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ODD  作者: 巫 夏希
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第0話 西暦2047年

[01]

『人は、そのまま生きていれば、人生を全うできる。それ以外に突然何かを引き起こした者は、何か大きな意志に操られている』―――鷹富 隆二




 時は2017年。

 科学省に務める科学者、鷹富隆二の開発した『反重力作用』が大きな話題を呼んだ。

 今まで『地上』で走るのが普通だった車や電車は今や『空中』で走る事が可能となった。

 常識の革新である。

 しかし、鷹富博士はその半年後、不遇な死を遂げる。

 彼の開発した飛行自動車『Aircar-1』の試行車が試運転中に暴走、その躯体が彼と衝突した。即死だったという。

 新聞やインターネットなどのマスメディアは『研究に殺された』と皮肉混じりに報じた。

 しかしその後は科学省、あるいは政府の報道規制によりそれを知るものは次第に減っていった……。

 その"負"の部分を知らずに、今や格段に進化した科学技術に皆喜ぶばかりである。



 2047年。

 コンピュータによって交通などの全てが制御されるようになった。

 お手伝いロボットは今や家庭に一台の時代。

 人間のすることは、なくなった。

 町中は動く歩道で構成されており、歩くことすら必要ない。

 格段に進化した科学技術だが、一つだけ人間にあって、完璧なコンピュータに足りない物があった。

 『心』である。

 これは一人の少女木葉秋穂の周りで起きた事件である。






 キーンコーンカーンコーン。


 チャイムと同時に、先生が入ってくる。


「はい、席につけー」


 ここはトウキョウシティー、第一高校。


「では、出席を取る」

「相川」

「はい」

「大田」

「はい」

「大山田」

「はい」


 続々と名前が呼ばれ、それに返事をする。


木葉キハ!」

「…………」

「おい! いないのか!」

「あの~先生」


 一番前にいる女の子が言った。


「ん? 川瀬。どうした」

「それ……木葉コノハ、ですよね?」

「え?」


 先生は名簿の名前を確認する。

 たしかに名前の隣にはカタカナで『コノハ アキホ』と書かれていた。


「あ……」


 先生は一回後ろを向いた。


「……あー、木葉! いるか!」

「はい」


 名前を読んだ声に一番後ろにいるポニーテールの少女が答えた。

 この少女こそ、この物語の主人公、『木葉秋穂』である。




「あ~、生まれてこの16年名前をちゃんと呼ばれたことがない~っ!!」

「そりゃそうだよ。あーちゃん。あーちゃんの名前変わってるもん」

「そうだけどさあ……」


 今秋穂と話しているのは彼女の友達、川瀬慶子だ。


「よっしーも読みにくいっちゃ読みにくいよね~」

「最初は間違えられたけどねアハハ」



 キーンコーンカーンコーン。



 終了を知らせるチャイムがなる。


「じゃ、帰ろっか」

「うん!」







[02]


「ただいまー!」


 秋穂は家にたどり着き、靴を脱いだ。

 台所の方を見ると……なんだか騒がしい。

 一方の声は母親、もう一方の声は……最近家に入ってきた超高性能とされているロボット、『gedyゲディ』の『ルーニー』だ。

 実際に買うと1億円ほどはくだらないだろう。なぜそんなものを持っているのか。

 それは秋穂の父親が会社からモニターとしてもらってきたのだ。

 話を、戻そう。




「私は壊れているんです」


 その『ルーニー』がいきなりそう言い出した。


「どうしたの? ルーニー? 何で?」


 秋穂の母、木葉佳子このはよしこが言った。


「なんだか……心が痛むのです……」

(痛む? 心が? ロボットのくせに。)


 秋穂はそう思った。

 秋穂は小さい頃のトラウマから、ロボットが嫌いだった。

 ルーニーが来る前だったので、ルーニーはそれを知らない。


「心が痛む? 原子力電池が切れかけなのかしら?」

「いえ……何故か……痛むのです」

「……どういうこと? もう少し……分かりやすく教えて?」

「何が……何だか……分からないんです……」

(分かるだろ!? 頭良いんでしょ!?)





