第四十一話 パワー・アンシール
「なんじゃこりゃ……」
フルの放った魔法で穴を降りていく。
すると周りを囲んでいた物質が変わっていた。
今までは赤茶けた土がまわりを囲んでいたのだが、今は氷が、まるで結晶のようになってフルたちのまわりを囲んでいる。
「……近いのかもしれない」
フルが呟くように言った。
それを聞くと二人はゆっくりと頷いた。
「……まさか、あの二人が倒されるなんてねぇ……まったくもって思わなかったわ」
直後、声が聞こえた。
その声に三人は聞き覚えがあった。
そこにいたのはスノーフォグ国の主。
神の子孫とされる、祈祷師のリュージュだった。
「リュージュ……」
フルはリュージュを睨み付ける。
しかしリュージュはそれを無視するかのように、振り返った。
「バルト・イルファにロマ・イルファ……二人は私の最高の"僕"だったわ」
「彼らはね、もとは孤児だったのよ」
「それを私は引き取った……彼らはわたしを本当の母親のように甘えていたわね……」
「ホント、子供ってのは手がかからなくて楽だったわ」
「メアリー、あなたを除いてはね」
リュージュはメアリーの方を指差す。
「あなたを産んだ時、そのまんま私はあなたを忠実な僕として使うため特訓を施す予定だったわ」
「でも、あいつらが。ラドームたちが……あなたを連れ去った」
「最初は計画が狂ったと思ったわ……でも」
「結果オーライだったわね? メアリー?」
リュージュはメアリーを、笑ったような、まるでこの場を楽しんでいるかのような目で見た。
「……さっきから、何が言いたいのかしら?」
「……話そうと思ったけど、侵入者がいるようね」
「あら、さすがは国を治める祈祷師。その力、ホンモノのようね」
「当たり前でしょ? ……あらあなたは」
岩陰から一人の女が出てきた。
それは、言うまでもない。フル達のクラスの担任。
サリー・クリプトンだった。
「サリー先生!」
フルが近づいた。
「大丈夫でしたか? サリー先生」
それを確認したかのように、サリー先生はニヤリと笑う。
「フル! 危ない!」
ルーシーは言った。
「何言ってんだよ。ルーシー」
フルが振り返ったその時、
ひゅん、と何かが空を切った。
「な……」
フルの頬に温かいものがつたった。
気づくと、サリー先生の足元から氷、まるで刃のように尖っていた、が走っていた。
「……人は完全に信用してはいけないものよ。フル・ヤタクミ」
「!?」
「サリー先生……なんで」
「メアリー・ホープキン。まさかあなたがリュージュ様の娘だとはね」
「サリー先生、まさかあなたも……」
メアリーは言った。
「ええ。そうよ」
サリーはそれを言うと、手をすっと上にかかげた。
同時にメアリーとルーシーの身体につるが巻きついた.
「な……」
フルはそこにいこうとする。
「むだよ」
サリーがフルの行く手を阻む。
「先生!」
「私はあなたの知ってるサリー・クリプトンじゃないわ」
「フル・ヤタクミ。あなたに一つ選択権を与えましょう」
リュージュが突然、言った。
「なんだと?」
フルはシルフェの剣を構えて、言った。
「あなたが言うことさえきいてくれれば仲間を解放しましょう」
「……ほんとうだな」
「ええ」
「……で、どんなのだ」
「たしか“ガラムドの書”には遥か昔のメタモルフォーズの力を封じた魔法があるの。同時にそれを解く魔法もね」
「……それを言え、というのか」
「ええ? あなたに、確か選択権はないはずよ? なぜならこっちには二人の仲間がいるものねぇ?」
リュージュはまるでこの駆け引きを楽しむように笑っている。
「……」
フルは静かに本を持つ。
「フル!!」
二人が叫ぶ。
「……すまない……みんなっ!!」
フルは強く念じた。
同時に“ガラムドの書”が開き、ページがめくられていく。
ぱらぱら、とページはどんどんめくれていき、ついには最後のページをも行ってしまった。
「……“ガラムドの書”1293ページ、……“パワー・アンシール”」
フルがそれを言ったと同時に大地が揺れ始めた。
「ウフフフフ、ハハハハハハッ!!!」
リュージュは高らかに笑いはじめた。
「ついに力を……封印から解くことができたわ!!」
ずしぃぃぃん。
ゆっくりと、地響きが聞こえる。
リュージュの奥から、聞こえてくる。
「オリジナルフォーズ……!!」
「……そう、オリジナルフォーズ……いま、真の力を得た。そんなのに勝てるかしら?」
「…………やってみなきゃわからないだろ」
フルは剣を構えた。




