬灯を見ていた。



 この島での出来事。

 レガードルでの出来事。

 スノーフォグでの出来事。

 ハイダルクでの出来事。

 学園。

 はじめてあったときのメアリーとルーシーの表情。

 ゲーム屋に向かうときに見た、妹の横顔。

 この四十数日間を、その日々の思いを、一瞬の間に何千回と何万回と再生してゆく。


(一ヶ月間いろいろあったな……)


 寮で、メアリーに起こされたのが始まり。


(それに…たのしかった、な……)


 学園での生活。

 フィアノの宴会。

 旅の途中、三人での他愛の無い話。


(この記憶…… 無駄にしたくない!!……)





 フルの体から、レイピアが引き抜かれた。

 出来上がった穴から、シャワーのように血が辺りに流れだす。

 その血の雨をもろにかぶってしまったゴードンは、4歩、5歩と後ろに下がった。

 そしてフルも2・3歩よろけながら仰向けに倒れてしまった。

 すぐに周辺が血の海に変わる。


「フル!」


 ルーシーが駆け寄ってきた。


「ルーシー。ボクはもうだめだよ…… だから、やってほしいことが一つあるんだ……」


 そう言ってフルが取り出した“ガラムドの書”が、強烈な光を放ち始めた。


「フル…… 君の記憶は……」

「まだ、この世界のことは全部覚えてる。だけど、それだけだ…… たかが一ヶ月ちょっと……」


 そこに、空を切り裂く音がする。


「おとなしく倒れていろ!」

「それはこっちの台詞だ!!」


 ゴードンの攻撃にルーシーが素早く反応し、カキィン、と剣同士のぶつかる音がした。

 ただ、フルは言葉を続ける。


「だけど…人生で一番、記憶に思い出に深く刻まれた一ヶ月間だった!……」


 “ガラムドの書”は、フルに応じた。

 本の、一番最後のページが開かれる。


[I wish on the basis of the soul. I swear to give,my memories, my spirit and my everything.――]


 フルの願いを乗せた詠唱ことばが解き放たれ、空間に充満していった。

 この強大な魔法の気配に、リュージュも気を取られてしまう。


「まさか?! これは?!」

「貴方の相手は私よ!!」


 その一瞬の隙に、メアリーはリュージュの懐に飛び込み、顔面にパンチを浴びせた。

 その勢いで、リュージュは思い切り地面に倒れる。


「そんな!! 私の力が! オリジナルフォーズの力が…抑えられてゆくなんて!!!」


 リュージュの驚きと共鳴するかのように、オリジナルフォーズが大きな咆哮をあげる。

 それは、いかにも苦しそうなものだった。

 そして、フルの願いもところどころ聞こえてくる。


[――God, Do you exist really? If you exist in the world, please grant my wish.――]


 時間が経つにつれ、オリジナルフォーズの雄たけびが弱い物となってゆく。

 リュージュの顔も、急激に皺が増え、激しい老化が襲っていた。


「オリジナルフォーズの力で、その封印から漏れ出た力で、私は生きていたというのに! その力が!」


 リュージュは完全に気が動転し、そして標的をフルに変えた。


「おまえがぁぁぁあああああ!!!」

「だから、貴方の相手は私よ!」


 それも、極度に老化した体では叶わず、すぐにメアリーに抑えられる。


「ぁぁぁああああ!! 私の野望が! 私の美が! 私の体が! 朽ちてゆく!!」


 リュージュの体も、オリジナルフォーズの体も。徐々に風化し、散ってゆく。


[――God, you must grant my wish and reject the calamity!]


 フルの願いが――完全に聞き届けられた。






 リュージュも、オリジナルフォーズも、完全に消え、何故かゴードンまでも気絶している。

 この空間には、知恵の実を持ったメアリーの必死に呼びかける声と、ルーシーの泣き叫ぶ声だけが木霊していた。

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