 次の日。


「佳子様」

「なに? ルーニー?」

「私……人間になりたいのです」

「!?」

「に……人間!?」

「な……何を考えているの!? ルーニー!!」

「だめ……ですか?」

「ダメに決まってんでしょ!? あなたはこの木葉家に仕えるお手伝いロボットよ!? 人間になりたい、だなんて出来っこないに決まってるじゃない!!」

「……わかりました。では」

「ルーニー、何処へ行くの?」

「ルーニー?」

「私は……必ず復讐しに戻ってきます」


 ルーニーは玄関の扉を開けた。

 そして、ルーニーは二度と帰ってはこなかった……。






[03]


〔トウキョー原子力発電所〕



 夜の発電所に大きくサイレンが鳴り響く。


「警報! 警報! 発電所にロボット侵入! 警護にあたれ!」

「うてーっ!!」


 集められた警官が電磁銃を何回もうち放つ。


「だ、第一監視所から報告! ロボットの大群が……我々を……」


 そこまでいった瞬間に電話は切れた。


「もしもし! もしもし!」

「……ちぃっ」


 ロボット達の大群の矛先にはあのルーニーがいた。


「進め!! 人間どもを、倒すために!」





 しばらく。

 ルーニーは廃ロボット工場に侵入、廃棄される予定のロボットをどんどん治して連れてきたのだ。


「ワァァァァァ!!!!」


 ルーニーたち、ロボットは奥にあるレバーを下げた。

 そして、電気が止まった。

 万事明るい東京がこの日は暗く、世界がとても寂しく見えた。

 ルーニーは電気が流れていない鉄塔の上に上った。


「まだだ……。まだ、これだけでは終わらない……終わらせない……」


 ルーニーは一人で呟いた。




[04]


「あら、停電かしら?」


 停電の被害は木葉家にも及んでいた。


「ちょっと秋穂! ブレーカー上げてきて!」

「はぁい」

「ったく……こんな時に停電だなんて……」

「考えらんない!!」


 秋穂はこの時間、いつもテレビを見ていた。

 秋穂の好きなアニメ『アルケミスト』というやつだ。

 錬金術が使える世界で様々な事件が起きていく話だ。

 秋穂はあんな世界を夢見ていた。

 しかし机上の話に過ぎない。


「んーと……ブレーカーは……」


 秋穂はブレーカーを上げた。

 と同時に、電球が元の明かりを取り戻す。


「着いたァ?」

「うーん! ありがとう!」


 再びテレビの電源を入れる。

 同時にニュースが流れる。

 全てのチャンネルで。


「ええーっ!?」


 秋穂は驚いた。


「今日、大規模な停電が発生いたしました。発生の原因は原子力発電所にロボットの大群が侵入したからだそうです。これは恐ろしいことです。かの有名なロボット学の権威、アシモフ博士の提言した『ロボット三原則』をロボット自らが破ったということになります。どうでしょうか……」


 平和だった毎日が、

 少しづつ、変わっていった。






[05]


「ルーニーさん。次は何をするつもりで?」


 ごろつきが声をかけてきた。


「ああ、まだ考え中だ。たのしみにしておけ」


 適当に追っ払って感慨にふける。


「まだ……足りないな……。何かが……」


 ルーニーは脳内のコンピュータをフル回転した。

 そして、

 一つの結論に辿り着いた。



 3日後。


「フーンフンフフーンフーン。」


 秋穂はシャワーを浴びている。

 鼻唄を歌いながら。


「……!」


 秋穂は突然、頭痛に襲われた。


「う……」


 秋穂の頭の中は突然、何かの光景がフラッシュバックされた。

 水におぼれる、幼き子供。それを助けようとしない機械。


「く……思いだしたくない……のに」


 秋穂は頭痛が収まると同時に、さっぱりとした表情を作った。


「はぁーっ。やっぱお風呂は気持ちいいわぁ」

「さぁて、テレビ、テレビっと!」


 お気に入りのぬいぐるみを抱いてテレビのリモコンを手に取り電源のスイッチを押す。

 テレビはいつもの時間ならニュースキャスターを映し出すはず。なのに画面には一体のロボットが映し出された。

 その姿に、秋穂は見覚えがあった。


「ごきげんよう。諸君。私はロボット反乱軍のルーニーという。以後お見知り置きを……。さて、最近の人間の愚行と来たらこの上ない怒りに包まれた」

「というわけで我々は我々もろとも人間を滅ぼそうと思う。場所は教えない。だが24時間後にはこの世界は死の大地となる。それだけは言っておこうか……」





[06]


