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ODD  作者: 巫 夏希
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第三十二話 敵の本性

「予言の勇者が過去文明からの使者だったのは驚きだわ……」


 リュージュはメタモルフォーズの上で、独り言のようにつぶやいた。

 そのメタモルフォーズでは、まるでライオンのようで、全長5・6メートルはあろうかという巨大な異獣だった。

 全身を、特に首周り、たてがみに当たる部分を、ビリビリという音とともに、黄色い稲妻が幾重にも流れている。

 しかしリュージュは、言葉とは裏腹に、驚いた表情を全く顔に出さなかった。

 その代わりに、とても冷静な顔で、まるで興味のないものを見るような冷たい目線を、フルに浴びせていた。


「まあ、アリスの余計なおしゃべり、その対価かしら?」


 どんな言葉を発しても、まるでくすりともしない。


「おまえに訊きたいことがある」


 フルは一歩前に出た。


「おまえの目的は何なんだ? ハイダルクをこんな滅茶苦茶にして、いったいなにがしたいんだ?」


 辺りを見渡すと、遠くではまるで生き物のように、あえて言うなら龍のように、炎が縦横無尽に動き回って、活気のあった城下町を焼き払っていた。

 近くの建物も、多くが全壊。

 良くても、建物の屋根が吹き飛ばされている、とういう状況だった。

 リュージュは、まるでその質問を待っていたかのように、さっきまでの表情一つ変えなかった顔を崩した。

 そこには、これから発する言葉を楽しむかのような、うれしく思うかのような、喜ぶかのような表情が作られていた。


「そうね…… あえて言うなら…人類の滅亡かしら」

「「「!?」」」


 三人は驚いた。


「あなたはなんで、そんなことをしようとするの?……」


 メアリーも半歩前に出て、リュージュに尋ねた。


「理由…そんなものがいるのかしら? 私はただ、自分の欲望のままに行動しているだけよ。私がしたいと思ったことはとことんやるの。今回がたまたま、人類の滅亡だっただけ」


 三人は目を見開いて驚く。

 それもそのはず。

 リュージュの目的は金の為でもなく、権力を手に入れるためでもなく、ただ己の欲望のために、心の充足感を得るためだけに、人類の滅亡という終着点を目指していたのだから。

 常人では考えられない思想だ。

 三人はなんとか気持ちを落ち着かせ、いつもの表情に戻る。

 そこに、リュージュが追撃を加えようと、この言葉を付け足した。


「そうそう、あなたを生んだのも、欲望のままに行動したからよ、メアリー」


 しかし、三人の表情は揺るがない。


「なんだ、驚かないんだ。知られざる真実に戸惑うと思ったのに」


 リュージュはつまらなそうに溜息をついた。


「なんかもう飽きちゃった…… 勇者君も、勇者君の持ってる魔導書も、計画に邪魔だし、ここで消えてもらいましょうか」


 リュージュは指を“パチン”と鳴らす。

 刹那、メタモルフォーズのまとっていた電気が、その口先に凝縮され、爆音とともに放たれた。

 メタモルフォーズ自身を丸々飲み込むほどのレーザーが向かってくる。


(このままじゃ…無理だ……)


 フルはそう悟った。

 メアリーも、ルーシーも、ここまでの道のりで疲れはて、リュージュの言動と行動に動揺している。

 とても、このレーザーを回避できそうにも、防げそうにもない。


(僕がなんとかしなくちゃ……)


 スローに感じられる時間の中で、フルは自分の思考回路を全開にして考えた。

 今まで何となく使っていた魔法を、様々な法則に従って論理的に組み立て、この場を乗り切るだけの大規模魔法を作りだそうとする。

 しかし、しっかりとした魔法教育を受けていないフルには、とうてい難しいものだった。


(あきらめちゃだめだ!……)


 ふと、目の前に、背中の鞄にしまっていたはずの、ライトス鉱山で手に入れた魔導書が目の前に現れた。

 宙に浮いた本は、自動的にページがめくられてゆく。

 そして、百科事典のような分厚い本の中程が開かれた。

 フルは、そこに記された情報を直感的に理解した。

 ページに書かれている文字や、図を読みとったのではない。

 1つの魔法を、まるで脳に直接流れ込んできたかのように理解したのだ。

 レーザーがぶつかる直前。フルは、おもいっきり、その魔法を発動させた。

 音もなく、レーザーは三人が居た辺りを飲み込んだ。


「あっけないわねぇ。もう少し楽しませてくれても良かったのに」


 リュージュはただ、つまらなそうにそう言った。


「まだ終わってない!」


 レーザーの射線から大声が聞こえてくる。

 そこには、フル、メアリー、ルーシーが無傷で立っていた。

 えぐりとられた地面も、その辺りだけ、元のままの形を保っている。


「へぇ。全方位防御呪文? 私でも使えない呪文を使ってのけるのね、予言の勇者サマは」


 リュージュの顔に、今までにない高揚感が表れる。

 “おもしろくなってきた”と笑うような表情をして、フルを睨みつける。

 睨み返しているフルの手には、全体が淡く・白く光る本が、開かれたまま収められていた。

 そして、これも魔導書の力なのか。フルはこう言葉を放った。


「“ガラムドの書”、177ページ、守護魔法“ヘイロー・イレイズ”」


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