表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ODD  作者: 巫 夏希
39/53

第三十六話 危険な状態

「うわぁ…なんだこりゃ……」


 フルは目の前のそれを見て、言葉を漏らしてしまった。

 オリジナルフォーズはみえない。しかしその代わりに、島に巨大な穴が、地下に向かって掘られていた。

 縦穴の巨大さとあれば、島の面積、そのおよそ8割を占めるほどの大きさだろう。


「この下…行くの?……」


 ルーシーはフルを見て、恐る恐る訊いた。


「行くしか…ないでしょ……」

「そう、だよね……」


 フルの答えに、ルーシーは仕方が無く承諾した。


「じゃあ、これを使おう」


 そういうとフルは、分厚い本を取りだした。

 神の名が冠せられし魔導書、“ガラムドの書”


「これには、これを持つ人の、今は僕の望みを叶える魔法を見つけてくれるんだ」


 数百ページに渡り、魔のすべが記された魔導書には、そんな力があった。

 先刻の守護魔法“ヘイロー・イレイズ”も、フルの『みんなを守りたい』という望みから示されたのだ。


「二人が王水の材料を探してるときに、見つけたんだよ」


 そして、フルは『この穴の下に、安全に降りてゆける魔法を』と念じた。

 その想いに応えて、“ガラムドの書”は薄く青白い光を放ち始める。

 魔導書はフルの手を離れ、目線の高さまで浮かび上がった。

 ページが徐々にめくられてゆく。

 本の動きは止まり、選ばれし者に一つの魔法を啓示した。

 フルはそのページを一目する。

 それだけで、魔法の構成を理解した。

 まるで術式を直接脳にぶち込まれたかのようだった。

 そして、その魔法を展開する。


「移動魔法“サイト・ス…”… うぁぁあ゛……」


 突然、魔法は中断され、フルは頭を抱えて地面に倒れ込んだ。


「「フル!? どうした!?」」


 ルーシーとメアリー、同時の声。

 二人とも倒れるフルの元に駆け寄った。


「頭が!…… 頭がっ!…… 割れるように…痛い……」


 フルはそう訴える。


「何か…私に何かできることはないの!!?」

「大丈夫だよ…… すこし…治まってきた……」


 メアリーにそう言いながらも、フルは痛みに耐え、気張った顔をしていた。

 そして、立ち上がろうとする。


「フル…… 無理すんなよ……」


 フルに肩を貸しつつ、ルーシーはそう言葉にした。

 しかし、フルは丈夫を装いきれていない、苦しさで歪んさ表情でこう言う。


「ちょっと失敗しただけさ…… もう一回いくよ……」


 フルは、地面に放られてしまっていたガラムドの書を拾い上げた。


『お止めなさい。フル・ヤタクミ』


 どこからか声がした、フルは敵かと一瞬警戒する。


「なんだラルクか…… フル、大丈夫、こいつは僕の守護霊なんだ。今まで、僕以外には姿をみせてなかっただけさ」


 目の前には、その長い黒髪と同じ色をしたワンピース、それをまとった女性が現れていた。

 その女性は3人よりか、大人びた顔つきをしていた。

 そしてラルクは、フルを見つめて再びこう言う。


『魔法を使うのはお止めなさい。フル・ヤタクミ。あなたの脳は、限界に近づいています』

「えっ!?…… 脳?……」


 フルは目を見開いて、ラルクを見つめ返す。


『そう、脳です。守護神ライトの御言葉みことばによれば、あなたの魔法は、他のそれとは異質なものだそうです』

「……」

『違いはあっても、それはただの一点だけ。しかし、その一点がもっとも重要であり、あなたの魔法の欠点なのです』


 わざとなのか、ラルクは遠回しな言いかたに、フルは少しいらついた。

 だが、ラルクはことの核心を語った。


『その欠点とは、魔法のエネルギー源が、あなたの“記憶”そのものだということです。』

「えっ?……」


 フルは全く理解できなかった。


『今言った通りです。普通、この大自然の力をエネルギーに変換して行使する魔法を、あなたは、自身の“記憶”という、力とほど遠いものを、むりやりエネルギーに変換しているのです』


 そこにいきなり、一陣の風が吹いた。

 ラルスはなびく髪をおさえる。

 そしていつのまにか、2つの人影ができあがっていた。


「なんだか、いい情報を聞いてしまったようですね」

「そうですわね、バルトお兄さま。まさか、予言の勇者がそんな制約付きの似非えせ魔法使いだったなんて、笑いものですわ」


 イルファ兄弟だった。

 2人並んで、3人を見つめている。


「勇者の彼も、そのせいで手負いのようですし、みんなまとめて片付けてしまいましょうか。いつか、本気の君たちと戦いたいと常々思っていたのですが…… 本当に残念です」

「そうしましょう、お兄さま。私はまだ、いつぞやの屈辱を晴らしていないのです」


 兄弟のことばでフル達に、緊張が稲妻のように走った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