 世界は騒然となった。

 電波は公共電波の妨害からと分かったが、発信源は分からなかった。


「あれは嘘だ!」

「いや、あれは本当だ! ロボットは排除すべき!」


 世の識者の意見。

 全ての作業をコンピュータに任せ、脳を使う事が殆どない人間が何を言うというのだ。

 ルーニーはテレビを見ながら思った。

 アジトはゴミ捨て場にあるバラックである。


「ふん……人間どもめ。適当な事ばかり言って……」

「ボス、準備が出来やした」

「おう、じゃあ、行くか」

「彼処へ……」





〔木葉家〕


「全く信じらんない!! ルーニー、あいつバカなの!?」

「何テレビに向かって言ってんの……」


 母・佳子が出てきた。


「だって見てよ! ルーニーのやつ、『人間を滅ぼす』ってよ!」

「そんなSF的な事が実際に起こるわけないじゃない」

「言ったんだ! ルーニーは!」

「……確かめてくる!」


 秋穂は外に出た。


「秋穂! 待ちなさい!」

「秋穂!」






[07]


 秋穂は夜のトウキョーシティーを走っていた。


「臨時ニュースをお伝えします。」


 ビルの巨大なテレビジョンがニュースキャスターの慌ただしい様子を撮していた。


「えー。ロボットの大群が原子力発電所を爆破するという予告がこのトウキョーテレビに寄せられてきました。」

「これまでの事を考えると、世界政府は早急に対処すべきですが…」


 ビーガー。

 キャスターが即座に言い直す。


「えー。ただいま、政府が会見を開いているようです。それでは、ご覧ください。」


 画面がパッと変わり、政府の代表が画面一面に撮された。

 汗だくでとても慌ただしい様子であることはすぐ分かった。


「えー、この星の全人類の皆様。地球最高権力者のウィリアムズ・レイク・ニアーです。」


 そっか、アメリカの大統領が地球で一番偉いんだ。

 秋穂はそんな事を考えながら、つまらないテレビを見てるかのようにビルのテレビジョンを眺めた。





 どうやら同時翻訳らしい。

 珍しく翻訳機が遅く反応している。



 ──原始的だな。



 秋穂は咄嗟にそう思った。

 しかし、秋穂はその後そんな事すら思わなくなる衝撃的な出来事を聞く事になるとは…

 予想もしていなかった。






[08]


「私達人類は究極の選択を迫られてしまいました。」

「残念ながらロボットの反撃を阻止する事は出来ません。そこで我々はこういう手段を打ちだしました。」

「全人類のうち種族は250います。それぞれの種族から(つがい)――雌雄を二つ出しまして冷凍保存を致します。」

「ただし、一つだけ我々に誓って欲しいのです。」

「それは冷凍保存の解凍後の生存率が低い事です。」

「現代の科学ですら生存率は20%以下だという事です。」

「それを承知の上でお願いします。」

「なお、選ばれた方々はこれから10時間以内に封筒を送らせて頂きます。」

「封筒内の番号と照合してそれが鍵となり、冷凍保存のカプセルに入る事が出来ます。」

「残りの方々は…残念ながら死ぬ事になります。が、」


 いきなり大統領が泣き出した。


「皆さん…生きて下さい。」

「生き延びて…下さい…。」


 ブツン。

 通信が、途切れた。


「えー。お聞き戴けたでしょうか。皆さん、生き延びて下さい。」

「ニュースをお伝えしました。」


 ビルのテレビジョンは再びそのビル内の店舗のコマーシャルを流し始めた。




[09]


