第三十九話 激化する闘い
「でも、これで3対2だ」
ルーシーの声が焼け野原となった戦いの場に響く。
直後、ロマ・イルファは笑い出す。
「そうね。確かに数だけならあなたたちの方が勝っているわ。でも」
「予言の勇者様もいまや魔法をそう簡単に使うことが出来ない、そんなので私たちに勝てるのかしら?」
「……奥の手も、使ってしまったようだからな」
ロマの発言にバルトが継ぎ足す。
確かに、その通りだ。
ルーシーは心の中で思った。
もう『主従融合』は使えない。
いつもだって、フルの魔法とメアリーの錬金術、これで切り抜けてきたんだから。
「大丈夫よ」
メアリーの声を聞き、ルーシーは我に返った。
メアリーの肌は治癒魔法を施したものの、火傷が多少残っていた。
「……あなたなら出来るわ」
メアリーははっきりと言った。
「ねぇ、メアリー、ルーシー」
フルが突然二人に言った。
「「なに?」」
二人は同時にフルに尋ねた。
「僕に考えがあるんだ。あいつらを倒す、唯一の方法」
「え?」
「……何をしている。あいつら」
バルトがまるで炎のように赤くなって言った。
「……お兄様。もう私我慢がなりませんの。もう攻めこんでもよろしくて?」
「まて、ロマ。料理はじっくり調理するのが美味いだろう? それと同じで」
「じっくり痛ぶればいいんだよ」
「……ンフフ。そうでしたわね」
「……で、……するんだ」
一方、フルたちはイルファ兄妹を倒すための作戦(フルが考えたものだ)を伝えていた。
そして、それが言い終わる。
「出来る? ルーシー、メアリー」
「難しいわ……でも」
「やってみないと、始まらないもの!」
「じゃあ……行くぞ!」
直後、メアリーとルーシーが跳躍。
「始まったようですわね」
「あぁ。そのようだな」
二人はそれぞれ言った。
(しかし、リュージュ様の娘の方は錬金術しか使えないはず……錬金術は錬成陣が必要。即ち……奴は空中で錬成できない!)
「ロマ、そっちの守護霊使いを頼む」
「わかりましたわ。お兄様」
二人は穴の奥にある小さな研究所に入っていった。
古ぼけた看板には「SIGNAL LABORATORY」とアルファベットで書かれていた。
そして奥にあるところで、二人は立ち止まった。
「無駄だ」
バルトは呪文を唱えた。
「『Zero-G』!!」
同時に全員の体がふわりと浮き出す。
バルトはメアリーと対面した直後、炎の魔法を放つ。
と同時にメアリーは手を叩く。
「なに?」
バルトが放った魔法がそのまま弾かれた。
「くっ!!」
バルトはそれを即座によける。
そして、メアリーは再び手をたたく。
それと同時に、大地、空気、すべての水分が凍結した。
「何をやっている? ぼくは『炎』の魔術師なんだよ?」
「かかったわね……バルト・イルファ」
「なに!?」
「私たちの真の狙い……それは」
同時に、雷鳴がとどろく。
「ロマのほうか……どうせ電気分解をもくろんでるのだろう?」
其のころ、ロマ。
「私に電撃を浴びせ、それで電気分解……それはASLでの攻防とまるで同じ……そんなので、私たち兄妹を倒せると思っているのかしら?」
「いや、違うよ」
更に雷をロマの下に落とす。
「な……!」
「知っているかい。水を電気分解したら酸素と水素に分かれる。これは先ほどの『合体魔法』で実証済み」
「ええ。それがどうしたというのです?」
ロマはルーシーの目を見つめる。
「わからないのか? 酸素を更に電気分解すると……何ができる?」
「……オゾン!!」
「そう、O3。オゾンだよ。水にも成り立つことはできない」
「オゾンは不安定な物質、成り立てるのもごくわずかだ」
バルトが言った。
「二人とも、頭が悪いねえ? さっきメアリーが放った錬金術……あれは温度を奪う、吸熱反応を起こしているんだ」
「そしてさっきバルト・イルファが放った『Zero-G』。それが圧力を究極にまで減らす」
「君の体がオゾンと化すのが先か、オゾンのバランスが崩れるのが先か、見ものだね」
「ち、ち、ち、ちくしょー―――――ッ!!」
ロマは今までとは別人のような口調で、泣き崩れた。
「むむ……このままではロマが」
バルトは急いでロマの元へ向かった。
「残念だったね」
「!?」
バルトに、激痛が走った。
わき腹には、”シルフェの剣”。
「な……」
「残念だったね。バルト・イルファ。この勝負、」
「3VS2なんだよ」