「……………」


 秋穂は唖然となった。


「……そんな」



 家。

 ガチャ。


「あ、お帰りなさーい。」

「秋穂。手紙が来てるわよ。こんな遅い時間に政府のお偉いさんから、」


 佳子はわざとらしく言った。


「どれ?」


 秋穂は何も知らない事を装って手紙を見つけた。


『世界政府人類補完委員会会長 吉田 寿典ながふみ


 と封筒の裏には書かれていた。


「『人類補完委員会』?」


 秋穂は疑問に思いつつ、封を開けた。

 封は誰か、多分母親だろう、が一度開けたらしい。

 雑に封が貼られていたからだ。

 開けると『人類補完計画に関する冷凍保存計画のサンプル当選について』と長ったらしい表題の紙が一枚あった。

 ここに全文を移す。


~~~~~~~~~~


 地球に住む全人類から選ばれた光栄な皆様へ。


 今回は当選おめでとうございます。


 番のもう片方の方と一緒にお越し下さい。


 ナンバー


 0579-82569-*******



~~~~~~~~~~


「あら…何かに当選したの?行って来なさいよ。」


 佳子はわざとらしく、行くよう促した。


「ええ、いいよぉ。」


 秋穂は言った。


「行きなさい。あなたの為に、私達の為に。」






[10]


 洋服、化学の書物、魔法が出てくるファンタジーの本、そして秋穂が好きな錬金術の漫画などなどをボストンバッグに入れ、冷凍保存の施設へ向かった。

 夜のトウキョーシティーはいつも明るいのに、秋穂の心の中だけは明かりが当たらない、漆黒の世界だった。

 タッタッタッ…。


「あれ?もしかして、君が…木葉秋穂さん?」


 えっ、秋穂は後ろを振り返った。

 そこには長身で髪は七三、鼻が高い、容姿がとてもいい青年がいた。


「はい…。」

「良かった…僕は風間修一。宜しくな。」

「ええ…。」

「さぁ、行かねば!」


 二人は一緒に、正確に言えば秋穂は少し後ろで、走っていった。

 ガシィーン。

 ガシィーン。


「チイッ!どうやらこの街のロボットは全部僕ら人間に反旗を翻すみたいだ!」

「これを受け取ってくれ!」


 修一は何かを投げる。

 受け取る秋穂。

 これは秋穂が受け取った封筒そのものだった。


「どうすれば…?」

「逃げてくれ!僕もあとから行く!」





[11]


「わかりました!」


 タッ!!

 くるっ。

 修一は向きを返る。


「ふん。自爆するんだろ?しろよ。」

「……………」

「どうせ、いいんだ…。」


 カチッ。

 カチッ。


(すまない!秋穂さん!)


 カチッ。

 ボガァァァァン!!!!


「!!」


 秋穂は爆発した方角をみた。

 自分が走ってきた方角だった。


「おい、ねぇちゃん。それ、冷凍保存の封筒だよな?余ってんだろ?くれよ。」


 ここはトウキョーシティーで一番治安が悪い場所と言うのを忘れていた。

 秋穂の周りに人が群がり、

 秋穂を倒した!


「もう…ダメ…。」


 その時。


「おい、」

「?」

「偉大なる母から手を離せ」


 その男の手には剣が握られていた。


「ハハハハハ…!!何が偉大なる母、だ!」

「離せ、と言っている!」

「もし、離さぬというのなら…」


 ギン!!


「我が剣が相手しよう。」

「う…う…。」

「に、逃げるぞ!」


 奴らはあまりの怖さに封筒すら置いて逃げてしまった。


(なんだろ…この気持ちは…?)

(……もしかして……)

「ねぇ。」


 秋穂はその男に声をかけた。






[12]


「ねぇ。」

「何でございましょう?」

「名前、教えていただきます?」

「分からない…。」

「え?」

「何もかも…分からないんだ…。」


 秋穂は考え、一つの結論に辿り着いた。


「わかりました、あなたに名前をつけましょう。あなたの名前は今日から風間修一。分かりましたか?」


 コクン。

 男は素直に頷いた。


「じゃあ、行きましょう。」






 様々な謎は解かれぬままだが、ひとまずこの話はここで終える。

 主人公、木葉秋穂と風間修一と呼ばれた男の間に生まれた子の名はガラムドという。

 その凡そ2000年後に異なる世界から人がやってきて、この世界を救うというのは、また別の話である。


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